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K/Night
―1―
茹だるような暑さの8月。
篠慶〈しょうけい〉学園の校舎の屋上に1つの影があった。
「んあぁぁ~・・・・よく寝たぁ。」
少し長めの黄がかった茶色い髪にこげ茶の瞳、人より体つきが良いのは剣道部に
所属している為か・・・・高校2年B組の学園では有名な『便利屋』を営んでいる上杉竜矢〈うえすぎ りゅうや〉は少し痛む体を撫でながら大きな伸びをした。
「さてと、水生と竜也はもう終わったかな?」
夏休み中の部活練の為一緒に登校して来たのだが、剣道部の練習が何故か早く終わってしまい、竜矢はしばらく学校で待っていることになったのだ。
先に帰るという手もあったのだが、ある理由から少しでもある人と一緒にいたいという健気な思いから暑い中(それも校舎内に入らず屋上で)寝て時間を潰していたのだった。
「うわあ・・・・空はまだ明るいよ。夏なんだなあ。」
独り言を呟く竜矢。
時計を見ると、すでに六時を回っていた。
校庭には部活動が終わった生徒たちがそれぞれ水飲み場に集まり顔を洗っている。その中に目当ての水生と竜也もいた。2人は普通にしていても目立つのに袴を着ている所為で余計に目立っていた。弓道部に所属している彼等、どうやら練習が終わったらしかった。
尻についた埃を払い、2人の姿を確認した竜矢は自分の荷物を取ると、出入り口に向かった・・・・・・のだが、
「あれ・・・・?」
何故だが旧校舎が目に付きその場に止まった。
空は明るいがそこだけ、雰囲気からかも知れないが暗く感じられる。
幽霊というものを苦手とする竜矢にとってはいかにも、な旧校舎は恐ろしい産物でしかなかった。なので、普段から見ないように意識して来たのだが、
「今・・・・・何か・・・・・いた?」
出入り口に向かう瞬間、旧校舎の窓から何かの影を見てしまったのだ。
封鎖され、誰もいないはずのその校舎に動く何かがいたのだ。
竜矢はその場から動けなくなってしまった。
足が思うように動いてくれないのだ。
それは恐怖からもあるのだが、別の力も働いている気がしてならない。
視線もそこに釘付けなってしまっていた。
「・・・・・・・・・。」
しばらくの間、何も言わずに立っている。
旧校舎は相変わらず不気味な雰囲気を出しているだけでさして何も変化しなかった。
「な・・・なんだ。気のせいか。」
安堵し息をつく竜矢だったが、次の瞬間背筋が凍った。
「・・・・・・・・・・っ!・・・・・っ!!」
震える指で指した場所、屋上に近い旧校舎の四階。そこにいたのだ。
誰もいないはずのその場所に制服を着た少女が。それもこちらを向いて手招きをして。
「――――――っ!!」
竜矢の叫びが空に、校庭に響き渡った。
―――彼等は話す―――
『そんなの気のせいだろ。』
学園から下校して水生の家に行き、そして水城の部屋に集まった後、竜矢は先程経験したことを話したら3人は同じ言葉を同じ時に同じように言い捨てた。
「ひでぇっ!本当に俺は見たんだよぉ。」
「分った、分った。でもそれはきっと気のせいだよ。暑さの所為でちょっと頭がイっちゃった為にそんなものを見たんだ。」
必死に「俺は見たんだぁ!」と力説する竜矢を宥めるのは高校1年A組の、竜矢と同じく『便利屋』を営んでいる天生水生〈あもう みなぎ〉。漆黒の髪を1つに束ね、黒い瞳にはいつも強い意志を感じさせ、そして性別を間違えられるほどの容姿を持ち、男の格好しかしない(制服は男子用)この人物は実は女。
「俺も水生と同じ考えだな。いくら日陰といっても太陽に近い屋上に長時間動かずにいれば頭はイかれるだろうな。熱射病にならなかっただけましだ。」
と、竜矢の話を全く信じていず、興味無さそうに本を読んでいるのは竜矢の双子の兄である、高校2年C組の上杉竜也〈うえすぎ たつや〉。黄がかった茶色い髪を1つに結わいている。冷静沈着で4人の中でのリーダー的存在。
「でもさぁ、制服を着ている少女って俺はちょっと気になるんだけど。」
2人の意見とは違う言葉を言ったのは今回夏バテと夏風邪でダウンしていた水生の双子の兄である、1年A組の天生水城〈あもう すいじょう〉だ。黒い長い髪を背中に流れるままに流し、もう殆ど夏風邪は治りかけているが大事を取って今日は剣道部の部活を休んでいた。
3人は水城の言う『気になること』に敏感に反応し、目線でその先の言葉を言うよう促す。
「だってさ、こんな話あったじゃん。『篠慶学園 旧校舎に纏わる七不思議 その7 制服を着た少女 旧校舎には制服を着た少女が出る。見てしまった者は1週間以内に異界に連れていかれてしまう。』ってさ。・・・・・・あ。」
あることに気付き、水城は慌てて口を押さえるがもう遅かった。
水生と竜也は頭を抱える。
竜矢は ―――― 顔面蒼白させ口を開閉させていた。
「な・・・・え・・・・・?連れていかれるって・・・・・。」
どういうこと、と頭を抱えている2人に説明してくれる様振り向くと、知られてしまったからには仕様がない、と諦めた様に竜也が口を開いた。
「お前には黙っていたけど、さっき水城が言ったように篠慶学園には『七不思議』と言われる旧校舎に纏わる怪談があるんだ。で、竜矢が見たのはその七不思議の中の『その7 制服を着た少女』のその少女を見たんじゃないかって。」
「えっ・・・・じゃあ、俺・・・・・連れていかれるの・・・?」
可哀想なぐらい顔が蒼白になってしまった竜矢に、3人はどうしようかと視線を交わす。
怪談話と聞くだけでも怖がる竜矢なのに、自分の身にそれが起こるとなると、相当な恐怖があるはずなのに・・・。
「まっ・・・まあ、竜矢が見たのはそれだってまだ決まったわけじゃあないんだからさ、そんなに気にすんなって。」
「そうだな。気にしすぎて事故に遭ったなんてこともあるからな。」
「竜也、水城・・・。」
2人の励ましに心打たれた竜矢は少し涙ぐみながら竜也と水城に抱き付いた。
「そうだよな。俺が見たのがそうだって決まったわけじゃないもんな。」
「でも、竜矢。お前はこれから1週間寝られないんじゃないか?」
「う”・・・・・。」
水生の言葉に図星を指された竜矢は言葉を詰まらせた。
そう、いくら言葉では明るく言っても怖いものは怖い、気になるものは気になるのだ。
「それなら調べるか?」
「えぇっ?!」
「何だ?嫌なのか?」
竜矢の反応に眉を寄せる水生。慌てて首を振ってそのわけを聞く。
「災いの種は芽が出る前に摘んだ方が良いだろ?それにもし、竜矢が本当に連れていかれたら、その少女を知る者がいなくなるから探したくても探せなくなる。」
「またまたそう言って。」
腕を組み話していた水生に水城は後ろから寄りかかるとからかいを含んだ声で話す。
「本当は竜矢がものすごく心配だからそう言ってんじゃないのか?」
「・・・・・・・。」
「そうなの・・・?」
押し黙る水生の顔を除き込むようにして竜矢が尋ねると、
「そうだな。いや、そうだから、だからこう言っているんだ。」
少しも照れていない様子で水生は言った。
昔から水生はあまり表情を表に出さないのだ。そんなことは昔からの付き合いである、いわゆる幼馴染である彼等にとっては慣れたものだが。
そして竜矢はそんな水生が好きだった。相手は頭脳明晰で館が鋭かったりするのだが、恋愛に関しては全くと言って良いほど鈍感なので全く持って気付かれてないのだが。
「どうする?竜矢の判断で決めるから。」
竜也と水城を見るとお前が決めるんだと、でもどっちを選んでも一緒に付いて行ってやるというのを瞳から感じた。
「うん。俺、やるよ。調べる。すっごく怖いけど、自分のことだし連れていかれたくないしね。」
だから、水生も協力して欲しい、自分を情けないと思いながらも頼むと、当たり前だと水生は言った。
「俺達もいること忘れるなよ。」
「もちろん俺達も行くからな。」
そう言うと思ったよ、水生と竜矢は二人の言葉を聞いて笑った。
―――物語は生徒会長の手で進んでいく―――
「その話は本当かい?」
言いながら窓から顔を出したのは水生と水城のいとこである、そして学園の生徒会長でもある3年A組の麻生蒼麻〈あそう そうま〉だ。
黒い髪と碧眼の瞳、機械いじりが好きで自身でもよく機械を作っている。
「蒼麻・・・・どうしてここに?って言うのかここ2階なんだけど。」
水城が言うと、
「おばさ・・・じゃなかった悠里〈ゆうり〉さんに庭掃除を頼まれてね。今はこの木を整えているんだ。」
蒼麻はにっこり笑って答える。
で、そんなことを言いたいんじゃなくて・・・いかにも嬉しそうな顔をしながら言う蒼麻に4人は嫌な予感を抱く。
蒼麻が出現するとき、そしてこんな顔をするときはあの事しかないのだ。
「さっきの話は本当かい?」
ほら来るぞ、と思いながらも4人はそれぞれ頷く。
「それじゃあ、ついでに俺の方の依頼も引き受けてくれないかな?」
訊ねてはいるが断ることを一切許さないその威圧感に、はいと答えるしか術は無く、それを聞いた蒼麻はウキウキと部屋の中に入ってきた。もちろん靴は脱いでいる。
「依頼は学園の七不思議の調査及び旧校舎に入って行方不明になった生徒の救出。どうせ、七不思議の1つは調べるんだから全部調べても損はないだろ?」
「それはそうだけど・・・。」
「簡単で良いんだよ。本当か嘘か、それだけで良い。行方不明の生徒は、調べているうちに見つかると思うんだけど。まぁ、今回は俺も手伝うから。」
『蒼麻がぁっ?!』
眉根を寄せて信じられないといわんばかりに口々に言う4人に対し、蒼麻は相変わらずニコニコと笑って話を続ける。
「1人より2人って良く言うじゃないか。と言うことは、4人より5人の方がより事は早く進む。そうだろ?それに、今回はこんなものを作ってみてね。」
そう言って鞄から取り出したのは5つもの手の平に収まるくらいの黒い物体だった。
「何これ。」
竜矢が1つを取り、眺め、それでもわからないと不思議そうに訊ねると、
「俺の自信作。」
と、返事が返ってきた。
「これはな、追跡機に発信機を組み込んだものなんだ。」
蒼麻は1つ手に取ると、電源をオンにして4人に見せる。機械だったそれに竜矢、水生、竜也、水城は顔を寄せると画面と思われる四角い形を象った黒いそれに視線を動かす。画面中央には紅い点が1つと黄色い点が4つ、チカチカと点滅しながらあった。
「これさ、意味無くね?これじゃあ、自分の居場所も相手に伝わっちまうじゃん。」
本来追跡機と言うものは、相手につけた発信機の電波を受けとってその相手に見つからないように後を追う為のものだ。なのに、この機械では相手の居場所を知るどころか自分の居場所を相手にも教えてしまっている。
水城が指摘すると、蒼麻は人差し指を振った。
「そう言うものじゃないんだよ、水城。これは相手に自分の居場所を知ってもらう為に使うものなんだ。」
「自分の居場所を知ってもらう?」
竜矢が首を傾げると、そうだよ、と先生が幼い子供に頷く様に蒼麻は言った。
「七不思議の中には『連れていかれる』というのがあるだろ?それ用の対策だ。1人1つずつこれを持って校舎内を行動する。そうすれば仲間全員にその動きがわかる。ということは、その動きによってまだそこにいるか、もしくはいないか、というのがわかる。そう言っても、動いていないのはただ休んでいただけ、というのもあるからな。まあ、最終的な確認はそれぞれが持っている携帯で、ということで。」
「へぇ・・・。」
感心する4人に蒼麻は胸を張る。竜矢は拍手までしている様だ。
「まぁ、でも・・・・。」
何故か異様な盛り上がりを見せる蒼麻と竜矢、そして水城を見ながら竜也がため息混じりに呟くと、
「この3人・・・特に竜矢と水城は1人で行動させたくないな。」
水生が言葉を続ける。
自分達だけはしっかりしないと・・・2人は疲れたように言葉を交わすのだった。
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