愛し愛されて生きるのさ。

愛し愛されて生きるのさ。

石井隆

○『ヌードの夜』

 石井隆は元々、バイオレンスとエロスが主体となっていた劇画家であった。その後、映画監督になり男女のやるせない性を描いてきた。

 『ヌードの夜』は竹中直人・余貴美子主演。竹中直人の笑いいっさい無しの芝居が見られる。ハードボイルドでありながらも一途な恋心を抱く男を好演している。余貴美子も影を背負った謎めいた女がよく似合っていた。

 ラストのダンスシーンはとても切ない。泣けた。

○『死んでもいい』

 永瀬正敏・大竹しのぶ主演。永瀬正敏唯一の石井隆作品。人妻に恋してしまった青年のとんでもない行動を描く。

 とにかく永瀬正敏演じる青年の、猛禽類のような猛々しさが印象に残る。惚れた女をモノにするためだったら何だってやる。そしてこの禁断の恋は、夫殺しという凶行へと彼を駆り立ててしまう。破滅的なエンディングである。

 石井隆の映画特有の雨はここでも健在である。雨が余計に痛々しさを増幅し、ドロドロした愛憎劇を演出している。大竹しのぶと永瀬正敏の身体を張った鬼気迫る芝居が凄い。

○『天使のはらわた 赤い閃光』

 川上麻衣子主演。過去にレイプされたという暗い過去を持つ女が主人公。

 主人公の名美は、ある日泥酔してしまって気がついたらラブホテルにいた。そしてその傍らには血みどろの男の死体があった。そこから忌まわしい過去を絡め、ストーリーが進んでいく。

 血なまぐさいドラマが展開し、なんとも後味の悪いラストが待っているサイコ・サスペンス。川上麻衣子が血みどろのヌードを披露している。しかし彼女のセーラー服姿は、ちょっと見てはいけないものを見てしまった感じ。それも含めて、怖い映画である。

○『夜がまた来る』

 夏川結衣の映画初主演作。初主演でここまでやってしまった度胸は凄い。詳しくは別ページに書いてあるとおりだが、とにかく夏川結衣が堕落しきっていながらも美しい芝居を見せてくれる。ラストの屋上のシーンは痛々しく憐れであるが、男と女の深い情愛が伝わってきて感動的でもある。根津甚八がストイックでカッコいい。

○『GONIN』

 佐藤浩市・本木雅弘・ビートたけしといった石井隆の世界とは異質なキャストを主演に据え、竹中直人・根津甚八・椎名桔平たち常連で脇を固めた意欲作。この映画はかなり大規模で上映された記憶がある。

 しかしこの映画ははっきり言って面白くない。出演者が多いために1人1人のエピソードや心情が希薄になってしまって、ただストーリーが進むだけの物足りない映画に仕上がってしまっている。佐藤浩市と本木雅弘のキスシーンだって唐突でとってつけたようなので、意味があったのかよくわからない。

 唯一、椎名桔平が頑張っていた。常にテンションが高いチンピラ役で悲しい結末が待っているが、彼に一番人間臭さを感じた。

 石井隆の作品の中では、せっかくの豪華キャストであるにも関わらず凡庸な出来であった。

○『GONIN2』

 前作の『GONIN』が男たちの映画であったのに対して、『GONIN2』は女たちの逆襲劇である。ちなみに前作との直接的なストーリーの繋がりはないが、細かい部分に注目するとリンクしている部分が発見できる。

 出演は大竹しのぶ・喜多嶋舞・余貴美子・夏川結衣・西山由海・緒形拳。これも別ページに書いた通りであるが、女たちが主人公のハードボイルド映画であるのが面白い。女たちが銃を構え、男たちに立ち向かっていく姿がキマッている。冒頭の宝石店強盗のシーンは上手く構成されていて、緊迫感が伝わってきた。

○『黒の天使 vol.1』

 このあたりから石井隆の映画には深みや説得力が欠けてくる。要は、面白くなくなってくるのである。以前の映画のようにセックスや暴力に必然性が感じられず、深い部分まで描けない代わりに安っぽいアクションで覆い隠そうとしているように思える。

 主演は葉月里緒菜。これがまたヒドい。やっぱりこの人は大根である。複雑な過去を背負った役であるはずなのに、そういう魅力が無い。この人は「影がある芝居」を履き違えているように思えて仕方ない。

 葉月だけにとどまらず、その他のキャラクターもみんな中途半端。そんな人たちがただドンパチやっているだけだから面白いわけがない。カタルシスが感じられないのである。

 なんともチグハグな映画を作ってしまったもんだ。

○『黒の天使 vol.2』

 天海祐希を主演に据えた『黒の天使』シリーズ第2弾。

 しかしこれまたヒドくて、ほとんどが私の記憶から削除されてしまっている。天海祐希は今でこそ個性的ないい女優になってきたが、この当時は宝塚を退団して、鳴り物入りで映画界に進出したが暗中模索している状態であった。そんな時にこの映画を観て、「大丈夫か天海?このベクトルでいいのか?」と思ってしまったものだ。

 その後の天海祐希はうまいこと軌道修正して今日の活躍に至る。よかったよかった。この映画は踏み台にすらならなかったってことだ。意味ねぇ~。

○『フリーズ・ミー』

 まさかというか、ついにというか、主演は井上晴美である。この人って確か昔はお色気路線で売っていたような気がしたが、気がついたらテレビドラマで気風のいい姉御みたいな役が板についてきていた。そのキャラもちょっと飽きられてきたのか、再びお色気解禁である。

 とは言ってもこの映画のお色気は、あまり宜しくない。せいぜい週刊ポストあたりで「ついに井上晴美クンが脱いだ!」程度のものである。要は「脱いだ」という事実だけが重要で、そこに官能はないのである。確かにカラダは凄かったが。

 お色気はイマイチであったが、ストーリーはまあまあ面白かった。昔自分を陵辱した男たちが再び現れ、その男たちを殺して冷蔵庫に詰めるという話。なんだか文字にすると陳腐だが、実際もけっこう陳腐である。都合が良すぎるところが多い気がする。しかしそれはそれ、「ありえね~」とは思ったが不快ではなかった。自分の中での「面白い・面白くない」の基準がよくわからない。

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