ボロ邸生活日記

ボロ邸生活日記

P.E2097 -K-  .4


 「そろそろ、帰るよ」
 跳ねるように椅子から降りる。
 「もう帰るのかい?」
 「ここにずっといる理由は無いからな」
 「でも、帰る場所は無いんだろう?」
 そう言われて彼は足を止めた。
 確かに、その通りだ。
 「ああ。でも、ここにとどまる理由はないって……」
 「理由かあ」
 青年は少し考えてから、笑って口を開いた。
 「絵のモデルになってくれないかな?」
 「は?」
 その提案は、彼を少しの間呆然とさせた。
 「オレなんて描いたって、しょうがないだろ?」
 「しょうがなくはないさ。僕が描きたいと思ったんだからね」
 それは、彼を留まらせたく思っての発言なのだろう。
 普通なら、売れる見込みもないヒューマノイドの絵など、どこの絵描きが描きたがるだろうか。
 しかし、青年の笑顔は少しの曇りも無く、言った事がそのまま本心であるようにしか思えないくらいだった。
 「……そこまで言うなら、ここに居てもいいかな」
 少しの沈黙の後、彼は言い辛そうに顔を伏せながらもそう言った。
 「決まりだね。しばらくの間、よろしく。ええと……ああ、名前を聞き忘れていたね」
 「名前は、無いんだ」
 「そうなんだ。それじゃ不便だから、そのうち考えてあげるよ」
 「オレは困らないけど、勝手に決めてくれていいよ」
 「わかった」
 「よろしくな」

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