ココロの森

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2006.05.22
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もしも戦争になったとき、

 どういう人々の上に爆弾が降るのか、

 そこが知りたかった。





ブルーを基調とした繊細なモザイクに彩られた
イスラム教の礼拝堂、モスクの入り口の写真の上に
白く浮かび上がる文字から、この本は始まる。

見開きの左隣の写真には、
モスクのブルーと重なる衣のマリア像。



2002年、秋。
イラクが『大量破壊兵器を保有している疑いが濃厚』との理由で
アメリカがイラクに対し 宣戦布告する直前に


当然のことながら 反戦を訴える内容だ。



市場や路上など、生活感の漂う写真をふんだんに盛り込みながら
イラクに暮らす、普通の人達の、普通の生活を綴る。

すわ開戦か、という時期に撮られた写真なのに
まちの人達の表情は明るい。
特に こどもたちの無邪気な笑顔が印象深い。



この子たちをアメリカの爆弾が殺す理由は何もない



-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-





食べ物に注目するのだ。
国という制度の目的を考えてみれば、
国とはそこに住む人々の生活の土台ということに尽きる。
安全で、食べるものが充分にあり、
若い夫婦が安心して子を産んで育てられる。
子どもたちがすくすくと育ち、老人が安楽な日々を過ごせる。
言いたいことが言えて、行きたいところにいける。
それを制度によって保障するのが国というものの第一の役割である。

その中でも見てとりやすいのが町で普通に人々が食べているものだ。
量と質。これはごまかせない。

日本についていえば、量は充分なほどだ。
食料自給率がとんでもなく低いにもかかわらず、量だけはある。
しかし、質の方はあまりよくない。
いちばんわかりやすい例を挙げれば、
スーパーマーケットの野菜は形ばかり立派でひどく味が薄い。
アメリカ文化そのままのファーストフードについて言えば、
味がないものを添加物で無理においしく仕立てているとしか思えない。
食べる喜びを商業主義が侵している。

同じ尺度を当ててみると、イラクは立派だった。
食べる物は充分あったし、質も申し分ない。








この国に言論の自由がないことは否定できない。
またフセインとバース党が政権維持のために
粛正と弾圧を重ねてきたというのもたぶん本当だろう。
少数意見を尊重することを民主主義の基本原理のひとつとすれば、
イラクは民主主義国家ではない。

しかしそれはまずもってイラク国民の問題であり、
他の国が武力を使ってまで是正すべきことではない。
封建領主そのままのサウディアラビアの体制や、
アラブ系の国民の権利を蹂躙(じゅうりん)しつづける
イスラエルの政府を容認したまま
サダム・フセインの政府を非難するのはフェアでない。








経済制裁で生活が苦しかった時期、
この苦難の理由を探したイラク国民は、
アメリカをはじめとする西側諸国が自分たちを苦しめていると考えたはずだ。
抗生物質の輸入が禁じられているために
自分の子が腕の中で死ぬのを
ただ見ているしかなかった六十二万人の母親たちは、
自国の大統領ではなくアメリカを恨んだだろう。
経済制裁は結果としてイラク国民を団結させ、
偽政者の立場を強化することになった。
西側の戦略としては逆効果だった。






人生にはさまざまなハンディキャップがあるが、
今の日本人の大半は 
国際政治情勢や戦争が
自分のハンディキャップになるという事態を想像もしない。






…(前略)…
ハトラという北方の遺跡で、
石材をゆっくりと丁寧に削っていたあの老いた石工のこと。
彼はこの遺跡を修復するという遠大な事業のために、
一枚の石の面を平らに均(なら)していた。
少し削ってはいとおしそうに手で撫でて凹凸の具合を探り、
またゆっくりと鑿(のみ)を動かす。
彼の目には目前の戦争は映っていない。
見えているのは十年後百年後のこの遺跡の姿ばかりだ。
イラク人の誇りにはいくつかの理由があるが、
世界で最も古い文明を創造したというのもその一つだ。
たかだか二百年あまりの歴史しかない某国が何をいばるかと笑う。

石工は何も言わなかったが、
数千年を跨ぐ仕事をしている姿には威厳があった。
世界には着々と戦争の準備をする国がある一方で、
黙々と遺跡の修復をする国もある。







戦争というのは結局、
この子供たちの歌声を空襲警報のサイレンが押し殺すことだ。
恥ずかしそうな笑みを恐怖の表情に変えることだ。

それを正当化する理屈をぼくは知らない。







         ~ 池澤夏樹 『イラクの小さな橋を渡って』より ~





-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*





この、理不尽な戦争の意味は 一体 何だったのか。

なぜ 繰り返される戦争を 私達は止められないのか。





哀しい過去は変えられなくても



未来は 必ず 変えられるはずだ。






イラクの小さな橋を渡って

イラクの小さな橋を渡って







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最終更新日  2006.05.22 00:37:37
コメント(8) | コメントを書く
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Re:『イラクの小さな橋を渡って』 / 池澤夏樹(05/22)  
@ひなた  さん
開戦前に書かれた本なんですか……。
このあと起こったことと、子どもたちの目を思うと、胸と胃が痛みます。

この原始的で非文化的な行為がなぜなくならないのでしょう。退化しているのでなければ、いつか完全に武器も爆弾もなくなるはず……ですよね。

この間、ちょっと「君死にたまふことなかれ」を読み返す機会があって。
苦しくなりました。 (2006.05.22 03:08:53)

Re:『イラクの小さな橋を渡って』 / 池澤夏樹(05/22)  
昨日、アネモネさんのところでも述べましたが、自衛隊の若い連中の座禅指導を任されることとなりました。
2ヶ月ほど前、ある方に連れられて行った、隠れ家のようなイタメシ屋のカウンター席の隣りに座っていたのが、自衛隊の連隊長。
中東についての自分の体験を通しての見解や、国際社会に於いての、日本人としてのアイデンティティーの問題について、お話しさせていただいたのが、御願いの、きっかけでも有るようです。
お酒つながりも、馬鹿にできませんね。
上記の本のことも、勿論頭に叩き込みつつ、日本の将来に、照準を定めつつ指導させていただきたいなと気合いが入っています。
戦争については、今日、用有って広島に行きますので、久しぶりに原爆資料館に立ち寄る予定。

個人的な欲を無くさねば絶対に出来ぬ仕事。
やっと、僧侶として今まで受けた恩を報いるときがやって来たんだなあと、実感しています。
何事も、大言壮語とならねば良いのですが。(笑)
(2006.05.22 07:23:21)

>@ひなたさん  
*藤紫*  さん
>@ひなたさん
>開戦前に書かれた本なんですか……。
>このあと起こったことと、子どもたちの目を思うと、胸と胃が痛みます。

おそらく、この本の中にいる子供たちの笑顔の大半は
もう どこにもないのでしょう。


>この原始的で非文化的な行為がなぜなくならないのでしょう。退化しているのでなければ、いつか完全に武器も爆弾もなくなるはず……ですよね。

無駄な科学技術や開発、開拓が進めば進むほど、
本物の文明は衰退していっている気がします。


>この間、ちょっと「君死にたまふことなかれ」を読み返す機会があって。
>苦しくなりました。

あの時期に、あの詩を発表した与謝野晶子さんは
やはりすごいかたなのだと 改めて思います。

昨今話題の ナショナリズムの強要も
私はとても恐ろしく感じます。
住みよい、暮らしよい国を作れば、愛国心は自然と湧くもの。
押しつけられるものではないですよね。 (2006.05.22 10:37:55)

>なんぜんたろうさん  
*藤紫*  さん
>なんぜんたろうさん
>昨日、アネモネさんのところでも述べましたが、自衛隊の若い連中の座禅指導を任されることとなりました。

なんぜんさまのようなおかたに座禅指導していただけたら
戦争に参加した兵士も ひととしての心を取り戻せるのでしょうか。

兵士は 「結果を想像すること」を禁じられると言います。
自分が押したボタンひとつ、引金ひとつで、多くの血がながれることや
殺した相手の家族が嘆き哀しむなどといったことを考えるのを禁じる訓練があるのだそうです。

座禅の瞑想とは 全く異質なものですが
指導後に 彼らの中で湾曲して解釈されないことを祈ります。


>中東についての自分の体験を通しての見解や、国際社会に於いての、日本人としてのアイデンティティーの問題について、お話しさせていただいたのが、御願いの、きっかけでも有るようです。

なんぜんさまのお考えが ほんとうにしっかりと彼らに伝わること、
切に切に願います。


>上記の本のことも、勿論頭に叩き込みつつ、日本の将来に、照準を定めつつ指導させていただきたいなと気合いが入っています。

地球規模の、大きなお仕事になりますね。


>戦争については、今日、用有って広島に行きますので、久しぶりに原爆資料館に立ち寄る予定。

長崎で行きました。
半日立ち直れませんでした・・・


>個人的な欲を無くさねば絶対に出来ぬ仕事。
>やっと、僧侶として今まで受けた恩を報いるときがやって来たんだなあと、実感しています。
>何事も、大言壮語とならねば良いのですが。(笑)

なんぜんさまなら、宇宙規模の大仕事も
軽々とやってのけそうです(笑) (2006.05.22 11:04:20)

Re:『イラクの小さな橋を渡って』 / 池澤夏樹(05/22)  
>人生にはさまざまなハンディキャップがあるが、
>今の日本人の大半は 
>国際政治情勢や戦争が
>自分のハンディキャップになるという事態を想像もしない。

戦争は人が死ぬだけじゃなくて、人の可能性をも殺すものですよね。

わたしはアメリカと中国が、理解できません。
(2006.05.22 18:22:17)

>アネモネ99さん  
*藤紫*  さん
>アネモネ99さん
>戦争は人が死ぬだけじゃなくて、人の可能性をも殺すものですよね。

人の未来も、過去の遺跡も、今まで築いてきた日常や文化も、緑も、価値観も、歴史も
戦争は 何もかも殺してしまいます。

>わたしはアメリカと中国が、理解できません。

自国の面積が大きい、
それだけで 自分たちが地球を支配しているかのような錯覚を起こしている気がします。

イラク戦争中に 世論調査で
「イラクよりアメリカの方が地球上の脅威だ」と答えたイギリス国民も 確か4割近くいましたね。 (2006.05.22 18:49:24)

Re:『イラクの小さな橋を渡って』 / 池澤夏樹(05/22)  
いつも、思う事。どうして戦争があるのか。
一部の者の自己満足のため。地位とお金が欲しいだけ。そのために犠牲者がでる。何も、関係ない人が。そこに残るのは、憎しみのみ。
この本、私読めない。藤紫さんのコメントだけでも
胸が痛い。上手くかけなくてごめん。でも、世界平和、みんな一緒。理想論かもしれないけど、そうなればいいと、思ってます・・・ (2006.05.22 22:47:41)

>mikaponchan(みかぽん)さん  
*藤紫*  さん
>mikaponchan(みかぽん)さん
>いつも、思う事。どうして戦争があるのか。
>一部の者の自己満足のため。地位とお金が欲しいだけ。そのために犠牲者がでる。何も、関係ない人が。そこに残るのは、憎しみのみ。

本当に、おっしゃるとおりです。


>この本、私読めない。藤紫さんのコメントだけでも
>胸が痛い。上手くかけなくてごめん。でも、世界平和、みんな一緒。理想論かもしれないけど、そうなればいいと、思ってます・・・

本文にも書きましたが、そう願うひとがひとりでも増えれば
ひとりがふたりになり、ふたりがよにんになり、
どんどん輪が広がっていけば、、、と願います。

私も あの戦争のTV報道などは 直視できませんでした。
この本は その前の出版。
それだけに、余計に、考えさせられました。
もっと、自分にも、できることがあったのではないか、と。

つらいお気持ちの中、コメントありがとうございました。
「世界平和」、そのひとことを、皆が、あたりまえに願い、
ブログの片隅であげられた声が、天に届きますように。
(2006.05.22 23:14:47)

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