ぶたりしあす

ぶたりしあす

「小説」 私の時間。


急にこんな異国に運ばれたように来て、友達も居なくて死にそうな位辛いときに、ふと辿り着いた一つの掲示板により、私達は出会った。
切っ掛けとか出会いとか、友達は私達の出会いを笑うけれど、そんなのはどうでもいい。始まりなんて、少し極端な位が丁度いい。別れだって、本当に急だったけれど、涙だって流さなかった。少し強くなったし、って強がってみる。

彼は一緒に居るときは本当に優しい人だった。重い荷物どころか、軽い荷物でもひょい、っと持ち上げて、私の代わりに持ってくれるし、お前の背伸びしてするキスが可愛い、って言ってくれるし、体重が太ったって、毎回お姫様だっこしてくれる。自分の嫌いな所も好き、って言ってくれるし、我侭だった聞いてくれる。でも、知っていたんだ。私だけが、全てじゃない、って。

付き合い始めた頃は知らなかった。バイバイ、した後はいっつも寂しくなるし、何をしていても頭に彼のことが過ぎる。今、彼は何しているんだろう、って思う度に彼を思う気持ちが強くなって。電話だって、掛かってこないのが分かっていても、時計の様に何度も見ちゃうし、一日電話が来ないとそれだけで憂鬱になった。それ位、私の世界の大半を彼が占めていた。というより、彼が私の世界だった。
彼が居るお陰で、私の生きている意味とか意義があったんだ、って思う位彼は私の世界を占めていた。


懐かしい日々を振り返る。
5月29日。彼と会う4回目のデート。場所は気取って、ニューヨーク。
・ ・・はじけちゃいました、私!!!
それまで、数(じゅう)人としか、身体の付き合いをしたことがなかったし、日本人しか知らなかったから、凄くドキドキだった。全てが。
彼は、所謂黒人だし、言語だって私が頑張って彼の言語を喋らないと行けなかったし(ま、どっちにしろこの国にいるからには話さないといけなかったんだけど)、初めて尽くしで何もかもが新鮮だった。
勿論、まだ、4回目のデートだったから、彼、なんて意識してなくて、
ほんと、ちょっと気になるかも、的な相手でしかなかった。

ニューヨークに来ての開放っていうのかな?(今考えると、解放だったのかも)
大きい建物だったり、圧倒される、人の数だったり、実際なんでか分からないけれど、何でも許されるような気がした。
別々の部屋、って聞かされていたホテルも結局何故か一緒の部屋だった時も、全然驚きもしなかったし、不思議な感じもなかった。
ま、いっか、って感じ。
それが、ニューヨークっていう土地の魔力だったのかな?

部屋に入って、荷物を降ろすなり、彼は私にキスをした(展開急過ぎ、って思った人挙手)。
それが、凄く自然で、更に新鮮で、私も躊躇わずキスをする唇になる。
キスしながらも、やっぱり黒人の唇って厚いんだな、って思っている冷静な自分がいた。
数分のキスの後、私はある行動に出た・・・

私は彼の股間に手を当てる。私にとってそれは、思ってもみない、初めての行動だった。
今まで誰かと、事を致す時も、必ず私から行動に出ることなんてなかった。
それが、今、酔ってもいない、しらふの私が、ちょっと大胆な行動をしてみる。

彼の唇の熱が更に熱くなる。前よりも早く、いやらしく接吻をしてくる。私は彼のジーンズのジッパーを開け、中から大切な宝物を引き出す(パンツは履いてなかったみたい)。
その“宝物”は、私が今まで手にしたかなでも極上だった。
まずは、その長さ。私の親指から小指までが10cm位なんだけど、その私の手、2つ分でも少し余分が出る位だった。
そして、その太さ。アジア人の血が少し入っているせいなのかな?太さはそんなに太くなくて、私の手に丁度いい、って感じ。
口に含むにも半分しか入らない位、その宝物は手に届かないモノだったけど、凄く美味しかったな、今、考えると。


その後何が起きたかは、また、後で書くとして、私にとって、そのニューヨークでの彼との初めてのセックスが私と彼との思い出の中の絶頂期だったのかな。

ニューヨークから帰ってきてからも、お互いの時間がある時は出来る限り会っていた。でも、なんていうのかな?ニューヨークの情事があって以来、お互い近くなり過ぎちゃって、逆に距離が出来た。
私は私で彼が常に何をしているのか余計気になったし、彼も彼で私の事を束縛し始めた。ちゃんと、勉強しろ、友達とばかり遊ぶな、外食は控えめに、週末は時間を空けておけ、って感じで。
一言々々が、分かりきっているけど、出来ない事だから、余計腹が立って、辛くなった。それでも、彼の事嫌いになりたくなかったし、彼も出来る限りの優しさで私を迎えてくれた。

長くは続かなかった。次第に彼は口では上手い事は言うのに、それを実行に持っていったり、遂行したりすることはなくなっていた。嘘も吐くようになった。

秋も深まり、木々も紅葉と呼ばれる形になる頃、私は、彼が女の人と手を繋いで歩いているところを偶然目撃する。傍から見たら、私と彼より明らかにいいカップルに見えるし、凄く幸せそうだった。私はその時、彼との関係に終焉を迎えることを決意する。

11月11日。遠くに見える果ての無い空を見て、私と彼を思う。黒と白の入り混じった雲が、空にゆっくりと流れている。彼とあった思い出をゆっくりと思い出す。今となって考えてみると、本当に辛かった様な気がする。彼の事を思っている、それだけで、なんか凄く胸が痛くて、出会わなければ、なんて思わざるを得なかった。彼と会う度に自分の嫌な所を見せて、彼の嫌な所をみて、喧嘩して、泣かされて、罵って、結局、今思ってみるとそんな思い出ばかりが頭を過ぎる。

その日は、彼と行ったお気に入りの場所で会う事にした(ここでは、どこか記述されてないんだけどね)。
彼の顔を見るだけで、体中が苦しくなって、熱と冷気を同時に体中から発せられたような感じになった。全身から涙を象徴するかのように、汗が流れる。ほんとうは凄く泣きたかったけれど、我慢した。彼との別れを告げると、彼は分かっていたかの様に、あっさりと、わかった、と言う。
それが、逆に哀しくて、私は心の中で思いっきり泣いた。
2ヵ月後。






私は死んだ。
理由とかあんまり分からない。彼を引きずって、の行動だったのか、ただの私の我侭か。
風に引き込まれる様に、私の足は屋上の端へと行き、そこから、それこそ映画のワンシーンの様に落ちていった(この表現好きなんだ)。
靴を揃えた訳でも無いし、裸足だったわけでもない。ただ、本当にすーっと、誰かに呼ばれたかの様に。
落ちていく時、空が見えて、やっぱり、いつもの様に、白と黒の雲がゆっくりと流れていくようにみえた。
もし、私の出た行動の結論を出さないといけないのなら、私は恋との決別と言わなければいけないのかもしれない。
でも、もう、私の胸に彼があったわけでもない。新しい何かを見出した訳でもない。ただ、自分が全てに絶望したかの如く、足がゆっくりと、自分の思いを行動に出してくれた。ほんとうに、ただそれだけの事だ。
どれだけの人が、私の葬式にきてくれるのだろう。どれだけの人が哀しんでくれたのだろう。もしかしたら、私の死は喜ばしい事であって、誰も哀しんだり苦しんだりすることでは、ないのかもしれない。私の死を通じて、誰かの人生が変わったり、誰かの心に私の思いを響かせたりする事は皆無なのかもしれない。
結局、そんな人生なんだ、って諦めればいい。人生なんて、自分が自分勝手にやって、終焉を迎えればそれでいい、って幼心に私は思った。でも、一つだけ勘違いして欲しくない事がある。これは自殺ではないんだと。これは、飽く迄も今までの私との決別でしかないんだと。


37階ビル下のコンクリートの上から、遠くに見える果ての無い空を見て、そう、私は思ったんだ。










僕は彼女が亡くなった数日後、手紙を受け取った。

Dear 私の小さな恋人。

ありがちな始まりだけれど、貴方がこれを読んでいる時は、私はこの世って呼ばれる世界にはもういないんでしょうね。本当に二人の間に色々な事があったね。時間は半年、って言う人生のほんの一部だったけれど、貴方には本当に沢山の事を教えられました。楽しい事、辛い事一杯あったけれど、私は自分の人生に後悔はしていません。もしかしたら、貴方は私がいなくなる事は、貴方のせい、って思うかもしれない。でも、これは貴方のせいでもなんでもなくて、私のこの世界との決別、っていうか、私の身体がついてこない、って言うか、きっと、この世に存在する言葉じゃ伝えきれない感情なんだ。だから、難しいとは思うけれど、私の死を理解してほしい。見方によっては、この世は、暗い事ばかりで、何をやっても、憂鬱とか絶望とか、そんな感情しか感じない毎日が多いかもしれない。でも、その中で少しでも、ほんの少しでも垣間見ることができた人を愛する感情とか、幸せな時とか、絶対忘れない。そのほんの一瞬の幸福だったり、どきどきしたりする瞬間の為に自分は生きていたのかな?って思う。貴方もこれからの人生、暗い未来や、切なく果敢無い人生に嫌気をさすかもしれない。でも、何れやってくるその瞬間の為に生きてみたらどうかしら?なーんて、ちょっと小さな提案をしてみました。勝手に生きる事を諦めた私に何かを言う権利なんて無いんでしょうけれど、貴方、って言う世界に出会えて幸福でした。さようなら、私の大切なDuke。



涙が止まらなかった。彼女を傷つけたのは自分なのに、恰も僕を労るかの様なその手紙は僕を暖かくさせた。今まであった出来事を後悔するには後悔しきれない程自分は愚かで、単純で、莫迦で。僕は泣く事でしか、彼女への思いを表現する事が出来なかった。

何故か分からない。本当に何故だか分からないけれど、それ以来女に恋することはなくなってしまった。彼女へのせめてもの償いなのか、それとも、莫迦な自分への決別なのか、本当に理解できない。でも、それで自分が動き出せるなら、とやっぱり、自分勝手な自分は、前とは違う涙を流しながら、そう思った。



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