愛し愛されて生きるのさ。

愛し愛されて生きるのさ。

『イレイザーヘッド』

『イレイザーヘッド』(1976/デイビッド・リンチ監督)
イレイザーヘッド


 映画で吐き気を覚えたのは初めてだった。夜中に1人で「うわー、うわー」言いながら観ていた。

 スプラッタ系のホラー映画もグロいことはグロいのだが、やはりあれは作り物という先入観があるから、それほどこたえることはない。だがこの映画の一番の恐怖である畸形の胎児は作り物なのか、もしかしたら本物なのかわからない。デビッド・リンチの本を読んだ際にこのことが触れられていて、「あの胎児は作り物なのか?」というインタビュアーの質問にリンチは「それは答えられない…本当に答えられないんだ」と言っていた。この回答が怖い。この映画が制作されたのは1976年で、それほど特撮技術はレベルが高いものではなかったはずだ。それなのにこのリアルな胎児はもしかしたら…と思わせる。

 映画を観た、という感覚よりは誰かの悪夢を覗き見してしまったような感覚に陥る。やっぱりデビッド・リンチは変態である。後のリンチ映画によく出てくるリンチらしさが随所に現われる。ラジエーターの上で歌って踊るこぶ付きの女などがそうである。可愛らしい表情で歌うが、かなり禍々しい。リンチ映画は、「可愛い」と「不気味」が同居している不思議な世界である。

 爬虫類のような畸形の胎児が泡を吹いて死ぬところで私の不快感はピーク。観なければよかったと後悔したが、しばらくすると怖いもの観たさと、深いところまで理解してみたいという欲求のためまた観たくなってきた。これが俗に言われるリンチ・マジックなのか。

 色々な意味でも大きなショックを与えられたこの映画。傑作とか駄作という言葉では片付けられないものがある。この映画を観た時のインパクトは一生忘れられないだろう。



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