ハナちゃんといっしょ

ハナちゃんといっしょ

アメリカ旅行記・その1


エア・カナダ利用

●L.A.二人旅●

2002年10月、私は親友の一人ノリコさんとアメリカ旅行をすることにした。私の3大珍道中の一つに入るアメリカ、ロサンゼルスとラスベガスの旅はとても楽しかったが、今振り返るとそれは悪夢のようでもあった。

アメリカに行こうと思い立ったのは春のこと。アメリカ人の友人、マーガレットが日本に再来日した。彼女は友だちの結婚式のために来日したので、いっしょに過ごす時間がほとんどなかった。だから、今度は私がL.A.のヤツのところに乗り込もうと思ったのだ。10歳年上の私の親友、ノリコさんもマーガレットの友だち。ノリコさんは主婦、3人の子持ち、英会話教室運営、夫の家業の手伝いと恐ろしいほど忙しい人だ。しかし、彼女のだんな様は本当にいい人で、いい機会だから私とアメリカに行ってこいと言ってくださったのだ。相方、それも親友なので私はもちろん嬉しかったが、長期で人と旅行したことのない私は少し不安だった。

出発は大分空港から関空へ飛び、エア・カナダでバンクーバー経由でLAへ飛んだ。私がバンクーバーに帰りに寄るのでこの便にしたのだが、ノリコさんにはL.A.直行便を勧めた。しかし、新婚旅行以来の海外というノリコさん、私とぜひ一緒にということでこの便に乗った。ノリコさんは酒飲みだ。ビールは主食というくらい、本当によく飲む。飛行機の中でだけは宴会はやるまいと搭乗前に確認した。話し始めるとおさまらない私たち、宴会になりかねない。空港でも、バスの中でも、どこででも私たちはしゃべるか食うかだった。

バンクーバーに到着し、乗換えの手続きをする。まずはいったん荷物を受け取り、アメリカへの入国チェック。空港はカナダにあるのに、ゲートをくぐればもうすでにそこはアメリカ。手荷物のチェックから何から何まで、カナダと比べるとうるさくてラフな感じがする。思ったよりも入国チェックは簡単で拍子抜け。そしてLA行きの飛行機に乗り込む私たち。

数時間のフライトでLAに着く。飛行機の窓から初めて見るアメリカの赤い大地、大都会のL.A.、ハリウッドサイン!L.A.上空はたぶん大気汚染だろう、霞がかっていた。飛行機が着き、慌てることはないのだが急いで到着口に向かう。きっとマーガレットがもう待っているはずだ。到着ゲートではもう彼女が待っていた。半年振りの再会だ。走って階段を下りていって彼女に飛びつく。ノリコさんも。もう、嬉しくてたまらなかった。私たちは10歳ずつ年齢が違う。ノリコさんは私より10年上、マーガレットは10年下だ。でも、3人そろうと恐ろしいほどの盛り上がりとなる。もちろん、この旅もそうなってしまったのだけど。

マーガレットとボーフレンドのモンティの住むアパートはやや狭くて2人を泊めることはできない。事前にハリウッドにあるホステルに予約を入れておいてくれた。チェックインをした後、グレンデールにあるマーガレット&モンティの家へ行く。彼女が夕食を作ってくれると途中でスーパーに寄ったが、買ったものは下味付のチキンと野菜。これでチキンサラダを作ってくれた。超簡単料理だが、エセ・ベジタリアンのマーガレットと生活するモンティは久しぶりに肉が食える~と喜んでいた。

夕食後はマーガレットが車でハリウッドのホステルまで送ってくれた。疲れていただろうにありがたい。後で聞いた話だが、マーガレットが私たちを送って家に帰ってみると、モンティは日本の音楽を聞いていたのだそうだ。2人が知り合ったのは日本、私たちと再会して日本が恋しくなったらしい。うれしい話だ。

と、最初から飛ばしまくりの2人旅プラス1、この後、波乱万丈、珍道中が始まるのだった。

●このタカピー女は!●

このアメリカ旅行でいちばんお世話になったのは、なんと言ってもマーガレットだ。マーガレットは数年前、この町にALTとして赴任した。フィンランド系アメリカ人で、すらっと背が高く色も真っ白で、なんともいえないくらい美しい瞳を持っていた。ブルーでもなく、グリーンでもなく、本当に不思議な色。モデルのような美しさで、マーガレットがナンパされる姿を滞在中に2,3回見た。ハリウッドではゾロの格好をした男に手にチューされていたし。

しかーし、外見とは裏腹にこの女はタカピー、下品、大雑把、シモネタ好きの超アメリカン女なのだ。日本に住んでいた頃のお気に入りが葉っぱ隊だとか、ブレイク以前のダンディ坂野の「おひさしブリーフ」なんて平気でやっていた。タイを旅行した時なんて、クリスマスの日にストリップ劇場へ行って、その内容をこと細かくメールで知らせてくれたような、とってもお茶目な女の子…どこがじゃー!ほかにもあるけど、たくさんすぎて書ききれない。

私たちがアメリカを訪れた時は彼女はプータローだった。問題児ばかり集められた学校で働いていたようだが、話を聞く限りじゃものすごい。子どもに暴力をふるわれたりなんたり、日常茶飯事なんだったんだそうだ。彼女の家には誕生日に生徒から送られた1枚の貼り絵が飾られていた。家の絵があって、人間がすごい形相をして空を飛んでいる。タイトルを見ると 『The man who commited suicide』、つまり『自殺をした人』なのだ。強烈…。渡米直前に仕事を辞めたというメールがきたので、フルに私たちの相手をしてくれた。ラッキーというか、お気の毒というか。

さて、お世話になったものの、彼女はどこにいても誰といても気位の高いタカピー女なのだ。若干20歳で大学を卒業、それも物理学専攻という秀才。数学が大好きで公式や図形は芸術だと語っていた。そのくせにチップの計算はできずに、チップの早見表をみたり、私の計算機を使ったりして難儀していた。
「シンプルな計算がいちばん難しいのよ!」
と言い放つ。はいはい、わかりました。

日本で回転寿司に行った時には、流れてくる寿司を見て
「この寿司、新鮮じゃないわ。チカコ、あれとこれとそれと……を注文して!」
と、半ば命令口調。私、10歳年上なんですけど。しかし、ハリウッドでいっしょに行ったピザやでは自分の分を注文すると、
「あんたたちは英語ができるから自分で注文すんのよ!」
何事にもスローなノリコさん、ピザ屋のオヤジに
「早くしろ!」
って怒られていた。

私たちは安いホステルに泊ったけど、やっぱりそこはアメリカでセキュリティはものすごく厳しい。ドアは自動ロックで外からは開けられない。ある日の午後、マーガレットが私たちを迎えにきてくれることになっていたが、なかなか来ない。しかし、彼女はすでに来ていたのだ。呼び鈴を鳴らし続けていたけど、誰も出なかったらしい。部屋にいた私たちは気がつかない。やっと気がついたのは、外からの彼女の雄たけび。
「ノリコーーーー!!!!!!!チカコーーーー!!!!!!!!!」
という叫び声が聞こえ、こわごわ入り口付近を見てみると恐ろしい形相で私たちが出てくるのを待っていたのだ。美人の怒り顔は怖いんだよ~。ドアを開けると、一直線にトイレへ駆け込んでいった。我慢していたのね…。

しかし、ボーフレンドのモンティの前ではタカピー女もブリッ子女に大変身。モンティはとにかく優しい。14歳の頃、フィリピンから移民してきてアメリカでものすごく苦労している。だからマーガレットの女王様ぶりなんてかわいいものなんだろう。きっと彼はM男に違いない。とてもお似合いだ。マーガレットが私に言った。
「チカコはちょっと私に似ているから、モンティみたいな男を選びなさい」
いえ、似てませんて!でも、私の彼の理想の女性はわがままで、demandingで、厳しい人。ああ、私やばいかも!

そんなマーガレットと過ごした時間は楽しかった、うん、たぶん、きっと。これからの旅行記も彼女のタカピーぶりと、彼女にひれ伏すかわいそうな2人の日本人女性がたくさん出てくる…はずだ。

●怪しい?ホステル●

私たちの泊ったホステルは、ハリウッドのOrange Driveにあった。そこはハリウッド・ハイランドやチャイニーズ・シアターの裏側にあり、フレンチ・スタイルのホステルだった。3階建て、地下一階あり、見かけよりも割りと大きな建物。私たちが泊ったのは1階のツインルームで1人頭たったの20ドル。古い建物だけどきれいに掃除をしているし、ベッドもふかふか。シーツはなぜかアニマルプリント。クローゼットもついており、開閉式のかわいい机なんかもあったりしてなかなか素敵な部屋だ。

部屋の目の前にトイレとシャワールームがあって便利だったのもも、このトイレはよく故障し、時々他の階まで用を足しに行かなければならなかった。2階のトイレは流れが悪く、ほかの泊り客の用の足したものがプカプカ浮いているなんて事もよくあった。しかし、基本的にバスルームは清潔だったと思う。

地下にはコンピュータールーム、テレビルーム、キッチン、その他もろもろがあった。インターネットはちょっと割高だった。キッチンはあまり清潔ではない。っていうか、食器類や調理器具がほとんどないのだ。それは泊り客が用意しろって?それともあるものは持っていかれてしまうのだろうか。こんなホステル、初めて。といっても、私たちがここで調理したのもはカップラーメンくらいだったけど。それにしても、それを食べるフォークまでもがない。やっと見つかったのはスプーン1つと箸1本。一膳ではない、1本なのだ。

裏には駐車場もある。ビジターは有料らしいけど、マーガレットは一銭も払っていない。スタッフのあんちゃんに、
「私、彼女たちの友だちだからちょっとくらい停めても平気よね」
とにっこり。また、マーガレットが美人なもんだから、あんちゃんも満面の笑みでOK出しているし。

また、スタッフと「住人」がちょっぴり怪しいのだ。スタッフは白人男性と背の高いドレッドへアの黒人のお兄ちゃん。白人男性はでかい声で威勢のいいあんちゃんって感じだった。黒人男性はアフリカから来ていて、フランス語訛りの英語を話していた。ヌボーとしていて、いつもニヤニヤ笑顔。エントランスホールにある椅子に何をすることもなくボーっと座っていることが多かった。1週間ほどそこに泊まったのに、名前すら聞いていない。私とノリコさんは勝手に「ラリー」と呼んでいた。なんだかラリっているような感じだったから…。でも、とてもいい人で、よく話し掛けてくれた。

ここのホステルには旅行者のほかに「住人」がいた。いわゆる長期滞在者だ。そういう人たちは3階に住んでいたが、高齢者が多かった気がする。私は暇な時間は部屋で読書をしていたが、ノリコさんはホステルの中を探検して写真をとってまわっていたのだそうだ。その時、3階で杖をついたおばあさんを見たと言っていた。アパートになっているのかな?

この界隈には高級ホテルからこういった安宿などが立ち並んでいる。観光地の中にあるのでショッピングにも便利だし、夜もそんなに遅くならなければ割りと安全なところだ。安くて、しかも清潔でセキュリティも万全なホステルを見つけてくれたマーガレットに感謝だ。

興味のある方は…

Orange Drive Manor
1764.N Orange Dr., Hollywood, CA 90028
(323)850-0350
www.orangedrivehostel.com

日本人の泊り客は私たちだけだったので、日本人の多いところは嫌っていうバックパッカーにもおすすめ!もちろん、こだわらない人にもおすすめです。

●美術の時間●

さて、初めてのアメリカ観光で私が選んだのはゲッティ美術館(The Getty Center)だった。ジャン・ポール・ゲッティさんという大富豪が莫大な資産を遣って集められたコレクションが展示されているのだけど、本当にこれが個人のコレクションですか~?っていうくらい、ものすごい数だ。個人のコレクションでは、スペイン・マドリッドのティッセン・ボルミネッサ美術館を楽々上回っているだろう。

また、敷地も広ければ建物も馬鹿でかい。庭園もきれいに整備されていて、L.A.の町が一望できる高台にある。ゲッティ氏が美術館に残した遺産は12億ドルといわれ、入場料はな、な、なんと無料なのだ!ただし、駐車場代は取られる。車を停めたらケーブルカーに乗ってゲッティ・センターへ。ケーブルカーを降りると目の前には白亜の建物がどーんとそびえ立っていて、そこはもう別世界。

ここは以前L.A.に住んでいたベトナム系アメリカ人の友だちにぜひ行くように勧められたところだ。ノリコさんも高校時代美術部だったし、マーガレットも絵の勉強を始めたばかりで3人とも興味があった場所だった。

建物に入る以前に記念撮影をしていたら、どうも入っちゃいけないところに足を踏み入れたみたいで、でっけー黒人の警備員のお兄さんに止められる。しかし、ノリコさんはめげない。ニコニコしてそのお兄さんに話し掛け始めた。
「ハ~イ!あなたお名前はなんていうの?ジェイソン!まあ、素敵な名前だわ~。おまけにあなたはとってもハンサムね!」
サングラスをしたそのジェイソンという警備員はうれしそうにニカッと笑い、ブリッジされた、真っ白な歯がむきだしになった。さらに手帳と取り出すと、ローマ字でメモした日本語を使って挨拶まで始めたのだ。すげー、ノリコさん!これに乗せられるアメリカ人の警備員もすげー…。

さて、話は美術に戻って、ここのコレクションは本当にすごい。あまり美術に詳しくない人でも知っている画家の絵ばかりだ。例えば、ドガ、ゴッホ、セザンヌ、ルノアール、ロートレック、モネ、ミレー、ムンク、ゴヤなどの作品がずらりと並んでいるのだ。フラッシュを試用しなければ写真撮影もOKだ。ドガの絵にカメラを向けたノリコさん、フラッシュを消し忘れていて絵の前でピカッと光ってしまう。
「ノリコーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」
今度は警備員ではなく、マーガレットの怒鳴り声が響き渡るのだった。

写真を展示しているコーナーもあった。マーガレットは写真をとるのが上手なので興味深々。そこで私たちにも写真に興味があるかと聞いてきた。それはもちろん!ノリコさんもイエースと答えていた。マーガレットの写真や写真家について説明を聞きながら歩いていたが。ノリコさんは半分聞いてなくてまたマーガレットに怒られていた。
「あんた、本当に興味あるの?」
って。実はなかったらしい(後日談)。

絵画を堪能した後は庭を散策。サボテンや、いろんなきれいな花が植えられていて、木もよく手入れがされていた。ここは階段が多い。私は階段を見ると駆け足で昇りたくなる。ここの庭の階段も駆け足で昇っていると、上にいた職員らしきおばさんに
「Good job!」
とお褒めの言葉を頂く。

昼食もここでとった。ここのレストランはビュッフェスタイルだ。好きな食べ物、飲み物をトレーに載せ、レジで計算をしてから席につく。メニューも豊富で安くておいしい。全面ガラス張りで、景色を楽しみながらゆっくり食事ができる。

ゲッティ・センターは1日ゆっくりと楽しめる素敵なおすすめ観光スポットだ。もちろん美術に興味がなくても大丈夫!私ももう1回行きたい場所だ。

ゲッティセンター Getty Center
www.getty.edu

●自分を守る●

ゲッティで美術鑑賞をした後は、マーガレットがおもしろくて役に立つところに連れて行ってくれるといった。ただし、私たちが興味があればの話だ。聞いてみると、彼女の住むグレンデールのYMCAで女性のためのセルフ・ディフェンスのワークショップが開かれると言った。実際に誰かに襲われた時にどうやって自分の身を守るか、実践を交えながら学ぶ教室だという。さすがアメリカ!日本じゃこんな教室のことなんて聞いたことが無い。しかも無料だ。これからも旅は続くし、こんなワークショップに参加できる機会なんてめったに無いので行くことにした。

私たちがL.A.にいた時、たまたまカリフォルニアでは『性的暴力認識週間』の期間で、自分自身、または家族が安全に暮らせるようにこういういった催しがいくつかあったようだ。YMCAでもらった冊子を読むと、アメリカでは一生のうちにに性的暴力を受ける女性が3人に1人の割合だという。また、女性、男性、子どもを合わせて性的暴力を受ける人は年間に70万人という数字が出ている。日本はどのくらいかわからないけど、ものすごい数だってことはわかる。

会場に入るとたくさんの人が参加していた。人種、年齢が多様なのはもちろん、中には自分の夫や子どもたちを連れて参加している人たちもいた。参加者の前にはYMCAのスタッフのほかにも制服を着た警官もいて、始まる前に冊子に書かれていたような性的暴力の現実について説明してくれた。そのあと、制服を着ていない男女2人の警察官による襲われたときの対処法の説明が行われた。警察官直々の指導だなんて、さすがアメリカ!

もちろん、私たちも道具を使って実践練習。その道具は発泡スチロールで人の顔を作ったものに長い棒を差し込んでいたものだ。ペアを組み、片方がその棒を持ち、もう片方が発泡スチロールを暴漢に見立ててディフェンスの練習をするのだ。顔の目の部分を指ではじいたり、相手のあごの部分を手のひらではたいたりする練習だ。

私が最初にペアを組んだのはノリコさん。棒を持つ位置は男性の目線を意識して自分よりも高めだ。私が発泡スチロールの顔を思いっきりはたくとノリコさん、
「ひゃ~、チカちゃん空手やってんだから手加減して~」
注意を受けた。いやいや、暴漢に手加減をしちゃいけないんだよ。警官にも、
「お、きみは上手だね」
ってほめられた。それを聞いていた負けず嫌い女のマーガレットが、
「空手とはちがうのよ、チカコ!」
ってちょっかいを出してくる。

それから背後から首を絞められ、ナイフを突きつけられた場合の対処法。この場合、自分の脇をキュッと絞めれば相手も腕を動かせないのだそうだ。その間に自分の足で相手の股間を蹴り上げる。パートナーを変えて練習したが、その女性はとても小柄な東洋系だった。彼女は実際暴漢にナイフを突きつけられたことがあると言っていた。また、前方から暴漢が歩いてきた場合、車に乗っていた場合などのいろいろなシュミレーションを練習した。

この講習を受けるに当たって、警察官の言った印象的な言葉があった。自分が怖いとおどおどしていれば暴漢に狙われやすい。いつでもどこでも胸を張って堂々と歩くこと、『Be Confidence(自信を持って)』の精神が大事なのだと。この『Be Confidence』という言葉は、身の安全を守るためだけじゃなくて、いろんな意味で私たちの旅の合言葉になった。だから、いろんな意味でこの講習に参加してよかったと思う。

後日…

ハリウッド大通を歩く私とノリコさん。そこにアル中か薬中か知らないが路上で大騒ぎをしている男に出くわす。
「俺のキックを受けてみろ、戦いたいか!?」
とわめいていた。こういうときは無視がいちばん、「Be Confidence」と心の中で唱えながら胸をはって歩いた。ふと後ろを見るとノリコさん、尻込みしながら
「ひえ~」
と言いつつ遠回りをして小走りしていた。おお~い、合言葉はどうした~

●寝ても覚めてもハリウッド●

約10日間の滞在期間中、7日間はハリウッドのホステルに滞在した。観光案内は当時無職のマーガレットが買って出てくれたもの、彼女とて10日間フルで私たちに付き合うわけにはいかないのだ。運の悪いことに私たちの滞在中はバス、地下鉄がストを決行中で、ちょっとどこかに観光に行こうにも足が無かった。チャイニーズシアターの辺りを歩くといろんなツアーやテレビ番組収録の観覧などあったものの、ビバリーヒルズの有名人の住むところなんて別に見たくなかったし、暇な時はただひたすらハリウッドを徘徊していた。

アカデミー賞で見るあんな華やかなイメージはあまり無かった。道には赤じゅうたんが敷かれてないし(当たり前だろ!)、道路はいつもたくさんの車で混雑していた。イメージとはかけ離れていたけれども、それでもハロウィーン前だったので町のいたるところに素敵な飾り付けがされていた。

チャイニーズシアターの前にはスパーダーマン、マリリンモンロー、マスク・オブ・ゾロなどのコスプレをした人たちが働いて、彼らと記念撮影すると1ドルのチップを払わなければならない。偽者といっしょに写真とってもな~と一切応じなかったけれども。10月といえども、この年はL.A.は異常なくらいの猛暑だった。スパーダーマンの格好をした男性がマスクを取りながら、私たちの泊っていたホステルの向かいにあった「NIRVANA(涅槃)」という名前のホテルに入っているのを目撃した。中身はトビー・マグワイヤからほど遠かったけれども。

一応典型的なハリウッド観光もやった。チャイニーズシアターでマリリン・モンローの手、足型を見つけて写真をとったり、アカデミー賞で有名なコダックシアターの中を見たり、ワックス・ミュージアムに入ったり、まあそんなもんだ。あの有名な数々のハリウッドスターの絵が描かれている大壁だけは見たくて行ってみたが、特に何も無い通りにある。なんだか不思議。ハリウッドハイランドへはほとんど毎日行った。そこでは普通の観光客らしく、ハリウッドサインを背景に写真をとった。ウィンドウ・ショッピングをするのには楽しいところだ。

L.A.に来て、毎日ハリウッドばかり観光している人もそんなにはいないだろう。まあ、仕方がなかったのだけど、それでも毎日いればいろんな発見もある。例えば、偶然入ったメキシコ料理のレストランが安くて激うまだったり、お土産物屋さんにある変な商品を発見したり、信仰宗教団体のパフォーマンスに遭遇したり…。

来月再びL.A.へ行くが、マーティンが私にどこへ行きたいか聞いてきた。もうハリウッドは嫌だよ~。いいところだけど、堪能しすぎたから。

ハリウッド&ハイランド Hollywood & Highland
www.hollywoodandhighland.xom

コダックシアター Kodak Theater
www.kodaktheater.com

●ドラッグ・ショー!●

アメリカへ渡航前に、金曜の夜はドラッグ・ショーへ行こうとマーガレットからEメールが来た。はて、ドラッグ・ショーって何ぞや?と聞いてみたら、なんともおもしろそうなショーではないか!ノリコさんに話したらもちろん乗り気。ぜひ行きたいと返事をし、それは渡米3日目の夜に実現した。

ドラッグ・ショーのあるクラブはウエスト・ハリウッドにあった。マーガレットは私たちのほかに3人の女友だちを誘っていた。学生時代の親友のセーラ、彼女はお母さんが日系人でパラマウントで働いていた。そしてかつての学校の同僚だったジェニーとマリス。ジェニーは若くてスウィートって言葉がぴったりの女の子。生徒に噛まれて歯型の残った手を見せてくれた。マリスは美術教師。40代には全然見えないバツイチ女性。マーガレットは彼女に絵を習っていた。

もちろん、マーガレットの彼氏のモンティにも声をかけたそうなんだが、ドラッグ・ショーなんて行きたくないと言ったのだそうだ。そのドラッグ・ショーとは…女装した男性、いわゆるMr.レディってやつがステージで歌ったり踊ったりするショーのことなのだ。でも、そのクラブはおかまバーってわけじゃない。カウンターの中にはバーテンダーがいて、普通のバーって感じだ。毎週金曜日にショーが行われているらしいのだが、客層を見るとやっぱりゲイが多かった気がする。

私たちが一番乗りのお客だった。外国でクラブに入るなんて久しぶりだった。私は大好きなギネスを飲む。マーガレットたちなんて、つまみは高いとこっそりスナック菓子を持ち込んでいた。お客が増えてきたけど大半は男性。見るからにゲイの人が多い。私たちの近くに座ったボブという男性がマーガレットに話し掛けてきた。もちろん彼もゲイだった。マーガレットが私とノリコさんが日本から来たと話すと大喜び。彼は建築家で日本に6回も足を運んだという親日家だったのだ。お酒も入って饒舌になったノリコさん、ボブと楽しそうに話していた。マーガレットが私たちに言った。
「こんなクラブに日本人が来ることは珍しいから、みんなあなたたちに興味を持っているのよ。話し掛けてみれば?」
そんなことよりも、私はこの混沌とした空間が楽しくて、それだけで大満足だった。

バーの片隅には小さなステージがあった。歌い手さんはどこ?踊り子さんは?ときょろきょろ見回していると、ものすげーのが店に入ってきた。身長は190cm近くあろうかというマッチョな黒人男性。真っ白なワンピースに身を包み、ブロンドのおかっぱのかつらをかぶり、白いハンドバッグにハイヒール。もちろんメイクをしていて口紅はピンク。
「うわ~、ありゃ和田アキコか?」
とノリコさん。いえいえ、和田アキコは本物の女性ですから。

そしてステージスタート。うん?2人の黒いドレスを着た女性がピアノ伴奏とボーカルをやっている。和田アキコはやんないの?って思いつつショーを見ていると、この女の子たちよく見りゃ男だ…。でも、女性って言ってもおかしくないくらいきれいでかわいいのだ。それぞれ彼氏連れだったし。2人が歌う目の前では和田アキコがうっとりと見つめながら2人の歌を聴いていた。

そしていよいよ真打登場。和田アキコだ。「彼女」はものすごかった。歌はもちろんうまいし、全身を使っての表現、見とれてしまった。プロでもないおかまがこんなに歌がうまいんだから、日本人の小娘が全米デビューなんてしてもかなうはずなんてないって心から思ってしまった。「彼女」とどうしても一緒に写真がとりたいと思っていると、ジェニーが「彼女」を呼び止めてくれ、気軽に応じてくれた。「彼女」は私のデジカメを興味深そうにまじまじと眺めていた。撮影後、ノリコさんがチップを渡すとものすごく喜んでいた。

ショーの後もとにかく飲んだ。アメリカのクラブでドラッグ・ショーを楽しみ、夜遅くまで飲んで大騒ぎできるだなんて、友だちがいるからこそだな。すっかりドラッグ・ショーが大好きになった私は、このあとカナダのバンクーバーでもショーを楽しんだのだった。

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