暇人の生活 老人
「おい、お茶をくれないか。」
「なぁ、本を取ってくれないか。」
足が不自由になってからというもの、わしは何もかも妻に頼まなければならなくなった。
妻だってこんなわがままなわしにつきあっているほど、暇じゃないんだろうけどな。
妻はいつだってわしのわがままをきいてくれる。もう結婚して四十三年になる。
わしのことをこんなに分かり尽くした、知り尽くした人は妻だけだよ。
しかしな、さすがの妻でも最近わしのことがわからないみたいなんじゃ。
ボケはじめたのだろうか。わしも妻もただのおいぼれ。なにもすることのない暇人なのだからな。
このままではわしたちは老いぼれて誰にも気付かれぬまま死んでしまうのだろうか。
しかし、しにたくない。可愛い孫も息子もおる。
息子や孫より長生きしたいとは思わないが、やっぱい長生きはしたいもんだな。
まぁ贅沢は言わん。だから長生きさせて欲しい。
それがわしの最後の願いじゃ。
もう一つ願うなら妻も一緒に長生きさせてほしい。
しかし、ただ長生きするだけじゃ暇なだけじゃ。
・・・。でもまぁそんな長生きもいいんじゃないかな。
妻も孫も息子も長生きできますようにーーー。
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