愛し愛されて生きるのさ。

愛し愛されて生きるのさ。

その7

○SPEED『Wake Me Up!』

元SPEEDの面々は気づいたらエイベックスに所属していた。いつまでもトイズファクトリーのイメージが強いから、どうもエイベックスには馴染んでいない気がする。ちょこちょこ再結成するのはご愛嬌。

この『Wake Me Up!』は「これぞ青春!」というディティールをこれでもかとばかりに詰め込んだ、若さがパッツンパツンに弾ける楽曲である。

「ラズベリーのパン頬張って ダッシュで行けばいつものに間に合うよ」

パンを頬張ってダッシュ、というのがミソである。進研ゼミのマンガでもそうそうやらない、ベタなシチュエーションがたまらない人にはたまらない。少女漫画的なシチュエーションだが、実際やってる人がいたらいい笑い者である。

「何処からきて 何処へ行くの 人は」
「出会いと別れを繰り返し 自分に目覚めるWake Up」

唐突に人生の深淵を見つめてしまうところも若さゆえである。歌詞がちょっと中島みゆきの『時代』がかっているが、そこはあえて気にしないのが正解。

この歌で一番腑に落ちないのが
「街中がみんな他人に見えても 仲間たちに会えるよ」という部分。

そりゃあ街中みんな他人だろ。
街中みんな友達に見えたらそれは完璧にラリってる。
それとも「スピード=シャブ」というのを暗にほのめかしているのだろうか。

何はともあれ、SPEEDの不安定な心理状態を見事に表現した楽曲である。

○MY LITTLE LOVER『evergreen』

マイラバは当時あんまり好きじゃなかった。最近になって急に聴きたくなったので、レンタルしたり中古で買ったりして聴いてみた。すると彼らはとても良質な音楽を作っていたことに気づかされた。

最近発売されたセルフカバーアルバム『organic』に収録された『evergreen』は出色の出来である。アコースティックな音色で原曲よりも遅いテンポで演奏されるこの曲は、壮大なイメージで春夏秋冬を描いている。そんな風景描写と絡めて「愛」という普遍的なテーマを浮き彫りにしているが、ちっとも嫌味に聴こえない。そこは小林武史の作り出すメロディの美しさとAKKOの声の魅力によるところが大きい。

AKKOの声は不思議だ。地声バリバリで思いっきりノドで歌っている感じは「もしかしたら音痴?」という印象すら与える。しかし曲に応じて表情が豊かに変化し、メロディと声の絶妙な化学変化を見せる。マイラバの功績はAKKOの声である、と言ってもいいかもしれない。

『organic』によって新たに生まれ変わった楽曲たちは色褪せない魅力で再び現れてきた。マイラバがちょっとでも好きな人なら、聴いてみて損は無いアルバムである。

○MAX『Love impact』

今のMAXには過去の輝きが全く無い。歳を重ねるにつれてチヤホヤされなくなり、活躍の場もずいぶん減ったようだ。この間、『カラオケ完璧に歌えたら○万円』とかいう番組に出ていて驚いた。パッと見たところシェイプアップガールズみたいなセクシーユニットかと思ったらMAXだった。しかも大して特別扱いされているわけでもなく、そこらへんのタレントと同等の扱いだった。ほんの数年前だったらこんな扱いはされていなかったはずだ。

しかし私はそれを見て、ごくごく自然なこととして受け止めていた。もともと全盛期の頃から遅かれ早かれこうなってしまうんじゃないかという危険を孕んでいた気がする。安室奈美恵が持ち合わせていたカリスマ性はMAXには存在しなかった。

「カリスマ性」という言葉は「お高い」「迂闊に近寄れない」という意味も含んでいる。その点で言うと、MAXは以前から「歌って踊れるホステス軍団」という見えないレッテルが貼られていた。サービス精神が旺盛なゆえに、安っぽいイメージは拭えなかったわけだ。しかもSPEEDのようにバラ売りできるほど突出した個性があるわけでもない。売れていた時期から背後には暗い影が忍び寄っていたのである。

MAXというと『TORA TORA TORA』が最も印象的であるが、私にとって一番思い出深いのはこの『Love impact』である。なぜかというと以前スキー場に行ったときに、ゲレンデでひっきりなしにかかっていたのがこの曲だったのである。ゲレンデで流れている曲というのは無意識のうちに頭にインプットされてしまう。しかもこの曲はタイトル通り、サビのインパクトが強烈である。そのため私のスキーの思い出はこの曲で彩られているのである。

かつてリードボーカルを担当していたミーナが結婚し出産するということで、MAXは新たにメンバーを補充し活動を続けてきた。決して「ミーナ引退」ということではなかったはずだが、結局なし崩し的に現メンバーのままで活動しているようだ。おそらくミーナは出産を終えているはずだが、復帰するような気配はない。一体全体そこんとこどうなったのかライジングプロダクション。

○TAK MATSUMOTO featuring 倉木麻衣『イミテイション・ゴールド』

足りない。明らかに声量が足りない。オリジナルである山口百恵のドスの効いた奥行きのある声に比べて、倉木麻衣の声は薄っぺらく平面的である。

カバー曲でオリジナルを超えるのはなかなか難しいことではある。しかし「超えてやろう」という意気込みは大切である。ということでボーカルに倉木麻衣を選んだ最初から問題はあった。ミスマッチすぎるのである。もともとビーイング系の女性歌手の歌声は儚げである(愛内里菜を除く)。そんな彼女たちにアクの強い歌謡曲を歌わせるのはちょっと無理があると思う。どうしたって彼女たちの声よりも楽曲の持つ力のほうが上なのだ。バランスが悪い。それにやっぱりオリジナルのイメージが強いだけに、それを乗り越えて違和感を無くすにはもっと声の個性が必要である。「毒をもって毒を制す」ぐらいの意気込みでなければカバーソングは歌えない。

サビの「♪ア・ア・ア イミテイション・ゴールド」の「ア・ア・ア」の部分がやたらセクシーめいていた。一瞬「これ、山本リンダの曲だっけ?」と勘違いしてしまったほどである。

○m-flo loves melody.&yamamoto ryohei『miss you』

Lisa脱退後、毎回異なるヴォーカリストを迎えて新曲を発表しているm-floだが、今回はmelodyと山本領平。どちらも新人で今回は大抜擢と言えるのではないか。

m-floお得意のトリッキーな音楽は今回も炸裂している。言葉の洪水のようなラップとメロウなメロディが絡み合って高揚感を生み出している。m-floのラップは暑苦しいメッセージ性が無いのがいい。

私はmelodyという人も山本領平という人もよく知らないが、クラブ映えする歌声であると思う。どちらもどこか冷めた歌声とでも言おうか。

山本領平という人は、ジャケット写真で見る限りでは、稲垣吾郎と藤井隆を足して2で割ったような顔をしている。平井堅などに代表される、若い女性のハートを打ち抜くような甘い歌声である。

カップリングはケミストリーとのコラボレーション。こちらが出色の出来。エフェクトを多用した遊び心満載の楽曲である。こちらもトリッキー、かつスペイシーである。どちらかというと、カップリングの方が面白い。

○平井堅『メリー・ゴーラウンド・ハイウェイ』

この曲はなんと、「高速道路で事故に遭い、臨終を迎える男」の歌である。つまり「メリー・ゴーラウンド」は「走馬灯」を指しているわけである。

平井堅の楽曲の中でも、最もストーリー性が強い曲ではないか。彼の曲すべてを聴いたわけではないが、これほどまでにストーリーが前面に出ている曲もなかなか無い。

この曲を聴くならオリジナルよりも『kh re-miwed up 1』に収録されている「Dj ajapai mix」が良い。テンポが早くなり疾走感が増している。曲調は明るいが、その分、詞をじっくり聴くと悲壮感がひしひしと感じられる。

○CHARA『罪深く愛してよ』

1994年に発表されたアルバム『HAPPY TOY』に収録されている楽曲。

CHARAの音楽は、彼女が結婚し子供が生まれてから変化していったような印象を受ける。徐々に母性のようなものを前面に打ち出した、温かみのあるサウンドになってきたように思える。それはそれで面白いのだろうが、どこか音色がアコースティックメインでワントーンな印象を受け、ちょっと退屈である。

この『HAPPY TOY』に収録されている楽曲は、CHARAが結婚する前のものなので、かなり跳ねていてキャピキャピしている。サウンドから受けるイメージもカラフルである。そんなわけで、このアルバムはタイトル通り玩具箱をひっくり返したような楽しさに満ちている傑作である。

その中でもひときわポップなCHARAが楽しめるのが『罪深く愛してよ』という楽曲である。アップテンポなトラックにのせて早口でまくしたてられる歌詞は正直何を言っているのかわからないが、英語なのか日本語なのかわからない独特の発音が逆に心地よい。詞の内容がどうこうと言うより、言葉自体が曲を構成している楽器の1つなのである。

こんな風に跳ねたCHARAをまた見たいものである。

○鬼束ちひろ『いい日旅立ち・西へ』

鬼束ちひろという歌手は常に威嚇しているように見えて仕方が無い。歌っている顔が「ガオー」と言っているようで、今にも喰われそうである。非常に怖い。

そして彼女の歌、というか声からはどこか死の匂いを感じる。最近山口百恵の『いい日旅立ち』をカバーしたが、歌の内容がどうこうと言うより、彼女の声は「死出への旅立ち」を歌っているようである。華厳の滝あたりで聴いたら思わず飛び込んでしまいそうだ。

昔、シャンソンで『暗い日曜日』という歌があり、それがラジオで流れると自殺者が続出したという話があった。ふと鬼束ちひろの声を聴いてそれを思い出してしまった。

○中谷美紀『砂の果実』

Sister Mこと坂本美雨との競作。

作曲はもちろんプロデューサーである坂本龍一。作詞はチェッカーズを始めとして、数々のアイドルやシンガーに詞を提供している売野雅勇。

この曲はとにかく詞にインパクトがある。
サビなんて「生まれてこなければ 本当はよかったのに」である。
森田童子なみの厭世観。
しかし、脆い人間を表現した「砂の果実」という言葉が秀逸。

この曲は要は「あの頃描いていた未来の自分はこんなだったのだろうか」ということを歌っている。
SMAPの『夜空ノムコウ』と歌っている内容は似通っているが、楽曲から伝わってくる温度から、この2つの曲は全く対極に位置している。

『夜空ノムコウ』がどこかノスタルジックで温かみのある楽曲であるのに対し、『砂の果実』は徹底的に優しさや温かさを排除した冷淡な印象である。
これは中谷美紀の声質に拠るところが大きいだろう。

彼女の声は、歌う女優特有の不安定な音程でありながらも非常に澄んだ声質である。「歌う女優」というカテゴリで見たら、中谷美紀と原田知世は演技の世界とは別な歌の世界を構築している。

そんな中谷美紀の声質と坂本龍一の計算されつくした楽曲が一体となることで、少年期のイノセンスを表現することに成功していると思う。

ここまでどん底な気分を味わえる曲はそうそう無い。

○川口大輔『HIGH CRIME』

浅野温子&三上博史主演のドラマ『共犯者』の主題歌であったこの曲は、とてもアダルティでエロさ満点の曲に仕上がっている。

ラテン・ハウスにそこはかとなくジャズのテイストを散りばめたような、不思議な高揚感を持つ曲である。
イントロのベース音が印象的。CD1枚1000円だとしたら、ここだけで300円は払える。それくらいに印象的でカッコいい。そのベースにピアノが絡み、グルーヴィーな音楽が展開される。

たぶんこの曲はドラマのタイアップを意識して制作されたものだと思われる。それだけに映像と音楽がバッチリ合っていた。
未だにこの曲を聴くと、浅野温子がむせび泣く姿が思い浮かぶ。

○タッキー&翼『夢物語』

ジャニー&メリーの喜多川姉弟のお気に入りで、鳴り物入りで送り出されたタッキー&翼が、セールス上どうもパッとしない。
タッキーこと滝沢秀明も、翼こと今井翼もCDをリリースする前から知名度は高かった。もう年齢もそこそこである。

テレビ番組でジャニーズの先輩である東山紀之がこの2人のことを「完成度が高い2人」と言っていたが、そこが彼らがどうもセールス上パッとしない要因ではないだろうか。

というのもジャニーズのタレントがCDデビューする時は、どこか未完成な状態であることが多い。今までのジャニーズアイドルはみんなそうだった。しかしタッキー&翼は機が熟し過ぎてしまったのか、デビュー時にして出来上がってしまっている。そのためジャニヲタの人々にとっては「私が育てる」という感覚が希薄なのではないだろうか。

そしてこの『夢物語』を歌番組で観て思ったのは、やけにセクシーさを売りにしているということ。彼らはまだ二十歳そこそこである割に、セクシー路線を邁進しているようだ。
ジャニーズでセクシーさを売りにしているアイドルはいそうでいない。画期的であるがために受け入れられるのにはちょっと時間がかかるかもしれない。

しかしタッキー&翼の完成度とともに、この『夢物語』の楽曲としての完成度もなかなかのものである。
エッジの効いたサウンドに、どこかディスコティックなテンポ感。彼らのファンでなくともノリノリになれること請け合いである。

ちなみに私は、この曲のサビの振り付けをマスターしてしまった。
何となく覚えたくなる振りなのである。
楽曲はかなりキャッチーな出来なのに、一般大衆の心をしっかりとキャッチすることはできなかったようなのが残念である。

○NOKKO『CRYING ON MONDAY』

『人魚』が聴きたくてブックオフで250円で購入したNOKKOのアルバム『coloed』に収録されていた曲。
『人魚』に匹敵するくらい聴き応えのある楽曲だった。

NOKKOの鼻にかかったような声はかなりユニークである。正直、上手いのかヘタなのかわからない。しかし誰が聴いても「これはNOKKOだ」と聴き分けられる声は唯一無二の個性である。しかしソロとしての彼女は「元・レベッカ」というイメージから脱却できていないようにも思える。様々なクリエイターと組んで楽曲を作っても、どこかパワーが足りないような気がしてならない。

この『CRYING ON MONDAY』はNOKKO自身が作詞・作曲した、アルバムの中でも異彩を放った楽曲である。失恋をテーマにした詞に、金子飛鳥の流麗なストリングスが迫力を持って絡んでくる。

この曲を聴く限り、NOKKOは相当なポテンシャルを秘めたシンガーであるということが実感できる。
NOKKOは結婚してアメリカに移住してしまい、現在は全くと言っていいほど活動していないようだ。一時期『夜もヒッパレ』という番組のアシスタント司会を勤めていたことがあったが、そこで披露していた歌声は正直ボロボロだった。

遊び心に満ちたNOKKOの歌をもう一度聞きたいと思っているのは私だけではないはずだ。

○工藤静香『恋一夜』

工藤静香といえばこの楽曲が真っ先に思い浮かぶ。
この曲をリアルタイムで聴いた時、私はまだ小学生くらいだった。
それでも直感的に「いい曲だ」と感じていた。

大人になって聴き返しても色褪せることの無い魅力を持つ曲だと思う。
後藤次利による独特のテンションを持ちインパクトの強い楽曲もさることながら、この曲の最大の魅力は松井五郎による詞であろう。

1人の男を好きになった女の「好きだけど怖い」という微妙なニュアンスを上手く表現している。

「抱かれていながら さみしくて」
「わからない わからない どうなるのか」
「どこまで好きになればいいの 涙に終わりはないの」

人を好きになってしまったとき、この先自分がどうなってしまうのかと怖くなってしまうことがある。
夜を共にしても、先が見えないことに恐怖を味わうこともある。

「堕ちるところまで堕ちたい」というリアルな恋愛感情を官能的に描写した、名曲である。
工藤静香の深みがあって叙情的なヴォーカルが一段と冴え渡って聴こえる曲だ。

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: