日記

日記

火葬場


ゆっくりゆっくり走る黒塗りの車の中。眠気がおそってきた。ほんわかといい気持ちだった。車の中は主人、私、運転手さんだけ。

大きな火葬場。何人かの亡くなった方が火葬されている最中だった。いっぺんに何人もの人を火葬できるようになっていた。エレベーターのドアがいくつもならんでいるような風景。そしてそのドアの前にはそれぞれの遺影がかざってある。

子供たちが言った。パパが一番若いって。本当にそうだ。他はみんなおばあさん、おじいさんの遺影ばかり。

ああ、本当にさようならだ。もう肉体がなくなる。

火葬している最中、親戚にお料理をふるまった。お酌をして歩いた。皆、楽しそう。久しぶりに会った親戚同士、酔っ払って、お弁当食べて、なぜか楽しそう。

私も少し食べたが、今、そのとき、主人が火葬されていると思うとどうしようもない気持ちになった。「今、主人焼かれているんですけど」て、笑って、食べて楽しそうな親戚に言いたかった。「よく食べてられますね」ってみんなに言って回りたくなった。

そんなこと言えるわけもなく、お礼を言って回った。

火葬終了の電話が私たちの元に入った。
住職さん、義兄、私の3人だけが最初に主人のもとにいくことが出来た。
住職さんの読経の中、変わり果てた主人がエレベーターのドアーのようなところから出された。

ああ・・・。私はその時初めて、くずれそうになった。倒れる寸前だった。あとずさりした。主人が亡くなって一番のショックな場面だった。骨の説明をする従業員の女性。もう私の耳には何もはいってはこなかった。骨の説明など聞きたくない。主人のそばにもなかなか行けず、壁に寄りかかって自分を立て直した。ここで倒れるわけには行かない。

骨を骨壷に入れた。親戚も入れた。大きな骨。なかなか骨壷に入りきらない。従業員の女性ふたりが無言で、たんたんと金属のへらのようなもので骨壷の中の主人の骨をがりがりと砕きながら押し込んだ。

ああ、もうだめだ。あんなにされて痛くないんだもの。もうこの骨の中には主人はいない。もしいたなら、痛すぎるよ。くだかれてくだかれて。気が狂いそうだった。

もうカンネンした。もう主人は帰ってこない。通夜からお葬式、火葬場へと亡くなった人は移される。私たちの心のなかで「もう帰ってこないんだよ」「もう生きている人間ではないんだよ」ということをわからせるための儀式なのかもしれない。あきらめの儀式。

やわらかな日差しの中、まだ暖かなぬくもりを感じる主人の骨をひざに抱いてただ景色をながめていた。

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