BLUE ODYSSEY

BLUE ODYSSEY

相手を映す魔法の鏡 


相手を映す魔法の鏡 [act.1]


 ビショップはある日、魔法道具屋で古い中古の鏡を買い入れました。
高い買い物でしたが、ぜひ欲しかった物です。

そのわけは……、ある”魔法使い”の動向をこの鏡で探りたかったからです。
この鏡は、「他人の様子を垣間見れる魔法の鏡」とされていました。

店主にかなりの金額を吹っかけられましたが………、我慢して買いました。
そして重い鏡を台車に乗せて、苦労して自宅の”魔法薬調合を行う部屋”に運び込みました。








 そこで、鏡に向かってビショップは言いました。

ビショップ「鏡よ、鏡よ、鏡さん。私のお願いを聞いておくれ。
あの”黒いローブを着た魔術師”の姿を映し出しておくれ」

そうしてなにやら複雑な呪文を唱えました。

ビショップ「アームズ、ヘル、タッタ。アームズ、ヘル、タッタ。クリプス、クリプス……………。」

すると……、突然鏡の画像には靄がかかり……、その後、少々不鮮明で暗いながら……、黒いローブを着た男の背中を映し出しました。

ビショップ「やったーーーーーーー!!!やったぞ!映った!
これでヤツの事が手に取るようにわかる!」

ビショップは大声を出して喜びました。

ビショップ「これでヤツの弱みを握るのだ……。そしてそれをネタに…………………。」

ビショップは何かたくらんでいるようです。








すると鏡の中の黒いローブを着た魔術師の背中が歩き始めました。
画面がその魔術師を追ってスクロールすると……、そこも魔法使いが必ず持っている”魔法薬を調合する部屋”だとわかりました。
鏡の画面も少し暗くて分かりませんが、そこはもともと暗い部屋のようでした。

ビショップ「アイツめ。魔法薬調合の部屋はワシと同じくらいの規模か……。
もっと広いものだと思っていたが……。」

ビショップはそれをにがにがしく思いました。
なぜならいつもその魔術師の方が見事な薬を調合していたからです。
それでその魔術師は”きっと広い部屋の良い設備の元で調合している”と思い込んでいたのです。

見ている目の前で、魔術師は部屋の真ん中にかけてある鍋に数種類の草を入れました。どうやら何かの新薬を造り出そうとしている所のようです。



グツグツグツ……。



いつも見事な新薬を開発してはその技量を見せ付けられるのに、その魔術師の手さばきはイメージと違って、何だかぎこちないように見えました。もっとも、ローブを被っていますし、背中だけしか見えませんのでよくわかりませんが……。

でもビショップは「なんじゃ?アイツは?手際が悪いのう!ワシならもっと速くできるのに!」と思いました。





 ローブの魔術師は1時間もするとやる気が失せたのか、すぐ近くの5段ぐらいまでしかない階段の上にへたり込みました。
疲れて薬品造りを途中で投げ出してしまったようです。

ビショップ「なんじゃ?けっこうサボり屋なのかヤツは?!意外じゃな」

さらに見ますと……、今度は頭をふせて、おいおい泣き始めました。

ビショップ「なんじゃ?どうしたというんじゃ???」


「おいおいおい…………。ココアちゃんがあーーーーー!
ココアちゃんが振り向いてくれなーーーーーい!」

ビショップの顔色がサッと変わりました。







ビショップ「なんと!あいつもココアちゃんの事が好きだったのか?!」







 ココアちゃんというのは回復魔法を得意とする魔術師の少女でした。綺麗でかわいいとの評判の女の子です。
この黒いローブの魔術師も、最近ココアちゃんの事が気になったのか、よく彼女に話しかけているのを見かけます。

実はビショップもココアちゃんの存在が気になって仕方が無かったのでした。
しかし、ココアちゃんに近づいても、彼女は自分の方には気が無いような素振りばかりしました……。
でも、黒いローブの魔術師が近づくと最近笑顔を向けて話をするようになりました。



………ビショップとしてはそれがすごく気になりだしたのです。
そこでこの魔法の鏡の購入に踏み切ったのでした。

そして、やはりと言うかなんと言うか…………、今、魔術師もココアちゃんの事が好きだったという事がはっきりしました。



魔術師は側の机の上の何かの液体が入ったボトルを手にしました。
そしてそれをグイグイとイッキに飲みほしました。

すると………、スクッとローブの魔術師は立ち上がる事ができました。

ビショップ「なんじゃ?!!今のポーションは?まさか元気の出る薬だったとか?」

ビショップはじっくり見ようと、身を乗り出しました。

「ぷはーーーーーーー!!ココアちゃーーーーーん!!!
ココアちゃーーーーーーーーーーーーーーーん!!!」」

魔術師はフラフラとした足取りで2~3歩歩いたかと思うと……、また床に倒れました。

「ぷはーーーーーーー!!ぷはーーーーーーー!!!
うう……うう……ココアちゃーーーーーーーーーーーーん!」


ビショップ「なんじゃ、今のは”酒”か……。」







相手を映す魔法の鏡 [act.2]


 それからもそのローブの魔術師は部屋の中を、あっちにふらふら、こっちにふらふらと落ち着かない様子で歩き回りました。

ビショップ「新薬の開発をさぼっておるな!」



「ココアちゃーーーーーーーーーーーん!!!」



ビショップ「なにが”ココアちゃん”じゃ!ワシのココアちゃんを気安く呼ぶな!」

すると、突然そのローブの魔術師は部屋の中央で立ち止まりました。
こちらに背中を向けているのでその表情はうかがい知れませんが…、なぜだか笑っているようです。肩が大きく震えています。

ビショップ「鏡よ、鏡よ、鏡さん!ヤツの笑い顔を見せておくれ」

しかし、相変わらず鏡はローブの魔術師の背中を映しているばかり……。

ビショップ「なんじゃ、この鏡は。固定視点か……?少し物足りないのう…。
高い金払ったのに…………。」

その時、黒いローブの魔術師は大きな声でこう叫びました。






「いい事を思いついた!!!

”ほれ薬”!!

ほれ薬を作ってココアちゃんに飲ませる!!!!
するとココアちゃんは……」






それを聞いてビショップは憤慨しました。

ビショップ「なんじゃと!!”ほれ薬”じゃと!!アイツめそんな物をおおーーーー!!!」

魔術師はさっきの”サボっていた時”とは違い、懸命にほれ薬を造り始めました。

ビショップは興奮して食い入るように鏡の中を見つめました。

ビショップ「ヤツめ!ワシに盗み見られている事など夢にも思わんだろうて!
くははは!ヤツの計略!とくと見せてもらったわーー!!!」

黒いローブの魔術師は、

ガマガエル。トカゲ。ネギ。ダチョウの羽。
サイクロプスの角の粉。

……を鍋に入れて混ぜ合わせていきます。

グツグツ、鍋を煮立てます。

「最後に自分の”頭髪”を入れてと……」

そう言って、ローブの魔術師は自分の髪の毛を鍋の中にほうり込みました。



ビショップ「おのれーーー!
このやろう!ワシのココアちゃんにキサマの頭髪を飲ませるだと?!
許さん!許さんぞおおおおおーーーーーー!!!!!」



やがて、鍋からは怪しい煙が立ち昇り始めました。
鍋の中の液体の色は赤みがかったピンク色。
しかもその湯気はなぜかハートマークを一瞬形作って消えていきました。

「くくく…………できた。
できたぞーーーーーーー!!

これを明日ココアちゃんに飲ませてやる。



そして……



そしてココアちゃんを……”嫁”にするーーーーーーーーーーーーー!!!」



魔術師はそのまま力尽きて、調合の部屋の階段の所で寝てしまいました。


一方ビショップはこれを見て、

ビショップ「許さん!許さんぞおおおお~~~~~~!!!おのれえ~~~~!
ワシのココアちゃんにそんな物飲ませようとは!



それに……、



”嫁”にするだと?何をぬかすーーーーーー!!



ココアちゃんはワシの”嫁”になるんじゃ!



そんな事は絶対させんぞおおおーーーーーーーー!!!」



ビショップは急いで対策を考えました。

ビショップ「おのれーーーーー。
何とかしないと!ココアちゃんにほれ薬を飲ませられてしまう!
そうなってはもともこも無くなる。
う~~~~~~ん。

はっ!

ほれ薬の造り方なら、ワシも知っとる!!
頭の中にはちゃんとレシピをたたき込んでおる!

そうだ!

ワシもほれ薬を造って、先にココアちゃんに飲ませばいいんじゃ!

これまではワシは………、”ワシ自身の魅力”でココアちゃんを”落とせる”と思っていたから、薬に頼るのは嫌だったんじゃ!
しかし……、こういう状況になってはそうも言っておられん!!!」

そう言って、さっそくほれ薬を造る事に取りかかりました。

ビショップ「えーーーーーと、材料は…………、

ガマガエル。トカゲ。ネギ。ダチョウの羽。
サイクロプスの角の粉……。

そんな物はワシの所にもあるわい!」

戸棚にはびっしりとホコリをかぶった年代物のビンが並んでいました。
いろいろなポーションやその材料となる物がビンの中に入れられていました。
そこから材料を取り出しましたが……、どれも賞味期限切れで古くなっているような感じです。

ビショップ「マズそ~~~~~。でもこの際いたしかたあるまい。急がねば!」





相手を映す魔法の鏡 [act.3]


 ココアちゃんと言えば、いつもカフェで紅茶を飲んでいました。
彼女はお茶が大好きで、少々高くても美味しい紅茶にはお金をかけるのでした。
露天に椅子とテーブルを並べただけのカフェでお茶を楽しむココアちゃん。
その姿を、ビショップは少し離れた木陰の間からいつも盗み見ていました。



ビショップ「いいのうーーー。ココアちゃんは。ワシも一緒にお茶を飲みたいのうーーーー」



そんな事を思い出しながら、鍋に材料を入れていきます。

グツグツグツ……。

鍋を掻き混ぜる棒を握る手にも思わず力が入ります。

グツグツグツ……。

ビショップ「さて、最後の仕上げじゃ!ワシの頭髪を……。」

ビショップの頭髪は残り少なくなっていました。
しかし、そんな中から一部をエイッとハサミで切り取りました。

ビショップ「くくくーーーーー(泣く)、これもココアちゃんのためじゃ!」

そしてそれを鍋に入れて、またしばらく煮込みました。






ビショップ「くくくく……………。ココアちゃ~~~~~~ん」






ちょっと彼の素行には問題あるかと……。



そしてその夜の内にほれ薬を見事完成させたビショップ。

しかし……。
薬の完成と同時に、疲れ果ててその場で眠りこけてしまいました。








 次の日。

ビショップは鍋の中のほれ薬を、用意したティーカップにたっぷり注ぎ込みました。

ビショップ「くくくく……。これでよし!
これをココアちゃんに飲ませれば一発でワシに惚れる!
今日からココアちゃんはこのワシのものになる!!ふふふふふ……」

そしてそのカップを小さな銀のお盆に乗せ、勇み足でいつもココアちゃんがお茶を楽しんでいるカフェに向かいました。







 その日のお昼頃、いつものカフェにいつものようにココアちゃんがやって来ました。
魔法使いのエメラルド色のローブを着て、そこから白い肌の腕を出して、胸元に魔法学校の大きな本を握り締めていました。
彼女のやや短めの髪がそよ風に揺られていました。

ビショップはいつものように木陰からその様子を覗き見ていました。

ビショップ「やはりいつ見ても綺麗だなーーーー、ココアちゃんは」

しかし、やっぱりココアちゃんの前に行く勇気がありません。

ビショップ「そんな事をしとると、あの黒いローブの魔術師に先を越されてしまう!」

辺りを見てみますと、遠くの方に黒いローブを被った男の姿が見え、それがこっちに向かって歩いて来ているのがわかりました。

ビショップ「ヤツか?」

その魔術師のようなローブの男は、まだ遠くにいるのでよくわかりませんが……、手に水筒のようなビンを持っていました。

ビショップ「いかん!ヤツじゃ!!間違いない!」

こうしてビショップは走ってココアちゃんの所まで行きました。
普段は決してこんな大胆な行動はできません。

ビショップ「はぁはぁ……。」

ココア 「あら?ビショップさん?こんにちは。偶然ですね。こんな所でお会いするなんて。」

ビショップは今一度先ほどのローブの男をチラリと見てみました。
すると……。
その男はサッと遠くの木陰に身を隠したのです!
そこからこっちの様子をうかがおうというのでしょうか?

ビショップ「(くくくく……………………。ヤツめ!
しかし、どうやらワシの方が先にココアちゃんに薬を飲ませられそうじゃな)

あーーーーーー、ココアちゃん、ちょっとここに座っていいかな?」

ココア 「どうぞ!」

ビショップ「ああ、ありがとう!」

ビショップは初めてココアちゃんと同じテーブルに座りました。
ドキドキものです。







相手を映す魔法の鏡 [act.5]


 ひどく落ち込むビショップ。
しばらく顔を下に向けてその場に立ち尽くしていました……。







それからあの魔術師の事を思い出しました。
辺りを見回しましたが、もうどこにも黒いローブの魔術師の姿はありませんでした。

ビショップ「ヤツも諦めたんじゃろうか……………?」

そしてトボトボと1人で家路につきました。








 家に帰っても、まだ落胆していました。

ビショップ「ワシ、”失恋”したんじゃろうか……………………?

くくくく…………………、グスッ、ココア……………、ココアちゃんーーーーー!!」

そしてまたため息をひとつ。

ビショップ「はあ~~~~~~~~~~~。」

やるせないので、ボトルに入ったお酒を飲みほしました。

「ぷはーーーーーーー!!ココアちゃーーーーーん!!!
ココアちゃーーーーーーーーーーーーーーーん!!!」」

ビショップはフラフラとした足取りで2~3歩歩いたかと思うと……、床に倒れました。

「ぷはーーーーーーー!!ぷはーーーーーーー!!!
うう……うう……ココアちゃーーーーーーーーーーーーん!」





そして突然こう思いました。

ビショップ「待てよ……。
これで黒いローブの魔術師のほれ薬もココアちゃんは飲まなくなった。
くくく……………………。
そうだ。そうだよ!
いい気味じゃ!ヤツも今頃同じような目にあっているかも知れん」

ビショップは魔法の鏡の事を思い出しました。
そしてまた鏡の前に座りました。

ビショップ「鏡よ、鏡よ、鏡さん。私のお願いを聞いておくれ。
あの黒いローブの魔術師の姿を映して出しておくれ。

アームズ、ヘル、タッタ。アームズ、ヘル、タッタ。クリプス、クリプス……………。」

すると……鏡には黒いローブを着た男の背中が映りました。
それは、また魔法薬調合を行う部屋の中でうずくまる男の姿でした。
その背中は大きく震えていました。

「くくくく…………………、グスッ、ココア……………、ココアちゃんーーーーー!!」

その男も泣いていました!







ビショップ「わははははははははははーーーーーーーーーーーーー!
やったぞ!
ヤツもココアちゃんにほれ薬をすすめたが、彼女は飲まなかった!
そうに違いない!
ヤツも失恋したんじゃ!
わっはははははははーーーーーーーーーーーー!
いい気味じゃーーーーーーーーーーー!!」







ビショップも失恋の痛手から半分涙目でしたが……、失恋したのは魔術師も同じだと思うと少し胸の痛みが取れました。

鏡の中の男はなおも泣いていました。

「くくくく……………………。ココアちゃーーーーーーーーん!」

ビショップ「くくくく……………………。いい気味じゃーーーーーーーーーーー!!…………………、グスッ、」

ビショップも今日の出来事を思い出して、泣きました。


ビショップ「ココア……………

ううう、うう、ぐす、くくくく……………………。ココアちゃーーーーーーーーん!」


すると鏡の中の男も………。

「ううう、うう、ぐす、くくくく……………………。ココアちゃーーーーーーーーん!」

と、同じように泣いています。




ビショップが

ビショップ「ううう、わあああーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

と、泣くと、

「ううう、わあああーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

と、やはり同じように泣いています。





ビショップ「ううう、わあああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!
ココアカムバックーーーー!!!!」


「ううう、わあああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!
ココアカムバックーーーー!!!!」







 ふと、ビショップは不思議な点に気が付きました。
鏡の中の黒いローブの魔術師も自分と同じようなセリフを言うのです。

おかしいと思ってよく鏡を見てみました。

今まで鏡の画像が暗くてよく分からなかったのですが、その黒いローブを着た魔術師のいる部屋…………、
なんだか自分の今いる部屋とそっくりです。
広さや魔法薬の材料を置いてあるビンの棚などもいっしょです。

その時、鏡の中の男が、何かの物音に気付いたような仕草を見せました。

そして……………………、

おもむろにこっちを振り向いたのです。

初めて顔を向けました。
いままでてっきり”黒いローブの魔術師”と思っていたその男の顔……………………、











しかし、それは、なんと”自分の顔”だったのです。










鏡は映っていたのは魔術師ではなく、”自分自身”でした。

少し時間差はあったものの、間違いなくビショップ自身を映していたのです。

「相手の姿を映す」鏡でしたが、どうやら、その効果を出す為の呪文をかけ間違えていたようでした。

ビショップは気を落としてその場に座り込みました。









 しばらくして、”本物”の黒いローブの魔術師は、ココアちゃんと恋人同士になったらしいです。








THE END







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