Cat Tail

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SS-バカップルの日常

バカップルの日常

 それは普通のスーパーでごく普通にある風景だった。それが彼らでなければ、である。
 普通に一人で歩いていても目立つ彼らは、二人で連れだって歩いていればイヤでも注目の的となる。しかしそんな自覚のない彼らは、周りの人間がこっそりと様子をうかがっているなんて思ってもみないだろう。
 美丈夫で知られる特殊戦総監と美貌のエースパイロット-彼らは知らず知らずのうちにいろいろな話題を振りまいているのである。

 今回の目撃現場は日用品売り場だった。
 いつものスカジャン姿で前を行く深井中尉はふと顔を上げると、カートを押しながら後ろを歩いてくる彼の上司でもある親友を振り返った。
「ジャック」
 プライベートであれブッカー少佐を愛称で呼べるのはFAF広しと言えど彼だけである。少佐はいつもの赤いジャンパーを着ていて何を探すでもなく商品陳列棚を眺めている様子だった。
「なんだ?零」
 ブッカー少佐は、他の人間なら確実に無視されるであろう深井中尉のファーストネームで彼を呼び、その呼びかけに答えるように顔を上げた。
「シャンプーが空になっていた」
「どれだ?」
 そう問い掛けられて少し首を傾げるようにして考え込む深井中尉の姿は普段だったら絶対に拝めない。“ブッカー少佐といるときはちょっと可愛い”なんて噂話は本人や少佐の知らないうちに広まっていたりする。
「たしか右端の」
「ならそれだな、詰替用のだぞ」
 深井中尉がブッカー少佐の指差す詰替用のシャンプーを棚から取り上げてカートに放り込んだ。
「他のは?」
「さあ?まだ入っていたと思ったが」
「残りが少ないようだったら買っていけばいい」
「どれだけ残ってるかなんていちいち気にしていない。無くなったらあんたのを使うさ。どうせ今まではあんたのを使っていたんだから」
“今まで少佐のシャンプーを使っていた…ということはあれは中尉専用なんですか?専用のシャンプーが少佐の宿舎のバスルームにあるんですか?”
 さりげなくそばに寄り聞き耳を立てていた女性隊員たちは出来もしない質問を心に思いながら“やっぱり普通の関係じゃないわねっ!”と目で語り合っている。
「俺のだと髪がゴワゴワにならないか?」
「別に?洗えればどれでも同じだ」
 そんな深井中尉の答えにブッカー少佐は笑いを抑え切れない様子で肩を震わせた。
「まぁ、お前らしい答えだな」
「あんたがこだわりすぎなんじゃないのか?」
「俺のは英国製だから日本人のお前にはあわないんじゃないかと思ったんだ。それは日本製だからな」
 ブッカー少佐はカートに放りこまれたシャンプーを顎でしゃくって見せた。
「バスルームにやたらボトルが並んでるのはそのせいか」
「せっかく綺麗な髪なんだから少しは気を使えよ」
「男の髪が綺麗でも仕方ないだろう」
「そんなことないぞ。お前の髪は手触りがいいからな。俺は気に入っている」
 憮然とした顔で深井中尉が言えば、ブッカー少佐は真面目な顔でとんでもないことを平然と言ってのける。
「やたら触られてると思っていたが、気のせいじゃなかったんだな」
 深井中尉は色白の顔をほんの少し紅潮させて、それはさりげなく自分の髪に触れ、指に絡ませたブッカー少佐の手を払い除ける。少佐はそんな中尉の行動に嫌な顔ひとつ見せずに、笑顔で彼を見つめていた…

 そのやり取りに女性隊員たちは卒倒しかけ、たまたま近くにいた特殊戦オペレーターは“この人たちは公衆の面前で何をしているんだ”と心の中で呟いた。
 また、この自覚のないバカップルの話題が一つ増えそうだ。特殊戦総監とエースパイロットの二人についてはその手の話題には事欠かない。実際どこまでの関係なのかは定かではないが、彼らは何処でも関係なくいちゃついていると周りには見えていて、すっかりバカップル扱いされているのである。
 数時間後にはどこまで尾ひれ背ひれがついていることやら。また歩き出した彼らにさりげなくついていく女性隊員たちの背中を見送りながら彼は大きな溜息を吐いた。



コメント
 零の使用している(させられている)シャンプーのイメージはアジアンビューティー・ア○エンスです(^-^)
 OP1のお買い物シーンと自分の希望(欲望?)が混じった話。
「覚えてない」って零が可愛くて~萌えv特殊戦勤務になって彼らをウオッチングしたいv
 しかし、タイトルのセンスのなさってば(;_;)


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