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2006.01.23
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 大寅こと味方寅治(あじかたとらじ)は、明治33年生まれの大工で、東京本郷の氷川下に店を構えていた。かれが4寸ガンナで一気に削ると、幅4寸、長さ2間(約13センチ×364センチ)のカンナ屑がでたそうである。それは丸めると手のひらにはいって見えなくなり
『あたしゃ惜しくってしばらく取っといた』(大寅)
 ほどだったという(『職人衆昔ばなし』斉藤隆介)。砥石をみれば道具の見当がつく、道具がだめなら腕もだめというのが当時の職人の見分け方だった(同)。
 カンナ屑で大工の腕が知れるとは仄聞していたが、けっきょくは道具であり、さらにはその道具の手入れをする砥石だということなのだな。 真偽のほどは定かじゃないが、左甚五郎が自ら研いだカンナで削った2枚の板は、合わすとピタリとすいついて離れなかったそうである。

 研ぎというのはしかしたいへんにムツカシイ。わたしがやるとかえって切れなくなる。のみならず、研いでいる刃物でしばしば指先を負傷するから、砥石が血まみれになってしまう。まな板だな、こうなると。
 近所のコンビニに出張してきた研ぎ屋に包丁を依頼したことがあった。数年前とつぜん料理に目覚めた(つもりだった)ときに、すこし無理して購入したゾーリンゲンである。60歳くらいの男がグラインダーで二,三回包丁を往復させて火花をとばし、ハイ500円、という。ゾーリンゲンは傷だらけになり、一週間もたたぬうちに切れなくなった。ま、詐欺にちかいね。
 東京で研ぎ師をやっている方を知っている。もう70歳にちかい。かれに上の話をするとハナで哂った。500円ならそんなもんだろうというのである。かれは3種類の砥石を使い分けて研ぐ。板前からの依頼が多いのだが、料金は一桁違うそうだ。
 (ちかごろの板前は包丁が研げないのかね、ところで。あるいはかれの腕がよほどいいということなのかもしれないが)


 「ボディ・ガード」という映画にこんなシーンがあった。ケビン・コスナーのねぐらにしけこんだ女。壁にかけられていた日本刀に気づいてそれを抜き放つ。持ったまま踊ってみたり、ケビンに突きつけてふざけている。ケビンは刀をそっと受け取り、バンダナらしき布を放り上げた。
―見てなさい
 と女に微笑する。
 空中で広がったバンダナが日本刀の上にゆっくりと落ちる。そのまま、音もなくすっと左右に切り分けられた。ある激情にかられ、ケビンにむしゃぶりつく女。
 これを書いた脚本家はナイフに詳しい人だと思う。むろん、研ぎの名人である。





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最終更新日  2006.01.23 19:23:20
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