ボロ邸生活日記

ボロ邸生活日記

2080-04


 他の部隊と同じように運用実験部隊でも出撃後のレポート提出が義務づけられているが、
テスト部隊である彼らのそれは特に詳細である。
 「やっと終わったな……」
 レポートをEメールに添付し、部隊長に送信した賢治は座ったまま伸びをした。
 それとほとんど同時に、部屋のドアをノックする音が聞こえてきた。
 「賢治、入って良いか?」
 廊下から聞こえて来た声は山本中尉のものだ。
 「ああ、鍵は開いてる」
 「お邪魔するよ」
 そう言うと、見慣れた髭面の男が入って来る。
 「レポートは終わったようだな?」
 「ああ。……しかし、いつも丁度いいタイミングで来るな、中尉」
 「お前はいつも同じ時間に書き終わるじゃないか。性格が出てるな」
 そういえば、そうかもしれないと賢治は思う。
 特に意識をしていないが、習慣化しているのだろう。
 「どうだ、コーヒーでも飲みに行かないか」
 「そうだな。会議の前に少し食堂に行くか」
 賢治はPCの電源を切って立ち上がると、山本と共に食堂に向かった。



 朝食の時間はとっくに過ぎており、食堂は閑散としていた。
 二人はコーヒーメーカーからカップを取ると、適当に空いている席に座って雑談を始めた。
 「小隊の再編があるらしいな」
 何気ない雑談の中で、山本がふとそんな事を言った。
 「そうなのか?……ああ、あの機体のパイロットが来るからか」
 賢治は昨日見た新型の事を思い出す。
 「まあ、まだ正式な通知はないがな。……どんな奴等だと思う?」
 「エリート兵らしいが、性格までは予想できないな」
 「そうだな。しかし、もうすぐ顔を見られそうだぜ」
 山本が賢治の後ろの窓を指さす。
 賢治は窓の外を見ると、上空に輸送ヘリがいるのが見えた。
 「そういえば、今日到着の予定だったな」
 「せっかくだから、他の奴等より一足先に顔を見てやろうぜ」
 「ああ。俺も小隊のメンバーになるかもしれない奴の顔を見ておきたい」
 「決まりだな。ヘリポートに行こう」



 基地のヘリポートに、空を切る音と共に輸送ヘリが降りてきた。
 賢治達は丁度着陸の時にヘリポートに着いたが、そこには既に何人かの兵士達がいた。
 「ちっ、一番乗りじゃなかったな」
 山本が舌打ちする。
 「まあいいさ、見えないほど人がいるわけでもない」
 そんなやり取りをしているうちに、ヘリから人が降りてきた。
 一人は技術者と思しき青年で、それに続いて五人の少年少女が降りてくる。
 「まさか、本当に子供なのか?」
 賢治は少年達を見て思わずそう漏らした。
 全員、見た目には十代前半程。五人の内、四人が少女のようだ。
 軍服は着ているが、それぞれ金や赤に髪を染め、動物の一部を象った毛皮製のアクセサリーを付けている。
 「驚いたね。来たのは補充の兵かと思ったが、こりゃどこのアイドルグループだ?」
 山本中尉が苦笑する。
 その表現は的確だった。
 賢治から見ても、彼らはとても兵士には見えない。
 「ああ……確かに軍人には見えないな。普通の子供達だ」
 ふと、彼らの一人――背中まで伸ばした銀髪の少女と目が合った。
 まるで、こちらの会話を聞いていたかのようなタイミングで。
 その優しそうな目からは、何か恐れを抱いているような印象を受けた。



 それから約一時間後。
 賢治達上士官は会議室に集まっていた。
 運用実験部隊では、新しい実験兵器が搬入される度にそれらについての説明がある。
 今回は、昨日納品されたあの新型の説明だろうと賢治は思う。
 しかし、手元に配られた資料は二部。
 他にも新しい機器が納品されたのだろうか?
 疑問を解消するために彼は資料に手を伸ばした。
 「では、そろそろ始めようか」
 しかし、基地司令の大佐が会議の開始を告げたため、その資料を読むことは出来なかった。
 ふと大佐の方を見ると、いつものサイトウインダストリーの技術者の他に、
見慣れない男がいる。
 そういえば、さっき少年達とヘリで来た技術者風の男がいたな、と賢治は思い出す。
 彼も新兵器の説明をするのだろうか。
 「Ex-OS-081という表紙の資料を見て下さい」
 見慣れたサイトウインダストリーの技術者による説明が始まった。
 機体のスペックについては坂本整備士の言っていた事とだいたい同じだったが、
一部に気になる言及があった。
 「……これらはSBT社のP.E.G.T.Hをパイロットとするために最適化されており……」
 P.E.G.T.Hとは何か?
 その疑問は、次の説明者によってすぐに解決した。
 「SBTの神野です。では、説明をさせていただきますのでもう一つの資料を見て下さい」
 二つ目の資料を開く。
 ……そこには、さっきの少年達の写真と、03から07までの数字が書き込まれていた。
 周囲からざわめきが起こる。
 賢治も例外でなく、それに衝撃を受けていた。
 神野と名乗った男は、かまわずに説明を続ける。
 「彼らは、史上初の有機生命体兵器です。遺伝子工学によって人為的に高い能力を持たされています」
 「あれはアクセサリーじゃなくて、本当に体の一部ってか」
 賢治の隣に座る山本がそんな事を言いながら、興味深そうに資料を読み進めている。
 「しかし、反抗する危険はないのか?」
 士官の一人が神野に疑問を投げる。
 「彼らは、ARM-0xという薬品を三日に一度投与しなければ生きていられません。
 それで最悪の事態は防げるはずです」
 「ずいぶん非人道的だな」
 「遺伝子レベルでは、彼らは人間ではありません。だから、見た目の形も変えてある」
 それが、あのアイドルかと表現された外見の正体か。
 賢治は、それの意味を冷めたように考えていた。
 「製造コードはP.E.G.T.H-F。ペットネームは……」
 「猫耳か?」
 神野の話に山本が口を挟む。
 彼はそれに苦笑いしながら答えた。
 「軍に納めるモノでそこまでハジケちゃいませんよ。ラボでは『フェリス』と呼んでいます」

 その後もしばらく「フェリス」に関する説明が続けられた後、会議は終わった。
 「これで解散するが、強化外骨格隊の各小隊長は残れ」
 おそらく小隊の再編に関する話だろう。
 つまり、賢治は五人のフェリスの内誰かを任されることになる。


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