ヒダマリ

４、事件

　勢いよく職員室のドアを開けた。
「せんせ・・・。」
言葉が途切れた。目の前に見えたのは、血の海の中に立っていた担任の内田先生だった。内田先生は掌をこっちに向けた。だが、特に変化はなかった。
「どうしたんですか・・・、先生・・・。」
仁が身を硬くしながら言った。一瞬驚いたような顔をしたが、すぐ何かを理解したような顔になった。
「そうか、お前達もチカラの持ち主か。」
嫌な笑いをした。
「どうしたんですか・・・、先生・・・。」
もう一度仁が言った。
「こいつらか？こいつらは自殺したんだよ、いや、させたか・・・。」
先生が答えた。
「自殺？」
「あぁ、そうだ。私の力は操作。人間の脳を操作して、自由に動かすことができる。」
先生はカップにコーヒーを注いだ。
「でも、何で先生がそんな事を・・・。」
仁は半泣きだった。仁は先生を本当に慕っていたのだ。
「何で？俺はこいつら教師が嫌いだったんだよ。教師という立場、先輩という立場で生徒や後輩をこき使う・・・。だから殺したんだよ。」
「そんな・・・。」
仁がその場にしゃがみこんだ。その時、運動場のほうからまた叫び声が響いた。
「おやおや、また仲間が動き出したようだね。」
内田先生は俺達の横をすり抜けると走って行った。
「俺達も行こう。」
俺達は運動場に走った。
　運動場に出てみると立っている生徒の影は全くなかった。逃げたか死んでるかだった。
　ごすっとものすごい衝撃を受け、横になぎ倒された。
「何だ？」
俺は辺りを見回した。俺のすぐそばに木が立っていて、枝を振り回していた。
「まぁ、待ちなさい。佐井賀（さいが）君。」
内田先生の声がした。すると、木の動きが止まり静かになった。
「何でですか？先生。」
木の上から佐井賀と呼ばれた生徒が降りてきた。背格好からすると一年の様だ。
「一応この三人はチカラの持ち主だからね。」
「へぇ、先輩達が・・・。いきなりスイマセンでしたね。」
中途半端に微笑むと、握手を求めてきた。それに応えて手を差し出し握手をした瞬間。
「先輩のチカラは何ですか？」
佐井賀が口を開いた。
「“発生”じゃないかしら？」
木の後ろから出てきたのは水崎だった。
「発生ですか、面白いチカラですね。もう見て分かってるかも知れないですけど、僕のチカラは“植物”です。」
手を解きながら佐井賀が言った。ふと足元に違和感を感じた。
「あ。」
足元には雑草の類が沢山生い茂っていた。
「僕はこのように植物を生やす事も・・・。」
足元にはいていた植物が地面に吸い込まれていった。
「種に戻すことも出来ます。さっきも見たように、自由に操作することもできるんですよ。」
今度はさっきと違って普通に微笑んでいた。
しかし、その微笑が一瞬に厳しい顔のなった。目は、遠くの一点を見据えていた。
そっちに目をやると、こっちに向かって来る人影が見えた。目を凝らしてよく見てみると、その人影はいつも一緒にいる仲の一人の
笹岡健介（ささおかけんすけ）だった。
「どうします？」
佐井賀が、内田先生に聞いた。
内田先生が一瞬目をつぶると、
「何もしなくていいよ、彼も仲間だ」
佐井賀にそう言うと、なだめた。
「健介も仲間？」
思わず聞き返した。後ろにいる二人も少し驚いているようだった。
「そうだよ、私はチカラの持ち主が近くにいると分かるんだよ」
健介が俺達の所までやってきた。
「これは何？皆どうなってんだ？」
健介は、グラウンドの所々にある死体のことを言っているようだ。
「そろそろ説明してもいいかな？」
先生が口を開いた。
「謎の声が聞こえたのは君達にも共通してるね？」
その問いかけに、健介を含め俺達四人はうなずいた。
「君達は、この世界が嫌いで、変えてやりたいと思ってなかったか？」
その問いかけに、一瞬どきりとした。他の三人も思い当たる節があるようだ。
「私達も一緒だ」
そこで一端言葉をとめた。
「君達は、このチカラで、人を殺すのはどう思う？私達みたいに」
また口を開いたと思うと、変な質問だった。
「おかしいですよ、そんなの・・・」
俺は少し怒鳴り気味に答えた。三人も同じ考えのようだ。
「そこだ、私達と君達が違うのは。君達は、この世界を変えたいけど人を殺してまでやりたくはない。でも、私達は、どんな手段を使ってもこの世界を変えたいと望んでいる。だから、この思想の違いで戦いが生まれるだろう。それこそ、あの声の思惑なんだ」
説明が終わったようだった。でも、先生の言っていることがあんまり理解できなかった。
「これからどうするか決めて、仲間でも探すといいよ。私達も仲間を集めて、この世界を変えるよ。君達がどうするか楽しみにしているよ」
そう言うと、先生たち三人は学校から出て行った。
最後の最後まで、先生の言っていることが分からなかった。

ジャンル別一覧