PR

キーワードサーチ

▼キーワード検索

2006.03.03
XML
カテゴリ: カテゴリ未分類
 ことし1月、わが店の売上は最低を記録した。翌2月、この記録があっさりと更新される。3月にどうなるのか興味は尽きない。この件に関しては、小泉クンらの尽力に与かるところ大である。だがすべてを連中のせいにするのは政治屋の買いかぶりが過ぎるというもので、わたしにもいくぶんかは責任があるような気がする。ちなみに、わたしのふだんの働きぶりは以下のようである。
 昼までの時間をある資料に目をとおすことに費やす。昨年の秋から続けているのだが、ちかごろ惰性に流されている感もある。初心にかえりたいものだ。ゆっくりと昼食を済ませたあと午後からは読みたい本を読む。いま読んでいるのは『東洋の美 こころとかたち』(長廣敏雄 67年美術出版社)。これが門外漢にはおもしろい。たとえば古代中国の焼物の見かたなど、読んではじめて知るのである。読書に疲れたらかるく体操をこなし、熱いコーヒーをいれる。するうちに日も暮れ、五勺庵(五合庵では畏れ多いからね)と名づけたわが庵にもどれば双脚を等閑に伸ばし、かつ呑みかつ詠ううちに深更におよぶ…そう捨てた人生でもないな、これなら。だが、そうはいかぬ。店にはときどき客がくる。ふしぎなもので、客というのは、もっとも来てほしくないときにやってくる。たとえば昼飯にでようとしたやさき。読書中なら筋が山場にさしかかっているときだ。わたしの表情は険しくなっているに違いない。その証拠に客がしばしば謝るからね。
 わたしはついに勉強した記憶がないまま学校を卒業した男であるが、店もこうありたいね。仕事をした覚えもないのにレジには売上がちゃんと収まっている、というふうな。そうなるためには、いますこし修行が必要であるらしい。

 小島が家を購入したとき、かれはまだ30代のなかばだった。わたしは同僚だったから、当時の小島の手取額がどれほどのものか、おおよその見当がつく。わたしの場合でいえば、月に一度、給料日に寿司屋で呑むのが唯一の贅沢だった。
 小島はもともと酒は呑まない。家を買う決心をした日から肉も絶ち、米と根菜類だけで自炊した。根菜は日持ちするのだそうだ。交際も最小限にとどめた。そうやって5年後、小島は郊外に新築の一戸建てを買ったのである。「めんどうだから」支払いは現金一括払いだったという。 家一軒を呑む、といういいかたがある。家一軒とはいかぬまでも、納屋ひとつぶんくらいならわたしも呑んだろうか。
 ある年の忘年会をおもいだす。そのころ小島はまだ、ジャガイモや牛蒡ばかりを食べていたはずである。わずかなビールで赤くなっている小島にみなが歌を強要した。マイクを突きつけられて小島は立ち上がり『柳ケ瀬ブルース』を歌いはじめる。かれはひどい音痴で、全員がそのことを知っているのだった。みなの嘲笑を受けながら、小島は真剣な表情で歌い続ける。
 家を呑み潰す男もあれば、酒池を埋め肉林を後にして家を建てる男もある。もとより是非のつけようもないのだが、さいごにわらうのは小島のような人間だという気がする。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2006.03.03 19:21:44
コメント(0) | コメントを書く


■コメント

お名前
タイトル
メッセージ
画像認証
上の画像で表示されている数字を入力して下さい。


利用規約 に同意してコメントを
※コメントに関するよくある質問は、 こちら をご確認ください。


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

コメント新着

kabescact@ chanel hag sale online,gucci exchange online store collection,Relations GhM mmPB k fvET <small> <a href="http:…
AcareeRem@ chanel valise sale online,gucci trading online store collection,Relations KvtHlr &lt;a href=&quot; <small> <a hre…
茫茫 @ 肝もわたしも休みたい &gt;色補正はしているのでしょうか。 &gt…

© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: