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K/Night
Human Being前編
この世界でのある『人間』は人間にそう呼ばれていた。
神が創った人間。そのパーツを使って作り上げられる『人間』。
神への冒涜とも言えるこの『人間』は『つぎはぎ人間』『つぎはぎ人』と総称された。
雲一つ無い。見通しは良すぎる程。何かあればすぐに気付くだろう。いや、車の中からは、外の世界は狭められる様に見えるのだろうか。
肝心の車は道路の奥へと姿を消した。そして見える景色は人口的に作られた素材で建てられた建物と、歩行者用道路の脇に疎らに植えられた木、忙しく歩く人間の姿のみになる。『彼』の体はまだ固まった様に動かない。
轢かれた左手は今日買ったばかりのモノ。しかし今は手の平も指も潰れていて手首はひしゃげて曲がっている。神経はまだ繋がっていなかったし、縫合するのに麻酔を使って、それがまだ効いていたから痛みはないが。
―――不運だな。今日打った麻酔は何時ものよりも強かったのか。それなのに外に出たから。後は頭皮と髪を買えば完全な『人間』へとなれたのに―――青空を見上げながら思う。
小さな小石に躓いただけで転げて道路に入ってしまった。大きくはみ出した左手は、丁度そこを通った車に轢かれたのだ。
『つぎはぎ人間』は男しかいない。過酷な労働を強いられるから女は不向きなのだ。もし、女がいたら、それは不良品であり、畸形であり、罪に値した。
取り敢えず、と起き上がる。左手をもう1度見る為にだ。ひしゃげて曲がった左手はプラプラと揺れる。腕を前後に律動させても激しく揺れる。それは見ていて楽しくもあり、気味が悪い。思わず顔を顰める。生きている物では無いようだった。
パーツを提供してくれるのは主に新しい死体と女だ。人はそれを『解体者』と呼ぶ。
体を綺麗にする女は『解体者』として価値がある。それ故に『解体者』になる事を求められる。
稀に男でも綺麗な体であればその者も『解体者』になれた。
しばらくそうしていた。周りには野次馬が集まる。
ふと気付くと向こうの方からこちらに向かって走るトラックがある。
これ以上損害を被るのは御免だ―――
急いで立ち上がろうと体を支えながらバランスを取る―――が、麻酔がまだ効いているらしく、再度転がり倒れてしまう。野次馬が嘲笑する。
気付いているのかいないのか、トラックはスピードをゆるめぬまま、こちらへと向かっている。
もう駄目だろうかとトラックを見つめる。と、同時に誰かに腕を掴まれ、歩道へと引き寄せられた。
『解体者』が提供したパーツを売買するのが『売買人』だ。
『解体者』の親類からパーツを安く買い取るか、死体から取ると、それを『つぎはぎ人間』に法外的な値段で売り付ける。
誰か、は歩道に座らせる。野次馬が一斉に身を引く気配。
見上げると銀色の髪の男が自分を見ている。
この世界では親が子を殺してもさほど罪に問われない。子は親の所有物だから。
だからこそ、殺しても罪には問われない。
それ故に、この世界では子がよく死ぬ。そして売られる。親の為だけに。それが幸せだという概念があるのもまた事実。
男が笑う。
「大丈夫か?」
それがこの世界。
「・・・・・・?」
歩道へ動かされた『つぎはぎ人間』。訳がわからずきょとんとしている表情。外見こそ大人よりの青年、という感じなのだが、まだ年齢的には子供の様だった。銀色の髪の男はしゃがんで、潰れてぐちゃぐちゃになった血まみれの左手を掴む。
「うっわ・・・これは酷いなぁ。もう使い物にならないな。これ外した方が良いよな?その前に痛くないか?」
『つぎはぎ人間』は首を振って否定する。
それから左手から視線を外し、男へと視線を移す。逆光で見えにくいが移した視線の先の瞳は髪と違って鉄色に近い色。
「そっか。もしかして買ったばかり?」
今度は頷く。
「そりゃ災難だったな。まぁ、とりあえず」
「―――っっ?!!」
イキナリ脇に腕を突っ込んで抱きかかえられる様にされて立ち上がらせられる。困惑した表情を浮かべ、寧ろ訝しげに見遣ると男が驚くべき言葉を吐く。
「俺の家に来い」
「・・・は・・・ぁ?」
野次馬がざわめく。
思わずといった風の声が口から出る。驚きと言うより呆れ。
人間は『つぎはぎ人間』に干渉など殆どしない。するはずが無いのだ。
「あ!なんだ。喋れるんだな。首振ったりして返事するもんだから、てっきり話せないんじゃないかと思った」
あはははは、と男が陽気に笑う。
誰もが一瞬、陽気を通り越して壊れているんじゃないかと疑いたくなっただろう。
「とにかく家に行こう。家。おっと・・・その前に」
男は懐から黒いものを取り出して、眼前にある頭皮の無い、肉が露出した頭部に被せた。何をされたのかと慌てて『つぎはぎ人間』は頭部に手を移し、そして安堵の表情を見せる。黒い毛糸で編まれた帽子だった。
「これで良し、と。じゃ、行くか」
「ぉ・・・おいっ!」
相手は抗議しようと叫ぶが、無論の如く、男は無視。
―――おぃ・・・
内心での再度の抗議。
それを声に出さなかったのは、男が『つぎはぎ人間』の残った右手を握って歩き始めたから。
―――何なんだ・・・この人間。
引っ張られている方は男の後姿を視界に入れながら、これからどうなるんだろう、少しばかりの好奇心と多大な不安とを抱えながら思う。
銀色の、一本に結わかれた髪が太陽の光りを浴びて光るのを、目を細くしながら眺めた。
「この糸を切っていけば良いのか?」
尋ねられた相手は無言で頷く。
男の家に着いてすぐに椅子に座らされていた。
男の家は、都心から外れた静かな住宅街の一角に存在している。家の中は、必要なもの以外何も無い。淡い色、敢えて言うなら白が誇張した家具類。
「何も無いだろ?」
部屋を見渡す『つぎはぎ人間』に、男は左手の抜糸をしながら笑う。
「前居た所がごった返していたからさ、ここは必要な物だけあれば良いと思ったからね」
その声はどこか嬉しそうだ。
「で、聞きたいんだけど・・・左手の予備とかは・・・」
しかしすぐに言葉を切る。考える事数秒。結論としての言葉。
「持ってるわけがないか」
『つぎはぎ人間』は必要な物以外何も持たないのだ。生きていけるだけの少しばかりの金と、着る服。それだけでいい。買い溜めなど問題外。
「じゃあ、買いに行かなくちゃな。ついでに頭皮も買うか」
あ、そう言えば髪の毛は?と聞かれたのに対し、『つぎはぎ人間』は、髪は誰かから提供してもらうか、頭皮とセットで買うか、バラで買うかのどれかだ、との答え。
尋ねられて、答える―――なんて今までされたことが皆無と言って良いほど無く、それが当たり前だった『つぎはぎ人間』にとってそれは違和感であった。
「・・・どうしてそんなに尋ねる?どうしてそんなに良くしてくれる?」
驚くくらい思った事を言葉に出来た。
男が苦笑する。
「俺、昔人を殺しちゃって・・・と言うか、俺が死のうとしたら庇って死んでしまったんだな。とにかく殺しちゃって・・・」
ズプリと肉に刺さったあの感触。
男は自分の両手を見ながら、苦しそうに言葉を続ける。
「お前と同じ『人間』でさ。凄く優しかった。今思えば、それはただ親父に、俺に従ってただけかも知れないけど」
最期まで何も言わなかった。恨み言も、蔑みも、叫び声さえも。それがまた、どうしようもなく辛かった。
今にも泣きそうな声が過去を語る。
止めさせようか―――と思いも寄らない感情が湧きあがる。しかし、それを表す術も知らず、止める術も知らず、唯、彼は聞くしかなかった。
「でも、俺がした事は罪にはならなかった。『人間』を殺しても・・・罪にはならないんだと・・・」
自分の不甲斐無さと、悔しさとが溢れる声。その声で発せられる言葉はとても重い。押し潰されそうな感覚に聞いている方は一瞬襲われる。
「俺さ、お前を見た時何とも言えない気分になったんだ。何か・・・昔の俺と同じ『死んでも良い』って感じの目をしててさ」
「俺が・・・?」
「そう」
左手の止血をしながら包帯を巻きつける。白い包帯が少しずつ、赤く染まり始める。
「だから話しをしてみたかった、関わりたかった」
男が左手から視線を上げる。目が合った。鉄色の瞳には悲しそうな、寂びしそうな、それでいて何かを秘めている、そんな色が混ざっていた。思わず『つぎはぎ人間』は身を退く。吸い込まれそうな錯覚。
「もしくは・・・彼奴への罪滅ぼしなのかな・・・?」
「・・・・・・?」
低く小さく呟いた言葉は、その瞳に魅入られていた相手の耳には断片的にしか届かなくて、
「何でも無いよ」
男は笑って誤魔化す。
「さぁ、もうそろそろ行こうか」
窓から射し込む紅い日の光を眩しそうに見つめながら立ちあがる男に、
「・・・お前も行くのか・・・?」
信じられないばかりに『つぎはぎ人間』が呟くと、
「当たり前だろー?ここまで関わったんだから最後まで付き合わないとな」
腰に手を当てて言い返された。
「ほらほら、早くしないと良いもの売れちゃうぞ。とっとと立つ」
「・・・・・・」
とんでもない奴と関わったかも・・・と心の中で思いながら立ちあがる『つぎはぎ人間』。
しかしそうは思っても逆のことを思っている事に気付く。
―――何故だ?
その問いかけの答えはすぐに見つかった。
初めて今日、人間を間近に見た為だ。罵声では無い声を、殴る為のモノでは無く差し出された手を、初めて感じたから。
魅入られているのだ。その銀色の髪に、鉄色の瞳に、いろいろな感情の混じった笑顔に。
初めてもらった優しさを、まだ残る人間の温もりを手放したくは無かった。
初めて自らが関わりたい―――今はそういう意味だとは分らなかったが―――と感じたのだ。
『つぎはぎ人間』の往来が途絶えることの無い『暗夜市場〈あんやいちば〉』。
昼間でも夜のように暗く、パーツを法外的な値段で売りさばいている場所だ。当然の如く、在るのは『つぎはぎ人間』だけ。例外はパーツを売り捌いている『売買人』のみ。それ以外は居ない。この時以外は。
「おい・・・おいっ!」
『つぎはぎ人間』の波に飲み込まれそうになっていく男に気付き、手を精一杯伸ばす『つぎはぎ人間』。周りはその光景を見て目を丸くするが、介入する事無く我が道を行く。
「掴まれ」
差し出された手を男が握る。
―――暖かい。
握り返しながら『つぎはぎ人間』は思う。
引き寄せて飲み込まれない様庇って立つ。周りが2人を避けて通り過ぎていく。
「ここは『売買人』以外の人間はいない。『解体者』と間違えられない様に気を付けた方が良い」
「肝に命じておくよ」
周りから痛いくらいの視線を受けながらも笑っている男に半ば呆れた表情を見せて『つぎはぎ人間』は握った手を引いて先へと進む。
中へ。
更に中へ。
闇はどこまでも闇のままで、濃くも薄くもならない。店を照らすランプが魂の様にユラユラと揺れてぼんやりと光っていた。
「・・・気味が悪いな・・・何時見ても」
まるで来た事があるみたいな言い方。
降り返ると、
「良く、ここの前を通るんだ。散歩する時だけど」
説明する。それで言葉の意味を理解した。
「ランプも・・・人魂みたいだし・・・こんな事、お前の前で言う事じゃないと思うけど、やはりここは在ってはならない場所だと俺は思うよ」
「・・・・・・」
何も言わなかった。言えなかっただけかもしれない。
また無言で歩く。
目的地の近くまで来て、やっと速度を落ちる。視界には人影が1つ。
「おーい、ナンバー57326ー」
先の店、青いランプがユラユラと揺れているその下に、奇妙な模様のバンダナを頭に巻いた男が手を振っていた。『つぎはぎ人間』が返事の代わりに手をあげて、それから男の手を引いてその場に向かう。
「なぁ、ナンバー57326って?」
背後からの不思議そうな、しかし答えを知っている口調。
「俺のナンバーだ」
「名前は?」
「あるわけ無い。俺達にはナンバーが名前のようなものだから」
「そうか・・・」
男は少し寂しそうな声を残して口を閉ざした。
そう言えば・・・初めてそこで、『つぎはぎ人間』は聞いていなかった事に気付く。
「・・・お前は?」
「ん?」
「名前」
あぁ、と男も気付いて、
「そう言えばまだ言ってなかったな」
肩に手を置いて、
「・・・・・・」
驚いて立ち止まった相手を少し笑って、まるで隠し事を話すように耳元で囁く。
「シルバール」
店の中に入ると、カウンターに居る、先ほどのバンダナが手招きした。
「よう。さっきぶり。どうした?なんか買いに来たのか?ってかお前の隣に居るの人間じゃん。もしかして雇ってくれる所見つかったのか?で、人間君。名前は?」
まるで隙を与えないマシンガントークに、シルバールは呆気に取られている。『つぎはぎ人間』の方はもう何度もここに来ているから慣れていた。微動だにしない。しかし、このマシンガントーク、初めての人は簡単には慣れないだろう。
「シルバールと言う」
代わりに『つぎはぎ人間』が答えると、
「へえ。シルバールって言うのか。俺、バダナっつうんだ。よろしくな。ってか俺、お前の声初めて聞いた気がするぞ。ナンバー57326。ん?でもナンバー聞いたときに聞いたか。もっと話せば良いのになー。お前無口過ぎるって。でも俺みたいになっても問題だけどな。あはははははは」
バダナと名乗った男は一頻り言って、一頻り笑う。しかし、すぐに表情は変わってカウンターに手を置きなおした。商売人の顔つき。
「で、ここに来たってことは買いに来たんだよな?俺、何気にお前のこと気に入ってるから良い物安くしといてやるぜ?」
「なら頭皮と左手をくれないか?」
言ったのは持ちなおしたシルバール。求めている張本人はそのシルバールの横顔を見てるだけ。
「おうよっ。良いのがあるぜ・・・って、おいっっ!!頭皮ならまだしも左手は今日買ったばかりだろ!」
その言葉にシルバールは左手を取ってバダナに見える様に持ち上げた。
「あああぁあぁぁあぁっっっ?!!」
バダナの叫びは店の外まで響いた・・・らしい。
「今日使った麻酔が少し強すぎて、道を歩いてたら転んで轢かれた」
淡々と告げるとがっくりとバダナは肩を落としてため息を付いた。悲しそうにも見える。
「あれ、かなり良い物だったんだぞ。まぁ、いいや。今持ってきてやるよ。髪の毛は買わないのか?」
「・・・・・・」
「髪の毛はアテがあるから良いんだ」
言葉を詰まらせた『つぎはぎ人間』に代わって今度はシルバールが答える。
わかった、と言ってバダナは店の奥に入っていくが、
「そういえばさ、お前金あんの?ナンバー57326」
顔だけ出して尋ねた。
即答する。
「無い」
「おい」
「金なら俺が払う」
眉を寄せるバダナにシルバールが告げる。振り向くと彼は笑顔を向けた。
「まぁ、俺は払うもん払ってくれれば別にどうでも良いんだけどな」
言ってまた奥に入っていく。
「・・・イイのか?」
奥まで聞こえない様に声を落として聞いた。頼るしかなかったのだが。
返事は微笑と一言。
「イイんだよ」
「・・・わるい・・・」
「イイんだよ」
やはり同じように返ってきた。
「おい、シルバール」
全てのパーツを受け取って家路に向かおうとする2人、否、シルバールを不意に見送るバダナが呼びとめる。
「話があるんだけど、ちょっと時間ねぇかな?」
「・・・何の話?」
「そいつさ」
指を指す先には『つぎはぎ人間』。指された方は、何も分っていない。だが、シルバールには何を言いたいのか大体の察しはついた。
「少しの間、ここで待っていて?」
「・・・・・・」
頷くのを確認した後に、シルバールは再度店の中に入る。残された『つぎはぎ人間』は、首を傾げながら地面へと座り、流れ行く他の『つぎはぎ人間』の波を見つめた。
「で、何を話したいのかな?」
バダナと対峙し、シルバールは腕を組む。
「これから彼奴を如何するのかなって思っただけさ。人間は、『人間』には普通、干渉しない。けど彼奴はお前に魅入っている。そんくらい、気付いてるだろ?興味があるからだけで彼奴に良くするのなら、俺は今ここで、あんたを『解体者』にしちまうぜ?」
他の者が入る隙も無いトーク。だが、今回のそれは先刻までの雰囲気とは違う。重く静か。しかし、それに相手は怯んでなどいない。
「本当に気に入ってるんだな。・・・それは、君が彼奴の初めての『主』だからかな?」
「・・・良く知ってるな。そんな事、『売買人』と『製造者』しか知らないはずだ」
『製造者』とは『つぎはぎ人間』を造っている人間達の事。『製造者』に作られた『つぎはぎ人間』は、まず、『売買人』の元で働く事になっている。
暗い店の中、更には空気までが重くなる。
「調べているものでね。この世界の『律』を変えたいから。『人間』でも人間として暮らせる世界を。『売買人』も『解体者』も『製造者』さえもいない世界を作りたいからさ」
不敵に笑う。どちらともなく。宣戦布告と受け取ったバダナさえも。
「俺達の存在を消したいわけか。でもな、俺達が消えれば『人間』も消える。あんたが今、関わってる彼奴も、な」
「・・・知っている」
「それでもそれを言うのか」
バダナが手を伸ばす。表情は笑み。しかし目は笑っていない。その手が掴むモノはシルバールの襟首。
「なら尚更あんたを『解体者』にしねぇとな。お前は言っただろう?俺が彼奴を気に入ってるって。正にそうだ。俺が主となって関わっていった『人間』は多くは無い。だが、これだけは言える。彼奴は何処か違う。はっきりと何処か、までは言えないがな。だから彼奴は生かしたいんだよ。それを消そうとするのなら容赦はしねぇよ?」
「・・・俺の話しを少しは聞きなよ」
溜息を吐きながら襟首を掴んでいる手を降ろさせる。
「言っただろ?俺は『人間』が人間として生きられるようにしたいんだ。消したい訳じゃない。確かに『製造者』はともかく、『解体者』『売買人』が居なければ不完全な『人間』が生きるのは少々酷だろうし、完全な『人間』にも多少不便が生じるだろう。だから、探している。『人間』だけでも生きられる方法を」
「・・・それを探すのに彼奴で試そうと?」
「まさか」
心外だとばかりに肩を竦めて見せるシルバール。
「試すんじゃない。一緒に探すと言って欲しいな」
「結局は一緒じゃねぇかよ」
「違うよ」
不意にシルバールの声に覇気が無くなった。思わずバダナが姿を捉えると、少しばかり震えているのが分る。
「違う。一緒に探すんだ。俺は・・・もう『人間』が人間に使われるのは見たく無いから」
自身の肩を抱き、視線を落とすシルバールの姿に微かながらの違和感を感じた。その言葉にも。
―――まさか・・・?
しかし言葉にはしなかった。気にはなったが自分には関係のない事。そう、関係ない。
「取り敢えず、今は彼奴はお前の家に行くんだろうな。左手と頭皮を付けるのに。その後お前は彼奴を如何するつもりだ?」
バンダナの上から頭を掻きながらバダナは尋ねる。急に話しが変わり、シルバールは少し戸惑っている様だ。
「如何って・・・彼奴が良ければ俺の家で一緒に暮らしたいと思ってるけど」
「なら、住所を教えな」
「は?」
「だからお前の家の住所」
ズイッと紙とペンを眼前に突き出す。思わず受け取ったシルバールだが、
「如何して俺の家の住所が聞きたいんだ?」
多々膨れっ面のバダナに尋ねる。バダナは腕を組みながらカウンターに荒々しく座った。
「時々彼奴に会いに行く。状況を調べにな。お前を見張りに・・・みたいなモンだけど」
「と言うことは、一応は俺が彼奴に関わるのを認めてくれたって事かな?」
「一応だからな。彼奴に異変が起こった時点でお前は『解体者』行きだ。それは覚悟しろ」
言いながらシルバールに住所を書くよう顎で促す。微笑しながらペンを走らせ、シルバールはバダナに紙を手渡した。
「ありがとう、バダナ」
「・・・とっとと行きな。こんな所に人間が長居すると俺以外の誰かに『解体者』にされちまうぞ」
「そうだね」
手で、とっとと行けとばかりに、払う様に動かしシルバールを外へと追い遣る。外に出たシルバールは待っていた『つぎはぎ人間』を連れて雑踏の中へと消えていく。
「如何したもんだか・・・俺は」
再度頭を掻きながらバダナはカウンターの前の椅子に座る。
シルバールを嫌いきれてない自分が居る、それに気付く。
「ようは、俺も魅入ったって事か?」
だがそれに答えてくれる者は居ない。バダナは住所の書かれた紙をポケットに仕舞い、店頭に無くなったパーツを取りに奥に入った。
保存液に入った左手と頭皮を抱えてシルバールの家へと戻る。
『つぎはぎ人間』は早速腰に巻きつけてある小柄なバッグから糸と針を取り出して、左手を腕の切断部分に縫い付け始める。
「なぁ。髪の毛ってどうやって付けるんだ?」
保存液に浸かっている頭皮を興味深く見つけるシルバール。
「この薬を頭皮に塗って髪を付ける。頭皮と髪が薬と合えば髪は生えて、伸びる。合わなければ抜ける」
縫う手を止めて『つぎはぎ人間』はバッグから液体の入ったビンを取り出しテーブルに置く。
「へぇ。もう髪の毛必要か?」
「いや、まだ使わない」
「わかった。必要になったら呼んでな?」
「・・・あぁ」
軽く返事をしてまた作業に戻る。
シルバールは分厚い本持って来て読み始めた。『つぎはぎ人間』は小1時間かけて左手と腕を縫い合わせていった。
神経や骨、筋肉を短時間で繋げるには丁寧かつ確実に縫っていかなければならないのだ。それをやっとの事で終らせた時、シルバールも読書を終えて顔を上げた。
「終ったのか?」
頷くか返事をするか迷って、前者を選ぶ。
「そうか。じゃあ、頭皮を付けにかかるか?それとも休憩する?」
「出来るなら今日中に終らせたい」
「なら、髪の毛が必要だな。長さは?」
「・・・あれば良い」
「わかった。ちょっと待ってな」
シルバールは本をテーブルに置いて立ち上がり、小柄な棚、1番上の引出しを開けて小型ナイフを取り出した。
それを見て『つぎはぎ人間』がギョッとする。
「おいっ・・・何を・・・」
言い終わらないうちにシルバールの手が動く。
ザクッ―――
乾いた音。同時に掴みきれていなかった髪がパラパラとゴミとなって落ちていく。
腰まであった長い髪が結わいたところからバッサリと切られていた。残った髪は僅かに首にかかる程度。
・・・言葉が出ない。
「ほら」
髪を持った手が差し出されるが、相手は受け取るのを躊躇っている。まさかアテと言うのがシルバールの事だとは思わなかったのだ。それに加えて、自分の為にここまですること自体が不可解だった。
するとシルバールは躊躇している自分を見て笑い出した。
「受け取れよ。髪の毛なんてまた伸びるんだからさ」
「・・・・・・」
「な?だから受け取れって。お前の目の色緑色だから似合うと思うよ」
言われて自分の瞳の色が緑色だと言うこと思い出す。そんなことも考えてくれていたと思うと何か考えるより嬉しかった。
「・・・わかった。ありがたく受け取ろう」
これ以上何を言っても無駄な気がする。諦めた様にため息混じりの息を吐き出し、差し出された手から髪を受け取った。随分柔らかい髪。それは初めて触る、人間の髪の感触。
「これで名前で呼べるな」
受け取ったのを見てシルバールは嬉しそうに椅子に座った。
「名前・・・?」
「そうだよ。名前が無いって聞いた時からずっと考えていたんだ」
無造作に切られた髪をシルバールは指でいじる。とても楽しそうだ。
「『グレイグ』ってどうかな?」
「グレイ・・・グ?」
「そ。俺の髪って銀色だけど灰色にも見えるだろ?俺の名前は銀からとって『シルバール』って付けられたんだ。お前もさ、俺と同じ髪を持つことになるかも知れないだろ?だから、灰色から取って『グレイグ』」
肘を付き、顎を手で支えて、シルバールの鉄色の瞳が覗き込む。
「別に考えついた時、すぐにでも呼んでも良かったんだけど、やっぱり髪の毛に因んで考えた名前だから、呼ぶのは今が良いかなって」
「・・・・・・」
正直どう返答すれば良いか分らなかった。こんなことを言われたのは初めてなのだ。何とかして返事をしようと言葉を探すが、初めて続きで頭が混乱しているらしく何一つ思い浮かばない。
時間が経つうちにシルバールの瞳が曇っていった。
「気に入らないか?」
「そんなことはない。唯・・・」
「唯?」
覗き込むシルバールを前に、『つぎはぎ人間』はまだ頭皮の付いてない頭を掻いた。変な気持ちである。
「唯、そんなこと言われたのが初めてだったから・・・どう返事をしていいか分らなくて・・・」
鉄色の瞳を真っ直ぐに見つめて、素直に言葉を口にする。
「・・・名前、もらっても良いか?」
途端にシルバールの顔がパッと輝いた。
「お前が望めばそれはお前の物なんだよ」
それから微笑んで、
「ありがとう。グレイグ」
シルバールの顔は嬉しさが広がっている。
礼を言うのは自分の方だ、『つぎはぎ人間』はそう言おうとしたのに言葉が喉の奥で詰まって、首を振ることしか出来なかった。初めて呼ばれた名前はとてもくすぐったかった。
「そうだ、これも言いたかったんだけど」
言ってシルバールは微笑む。
「お前が良かったらなんだけどさ、ここで一緒に住まないか?」
そう提案し、
「さっきさ、バダナが雇い主が見つかったって言ってただろ?と言うことは、今はいない、つまりは雇い主が見つからなければ住むところが無いって事だよな」
理由を言って、グッと身を乗り出す。
「どう?」
「どうって・・・」
「俺さ、もっとグレイグの事知りたいんだよね。『毒を食らはば皿まで』ってね。ここまで付き合ったら最期まで。身体の一部を共有してるんだしさ。な?」
話しているシルバールはとても楽しそうで。
「迷惑じゃないのか?」
『つぎはぎ人間』に断る意志など毛頭無かった。けれどそんな事を聞いて確かめようとして。
「迷惑だったら『一緒に住もう』なんて言わないさ」
胸を張って喋るシルバールを見つめて。そして安心して。
「決まりだな?」
「・・・・・・」
同意を求める言葉に『つぎはぎ人間』は頷く。
相変わらずの無表情。けれど何処か嬉しさを漂わせている・・・シルバールはそんな雰囲気を感じた。
「じゃあ、早く頭皮を付けちゃおうぜ。俺、グレイグの髪の毛がある姿、早く見たいんだ」
ウキウキとはしゃぐシルバールに、『つぎはぎ人間』は―――グレイグは目を細めた。
美味しそうな匂いに鼻が反応して、シルバールは目を覚ました。
グレイグが来てすぐに買った隣のベッドには誰もいない。台所の方から音が聞こえた。
シルバールはベッドを軋ませながら降りると、短く、こざっぱりとした髪に触れながらリビングへと向かった。
あれから1ヶ月―――色んな事があった。
初期状態のグレイグは、ロボットと言っても過言ではない状態だった。人に命令されなければ『パーツを買う』『雇ってもらう』という事ぐらいしか自ら動く事は無く、言葉自体も殆ど知らない為に会話は成り立たない事が多かった。
そんなグレイグにシルバールはまず、言葉を教えた。そして自らが自らの為に動く『目標』という意味を教えた。更に無表情だった彼に、喜怒哀楽を日常の中で実践させ、時にシルバール自身が行い見せた。後は基本的な作法と礼儀を時間をかけて覚えさせていった。
物覚えが良く飲み込みが早かったから、苦労は大してしなかった。しかし習慣づいた癖はなかなか直らなかったが。
「起きたか?シルバール」
声をかけられて我に返り顔を上げると、そこは既にリビングで、グレイグが振り返ってこっちを見ていた。首にかかるくらい長い、シルバールと同じ灰色の髪。前髪の奥で緑色の目が細くなる。それが彼なりの笑みだった。
「おはよう。グレイグ」
挨拶をするとグレイグは更に目を細める。
「おはよう。朝食だから、まず着替えて来い」
「はーい」
シルバールは返事をして踵を返す。戻って来たのは数分もしなかった。
お互いに椅子に座り箸を持つ。
「頂きます」
「イタダキマス」
一緒に暮らしてから初めて覚えさせた言葉がこれ。始めは、どうしてそんな事を言うのか、と聞かれたが、自分達が野菜や、肉を、命あるものを食べさせてもらっているからそれを感謝する為だよ、と教えたらすぐ納得していた。今では毎日欠かさず言っている程。
箸やフォークの使い方も分らなかったグレイグが、今はそれを器用に使っている。始めは掴んで食べる、野生の猿を思わせる素振りだった。手も、口元も食べ溢した物でグチャグチャにして、またそれを気付いた時に舐めとって綺麗にして。その仕草は猫みたいで。
初めて見た時は無論驚いた。と言うか、寧ろ唖然。それから吹き出しそうになった。手で一生懸命に掴んで口に運ぶグレイグの姿は何とも言えず、可愛かった。
そんな事を考えながら一緒に暮らしてきて、1つだけ分った事がある。
『つぎはぎ人間』は人間の道具に過ぎないと言う事。
途端に胸が苦しくなる。胸を圧迫されているような・・・。呼吸をするのも辛いくらいの。
それを隠すためにリモコンに手を伸ばした。
ブラックアウトされていた画面が鮮明な色を映し出し、音声がスピーカーを通して漏れ出す。
1人の人間がこちらを向き、淡々とした声で原稿を読んでいる。
「・・・人が『死』んだ」
黙って聞いていた目の前に座っている者から発せられた言葉はあまりにも低く、重い言葉だった。
「グレイグ」
心配顔のシルバールが顔を覗き込む。笑おうとしたけれどこんな時に表情は全く動かなくて、ただ無表情のままグレイグはその顔を見つめる。
以前もこんな事があったな、シルバールは思う。
『死』とはどういうものかと教えた時だった。
冷たくなって動かなくなる。永遠に眠りから覚める事はなく、2度と会う事はない。とても、とても悲しい事なのだと。
そう教えてグレイグが口にした言葉。
「お前も何時かそうなるのか?」
なるだろうな、人の命は短く脆いものだから。嘘をつくわけにもいかないからそう、返事をした。その言葉に微かに動いた表情。見逃してしまうほど微かな動き。気付けたのは偶然だったのかもしれない。
その表情は・・・凍りついたように変わらない・・・無表情だった。
それから『死』と言う言葉を聞くたびに曇る表情。
―――もし―――
「グレイグは―――」
「うん?」
「大分表情が出てくるようになったな」
言われたグレイグは眉を寄せる。
―――もしグレイグが死んだら自分はどうなってしまうのだろう―――
「当たり前だ」
お前に教わったのだからな―――眉を上げて、悪戯者のような表情を浮かべて呟く声にシルバールは苦笑する。
―――今や家族同然となったグレイグ。目に見えない絆は自分が思っている以上に深いのか、浅いのか。分らないけれど、期待はしていいのだろうか―――
「それは俺が表情豊かと言う誉め言葉として受け取っていいのかな?」
―――もし自分が―――
「さぁ。どう言う意味の言葉かは自分で考えな」
楽しそうにグレイグは目を細める。
―――自分が死んだらグレイグはどうなるのだろうか―――
月日が経って、髪も伸びた。
絆は深くなっただろう。きっと。期待は裏切られなかった。それを確認出来ただけでも幸せだと感じた。
グレイグのつなぎ目は日に日に目立たなくなっていった。それは人間に近かった。
「もう人間になったな」
ある日言ったらグレイグは嬉しそうに目を細めて笑った。
「全部シルバールのおかげだ。お前がいなかったら今の俺は俺じゃなかっただろう」
大きな背中を見せて照れくさそうな声で礼を言う。
「ありがとう」
背中で揺れる灰色の髪は自分のよりも濃かった。
それがグレイグの色なんだな、と思った。
バタバタと外から騒がしい音が聞こえたと思うと、バダナが勢い良く家の玄関を開けた。
「オッス!遊びに来たぜ」
愛用の工具―――『つぎはぎ人間』の調子を見るために使う道具を手に持って、返事をする間も無く中に入ってくる。
今はちょうど昼時。家の中からは食欲を誘う匂いが漂う。
「美味そうな匂いだなー。俺も一緒に食ってもいいか?良いよなっ?食事は大勢で食べる方が楽しいって言うし!」
やはり返事を聞かずに椅子へを座る。
「やぁ、バダナ。いらっしゃい」
微笑んで迎えたのがシルバールで、
「バダナ・・・来るのは良いが、イキナリ家の中に入ってくるのは止めてくれ」
眉を寄せて、手にはバダナ用スープ皿を持って迎えたのがグレイグ。
「良いじゃないかよ。グレイグ。俺とお前とシルバールの仲だろ?」
言ってバダナはカラカラと笑った。
グレイグとシルバールが会い、バダナと出会って以来、急に親しい間柄となった3人。もはやバダナとは、『売買人』と『つぎはぎ人間』との関係ではない。お互いがお互いの事を話し、頻繁に会うようになって、何時の間にか友達と呼べる間柄になっていた。そして、バダナがシルバールの家に出向き、グレイグの調子を見て、そのグレイグは食事を出し、3人で何時間も話す、そんな日々が続いていた。
今ではシルバールと同じような絆で結ばれている人間の1人だった。
「ほら、グレイグ。調子見てやっからこっち来な」
マイペースを保つ彼は思い出した様にグレイグを呼び、椅子の下に工具を開く。
半ば諦めながらグレイグは溜息をついてバダナの下へと向かう。
グレイグはこの作業が余り好きではないのだ。体中を弄られる感覚が何故か嫌なのだ。
シルバールはその様子を笑いを堪えていつも見ている。それも嫌だった。笑いたきゃ、笑えば良いのに、何時も思う。
「ん。何処も悪くなっている所も無いし、良い状態だ」
やっぱり俺の売ったパーツが良かったんだな、1人悦に入るバダナ。こういう奴でも腕は確かだから、信じられる。始めは猜疑心だらけだったが。
「それにしても、本当に人間に近くなったなぁ。お前」
感嘆の声をバダナが漏らす。
同年代に造られた『つぎはぎ人間』と比べると、仕草や考え方、表情や言葉遣いが明らかに跳び抜けている。それは一重にシルバールのおかげと言うのもあるのだが。
「・・・それ、この前シルバールにも言われた」
あまり表情は変わっていなかったが、明らかに照れた様子でグレイグが呟く。
「ウソ?!マジで?なんだよ、俺、2番目かー。1番かと思ったのにな。やっぱ何時も一緒にいるシルバールには適わないってか」
がっくりとうな垂れるバダナに、シルバールは笑う。
「そりゃ、そうだろうね。何時も一緒にいるのにバダナに先にそれを言われたら俺の立場が無いって」
「まぁ、そうだよなー。でもなんか悔しいなー。俺だって何時もグレイグの事見てるのにさ」
唇を尖らせて子供が拗ねたように呟く。グレイグは困ったように2人の顔を交互に見ている。
「如何やらモテモテのようだな。グレイグ」
からかうようなシルバールの言葉。
それに対して、グレイグは、
「男にモテてもあまり嬉しくないんだがな」
真面目な顔で言った。
「やっぱりモテるんだったらは女の子の方が良いか?」
「いや・・・別に・・・なぁ」
「なんだお前―。この俺の愛を受け取れないってか?許せんぞ。生意気だぞー」
「うわぁ!?」
バダナに後ろから羽交い締めにされたグレイグは素っ頓狂な声をあげ、シルバールがそれを見てまた笑う。
「フフフ・・・このまま脳を取り替えて俺の言う事を聞くような素直で良い子にしてやろうかなぁ」
目が据わっている。
このままでは本当にやりかねないバダナの様子に、本気で危機を感じ、
「バ・・・・バダナッ・・・冗談キツイって。俺はお前の事もスキだからさ。頼むから脳を取り返るのは止めてくれ。お前このままだと本当にやるだろっ?!」
急いで腕から逃れてシルバールの背後に身を隠す。
「えー?駄目なのかぁ?」
「駄目に決まっているだろ!」
物悲しそうに尋ねると、怯えた目で即答された。
「じゃあ、もうやらないよ。だから隠れてないで出て来いよ。な?」
「・・・本当だな?」
「俺ってそんなに信用ないかなぁ」
肩を落とすバダナ。
「まぁ、そんなに落ち込むなって」
宥める様にシルバールが肩を叩く。
「シルバール・・・お前って本当に良い奴だなっ!」
感激して抱きつくと、すぐにグレイグが2人を引き剥がした。不機嫌な表情でバダナを見て、シルバールを抱き込んでいる。まるで子供のような仕草だ。
「「ヤキモチ?」」
そんなグレイグが楽しくて同時に2人が聞くと、
「違うっ!」
拗ねた声で否を唱えて背中を向ける。
途端に2人が爆笑した。
「かーわいいなぁ。お前って」
バダナが後ろから抱き付いて、シルバールが嬉しそうに何度も頭を撫でる。
ぶすりとした表情のグレイグはなにも言わない。言わなかったのだが・・・
3人のお腹が盛大に鳴って思わず吹き出す。
アハハハハハと言う笑い声が途端に部屋に響いた。
「じゃあ、昼食にするか」
グレイグが台所に戻って冷めたスープを火にかける。
「ほら、バダナも手伝って。スプーンと取り皿を出して」
「へぃへい」
シルバールに促されて、食器棚にバダナが向かった。
まるで家族のような光景で。
自然と笑みが浮かぶのをグレイグは感じる。気付いた2人が顔を見合わせた。
「『幸せ』と言う言葉はこういう時に使うんだろうな」
見るからに幸せそうな顔をして、それを見られるのが恥ずかしく思うのか顔を逸らして。
この世で初めてその感情を感じた『つぎはぎ人間』なんだと、認識して。誰よりも幸せだと、そう―――
何も言わず、同じように幸せそうに微笑んでシルバールとバダナがグレイグの肩を抱く。
そしてポツリと、言った。
「グレイグが望む限り、その幸せは続くから。俺達はずっと傍にいるから」
「だから、安心して幸せしてろよ」
3人で、皆で願おう。一生続く幸せを。今この時の幸せを。ずっと、ずっと3人で笑い合えるような幸せを。
けれど・・・
それはあまりにも突然だった。
〈―――ブラック氏が経営する銀行が―――であり―――〉
コトン・・・
音を発ててスプーンが皿に乗る。
それは、普段なら気にもしない音なのに、今日だけは嫌に耳につく音だった。
〈ブラックさん―――どの様にしてこの銀行を大きく―――?〉
テレビが映す画像は何時も見るニュース番組。今日の内容は何処かの銀行の社長へのインタビューである。
〈そうですね―――我が社の社員が―――であって―――また多くの皆様方が利用してくださり―――〉
その社長は内心は得意満面であろう、表情を引き締め、世間一般が『社長』と言う言葉を聞いて一番初めに思い浮かべるだろう、いかにも硬派で人当たりの良い笑顔を時たま見せながら、慣れた様子で受け答えをしている。
それに反してシルバールは眉を寄せて渋い表情を作り、テレビを睨んでいる。
居るのは当たり前と言う風に座って食事をしているバダナと、その目の前に座るグレイグはシルバールの様子に目を丸くする。
「・・・・・・」
だが、グレイグにそれを聞く事は出来なかった。話しかけるのを躊躇わせるような雰囲気がシルバールを纏っている所為だ。
代わりにバダナが口を開く。
「シルバール?如何した?」
「え・・・?あ・・・」
呼びかけられて初めて自分の手が止まり、更に2人が明かにシルバールの様子を不振に思っているのに気付く。慌てて笑顔を作り、
「何でも無いよ」
至って通常通りに振舞う。
「そうか・・・なら良いんだ」
「・・・・・・」
グレイグは、ほっとした表情になり、食事を続ける。しかしバダナは硬い表情を崩さない。
「・・・・・・」
だが、何も言わずにグレイグと一緒に食事を再開した。
一抹の不安。
それがシルバールの手を鈍らせる。
言葉にするのを恐怖させる。
まさか、こんな日が来るだなんて思った事も無かったし、これから先も思いたくは無い。
だけど、現実は容赦無い。
まるで嘲笑うかのようにやって来ては何もかもを奪っていくのだろうか?
やっと掴んだ幸せも。
大切な人さえも。
奪っていくのだろうか?
抗う事は出来ないのだろうか?
逃れる事は、出来ないのだろうか?
如何してそっとしておいてくれないのだろうか?
俺が・・・罪を犯せしモノだから・・・?
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