ヒダマリ

ヒダマリ

1、始まり


校庭では沢山の生徒が運動に興じている。
本当ならば全校生徒が校庭に出ているはずだが、学校の三階の美術室にサボリをしている3-C 竹野将太(たけのしょうた)が居た。
美術室は学校の中で涼しいほうなのだ。でも、
「暑~・・・。」
それほど大差はないのだが。
 今、この中学で行われているのは「夏季交流体育祭」。
これは体育祭と違って誰がどれに出るなどが決まってなく、生徒一人一人が出たいスポーツの所に集まるというものだった。
なので、簡単にサボる事ができるのだ。
去年はもっとサボリが居たのだが、今年は最後ということで大体の三年は出て行っている。

「オマエハチカラガホシイカ?」
それは突然だった。頭に響く無機質な声。
「誰?」
思わずその声に聞き返してしまった。しかし、その声は答えずに
「オマエハチカラガホシイカ?」
と、また言った。将太はまじめな顔になり答えた。
「・・・欲しくないわけじゃない。」
こう答えたのはわけがあった。俺はこの世の中が嫌いだった。いろんな「汚い事」が溢れていたから・・・。
「ヨカロウ。オマエニハソシツガアリソウダ。」
その思いを感じ取ったかのようにその声が言った。
そこまで来た時に目が覚めた。夢だったようだ。
「何やってんだろ、俺・・・。」
ふと喉の渇きを覚えた。
(飲みもんが欲しいな・・・。)
そう思った時、手に違和感を感じた。何かを握っている。
視線をそっちに向けると、手の中に在ったのは缶ジュースだった。
「え・・・?は?」
わけが分からなかった。
いきなりの事で呆然としていると、誰かが美術室に入ってきた。
入ってきたのは、いつもつるんでいる赤間紘兎(あかまひろと)だった。
「やっぱここに居たんだ。」
「珍しいな、紘兎がこっちに来るなんて。理科室には居ないのか?」
「うん、ちょっと変な事が起きたから・・・。」
「変な事?」
ここまで聞いた時、何となく分かった気がした。
「頭の中に”オマエハチカラガホシイカ?”って響いた。」
「お前も!?」
思わず叫んでしまった。
「将太も?」
紘兎も驚いているようだった。その時、悲鳴が起こった。
「何?!」
同時に叫んだ。聞こえた感じからするとプールの方の様だ。
「行こう。」
俺が言うと、紘兎は頷いた。

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