出張大魔王

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お代官と越後屋日記 8



中田広成は越後屋と呼ばれていた。
見た目は昨今まれに見るブ男なのだが
狡猾さでは一歩抜きん出るものがあった。
特に上に対しての態度は商売人でもこれほどまでには
というほど媚びへつらう姿であったため
誰かれとなく越後屋と呼ぶようになった。
本人もそれを知っていたが、自分が商才に長けている為だ
と勘違いし、余計に周りの哀れを誘っていた。

その越後屋の元にも辞令が出た。
「四国藩営業担当課長を命ず」

「課長じゃ!課長じゃ!」
狡猾なくせに単純な越後屋は課長になれたことにはしゃいでいた。
「出世じゃ!」
越後屋はさっそく和歌山にいる妻に電話で課長に昇進した事を伝えた。
「あなた、四国藩って遠くない?左遷じゃないんでしょね。」
越後屋は一瞬たじろいだ。
「左遷、まさか・・課長ですよ課長。給料も上がりますよ」
「あっそう。ならいいわ。でも一人で行ってね。私達は嫌よ。
寮とかあるんでしょ。単身赴任しなさいね。」
ガチャリと切れた電話の受話器に向かって、ふん!と言いながら
妻の言葉が気にかかっていた。
「左遷?な訳ないだろ。四国で実績あげてこっちに帰れば次は・・」

越後屋はいつも下から見上げるような目つきをしている。
その目つきのせいだけとは思われないのだが
越後屋と呼ばれる以外に「セクハラ大魔王」の称号も持っていた。
そのセクハラ大魔王が単身赴任するのである。
本人の喜びはどれほどのものであろうか想像に難くない。
左遷であろうとなかろうと自由気ままな生活ができるのである。
越後屋ははるか四国の地に想いを馳せるのであった。

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