モラルに体当たり記

モラルに体当たり記

紫陽花の季節



柔らかい雨は音も時間も包み込み
霧雨の中、紫陽花が色濃く浮かび上がるがごとく、
底ふかく沈んだ記憶を引き出します。

初めて逢った日の木漏れ日の眩しさ、
私が泣いている間中 握りしめていてくれた手のひらの熱
子猫のようにじゃれあって、さざめき笑った夜明け

その一瞬一瞬に、
私はあらん限りの生命を傾け
どれだけの涙を
どれだけの情熱を
あなたに捧げ、

あなたの気まぐれに翻弄されるがまま
どれほどの嘆きを
どれほどの幸福を
与えられたことでしょう。

全てが思い出せないほど遠い昔のことで
かすかな痛みが残るだけ

ああ、あなた
でもせめて、この雨がやむまでは
哀しさも霞む記憶の中で、
もう少しだけ、まどろんでいようと思います。


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