文の文

文の文

PR

Profile

sarisari2060

sarisari2060

2006.02.18
XML
カテゴリ: エッセイ
いささか調子が悪くて近くの開業医のお世話になった。その症状も結局のところ更年期障害なので処方薬にくわえて漢方薬をもらってかえった。

この医院の院長先生は前にトリビアの泉でなにか言っていたことがある。だからかとうかはわからないが、なにしろ込み合う。しかもお話好きのようで、どのひとにもこと細かく丁寧に説明される。そんなわけで待ち時間が非常に長い。

中待合のような部屋で血圧を測ってもらっているとカーテンで仕切られた診察室から先生と患者さんの声が聞こえてくる。

わたしの前の女性は血液検査の項目の説明を受け、ガンがあるとどの数値があがるのかとくり返し聞いていた。

その前のおばあさんは別の病院で言われたことを解説してもらっていた。

その途中で先生が優しげな声で「あっ、このあいだはありがとうね。この子(写真を指差しているもよう)があの人形とてもよろこんでましたよ」と言った。

おばあさんは先生のお孫さんに手作りの人形を上げたらしかった。

おばあさんが「こんな震える手で作ったものをそんなに喜んでもらえてこちらがうれしいです」と言うと先生はきっぱりと「だからこそ価値があるとボクは思いますよ」と言った。

そのおばあさんは糖尿病を患っているが今日は数値が良かったらしかった。「ああ、なんとか(薬の名前)が効いてるんですね」といいそのあと自分がもらいたい薬と量を告げていた。



自分の番がきて診察室の椅子にすわると、先生は症状を聞いて、それに見合ったプリントを下さる。ここを読んでくださいと自著のページを開いてくださる。

病気の可能性とか治療法とかクスリのあれこれなど全てその文章をたどりながら説明される。うんうんうんとうなづきながら、病気に対する教育をされているような感じだ。

更年期には漢方薬ツムラの25番がいいんですが、どうしますか?と先生はわたしに聞いた。あなたが決めるのですよ、ということだ。「いただいていきます」と答えた。

ここのところ、なんとも気持ちの波があって、ときどきドカンと大穴に落ち込む。

そんなときはいつでも恨みがましかったり、イラついたり、わがまま言いたくなったり、不安だったり、あせりまくったり、なんというのか、人生の収支決算大赤字みたいな気分になってしまう。

それでいながら、そんなふうでない顔をしたりもする。その落差がだんだんつらくなってきて、ため息ばかりが出る。

憂鬱なのだといってもそうは見えないといわれてしまえば、それ以上口をひらかなくなってしまう。そして行き場がないなあとうなだれる。

それが更年期なんだからいたしかたないことなのだよと言われると、肩透かしにあったように、なあんだの気分になる。

脳がピッチャーで子宮がキャッチャーで、キャッチャー不在なのにピッチャーばかりひとりで奮闘してしまうからたいへんなんですと、と先生は言った。そのうちにそのピッチャーも現状を認識するらしい。

帰りによった肉屋のおばさんが「おたくだけじゃないわよ。わたしもそうだったわ。つらいけど、みんなおんなじことくぐってきてるんだから。」と、ものすごく元気そうな声で言った。

「今だけの辛抱だからね」と言って揚げたてのから揚げをおまけしてくれた。店の名前が印刷された紙袋の中のから揚げから湯気が立ち上っていた。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2006.02.18 21:28:31
コメント(1) | コメントを書く


■コメント

お名前
タイトル
メッセージ
画像認証
上の画像で表示されている数字を入力して下さい。


利用規約 に同意してコメントを
※コメントに関するよくある質問は、 こちら をご確認ください。


ツムラの25番?  
kinu さん


今後も、時折『今だけかもしれない辛抱』を書いて下さい。私の、漢方薬ですから。 (2006.02.19 08:28:27)

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: