色彩工房

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一章 積み木の町


あの少女が言うには、少年はこれからたくさんの「世界」に行って失くしたものを取り戻さなければならないのだ。
それを「カケラ」と呼ぶらしいが、少年は「声」を取り戻した後ひたすらに悩んでいた。
(他のカケラって・・・オレが失ったもの、って事だよな)
少年にはまだそれがわからずにいる。ただ考えてもその答えは出そうになかった。
何しろこの「館」の絵を描いていたという事ぐらいまでしか「元の世界」での事も思い出せないのだから。
(オレが失ってるのって・・・単純に思い出、とか?それじゃ、なんで声を失って・・・?
 そういえばあいつ、この場所へ来るための代償として失ったとか何とか言ってたな・・・)
そう考えた時、突然またあの声が頭に響いた。ふと、立ち止まる。

『 言ったでしょう? ここは、真っ白な場所なのだと 』

「え?」

『 イメージの始まる場所は、全てが真っ白。 だからあなたも、真っ白になったの。 』

「まっしろになった・・・て、だから声と記憶以外の何が・・・!」
少年は声にまた問いかけようとしたが、その返答は返ってこなかった。
少年はむくれた顔でチッと舌打ちをすると、また仕方無さそうに最初の部屋へと歩き始めた。



「さてと。」
最初の部屋へと戻ってきた少年は、一通り辺りを見まわしてみた。
なんだかよくわからないが、部屋の中には色々な物が置いてある。
先程見た時は随分殺風景だと感じたはずなのに、と少年は不思議に思った。
「お?何だ・・・・・積み木、色のついた積み木、だな。」
少年が最初に目についたのはそれだった。
近寄って行ってみると、部屋の端の棚に並べてあるそれは、綺麗に積み上げてあって、まるで何かの形のようになっていた。
ただの積み木もこうして見ると、こんな館のインテリアの1つにならなくもない。
「積み木なんて、触るの何年ぶりかな・・・・・」
そう言って、少年は何の気もなくそれに触れる。気付いたのは既にその後だった。
「あっ・・・・!」
突然積み木が光を発したかと思うと辺り一面が光に呑み込まれ、少年もそれと同時に光の中へ呑み込まれていった。
光がおさまった後、少年の姿はその部屋から消えていた。






 第一章 



ざわざわと人の声がする。たくさんの人の声。まるで街の中を行き交う人達の声のようだ。
少年は静かに閉じていた瞼を開いて、その世界を見つめた。
「う、わ・・・・・・」
少年は目を見開いた。
そこはまるで積み木を並べたような色とりどりの屋根がついた家や店がたくさん並んだ、まさに「町」そのものだった。
ついさっきまで真っ白な館の中にいたはずの少年は面食らっていた。
「な、なんかよくわかんないけど・・・これがあいつの言ってた「世界」の中のひとつなのかな?」
少年は自分がした事をよく思い出して整理する。
あの館の中にあった積み木に触れた途端光に呑み込まれて気がついたらこんな所にいる・・・
それ以外に自分がこんな場所にいる理由はあるはずがなかった。
「となれば、この世界のどこかにもオレの失くした「カケラ」があるのか・・・」
しかし少年自身もまだその「カケラ」が何のものなのかわかっていない。
探すと言っても、ここは勿論見知らぬ世界なのだから簡単に見つかるわけはない。少年は困惑していた。
「でも探さなきゃならないわけだしなぁ・・・。・・・・・・それにしても・・・」
少年はそんな事を呟きながら辺りを見まわす。
「この町に住んでるのって、何か人間だけっていうわけじゃないみたいだな・・・」
言葉が果たして通じるだろうかと少年は不安になった。
なぜなら、周りを行き交う人々の中にはちゃんとした人間もいれば、亜人のようなものもいるし、
中にはなんかよくわからない形容しがたいような二本足歩行の生物もいた。・・・見ている限り、害はなさそうだが。
しばし呆然としていると、近くで何やら声がした。

「待ってくれ!家出なんかしないでくれ、チェルシー!!」

「・・・・・・」
どうやら、そこで引き止めている男性と引き止められている少女は親子のようだった。
少年はわけのわからないまま、とりあえずその場を見守る。

「・・・家出じゃない。すぐそこの公園まで日にあたりに行くだけ。恥ずかしいから、大騒ぎしないで。」
チェルシーと呼ばれた少女は、冷めた瞳で男性を見ながらそう言い放った。
「そ、そうなのか?だ、だったら日が暮れる前には帰ってくるんだぞ!!」
「そんなの私の勝手。・・・・・・それに、私、今 チェルシーじゃないわ。」
「何?!」
「・・・・・・それじゃ。」
少女は言い終わると振り向く事もなく、少年の横を通り過ぎ道を歩いて去っていった。
家の入口でへたり込んだままの男性は少し哀しそうな表情で、呆然と少女の歩いていった方を見つめていた。
少年は目の前で起きた出来事になおも困惑しつつ、その場からまた動けずにいた。
「なんなんだ・・・どういう事だ・・・?親子喧嘩・・・?
 ていうかお父さんの方はチェルシーって呼んだのにチェルシーじゃないって一体・・・???」
ガチャッ、バタン・・・
ドアの開く音がしたかと思うと、男性の後ろの方から何か歩いてやってくるのが見えた。
「ラーズさん、あの子の事は放っておくにゃ。どうせいつものアレにゃ。いちいち気にすることじゃないにゃ。
 それより、店番の日なのに店放ってそんな事してたらまたリエルさんに怒られるにゃ。」
「クリム・・・だ、だってチェルシーが・・・チェルシーが・・・」
ラーズと呼ばれた男性はまだ半泣きの状態でそのクリムとやらにすがる。
クリムは口調からも見てとれるようにどこからどう見ても猫だったが、服を着て、立って、普通に歩いて、喋っている。
少年の中でまたも困惑のネタが増えてしまった。
(あのおっさん、親バカってやつ・・・?ていうかアレ、猫だよな。歩いてるな。二足歩行で・・・猫が・・・)
少年がメルヘンな状況に困惑している間にも、話はさらに進んでいた。
「あーはいはい、わかったから店番に戻るにゃ。じゃないとオイラがリエルさんに怒鳴られるにゃ。」
「うっ、うっ・・・そ、そうだな・・・わかったよ」
渋々といった感じでとぼとぼ歩いて、ラーズは店らしき所の中へと戻っていった。
クリムはふぅ、と溜め息をつくと腰に手をあてた。すると、思いついたように少年の方を見る。
「そこの人」
「・・・?!な、な、何?」
「今のを始終見てたからといって君には関係のない事にゃ。関わりたくない事には関わらない方がいいにゃ。面倒な事になるにゃ。
 そういうのには関わらないのが賢い生き方にゃ」
なぜ最初から見てたことを知ってるんだろうか、と思いながらも、少年はクリムに言われるがまま。
「それじゃ、にゃ」
「え、あっ・・・」
そう言うとクリムはとことこ歩いて、元来た方へと戻っていった。少年は呆然と立ち尽くす。
(・・・確かに、確かにそりゃ・・・面倒事には関わらない方が賢明・・・だけど・・・けど・・・)
少年はまだ現れたときの場所から動いていなかった。が、いつの間にか一歩踏み出していた。
(何にもしなかったら、探しものも見つかるわけないっつーの!!
 こうなったら関わった事には最後まで関わってやろうじゃんか!!ちくしょー!!)
少年はクリムが歩いていった方へ走っていき、ドアを開けてその家へ入っていった。
少年はほとんどヤケであったが、「カケラ」を探すという目的がある以上、
立ち止まっていても仕方ない事に無意識に気がついていたのだ。
たとえ何の収穫があるかないかもわからなくても、何かしているうちにきっと、どこかへは辿り着けるはずだと。

少年は駆け出し、そして関わっていく。何かの始まりへと。

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