ココロの森

ココロの森

2008.10.17
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【内容情報】(「BOOK」データベースより)
おなじ空の下で考えるぼくたちの“いま”のこと、そして“明日”のこと。
日々のフランス暮らしから紡がれる、“異国の客”による思索のクロニクル、第2弾。




池澤氏は現在フランスに住んでいる。
その前は沖縄だった。

沖縄での暮らしは 『アマバルの自然誌』 という本にまとめられ
フランスに移り住んだ最初の一年は 『異国の客』 という本に綴られている。


今回はその続き。
フランスでの二年半の記録を氏のブログに綴ったものが一冊にまとまっている。

パリで移民の暴動やストライキが頻発し、サルコジ大統領が就任した頃だ。



ブログをまとめた文章だから、話題は様々だが、
政治から芸術、自然観、文化論、日常の些細なことにいたるまで
氏の見識は広く、その指摘は的確。
密に詰まった内容に、一気読みはとても無理で
一、二章ごとにわけて読み、数日かけてようやく読了した。

『日本は時間的にも空間的にも,非常に密度の高い社会である』
とか
アメリカをはじめとする「自由主義」とフランスのような「共和国」制度の違い
(『いちばんわかりやすいのは政治と経済の関係である。
 「自由主義」では経済が政治に優先する。あるいは政治が経済に奉仕する。
 共和国では政治が経済を制御する。
 言い換えれば、共和国では人は理性的な存在であり、
 「自由主義」では人は生産的な存在である。
 (中略)
 共和国は人の理性を信頼し、
 「自由主義」は人の欲望を競合させることで国を運営する。)


という記事も興味深かったし、
フーゴーの異郷と祖国に関しての思想を引用した部分にも惹かれた。


祖国が甘美であると思う人はいまだ繊弱な人にすぎない。
けれども、すべての地が祖国であると思う人はすでに力強い人である。
がしかし、全世界が流テキの地であると思う人は完全な人である。
第一の人は世界に愛を固定したのであり、
第二の人は世界に愛を分散させたのであり、
第三の人は世界への愛を消し去ったのである。


(※ 緑色 部分は、本書より引用)







でも、一番印象に残ったのは
池澤氏自身の若かりし頃を振り返った 「二十歳の頃」 というエッセイだった。




自分は何者にもならないかもしれないという予想。
来年の畑の収穫を期待できない農夫の恐怖。
とても抽象的な意味においてではあるが、飢えて死ぬ可能性への恐怖。
魂が飢える。

(中略)

どこまでが自分の意志だったのだろう。
社会が良質の運命を配布してくれないという不満があったわけではない。
そういうことを社会のせいにするのは公正でない、ということはわかっていた。

すべてを危機にさらしていたのは文学への野心だ。
それがあまりに強いので,ぼくは敢えてそれを見ないようにしていた。
子供の頃から本を読むのは好きで,ものすごく好きで、
長い物語を読みながらそれを書く側の喜びを想像した。
しかしそれはとても手の届かないものに思われた。

試しに何かを書いてみるということもしなかった。
何かを試みて、それで才能の不在が決定的に明らかになってしまったら、
人生のその先で何をすればいいのかわからない。
だから準備が整うのを待つ。
いつまで待てばいいのかわからないまま、
待つだけで人生が終わるかもしれないとどこかで思いながら,それでも待つ。

(中略)

本当に恐いものを見ないで済ませるために目を閉じているように、
僕は自分が小説を書くという事態を考えないようにしていた。
自分はとても弱くて傷つきやすい。
蝉の抜け殻のように空っぽで壊れやすいから、
ちょっとした失敗で粉々になってしまう。
そう、ぼくの中にはしっかりした中身がなかったのだ。

早い話が、書きたいという欲求はあっても書くべきことがない。
人はしばしば自分の体験を素材に小説を組み立てるけれど、
ぼくにはどんな素材もなかった。
構想をふくらませても、その中を埋めるものがない。
その意味でもぼくは空っぽだった。

二十歳になる少し前に
ロレンス・ダレルの『アレクサンドリア四重奏』を翻訳で読んだ。
そしてこの長大な小説に熱中した。
それ以降はこれが自分にとっての小説というものの基礎になった。
繰り返しになるけれど,こういうものを書こうと思い立ったわけではない。
書くのならばこういうものでなければならない。
それは不可能だ。どこから手を付けていいのか見当もつかない。
それならば何も書かないでおこう。

実際にぼくが小説を書くようになったのは三十代も後半になってからのことだ。
(中略)
ぼくは追いつめられ、たとえ失敗するとしても試みるしかないというところまで追い込まれて,初めて小説を書いた。
それ以上書かないでいる為のいい訳はもうなかった。

その結果,ぼくは作家になることができた。
二十歳の頃に夢想しながらも自分に禁じてきたことをようやく実現した。
だけど、その実現にまだ二十年ちかくもかかるとその時に知っていたら、
若いぼくは絶望しただろう。

だから、あれは振り返っても身がすくむほどの恐ろしい時期だったと思うのだ。






ロレンス・ダレルの『アレクサンドリア四重奏』 の箇所を
佐々木丸美の『雪の断章』 に置き換えれば、



こういうものを書こうと思い立ったわけではない。
 書くのならばこういうものでなければならない。





そう。まさしく、その通り。



氏は、未来を知っていたら絶望しただろうと書いている。


そう。

「ガラス張りの未来」に、希望を持つことは、難しい。



何がどうなるかわからない不安のなかでこそ、
ひとは、希望を持てるし、生きて行けるのだ。










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最終更新日  2008.10.17 22:48:34
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ガラス張りの未来  
わかります

いつの頃からでしょうか?
こんなにも未来のことが怖くなったのは。
不安で押しつぶされそうになってしまったのは。
ガキンチョの頃はなんの不安も無かったのに。
無かったというか考えもしなかったのかも。
未来なんかよりオバケの方がずっと怖かったのに。笑
(今もオバケは怖いですけど・・・)
すっかりビビりになってしまいました・・・トホホ

(2008.10.18 14:08:57)

タマちゃん  
*藤紫*  さん
池澤さん曰く、
「子供の頃はただ目の前にあるものをこなしていればよかったから」
不安感がなかったようです。
(もう本を返却してしまったので、正確な引用ではないですが ^^;)
子供の頃って、二十歳ってすごい大人のひとに見えましたよね。
そのくらい、未来って遠すぎて考えられないものだったのかも。

今は将来に関する漠然とした不安感はないですけれど
(開き直ったというか、なるようにしかならないというかw)
「書くこと」に対する不安感は、もう、この文章のまんまで
思わず引用せずにはいられませんでした。
池澤さんも同じだったんだ、とココロ強い思いがすると同時に、
「でもこれって二十歳のころの話だよね…」と複雑な思いでもあります(笑)



(2008.10.19 06:48:52)

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