BLUE ODYSSEY

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未来都市に住む少年 act6~11


未来都市に住む少年 [act.6]

 するとベアトリーチェが、やさしく落ち着いた口調でガーナに代わって答えた。

ベアトリーチェ「レイさん。
そのガーナさんと言う少年は”ここで生まれた方”なのです。
その方のご両親はここの”セキュリティー(保安要員)”でした。
ご両親はずっと覚醒したままで過ごされておられました。そして、結婚して、そのガーナさんを出産されたのです。
しかし、そのガーナさんが物心付く前にお二人は亡くなられました。」

レイ 「なんですって?!!」

ガーナ「死んだ……………???」

ベアトリーチェ「事故でした。
この”宇宙船”は細かな隕石群の衝突を受け、姿勢制御ノズルの一部が大破しました。
その急を要する修理の為に宇宙に出たお二人は……、再度の隕石群の衝突を浴びて……、不幸にも帰らぬ人となられたのです。」


レイ 「……………………。」

ガーナ「……………………。」


しばらくガーナは呆然としていました。

ガーナ「ベアトリーチェ!いままで、なぜ話してくれなかったの?!」

ベアトリーチェ「この宇宙船内では、セキュリティーは”通常1名のみコールドスリープに入らずに覚醒したままの姿でいる”事ができます。
通常は1名のみです。
今、”セキュリティー”として、お1人で過ごされているガーナさんには、まだその事をお知らせしない方がいいと思ったのです。悲しまれるでしょうから。
知らない方が孤独を感じずにすみます。
ガーナさんがそれ相応の年齢になって、私にその事をお聞きになられたらお話するつもりでした。」

そう言えばガーナは、この年齢に成長するまでに、自分の両親がいるのかどうか、ベアトリーチェに何度が質問していた。
映画を見て「両親」という物が存在する事は知っていたのである。
それで両親が自分にもいたのではないかと思って質問したのである。

しかし、そのたびごとにベアトリーチェは、
「すみません。その事につきましては、私のデータに入っておりませんのでお答え出来ません。」
と言って返したのだった。

ガーナ「そんな………………、両親がいただなんて……………。」

ガーナはしばらく心の整理が付かなかった。









 少し時間が経って、ガーナがとりあえず落ち着きを取り戻してから、ベアトリーチェはこう言った。

ベアトリーチェ「隠していた事は謝ります。しかし宇宙船の旅は孤独との戦いです。
貴方に知らせないほうがいいと私が判断しました。」

ガーナ「……………………。」

ベアトリーチェ「先ほど言いましたように、
セキュリティーは”通常1名のみコールドスリープに入らずに覚醒したままの姿”でいる事ができます。
その人が1名でいる事に寂しさを感じれば………、もしお望みになるのなら……、もう1名覚醒させる事が出来ます。

今回は、ガーナさんがレイさんをお望みになりましたので、覚醒させていただきました。」

レイ 「……………………そうか。
そういうことか。」

レイはガーナを見下すような表情をした。

レイ 「で、この”ボウヤ”は、ちゃんと”セキュリティー”の仕事を果たしていたの?」

ベアトリーチェ「はい、まあ、最近は」

レイ 「”最近は”?」

ベアトリーチェ「これまでガーナさんには本当の事をお話ししていませんでした。
この都市が”宇宙船”であって、しかたなくアンドロメダ銀河を目指している事も………。
ガーナさんは、まだそのような年齢に達しておられませんでしたし、私が代わりに”皆さん”の管理をしておりましたから。
ですからガーナさんには、管理の方のお仕事は最近になってから手伝っていただいています。

それに現在まで、管理はとどこおりなく全て順調です。
この”宇宙船スカイシティー”は、ガーナさんのご両親が亡くなられた事故以来、大きなトラブルに巻き込まれる事もなく、無事に飛行を続けています。」

ガーナは先ほどからまたひどく驚いていた。

ガーナ「”宇宙船”だって?
これが宇宙船だっていうのかい?
この”スカイシティー”が?」

レイ 「ここの都市は”宇宙船スカイシティー”内に造られた街だよ。
向こうに着いてから、”この船に搭乗している全員が長く生活できるように”と設計された都市だ。
アンタ、そんな事も知らないのか?」

レイはガーナに対して、あからさまにさげすむような目付きをしていた。
それに美しい容姿とは裏腹に、キツイ言葉を何度も返していた。







未来都市に住む少年 [act.7]


 ガーナ 「何でそんな所に向かってるの?アンドロメダ銀河って遠いよね。」

ベアトリーチェ「その、お話はいずれ詳しくいたしますが…………。私達が向こうへ着くまでに、もう地球は人間が住める惑星では無くなっていると思います。私達は、その為に地球から脱出して来たのです。」

なにやら深刻そうな事情がありそうだった。






 しばらくして、レイが「お腹空いた」と言うので、ガーナは彼女を食堂に案内した。
レイは全ての事情を知っているようだった。
それをもう一度ベアトリーチェの口から聞くのは”時間の無駄”と考えたようだ。
そこで話を打ち切り、食事を先にするように言い出したと思われる。だが……、




レイ 「うわーーーーーー!何だここは?!」




レイは食堂に着くなり、大声を上げた。
彼女は、そこのキッチンに残っていた食べ物の容器を指差した。
それとまだ捨てられてない大きなビニール袋に入れられた生ゴミも指差した。それは5つぐらいあった。

ガーナ「なにか?」

レイ 「ゴミが多すぎる!」

ガーナ「ああ、捨てるの忘れてた」

そう言ってガーナはダストシュートのシャッターを開けた。そしてその中にゴミを放り込んだ。

ガーナ「これでよし!」

レイ 「それにさっきの容器だ!容器を洗ってない!」

まだ、流しにはパックの食器が水に浸けたままになっていた。

ガーナ「いやーーー、後で洗おうと思っていたんだよ。」

レイ 「くーーーーーー!!洗え!今すぐ洗うんだ!」

ガーナはそれを食器洗い機の中に放り込んだ。

テーブルの上だけは掃除しておいたので綺麗だったが……、その他の所、椅子の上やスライド扉のレール部分等はまだほこりがあった。

レイ 「うわーーーーーー!!掃除してないんじゃないか?!」

ガーナ「いや、つい最近したんだけど……。」

レイはキッチンタオルを濡らして来て、椅子を拭いた。
そしてしぶしぶ椅子に腰掛けた。

ガーナは慣れた手付きで何種類かの食品を温めた。
そして、それらのパックをトレイに乗せ、レイの前のテーブルに置いた。
そのパックを見て、驚きの声を上げるレイ。

レイ 「なんだよ?これは?」

ガーナ「”なんだよ?”って、どういう意味?」

レイ 「だーーーーかーーーーらーーーー、”なんだよ?”って聞いてるんだよ!このままで出すのかよ!食器に移し変えないのかよ?!!」

ガーナ「あっ、ゴメン。慣れていなくって」

あたふたと陶器の食器を探すガーナ。しかし、すぐには良いのが見つからず、間に合わせでその辺にあった食器を使った。

レイ 「なんだよ?これ。”ボール”じゃないのか?」

ガーナ「あっ、そう?」

レイ 「なんでこんなモンに入れて出すんだよ!!!」

ガーナ「え?”サラダ”だから……」

レイ 「もっと小さい容器があるだろう?!」

確かに彼女が探すと、四角くて綺麗な小さい容器が見つかった。
さっきの”でか過ぎる”ボールに盛っていてはやはり見栄えが悪い………。





 その後、彼女は今回の食事のメニューについて散々な事を言った。
「フライドチキンはもっと時間をかけて加熱して”カラッ”としろ!」だの、「デザートのホットケーキはラップをかけないでチンしろ」だの。
彼女に入れてあげたコーヒーは結局「マズイ」と言われ、彼女は一滴も飲まずにすませた。







未来都市に住む少年 [act.8]


 食後、ガーナ1人に後片付けをさせておいて、レイはさっさと席を立った。そして食堂から外の通路に出た。
彼女は自分の『プライベートルーム』を探しに行ったのだ。
ベアトリーチェに場所を聞いて、すぐにその部屋を見つけた。
部屋の中はホコリ1つ無く、真新しいインテリアばかりが揃っていた。そこはすでに殺菌処理まで施されていた。

レイはさっそく広々としたソファーに寝転び、備え付けのノートパソコンを手にとって操作し始めた。

レイ 「♪~~~~~~~~」

ガーナも後片付けをやっと終えて、その部屋にやって来た。
そして「やれやれやっと落ち着ける。」といった感じで、彼女の脇に座ろうとした。

レイ 「おい」

ガーナ「は?」

レイ 「どこに座ろうとしている?」

ガーナ「いや、その…………。」

レイ 「離れて座れよ」

その突き放すような冷たい口調。
仕方なくガーナは彼女から離れた所に座った。

ガーナ「綺麗でしょう。僕が準備したんですよ。この部屋」

レイ 「……………………。」

ガーナ「いやあ、時間がかかりました。」

レイ 「けっ、アンタがしたのかよ。うええ~~~~。
でも”準備”って、ソファーとかインテリアにかかっていたビニール取って、部屋を『殺菌モード』にしただけじゃないのか?」

ガーナ「ええと、まあそうですが……………。」

レイ 「ふーーー、やれやれ」

レイはつまらなさそうである。

レイ 「……………………。」

ガーナ「……………………。」

そしてガーナの幸せそうな顔にひどく憤慨した。

レイ 「おい!」

ガーナ「なんですか?」

レイ 「なんで、”アタシが起こされなきゃならないんだ”?
見ず知らずのアンタに?」

ガーナ「そのう……、僕が君を”起こしたかった”からです……。」

レイ 「だーーーーかーーーーらーーーー、
何で”アタシでなきゃいけなかったか”を聞いているんだよ!!」

ガーナ「そのう……、テレビドラマを見て、貴方が素敵だと思ったから……」

レイ 「”テレビドラマを観て”????なんだよ、それは?」

ガーナ「ほら、貴方が出ていた『カナリア色の空の下の学園』っていうテレビドラマがあったでしょう……………。
僕、あれを観て、貴方に憧れて………。」

レイ 「……………………。」

するとレイは何とも言えない”にが虫を潰したような表情”になり…、その後………、

レイ 「あはははははは!あはははははは!あはははははは!」

と、突然笑い始めた。

レイ 「あはははははは!あはははははは!あはははははは!」

お腹を抱えて笑っている。

ガーナ「どうして笑うの?」

レイ 「だって…………、アンタ…………、

あれは”別人”!!

アタシじゃない!!アタシは芸能人じゃないしーーーーー!!」

と言った。

ガーナ「えーーーーーーーーーーーーー??!
だって顔がそっくりだから、てっきりそうだと」

レイ 「……………………。」

レイは再び酷くさげすむような顔でガーナを見た。

レイ 「……………………。
なんで”顔が似てる”って事だけで判断するんだよ。
そんなものアタシの個人データを見れば一発で……」

その後、レイは黙ってしばらく考えた。そして、

レイ 「……………………。
覚醒させる前に、アタシの個人データは見たか?」

と聞いた。

ガーナ「ええ、見ました」

レイ 「そこに書いてあっただろう。私のデータが。
経歴に”芸能人”なんてあったか?」

ガーナ「いいえ。それは見てません。見たのは貴方の顔の画像だけです。」

レイ 「なんだと?」

レイが怒りを溜め始めたのが分かった。
そして、







レイ 「 じゃあ!アンタはアタシが誰かもよく確かめないで起こしたってのか?!えーーーーーーー!!!








ガーナ「……………………えっ?、まあ……、そうですね。」

レイ 「ふざけるなよ!!
時間がその分だけ短くなるって事だ!
アタシらはあのアンドロメダ銀河まで航行してるんだよ!本当はそこに着くまで起きない事になっているんだ!
起きたらその分”若さ”が減るじゃないか!!
アタシは若いままで向こうに着きたいんだよ!
若いままで新生活を始めたいんだよ!!」

ガーナ「……………………。」

レイ 「ふざけるのもいい加減にしろよ!!!
何でアンタなんかにアタシの”命”を
分けてやらないといけないんだよ!」

ガーナ「……………………。」


レイはかなりの剣幕でまくし立てた。
それでもガーナは「じゃあ、またコールドスリープに戻りますか?」とは言えなかった。
すぐに彼女は「聞かなくてもわかるだろう!そうさせてもらう!」とか言って戻りそうだったから。
「(こんな彼女でも、今はいたほうがいい)」とガーナは思った。
それで何とか彼女の気を引こうと考えた。

ガーナ「あっ、そう言えば、お風呂が沸いてるよ。僕が浴室を綺麗に掃除しておいたから!」

レイ 「……………………。」

レイは「こいつはバカか?」とでも言わんばかりの表情を向けた。

レイ 「あのさ、その”掃除”って、実際はロボットがやるんだろ?!浴槽磨きは。」

ガーナ「まあそうだけど…………。

……あのさ、あそこ広いよーーーーーーーーー!プールみたいだよ!
もうちょうどいい湯加減に沸いてる頃だよ」

レイ 「……”大浴場”を沸かしたのかよ?」

ガーナ「え?ええ、まあ…………。
”大浴場”というか一番大きい浴場を沸かしておいたのだけど……………。」

レイ 「……………………。





ええい!バカか!






水とエネルギーを節約しなくちゃならない時に、なんであんなデッカイ風呂を沸かすんだよ?!!!
たった1人を入れるために!」

彼女は酷く怒った。







未来都市に住む少年 [act.9]


 まあ、浴槽の水は循環しているだけで、一度お風呂に使った水はフィルターを通して洗浄・殺菌される。そして再循環させられる。
だから、いくら使っても水自体は減らない。ただ、エネルギーとフィルターが消費されるだけ。エネルギーは何とか太陽電池パネルから取れるが……、フィルターは無限ではないので、消費量が多いと困る。




ガーナは確かに”レイ一人の為に”大浴場を沸かしてしまっていた。
でも、”沸いてしまった”ものはもう仕方ない。
それでレイはお風呂に行く事にした。1人で大浴場に向かった。

レイ 「覗くなよ。」

ガーナ「……………………。」

レイはまた、冷たく言い残した。





 ガーナは彼女がお風呂に入っている内に、夕食の用意を始めた。
彼女がまた不平を言わぬように、今度は慎重にメニューをセレクトした。
夕食のメインディシュは分厚いステーキ。
クロワッサンも冷凍食品だが用意して沿えた。
後はポテトサラダと美味しいライス。
そして”シャンパン”も添えた。いや正確に言うとアルコール度数が低い清涼飲料水だが。






 しかし………………、彼女は1時間過ぎてもお風呂から上がって来なかった。
ガーナは心配になって大浴場入り口のロビーに向かったが、そこに彼女の姿は無かった。

ガーナ「中で倒れたんだろうか?」

お風呂場の中には、”音声のみ”の呼び出し用インターフォンが付いていた。それを使って呼び出す。

ガーナ「レイ、どうしたの?!大丈夫?」

するとすぐに元気な声で、

レイ 「大丈夫に決まってんジャン!!!!!何女風呂に通話入れてんだよ!」

ガーナ「え?いや、その……、あまりに長いお風呂だったから、心配になって…………」

レイ 「”長い”だって?1時間ぐらいは当たり前だ!なに考えてるんだよ?!!」

プチッ!

どうやら一方的に回線がカットされたようだ。






 風呂から上がったレイはさらに機嫌が悪くなっていた。
そして「今度から二度とフロ場に通話を入れるな」と言い放った。
さらに…………、「食事は、自分の”部屋”に持って行ってする!」と言った。
結局、彼女はガーナといっしょには食べかった。




 彼女は自分のプライベートルームに食事を運び込んだ。
彼女のプライベートルームは豪華で、1つの家のようになっていた。専用のシャワーとお風呂(ここにも自分専用のお風呂があった)、そしてトイレ付き。
それに大型冷蔵庫とキッチン。わざわざ食堂まで行かなくても、ここには保存食料がたっぷり入っていた。

大画面のモニターと映画やテレビドラマのオンラインのライブラリーもあった。そこにはゲームや小説等も入っていた。
またミュージックも山ほどあった。
レイはそこでポピュラーなアイドルソングを聴きながら食事をした。

レイ 「♪~~~~~~~~~~」





 ガーナも自分のプライベートルームに戻った。
そこで、”かつてこの都市内で育てていたニワトリ”の映像を呼び出して観始めた。
最初は数が20羽ほどいて、ガーナが一生懸命世話をしていたが、最後には全部死んでしまった。
結局ニワトリは、宇宙で交配を繰り返しても、なぜか弱って死んでいくのだった。

その元気だった頃のニワトリの映像を見ていた。
なぜかレイの事を考えると寂しくなったから。
かわいいヒヨコ達が遊ぶ映像が流れ、しばらくそれを見ていると気がほぐれた。

そしていつものドラマを見始めた。
レイが出ているあのドラマを。




ガーナ「なんだ……………。別人だったのか…………。」




顔、髪型、身長、プロポーションまで全てそっくりなのだ。

それにしてもテレビドラマの中の彼女は、やはりやさしそうな性格の持ち主だった。






未来都市に住む少年 [act.10]


 その後何日か経ったが、レイはまだコールドスリープのカプセルには入らなかった。
しばらく覚醒したままでいるつもりなのか、ゲームセンターでゲームをしたり、商店街にウインドウショッピングをしに出かけたりして、毎日楽しんでいる様子だった。
レイはいつも1人で出かけた。ガーナを誘って出る事はない。

レイが出かけた先にガーナも行って、彼女に声をかけた。
レイはちょうど豪華な服がディスプレイしてある洋服のブティックを覗き込んでいた。

ガーナ「綺麗な服だねえ」

レイ「……………………。」

ガーナ「何て服?」

レイ「……………………。」

ガーナ「買うの?」

レイは嫌な顔をした。
ガーナが話しかけるといつも嫌な顔をする。

レイ「”お・金・が・無・い”から買わない。」

ガーナ「僕、カード持ってるよ。貸してあげようか?」

レイはガーナの手から、サッとそのカードを奪い取った。
そしてまじまじと見て、

レイ 「使っていいの?」

と聞いた。

ガーナ「いいよ」

レイは目の色が変わった。

レイ 「あ・り・が・とv」

レイが始めてガーナに笑顔を向けた。
ガーナは嬉しくなった。

ガーナ「ねえねえ、これから2人でウインドウショッピングして歩かない?」

レイ 「ああ、また今度そうしよう!」

そう言って彼女はその場から去って行った。







 そしてその時から、レイはすごい勢いでカードを使い始めた。
彼女は服やバッグ、ブーツ、アクセサリー、指輪、化粧品などをいっぱい買い込んだ。

そして、その買った服を身にまとっては、都市の中をブラブラと歩いた。
鏡のように反射するウインドウに自分の姿を映しては、それを眺めて満足しているようだった。
彼女はやはり1人で行動していた。

ガーナ「たまには2人で、深緑公園に行かない?」

とガーナが言ったが、それも無視された。







 レイは買い物をしたり、ゲームセンターやカラオケに行ったり、全て1人で出かけていた。
そして多いに楽しんでいた。
食事も1人で取った。彼女はこれも楽しんでいるようだった。この所えらく機嫌が良い。








 ある日、ついにガーナは怒り始めた。
彼女のためにこれまでいろいろしてきたのに、彼女はガーナを無視してばかり……、ガーナはほとほと疲れ果てた。
そこで彼女に詰め寄った。

ガーナ「君はどうして僕を無視するんだ?!それならカードを返してくれ!」

レイ 「おめでたいヤツ。ほら、カードは返すぜ!」

レイはヒョイとカードを投げてよこす。カードはガーナの胸に当たって床に落ちた。
ガーナはそれを拾った。なんだか怒りは収まりそうにない。

レイ 「でもさ、アタシが買った物はもうアタシのモンだからね。
あれは”アンタかららった物”だから、間違いなく私のモンだ。
今後は全て、アタシのプライベートルームに入れてロックをかけて保管する!」

彼女の購入した物は今や山のようになっていた。
洋服は軽く100着を越え、ブーツは30足以上。ハンドバッグやネックレス、宝石類に時計……、それらにいたっては無数にあった。
とにかく、今や彼女のプライベートルームは芸能人の衣裳部屋のようになっていた。

レイ 「まあ、しかし、アンタの両親はお金持ちだったんだね。」

ガーナは彼女の言ってる意味がわからなかった。

ガーナ「それより……………、ゆっくり2人で話をしてもいいんじゃないか?」

レイ 「話すって、”何を話す”のさ?”クレジットカード”や”預金”の意味も知らないヤツとさ!」

ガーナ「……………………。」

残念だが……、ガーナにはそれらの意味もよくわからなかった。

レイ 「アンタ、おもしろくないんだよ。アンタといると退屈なんだよ」

そしてレイは鼻先でフンと笑った。
完全にバカにしているようなあしらい方。






 これまで、彼女に我慢してきたガーナの怒りは頂点に達した。
そして今まで言えなかった言葉を口にした。



ガーナ「じゃあ、さっさとコールドスリープに戻ればいいだろう!!!」



レイ 「へっ!
ああ、そうさせてもらうよ!
でも……、これだけは念を押しとくぜ!!
アタシの持ち物には絶対に触れるなよ!!」

その後、彼女はコールドスリープルームに消えて行った。






未来都市に住む少年 [act.11]


 ガーナは放心状態となった。
椅子の上で膝をかかえたまま考え込んでいた。
その内、ベッドに横たわって、動かなくなった。
物音は空調システムと、人工的に作られた癒し用の水の流れる音だけだった。

ガーナはまた寂しくなった。


ガーナ「(僕には両親もいない…)」


彼はノイローゼ気味になった。
そしてシーツに潜り込んで眠った。










 ……3日経ってから、ずっとベッドに寝たままの彼をベアトリーチェが心配してこう言った。

ベアトリーチェ「ガーナさん、もう1人別の方を覚醒されては?」

ガーナ「もういいよ……。」

ベアトリーチェ「レイさんが、貴方のカードを使って買い物をした件ですが……、
使われたお金は”セキュリティーに与えられる必要経費”から引き落としておきます。
そうすれば、貴方の口座に全額戻りますから。」

ガーナ「……………………。」

ベアトリーチェ「このままでは貴方が精神的にまいってしまいます。こちらで良い方をお1人選びましたので、その方を覚醒させるようにいたしましょうか?」

ガーナ「もういいって…。」

それでもベアトリーチェはガーナが顔を向けている空間に、相手の映像を映し出して見せた。

ベアトリーチェ「偶然にもこの方も”レイ”さんというお名前ですが………。」

それは元気そうなかわいい少女で、明るい笑顔をカメラに向けていた。
そして他の女友だちと楽しく遊ぶ姿も映し出されていた。
綺麗でさわやかな少女だった。”天使”と呼んでもいいぐらいの……。





しかし、ガーナはこの間一件を思い出した。

ガーナ「これは嘘だよ。
”女性”ってのは綺麗な心を持っているものじゃないんだ……。」

そしてベアトリーチェに向かって、

「別にいい。いらない」と言った。

ベアトリーチェ「貴方の精神レベルは極端に落ちています。
このままでは最悪の場合”危険”な事になる可能性もあります。
私はこの状態を”緊急事態”と認識し、私の権限で、私の選んだ方を覚醒させます。」

ガーナ「……………………。」

ベアトリーチェ「私にはこんな事を言う権利はありませんが…………、あの”川崎 レイ”さんという方は、性格に少々問題がおありになったようです。
よろしければ、彼女の個人データをお見せします」

ガーナ「……………………。」

ガーナは返答しなかった。プイッとテレビモニターの方に背を向けて、そのまま眠り始めた。




しかし、ほどなくしてコールドスリープルームでは、もう1人の少女の覚醒が始まった。






その少女の個人データ。



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名前『 美原 レイ 』 

16歳




【性格】

やさしく温厚。他人の面倒見がよい。不平不満を言わない。
細かい事を気にしない。
精神的に強く、努力家。
人見知りしない。
他人を見下したりしない。協調性有り。








【学業・成績】


成績優秀。

ボランティア活動の経験あり。
心理学専攻希望。





【趣味】


映画鑑賞








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THE END






 一応、ラストはハッピーエンドです。





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