女子高生Aの日記(仮)

女子高生Aの日記(仮)

カンバスの世界

カンバスの世界


自習室の君に手を振って 靴を鳴らして階段下りる

鞄を右手に持ち替えて 定期入れは前もって取り出しておく

ガラスのドアを押して 砂利道に一歩踏み出して




              天頂の どこまでも深い青

              筆で刷いた 真珠色の雲

              淡く霞んだ 金の円

              銀の小さな飛行機が 透明の集まった 白を描く


              椿の簪が 温かい土の絨毯に落ち

              幾重にも重なった紅の蕾が 桃色の薄衣を広げ

              凛と背筋を伸ばす 水仙の姫君               


              白茶けた風の舞う 砂のグラウンド

              金属音と同時に 解放される白球

              ラケットの張り切ったガットの間 通り抜ける風の声

              ただ無心に走る運動靴と 蹴り上げられる砂




誰が この風景を描いたんだろう

大きな刷毛と 細かな面相筆で この世界を描き出したのは 誰?


夕暮れには少し早い この一瞬を写し取った3次元のカンバス

素晴らしくて 涙が出そう


誰だっていい 

何故 どうして?

どうして こんなに器用に 私の居場所だけ切り抜いてあるの?


美しくて 涙がでそう

でも こぼれた涙の居場所も きっとこの絵には残されてないんだろう




泣くことさえも 許されなくて

それでも 聞き分けのない子供のように 

あるはずもない 居場所を求めたとき

不思議なくらい 抵抗も無く…




たった今降りたばかりの 灰色の螺旋階段

今度は駆け上がる 全速力で

走って 走って 走って




              中庭の竹が さやさやと風を抱く

              切り取られた空は 淡く 眩しく光る




美しくて 苦しくて 涙が出そう

階段に響く乾いた足音も 心なしか遠く聞こえる

これも絵の一部なんだね

私と違って 綺麗なものだから




手を振って出てきたドアを

今度は力いっぱい開けた




大して広くもない部屋 机の前で

目を見開いた後 ちょっと笑ってくれた 

ドアの外にある 誰かの描いた美しい世界

そこにあった何よりも 清々しい空気が

だだ1人 私を認めてくれた

美しくなんか 全然ない私を



嬉しくて 嬉しくて 本当に涙がこぼれた

涙の居場所も ここにはある

そう 知っていたから






少しだけ ここにいてもいいですか…。







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