澱。






          音も立てずに扉を開けた。

          錆びて紅く変色した扉が重たそうに動いた。

          あたしは鉤を持って居た。

          紛れも無い、此の澱の鉤だ。



          暗い空の中を泳いで居た。

          濁った空気は あたしの四肢に纏わり付いた。

          肺のなかに空気が溜まって身体が重かった。

          あたしの行き先に果てが有る保証なんて無かった。

          あたしに水先案内人なんて必要無かった。

          目的地迄は自分の尾鰭が導いてくれた。



          比処に居ることを望んだのはあたし。

          自分から扉を開けて内側から鉤を掛けた。

          あたしには其れだけが全てだった。



          あたしは外界に辟易して居た。

          此れ以上泳ぎ続けるコトなんて出来なかった。

          あらゆる事情から目を背け、塞ぎ込んだ。

          もう誰の声も必要無かった。



          あたしは鉤を握り絞めて居た。

          出口なんて何処にも無かった。

          何時か比処が埋まってしまえば良いと想った。



          音も立てずに扉を開けた。

          錆びて紅く変色した扉が重たそうに動いた。

          あたしは鉤を持って居た。

          紛れも無い、此の澱の鉤だ。

          あたしはそっと澱に鉤を指し込み、扉を閉ざした。






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