決勝リーグへの最大の難関翔陽との対戦を迎えた湘北高校。緒戦「三浦台」に始まり、「角野」「高畑」そして古豪「津久部」を倒して5戦目を迎えたわけですね。#79の最後のページから湘北の対戦相手が分かりますね。
翔陽戦を前に自らに課題を設ける桜木花道。ここでの課題とは「退場しないこと」と「ルカワ以上に」「得点を入れること」だ。実に単純明快な目標設定だ。このシーンは「スラムダンク勝利学」でもピックアップされている。スポーツにとって事前の課題設定はとても重要なのだ。それも単純な課題。課題が単純であればその達成不達成の判断も単純になる。明確になる。そして花道が退場しないこと。それは高さを誇る翔陽が対戦相手であることを考えればチーム戦略にもマッチした適切な方向性を持った課題であるといえる。花道のリバウンド力はこの時点ではまだ開花しきってないないが、それにしても188㎝の彼の高さは不可欠なのだ。実に理想的な課題設定であるといえる。もっとも「ルカワ以上に得点を入れる」の方はチーム戦略と相反する課題なのだが…まあそれは見なかったことにしておこう。
さらにやや先取りの議論になってしまうが、この課題設定に関し花道の特筆すべき特性が明らかになるのだ。花道は試合開始当初から常にこの2つの課題を意識している。頭の中で反唱・確認している。これが簡単なようでなかなかできないことなのだ。
いかに試合前に自分の課題を繰り返し言い聞かせ、確認しようとも試合が始まるとついつい忘れてしまう。試合が終わったり、ベンチに下げられて初めて課題を思い出す。それが常だ。よほど日常から繰り返し、考えること自体がクセにならない限りなかなか試合中には思い出せないものだ。
この点、花道は自らに課した課題をプレイが中断するごとに自分に言い聞かせたり、確認したりしている。さらに課題を実現するためにはどうすれば良いのか分析・検討を加えるシーンすら見られる。
花道のすごさはここだ。
この点に関し最も印象的だったのが最終巻。延々49ページにわたる沈黙を破った花道の一言。それも安西先生との合宿での教え。「左手はそえるだけ」だった。陵南との初めての練習試合。ガチガチに緊張しまくっていた花道。レイアップやゴール下をおぼえた後も試合では練習どおりに決められないシーンも多々あった。それでも着実に一つ一つ技術を身につけステップアップできたのはこの素直さに要因があるとみる。
そしてそれを見抜いて意識的にシンプルで的確なアドバイスを送る安西先生の存在はやはり偉大というべきだろう。#82冒頭で安西先生は花道に「君の役割はインサイドを固めること リバウンドは君が制するんですよ」と声をかける。シンプルに手を広げすぎないアドバイス。そして「退場しない!! ルカワより点をとる!! リバウンドを制す!!」と心で繰り返しながらコートに入る花道。しっかり安西先生の言葉を受けとめている。ここら辺の素直さが花道の強みだと思うのだ。
→シンプルバスケット
神奈川一の高さを誇る翔陽だが、実際に湘北と比較してどれぐらい差があるのだろうか。
宮城 168cm 伊藤 180cm 藤真 178cm
三井 184cm 長谷川 190cm
流川 187cm 永野 191cm
桜木 188cm 高野 193cm
赤木 197cm 花形 197cm
平均 184.8cm 190.2cm
実際の差は上記のようになる。ここで分かることは平均身長で5cm以上の差があるのだが、フロントコートの選手に限ってみるとあまり差は無いということだ。身体能力を考えるとむしろ湘北の方が優っていると言っても特に問題は無いぐらいではないだろうか。もっとも花道のファウルアウトが許されない湘北のベンチ事情を考慮に入れるとやはり翔陽の高さは効いているというべきなのかもしれないが。
むしろバックコート陣の身長差の方が気になる。→「ミスマッチ」
ミスマッチはもっぱらインサイドプレイヤーについて語られることが多い。アウトサイドプレイヤーで語られる場合も主として「低い選手が高い選手を守れない」という文脈において語られることが多い。しかしPGのミスマッチはむしろ逆の見方をした方が適切な場合も多い。
PGにおいてミスマッチが生じている場合、低いPGはセットオフェンスに難を抱え込むことになる。身長差があるということは、手足の長さも違うということだ。セットオフェンス時においてあ低いPGのスピードはあまり活きてこない。求められているのはボールをタイミング良くフィードすること。サッカーでいう「中盤で間をつくる」役割が求められている。PGがボールをキープして残りの4人が有機的に各種フォーメーションを駆使して、オフェンスに有利なシチュエーションをつくる。そこに適切なタイミングでボールをフィードする。これがセットオフェンス時のPGの基本的な役割である。
しかしPGに身長差がある場合低いPGからすれば「適切なタイミングで」というのはそれだけで通常よりも困難な仕事にならざるを得ない。オープンコートではそのクイックネスで高いPGを翻弄できるが、セットオフェンスになると話は違う。身長差、手足の長さの差がモロにパスの妨げとなるのだ。一瞬パスコースがふさがれるだけでパスが遅れる。たったそれだけのことでつぶれるチャンスは数知れない。伊藤が宮城の頭越しに軽々と自分の意図した(=花形が欲した)瞬間にパスできるのは実はかなりのアドバンテージなのだ。206cmの超大型PGマジック・ジョンソン(2002年ついに殿堂入り)の試合を見るとこのことが実に良く分かる。対戦相手のPGはパスを入れるためにいくつかのフェイントを組み合わせて、体を大きく動かし、神経を使っているのに対し、マジックは「ひょい」だ。この差が試合終盤において如実に現れてくるのは想像に難くない。宮城はパスに四苦八苦し、終盤までに疲弊しきってしまう。序盤の湘北が早くも肩で息をするのは自然の成り行きとさいえる。
実際はフロントコートのミスマッチよりバックコートのミスマッチの方がゲームに多大な影響を与えることも多いのだ。
SLAM DUNK唯一の左利きキャラ藤真。個人的に彼のモデルではないかという選手が一人いる。元リトアニア代表、NBAでも活躍したサルナス・マーシャローニスがその人だ。左利きでぺネトレイト、カットインどちらもこなすPG/SGで、バルセロナオリンピックでの印象が強い。アルビダス・サボニスとともにドリームチーム相手にかなり善戦した。誰だか忘れてしまったが、BS-1の解説者が「左を抜いて来ると分かっていても止められないからこそプロ」と繰り返していたのだ記憶に残っている。それぐらい鋭い突き出しのペネトレイトをする選手だった。
藤真が交代直後に放ったジャンプシュートがマーシャローニスに非常によく似ているのだ。彼もまたクイックで小さなジャンプからシュートを放つタイプの選手だった。時期的にもバルセロナオリンピックで認知されていたはずだからありえない推測ではないと思うのだが。少なくとも井上先生の手元に参考資料ぐらいはあって、同じ左利きということで横に置いて描いていた…なんてことはないかなあ。
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