BLUE ODYSSEY

BLUE ODYSSEY

ロザンナと少女 act.1~8



ロザンナと少女 [act.1]


 ”ロザンナ”は美しい女性だった。
スレンダーなボディーに、流れるようなブロンドへアーはどんな洋服を身にまとってもよく似合う。
まさにモデルのようなプロポーションと顔立ち。
カメラの前でちょっとポーズを取って微笑めば、それで有名雑誌の表紙を飾れるぐらいの逸材だった。
でも今の彼女は少しばかり歳を取っていた。
そう、ほんの少しだけ。
それに悪い事に最近の彼女はいつも幸薄そうな顔をしていた。





 彼女には女の子が1人いた。名前を”メアリーアン”と言った。歳は5歳。
ロザンナは最近酷く疲れていた。夫と死別してもう1年にもなる。
メアリーアンは彼との間に出来た子供だった。

ロザンナが現在ついている仕事の方は比較的問題なかったが、短調で、しかも何となくではあるが未来が見え無さそうな職種だった。
いや、少なくともロザンナにはそう思えていた。
仕事は簡単な事務や経理といった内容で、拘束時間は長かった。その分給料は良いのだが。
ロザンナはこの仕事が嫌で嫌でしかたなかったが、給料額には満足していた。これなら1人でメアリーアンを育てていける。
彼女は娘の事をいつも気にかけており、”キャリアウーマンと良きママ”を兼任していた。

元夫の”ジョン”はとてもいい男性だった。気立てが良くて優しくて、ロザンナにはいつも気を使っていたし、また使いすぎなかった。
真剣な話もすれば軽いジョークも言うし、喋りたくなければベットに座ったままか、テレビ放映の映画を観て楽しんだ。
スポーツマン風で、ハンサム。そして頭も良かった。仕事は薬品会社の開発部に努め、いつも軽快に行動していた。
彼はブルネットがよく似合う顔立ちで、ロザンナとはまさに美男美女、絵に描いたような似合いのカップルだった。



ジョンが26歳、ロザンナが22歳の時、2人は結婚した。すでにお腹にはメアリーアンがいた。



結婚生活も幸せそのもので、ロザンナはジョンといると片時も退屈しなかった。
彼は子供の誕生を待ちわびてくれていたし、大型ベビー用品店で気の早い買い物をして来ては、ロザンナを困らせた。
それでもロザンナには笑顔がたえなかった。

そして間もなくメアリーアンが誕生した。
ロザンナは「人生ってなんて素晴らしいんでしょう!」と感じていた。





それから4年後のある日。
警察から自宅にいたロザンナに電話がかかった。
「夫のジョンさんが交通事故で急死しました」という内容だった。
突然の訃報に、ロザンナは病院にメアリーアンを伴って駆けつけたのだが……。
もちろん夫が生き返るはずもなく、悲しみの対面をしただけだった。





ロザンナと少女 [act.2]


 以来、彼女の人生は180度変わってしまった。
確かにジョンと知り合った時も、彼女の人生は大きく変わった。「全て良い方向へ」と。
自分の母親やジョンの母親の人生を聞いても、結婚によって大きな転機が訪れたと聞かされていた。
しかし、今度は「全てが悪い方向」に変わったのだ。

この時、メアリーアンは4歳。
保育園に通う事になり、ちょうど重労働の子育てが終わる時期だった。
そこで、ロザンナは時間制のパートの仕事でも見つけようとしていた矢先だったが……、それを収入の多い一般職に切り替えて探さなくてはならなかった。

幸い今も務める会計事務の仕事を見つけたが、拘束時間が長いのと、退屈極まりない内容に飽き飽きしていた。
ロザンナはもっと才能豊かな女性で、多くの仕事がこなせる。
デザインやファッションセンスもよく、最新のトレンドにも精通していた。
以前は。
そう「以前は」である。日々落ち込んでいる今のロザンナに取っては、花瓶1つ買ってこない日々が続いた。
夫が死んでからは部屋の模様替えもしなくなった。洋服も”仕事に着て行く物”以外はまったく買って来なかった。




また会計事務の職場の人間達が面白くない。
ほとんどが年配の男性。妻子持ちで、仕事に対する意欲が感じられない。いや、意欲はある。
だだ「新しい事をしたがらない」と言った方が正しい。
真面目で誠実で嘘を付かない人間達ばかりだったが、”毎日繰り返し同じ事をする人間”とも言えた。
これは新しい物好きで、常に違う事に挑戦して行きたいロザンナにとっては苦痛だった。

また彼らのするお喋りも退屈そのもの。
同じ事の繰り返しや、仕事の話や、理念・理想についての話がほとんど。

ロザンナはもともとお喋りが大好きだった。
彼女は、暮らしの工夫からニュース報道までなんでも話題に出来たし、また論評の切れ味も素晴らしかった。
だが、それも「以前は」である。

今の彼女にとっては着飾る事もお喋りする事も過去の遺物のように思えた。
だから、「今の自分にはこの職場が似合ってる」と自分自身に言い聞かせ、我慢していた。







 ロザンナは男性に興味を示さなかった。若い内にジョンと出会った彼女は「ジョン=男性」だった。男性と言えば「ジョン」を指す。ジョンは彼女にとって唯一の男性像だ。

ジョンが亡くなって1年が過ぎていたので、彼女の友人は落ち込む一方のロザンナに「再婚や新しい恋人を見つける話」をちらつかせた。

「職場に誰か良い人はいないの?」

たびたびそう聞かれた。それがロザンナにはうっとおしかった。
職場には独身男性もいたが、会話がしつこいだけで、ロザンナに取っては魅力の無い男性達だった。

それでロザンナは日々退屈していた。
メアリーアンがいるので随分と救われたが、人生の大半はこの拘束時間の長い職場にいなくてはならない気がしていたので、彼女の内面は精神的に貧窮していたのだ。







ロザンナと少女 [act.3]


 ロザンナはある日の休日、街で行われるイベントの手伝いに趣いた。
街の石造りの広場に簡易の屋台を建て、ドーナツを揚げて即売した。
これでも少しは収入の足しになるし、何より気が紛れた。
最近は仕事で気がめいる事が多くあったからだ。



イベント当日は快晴で、気温もちょうどいい頃合だったし、お客さんも多く来ていて、ロザンナは一日中接客等の仕事に追われていた。
会場は明るく賑やかで…、家族サービスがてらにここに訪れた人がかなり見受けられた。
そして仲の良さそうな恋人達もたくさん来ていた。



この日、1人の男性がこのイベントに来てお祭気分を楽しんでいた。
彼も日々の仕事の忙しさや空しさをここで紛らわそうと考えてやって来たのだ。
男性は見た感じロザンナとあまり変わらない年齢だった。
名前を”ロン”と言う。
彼は内面は少し疲れていたが、周囲にはいつも元気に見せていた。
仕事は小さな広告会社の営業マンだった。
取り立てて秀でた才能はないが、決して馬鹿ではなく、頭の回転が速い男だった。
真面目で気立てもよく、人に優しく接するタイプの人間だった。






彼は現在独身で、その前に奥さんや恋人がいたのかどうかはわからないが…、この日、イベントが終了して関係者が集まってお茶を飲んでいる時には、彼もイベントの片づけを手伝った為ロザンナ達と同席した。
これが新たな運命の始まりだった。



ロン 32歳。  ロザンナ 27歳。



この席で、ロンは「気立てが良くて、熱心で、頭の良いロザンナ」に一目惚れをした。

その日以来、ロンは熱心にロザンナを外出に誘うようになった。まだ「デートに誘う」とまでは言えなかったが。
ロンがロザンナに連絡出来たのは、彼女の住所をイベント参加時の住所録を見て調べたかららしい。
でも、ロザンナはお誘いを「うっとおしい」と感じていた。
ロンは少々熱心過ぎたし、断っても断ってもまたやって来たからだ。ロザンナにはまったくその気は無いので、邪魔っ気しか感じられなかった。

ロンはいい男だった。しかし、今の彼は1人身なので寂しがり屋でもあった。
仕事場では存在感もあったが、彼のいる部署にはいい女性はおらず、声をかける相手は見当たらなかった。

「このままこの職場で時が過ぎて行ったら…、一生結婚できなくなる」とロンは感じていた。

そんな中でロザンナと知り合えたのは幸運だと思った。そう、それは限りなく確率の低い出会いだった。

会話の中から”ロザンナの夫がすでに亡くなった”事を知った。
それに彼女は落ち込んでいるのを無理に普通に見せかけようとしているように見え、今、ボーイフレンドはいないと判断できた。
もし恋人がいれば彼女はもっと明るく振舞える筈だから。








ロザンナと少女 [act.4]


出会った日以来、ロンは熱烈にロザンナにアタックしたが…、1ヶ月経っても彼女から良い返事はもらえなかった。
そしてついに疲れて、ロザンナに声をかけるのを止めようかと考えた。
少しでも見込みがあれば、このまま続ける気力もあるのだが、彼女はそっけなかった。
心ここにあらずという感じが、ありありと伝わって来た。

ロンは軽い男ではない。みさかいなくも無く女性に声をかけたりはしない。
それでここ何年も恋をした事が無かった。
「自分は寂しい」と知っていたので、常に運命の出会いを期待して日々頑張っていたのだが……。
それでもロザンナのそっけなさには参った。彼女に理由を付けてどこかへ引っ張り出そうとしても全て断られた。


「隣街でいいイベントがあるんだ。この間この街であったようなバザーがある。
そこへ行ってみないか?」

「良い映画が来てるんだ。今度の作品で主演男優はオスカーを狙うと言っている。恋愛物だけど。
良かったら行ってみないか?駄目ならSF映画でもいいよ。」

「近くに電気店の超大型店舗ができるんだよ。オープニングセールで電気製品が安いらしい。
この間、君が言ってた新型洗濯機も良いのが出てるよ。行ってみないか?」


だが全て「今度にするわ。」との返事だった。




ロザンナはロンに対しては冷たいが、本当は良い女性である事がロンにはわかっていた。
彼女から聞かされた亡き夫の話。以前の彼女はいかに明るく前向きな女性であったかがわかった。
だが今の彼女は別人。以前の面影はまったく無いと言っていい。
ロンはその事を重く受け止めていた。









 ある日の休日。
ロンは中古の車を買いに行った。
車を買えば、ロザンナとドライブする口実が出来る。

売っていた場所は鉄道の高架下の土地。ホコリだらけの状態で展示されていた。
この店の車はどれもかなり安い。
気に入った車は古い車なので値段は格別安かった。でも調子は最高。
買った後はキチンとディーラーに整備に出した。途中で故障してはデートも水の泡。
自分で内外装を綺麗に磨いて、その古いスポーツカーは甦った。





何日が後……、ロンはロザンナを誘った。

「車を買ったんだよ。それで、遠出してみようと思うんだ。良かったら君もどう?」

しかし、ロザンナはあっさりその誘いを断った。






次の休日。
彼は車に乗ってロザンナの家に向かっていた。
このまままっすぐ走ればロザンナの家に着く。だが行ってもどうにもならないのは知っている。

「彼女の心の中にはまだ前の夫のジョンが住んでいる。」

彼女は辛くても前の夫を裏切らない女性だった。
その彼女にロンはこんな事を言った日もあった。

「確かに君の態度は立派だよ。その気持ちは大切だ。でも……、言いにくい事だが………ジョンはもう死んだ。つまり過去の人だ。
君と僕がいっしょに外出しても、彼が怒るとは思えない」

「でも、私”誰ともそういう事はしない”のが今の気持ちなの。
これはたとえこれから月日が経とうと変わりないわ。」



そんな事を考えていると…、車を走らせる気力が無くなった。
そこで彼は公園の脇で車を止めた。もうホンの少しで彼女の家だと言うのに。

この後どんなにがんばろうが、彼女とは”友人関係のまま”のような気がした。







ロザンナと少女 [act.5]


 車はフェンス脇の枯葉がたくさん落ちている未舗装の道路の路肩に止めた。

ふと、フェンスの向こう側の公園を見ると、かわいい女の子が1人で遊んでいた。それがロザンナの娘メアリーアンだった。
ロンは大きく手招きして彼女を呼んでみた。すると彼女はこっちに向かって歩いて来た。そしてロンのいる運転席のドアの所まで来た。
ロンはサングラスを下げて、

「乗らないか?家まで送って行くよ」と言った。

「知らない人の車に乗っちゃダメだって、ママが言ってた。」

と彼女は笑った。
もう何度もロザンナの家は訪ねていて、その時メアリーアンとはゲームをしたりして遊んであげていた。

「僕が知らない人かい?僕はママの”友達”だろ。」

メアリーアンは頭の良い子なので、呼び声を聞いて最初からロンとわかっていた。
ロンはちょっとだけからかわれたのだ。

彼女は優しくて元気の良い子だった。
そしてロンにはいつも笑顔を向けてくれた。それは作り笑いなどではない。
「本来ならロザンナもこんな感じの女性なのだろう」と思わせたが、今のロザンナとメアリーアンはあまりにも対照的に見えた。

「乗って行くかい?」

その答えとしてメアリーアンは、笑って首を横に振った。
でも、その表情は嫌がっていると言うより照れているような感じなので、ロンは彼女をもう一度誘ってみた。すると今度は乗って行くという。

「(なんだ、やっぱり乗っていくのか。)」

この子はロザンナ似だから、ロザンナも何度も誘えば、その内2人だけでどこかへ出かける事も可能なように思えた。
でも今は…、この車で彼女の家に乗りつけても「また今度にするわ。」と言われる可能性の方が高かった。




ロンは助手席のドアを開けてメアリーアンを丁寧にシートに座らせた。
その後、車をバックさせた。そして元来た道に向う。そちらは本道。舗装道路だ。

メアリーアン「あっ、お家の方向と違う。」

「何か、買ってから行こうと思うんだ。ママは何が好きかな?ケーキ?」

メアリーアンは考えるだけで答えない。子供はすぐに答えないものだ。

「じゃ、君は何が好き?」

「マロンケーキ。」

「じゃ、それを買って行こう。」







ショッピングモールに着いて、パーキングメーターのある場所に車を止めた。そしてその近くにあった公衆電話からロザンナの家に電話をかけた。

ロン 「今、メアリーアンと偶然出合ったんだよ。ケーキが欲しいって言うので、近くのショッピングモールに来たとこなんだ。
心配ない。すぐにそちらに連れて行きますから。」

ロザンナからの返事は「メアリーアンに代わって。」というものだった。またもやそっけない。

ロン 「(自分の事は何も聞いてくれない。)」

ただまあ、「メアリーアンを連れている」と言ってもロザンナは慌てた様子もないので、それなりの信用はあるようだ。
その後ロンは受話器を渡しながらメアリーアンに言った。

ロン 「はい。ママが電話代わってくれって。」

するとメアリーアンは楽しそうにロザンナと話し始めた。
彼女は電話のコードを思いっきり伸ばして苦しい姿勢で喋っていたが、いかにも楽しそうだった。
ロンはその輪の中に自分は入っていないような気がした。







ロザンナと少女 [act.6]


その後ケーキを買ってから、ロザンナの家にメアリーアンを送り届けた。
彼はメアリーアンをいつも丁寧に扱った。
今のロザンナの心の支えになっているのはこの子だけだから。


その後、ロンはロザンナの家で彼女が煎れてくれた紅茶を飲み、少し話をした。
メアリーアンは大好きなケーキが食べられてご機嫌だった。
反対にロザンナはご機嫌斜めになった。
ロンが多めにケーキを買って来たからだ。

ロン 「明日の分だよ。」

メアリーアンの分だけでケーキは4個もあった。
それでメアリーアンはこの上もなく喜んだが、お菓子を子供にたくさん食べさせる事をロザンナは快く思っていなかった。

彼女は「どうもすみません。」と一応ケーキを買ってもらった事への御礼は言ったものの…、その表情は曇っていた。

ロン 「(心の距離を縮めるどころか開いてしまったのか……。)」

そう、ロンは思った。
しかし、以前ロザンナから聞いた話では、亡き夫のジョンがこの子におもちゃを買い与え過ぎて、ロザンナは注意したが、それほどの剣幕ではなかったとか。
彼女自身がそう話してくれた。

ロン 「(すると…、ジョンと僕とでは扱いがまったく違うのか。僕は彼女の”友人”ですら無いようだ。)」

その後、ロンは30分ほどでそそくさと帰った。
ロザンナがまったく笑顔を見せなかったから。







次の日曜日。
ロンはロザンナとの約束は何もない。何も約束を取り付けてられていなかった。いい口実がみつからなかったから。
でもロザンナは今日仕事が休み。ロンもそうだ。


ロンはロザンナに会いたかったが、今行っても彼女はまた不機嫌になるかも知れない。
たまの日曜ぐらい、彼女もゆっくり体を休めたいと思っているだろうから。
それに平日はメアリーアンと接する時間があまり無いので、接したいと思っているだろうから。
そこへ押しかけると嫌われる可能性もある。
脈があるなら行ってもいいが……、ここ1ヶ月間の事を思い出すと……。

ロンは今日も公園脇で車を止め、そんな事を考えていた。再びエンジンキーをひねる気にはなれなかった。




公園内では何人かの子供達が遊んでいた。その中にメアリーアンの姿を見つけた。
一際元気な少女だった。仕草がかわいいのですぐにわかった。
そこでまた手招きして呼んだ。するとすぐにメアリーアンは車の所へやって来た。
もうこれが誰の車か覚えたようだ。

ロンはまた車に乗ることを勧めた。そしてメアリーアンは今度は少し照れただけですぐに乗ってきた。

「知らない人の車に乗っちゃダメだって!」

と、ついて来た彼女の友達は言った。

メアリーアンははにかみながら「ママの知ってる人なの。」と言った。

ロンはメアリーアン1人を乗せて車を走らせた。今日も何か買ってから”家”の方へ行く事にした。その為、またバックして本道に向かった。





ロン 「君の友達にはよく言っといてね。僕はママの”友達”だって。」

メアリーアン「ママとはホントはどんな関係なの?」

ロン 「君のママとかい?そう”友達”だよ。今は。」








ロザンナと少女 [act.7]


ロンはお腹がへっていたので、皆の分のサンドイッチを買う事に決めた。

メアリーアン「あのね。手作りのいいお店があるの。」

ロン 「”手作りのサンドイッチ”を出すお店ね。ああ、わかった。そこへ行こう。

でも、先に電話しとかなくてはね。君のママに。」

そう言ってまた公衆電話に行こうとした。
実はロンはロザンナの携帯の番号やメールアドレスは知らない。
自宅の電話番号だけはイベントの時の住所録からわかったのだが。

でもメアリーアンから、ロザンナの携帯番号とメールアドレスを教えてもらった。
これはラッキーだった。
メアリーアンは自分の携帯を持っており、それでロザンナにメールした。
すぐに返信が来た。

ロンは自分の携帯からもロザンナにメールを打つ事にした。
メアリーアンはロンが携帯を出したのを見て微笑んでいるので、これはロザンナにメールを送ってもいいという合図のようだが………。
いざ、



============================================================



メアリーアンとショッピングセンターに来ています。
いっしょに買い物をしてから家の方に送り届けます。心配しないで。
なにか買い物はありますか?
                         ロン


============================================================


と打っても、返信は返って来なかった。

ロンは気が重くなった。
アドレスを教えた筈の無いロンからのメール。
今、自分から送られたメールを見てロザンナはいったいどんな顔をしているのだろうか?
もしかすると引きつった顔をしているのかも?そんな気がした。







とにかくロンは買い物を済ませた。

メアリーアンはショッピングモールの自動ドアの所でポチポチとメールを打ち始めた。
彼女がドアの所で立ち止まって通行の邪魔になっているので、ロンは

「車に乗ってから打てば?」

と言った。すると彼女は

「ダメダメ、ママに何か買い物があるか聞いているの!」

と答えた。
するとロザンナからすぐに返事が返って来た。
「箱のティシュを買って来て。」という事らしい。
それでドラッグストアで安売りしていた箱のテッシュを買う。

ロン 「(やはり”買い物”はあったのか。じゃあ、やはり僕に返信が来なかったのは……。)」

ロンはさらに気が重くなった。







ロザンナと少女 [act.8]


その後、メアリーアンを連れてロザンナの家に行った。
リビングルームに通されて、そこのソファーでくつろごうと思った時、ロザンナが自分の携帯を突き出しながら、

ロザンナ「どうして携帯のアドレスを知ったの?」

とロンに聞いて来た。眉間にはシワが寄っていた。

ロン 「ああ、それはメアリーアンが教えてくれたんだよ。」

そう言いながら、ロンはメアリーアンの肩に手をまわした。
メアリーアンは恥ずかしそうに照れ笑いをした。メアリーアンとしては「ロンにメルアドを教えておきたかった」ようだ。
ロザンナの方は明らかに表情が変わっていた。何か恐ろしいものでも見るような目付きだ。
そして怒りをこらえているのがわかった。

ロザンナ「メアリーアン、あなた携帯の番号まで教えたの?」

メアリーアン「うん。」

ロザンナの表情が曇る。
この場ではメアリーアンは怒られないが、ロンが帰った後には酷く怒られそうである。
そこでロンは取りつくろった。

ロン 「ああ、ロザンナ、用がある時以外はこちらからかけないよ。」

しかし、これまでにロンはたびたびロザンナの自宅に「声が聞きたくなった」と言ってかけていた。
でも迷惑になると感じてからはかけていないが。
果たして今の言葉は信用してもらえるのだろうか?

彼女には「ロンがメアリーアンを車に乗せて買い物に行った事」も、”ロザンナと会う口実”に過ぎないと思われているかも知れない。
事実、ロンが彼女の目の前でメアリーアンと遊んであげても、まったくいい顔をしていない。
時には腕を組んで、じっとメアリーアンの姿を見つめている。まるでロンが帰るのを待っているかのようだ。


ロンがロザンナに会話を投げかけても彼女はあまり真剣に返さない。ロザンナから会話を投げかける事もまずない。
だからロンはいつも30分から1時間でおいとまする。それ以上いても嫌われるだけだ。

ロン 「お邪魔した。」

それだけ言って、ロンは自宅に帰った。







 自宅近くの共同駐車場に車を止めてボディーカバーをかける。
雨で汚れないようにだ。
そして、家に着いたら上着をキチンとハンガーにかける。
こういう事は以前はしなかった。ロザンナと知り合ってからはファッションに少し気を使うようになっていた。
以前は自分の身の回りを飾ろうとはあまり思わなかったのだが。

そしてメアリーアンと今日出向いたショッピングセンターでもらって来た電化製品や携帯電話のカタログを手に取った。
それを持ったまま、ソファーの上へと腰を落とす。
リモコンでテレビを点ける。

ここは寂しい。
この部屋にはペット等は飼っていない。
ゴミが少し散らかっているだけ。


でもカタログを手に取ると今日メアリーアンといっしょに行った事が思い出された。楽しかった。
彼女は良く笑う。
顔立ちは本当にロザンナに似ている。
はやくロザンナの笑顔も見てみたいものである。









続きます。

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