赤子の頭位の、おむすびコロリン



*おむすびほど怖いものはないのだ!

すでに、登場している、我等、ひょうきん族の頭(かしら)こと四郎の登場と相成った?

四郎ちゃんの生まれは、東海道53次の宿場町、興津宿で、親父さんは日本料理旅館を経営していたのである。

普通なら、御曹司と言うのであろうが、彼は俗に言う道楽息子なのである。

幼少のころから、住み込みの仲居さんたちに、いろいろ仕込まれ、こと女性の扱いは、免許皆伝、いや家元といった方がいいのだろう?

しかし、親父さんは、時代の移り変わりに、彼をラーメン修行にだした。

そして年季奉公の末、店を開いたのである。

当時まだラーメン店は、珍しく、大繁盛。

しかもどういう訳か、うまい?

大ざっぱな、四郎ちゃんにしては、今でも不思議でならないのだ!

その頃、よく飲みに連れて行ってもらったことがあった。

ただ本格的に酔っ払ってしまうと、自分の金も、他人の金もわからなくなってしまう癖があった。

キャバレー、クラブに行って大盤振る舞いなのである。

お金が心配になり、尋ねると「持っていないよ」の一言。

我輩の一ヶ月の小遣いは、一瞬の間に消え去るのである。

ラーメン店開店から何年か過ぎ、出前もするようになったのだが?

出前先に行くと「遅いからいらない」などとお客さんが言おうもなら、「おしまいよ」ってな訳になっちまう。

どんぶりごと、地面に叩きつけ、帰ってきてしまうのである。

そんな彼も、度重なるごとに利口になった。

中身だけを叩きつける手法にいつの日か変っていったのである。

そんな彼にも、世の中で一番恐ろしいものがある。

神さん(女房)である。

奥さんの尻に轢かれているとでも言った方が正解なのだろうか?

「明日、石鯛釣に行かない?」

私の誘いに、彼は大乗り気、今まで断ったためしがない。

次の日、草木も眠る丑(うし)みつ時、四郎、清治(せいじ)、私と3人で車に乗り、

西伊豆の戸田町井田村を目指した。

釣り場に着くと、夜が明けぬまに、各々(おのおの)好きな岡場所に入るのである。

岡場所といっても綺麗なお姉さんがいるところではない。
(岡続きで歩いて入れる釣り場)

1m以上あるゴロタ石が、行く手を遮る。

鳥目の人にはもちろん歩けない。

つまずき、ひれ伏し、猿の如く四つんばいで探り歩くのである。

釣り場に着き一息入れる間ももどかしく、竿をつなぎ、この前の釣りで、残ったサザエを茹でて、冷凍保存しておいたものをハリに刺し、海に放り込んだ。

そしてやっと一息つくのが、いつものパターンなのだ!

石鯛釣はいい。

当たりがあるまで、竿を竿立てに置き、寝て待つ。

あたりが頻繁にある時は要注意である。なぜって?

ウッちゃん(うつぼ)が多いせいである。

ワイヤー仕掛けはぐちゃぐちゃ、10本作ってきたはずなのにもうない。

当たりもなく、いたずらに時間だけが過ぎ、昼飯の時間になったのだ。

この時間帯にはどこからともなく人が集まり一緒に昼飯となる。

おかか、梅干入りのむすびが主流であるが、今日は、ちょっとしゃれ込んでパンといったところだろうか?

四郎ちゃんはといえばなかなかこない?

石鯛の当たりがあったか、釣ったのだろうか?

暫くして、水等と大きな包みを持ってやってきた。

そろそろ、食べようか? 清ちゃんが言った。

私と清ちゃんはすぐ、むすびに噛り付いたのだが?

四郎ちゃんはといえば、袋の中を覗き込むだけで、食べようとしない。

「食べないの」声を掛けたのが、清ちゃんだった。

恥ずかしそうに、袋から出したのが、赤子の頭ほどもあろうかという、のりを貼りつけたおむすびであった。

ビックリするやら、呆れるやら、どうしたの?

四郎いわく「きのう夫婦喧嘩をした」のだという。

「忙しいのに毎週日曜日は釣り三昧」奥さんの堪忍袋の緒が切れたのも当たり前であろう。

中身も知らず持たされたのが、「ご飯に塩とのりを巻いただけのむすび」だったというわけである。

嘘のような本当の話なのだ!

そのむすびに噛り付く姿はちょうど赤ちゃんの頭にキスをする優しいお父さんというところであろうか?

神さん(かみさん)の情念の乗りうつったおむすびは、突然手から転げ落ち、岩の隙間をすり抜けて海の藻屑となったのである。

石鯛は釣れたかって?

もちろん四郎ちゃんと私は坊主(釣れないことを言う)

釣れたのは、4㌔のカンダイ(おでこがでていて、坊主のような頭をした魚)を清ちゃんが釣っただけであった。

坊主に似たおむすびの呪いに翻弄された釣りになってしまったようである?

女は怖い!


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