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アンドレスは、真意を込めた真摯な声で続ける。
「俺は、これからはトゥパク・アマル様のお傍でお守りすることはできなくなるけれど、遠くからでも、トゥパク・アマル様のために、インカのために、力一杯戦う」
眩しそうな目になって見上げるコイユールの方に、アンドレスは熱い視線を向けた。
「そして、君のために…――戦う!
だけど、君が願ってくれるなら、俺は死なない。
必ず、生きる。
だから、君も死んではいけない。
コイユール。
絶対に!!」
恍惚とした表情で、コイユールはアンドレスを見上げ続けている。
アンドレスは、彼もまた、恍惚たる表情でコイユールを見つめながらも、誓いを求めるように言う。
「いいね、コイユール、必ず生き延びるんだ!!
どんなことがあっても!!」
「アンドレス…!」
二人は、その清く澄んだ目で、真っ直ぐに互いの顔を見つめた。
再び、生きて会いたい!!――…それは、当然のことだった。
しかし、その胸中には、凍てつくような不吉な予感がよぎらぬはずはなかった。
ふと現実を振り返れば、コイユールが残るこのインカ軍本隊も、アパサの援護に向かうアンドレスの精鋭部隊も、両者を待ち受ける行く手は、あまりに波乱ぶくみであった。
トゥパク・アマル率いるこの本隊は、間もなく、いっそう強化されたアレッチェ率いるスペイン軍本隊との総決戦になるのは必定。
一方、アンドレス率いる精鋭部隊とて、ラ・プラタ副王領の敏腕フロレス率いるスペイン軍との激突に、自らその身を投じていくことになるのだ。
もしや…もしや、これが、本当に、今生の別れになるのでは…――?!
二人の胸中を、不安の暗雲が激しく渦を巻く。
コイユールの、あれほど気丈に耐え抜いてきた眼差しも、今は、まるで縋(すが)るような必死の色を帯びながら、アンドレスに注がれる。
(ああ…もう本当にアンドレスは、このまま、ここを離れて行ってしまうのだ…。
ラ・プラタ副王領って…そんな遠くに?!
インカ全体のためだって、それは、よく分かってる…。
だけど…!
今までは、たとえ言葉など交わせなくても、それでも、同じ陣営の中にいるって、それだけで、私、こんなに安心と感じていたんだ…!
今頃、そんなことに気付くなんて……!!)
コイユールの瞳は大きく揺れ、その潤んだ目元からは涙が膨らみ、零(こぼ)れ落ちそうになっている。
◆◇◆◇◆Information◆◇◆◇◆
『インカの野生蘭』: トゥパク・アマルやアンドレスが活躍したアンデスの森に、今も人知れず咲いている神秘の花たち…――アンデスやアマゾンを30年以上彷徨する写真家、高野潤氏の最新作。お薦めです!!
著者/訳者名 | 高野潤/著 |
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出版社名 | 新潮社 (ISBN:4-10-301571-3) |
発行年月 | 2006年08月 |
サイズ | 207P 22cm |
価格 | 2,940円(税込) |
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