小さな パンドラの箱

小さな パンドラの箱

開華 恋色1~7



バレンタインの余波は、今も学校内を華やかにしている。

想いいが通じあい、付き合いが始まった人

友チョコや義理チョコで、ますます親交がふかまったひと

たとえ、想いがかなわなくても達成感からか、

重い雰囲気はあまり感じられない。

「あの後どうした?」

「一緒にチョコ食べて帰ったけど」

「それだけ」

「そう、それだけ」

私、杉森未知の日常には、変化はない。

日比野さんと携帯のアドレスを交換したが、あの後連絡は取り合っていない。

私も学年末試験を前に、読書を楽しんでいる場合ではないし。



「放課後勉強しない一緒に」

そう言い出したのは楓だった。

「私たちは学年末のテストは初めてだし、誰か傾向と対策を教えてくれる人いないかな」

「ああ…それなら日比野さんに頼もうか。私連絡先聞いたし」

「おお!意外な展開。

でも、さすが図書館友達だ。未知、そんなことはさらっとできるんだ」

「日比野さんのほうから教えてくれたの、この間学年末がもうすぐだって話したから。

少しぐらいなら付属レベルの勉強は教えられるよって」

「ふーん。まっいいけど。じゃ連絡入れておいて。かわいい後輩に勉強を教えにきてって」

「そのままメール打つわよ」

「どうぞ、発信もとは未知だし」

楓にいわれ残りわずかな休み時間に、未知は日比野あてのメールを打った。

(突然すいません、杉森です

学年末テストにむけ勉強中なのですが、

初めての学年末で傾向がわかりません。

試験前に傾向と対策を教えていただけませんが。

都合がつかなければ、無理にお願いしませんが…

あいている日に、こちらの図書館に顔を出して下さい。

よろしくお願いします )


未知からのメールを自宅でうけとった日比野は、文面の堅さに笑ってしまった。

「かたいね。話すとこんな感じゃないのに」

ちょうど夕方からの予定がキャンセルに、

それでなくても隙を持て余していた。


日比野は、返信を早速返した。

(予定がキャンセルになったから、暇だった。

今日、放課後にあわせて図書館に向かうよ

僕にも苦手なものはあるからあまり期待しないように   輝)


次の休み時間にメールをみた未知はあわてた。

「うわっ、今日OKだって」

「連絡してみるもんだね。ねっ未知」

「なになに」

要が会話を聞きつけた。

「日比野先輩に勉強を教えて欲しいって頼んだらOKだって。今日は図書館で勉強会」

「へえ、すごいじゃん。」

「図書館友達つながりに、頼んでもらったの」

楓は未知を指していった。

「はじめてじゃないか、杉森の図書館通いが役にたったの」

「失礼な、誰かの役に立とうと思って通っているわけではない!」

「はいはい、まっ、いいじゃない。なんなら要もくる」

「もち、参加する。サッカーであれだけ指導がうまかったんだから、勉強会も期待大さ」


日比野にはその後のランチタイムに3人で勉強をみて欲しいと連絡しておいた


=2=

「学年末テストといっても、やっぱり最近授業で習ったことが出題メインかな」

「そうなんですか」

「だってそこの部分はテストしていないだろ。先生も習得具合が判断出来ないし」

「そっか、いわれてみれば」

楓も要も日比野の話にもっともだと頷いた。

悠進の図書館で未知・楓・要は

卒業生の日比野から学年末テストに向けてアドバイスを受けているところだ

「テスト範囲が一年分だと考えるから

それだけで、どこから手をつけたらいいか分からなくなるけど

これまでのテストを見直すだけでこの一学年の初期から中間の範囲は確認できる。

改めて解き直したり、誤解答のやり方をさらったりさ」

「さすが日比野さん教育学部在籍

生徒側、出題する側からも考えてる」

未知は興奮気味に話す要に

「テストの後すぐに間違えを見直さないの」

と聞いてみた。

「終わったら忘れる。すぐにサッカーモードさ」

答えを聞いた未知はあきれた。

「細かいこと追求するタイプじゃ無いでしょう。要は」

と楓も意見した

「で、テスト用紙も破棄」

「思い切りがいいね。それはサッカーの攻め方にもでているね」

日比野はちゃかさずに、そんな要の良さを認めた。

「私も探しだすのに一苦労かな。まとめてあるわけじゃないし」

と楓

「貸そうか。ファイリングしてあるから」

「お願いします。未知さま」

楓と共に要も拝み倒す。

「よかったら古いけど僕の頃のもみる?」

「ええー日比野さん、高校のまだあるんですか」

「翔がいるだろ、昔からお袋が整理していた。

ある程度になったら自分でファイリングして残していたから」

「優秀な兄弟がいると何事にも助かるわね」

「高校がちがうから、翔に参考になっているかは分からないけどね」

「じゃあどうしょっか」

楓がみんなを見回す。

「杉森に渡しとくよ、家が近いし寄ってもらえれば」

「構いませよ」

「じゃ今日寄って、帰りはしっかり送るから」

日比野は未知にいうと楓・要に同意を求めた。

成り行きとはいえ日比野の家に行くことになった未知

遅くならないうちにと今日の勉強会を切り上げ

日比野の家に向かうことになった。

すでに17時をまわり夕日が西の空を赤く染めている

図書館で楓・要とわかれた未知は日比野の家に向かうため一緒に歩きだした


=3=

日比野の家は杏の家からそれ程離れていなかった

学区の境を挟んで15分ぐらいの距離

「中に入って、どうぞ」

「いいえ、ワンちゃんをかまっていていいですか」

「ああ、どうぞ。あまり愛想はよくないけど」

日比野はファイリングを取りに中に入っていく。

未知は玄関先にいる犬をかまい始めた。

「愛嬌ないの、あなたでもきりっとした顔だわ」

手をだすとぺロリとなめてきた。

「あれ、君はたしか・・・」

顔をあげると、翔が制服姿に大きなスポーツバックをもってたっている

「あ、お邪魔しています。悠進の花村です」

「そう。兄貴の後輩だったね」

「いない?兄貴」

「いえ、借りるものがあって待っています」

「中に入ればよかったのに」

「ワンちゃんが気になって」

「エース?」

「はっ?」

「コイツの名前はエースストライカーのエース」

「ああ、そうなんだ・・・

かっこいい名前だね、あってるね。あなたに」

いわれたエースはわかったのかちぎれんばかりにしっぽをふっている。

「現金なやつ、男には愛想無いのに」

「それで…さっきお兄さんも行っていましたよ。同じこと」

「人見ているな。こいつ。」

未知と翔はエースを見下ろしながら笑った。

「ああ、翔帰っていたの。杉森これファイリングしたのね。

あっ・・・少し待ってくれる電話だ」

出てきた輝と入れ違いで翔は家に入っていく。

未知はまたエースをかまいだした、すると翔が着替えてでてきた。


「時間かかるっぽい・・・

エースの散歩がてら送るよ。兄貴のかわりに」

日比野も手でごめんといって、うなずいた。

「あっ・・・いいのに。ちかくだし」

未知が話す間もエースの散歩の準備をする翔

「エースもこのまま別れたく無いらしいし」

「ワン!」

分かったかのようにエースは返事をした。

「じゃ途中まで一緒に散歩だ」

そういって未知は日比野家を後にした。


=4=

「なにファイリングって」

「これは悠進付属高時代のテスト、学年末がもう少しではじまるの

今日は教えてもらっていたんです。勉強を」

「そうなんだ」

「練習、あったんですね」

「ああこっちは、テストは終わったよ。

それより・・・、兄貴からきいたよ。小さい頃の話」


「えっ、話したんですか。日比野さん…」

「懐かしかった。あの広場でのことは僕も覚えていたから・・・

それに…」

「それに?」

「確かに負けることがいやで、年上の子達に向かっていった。

だから・・・うれしかったんだ。いつも応援してくれる女の子がいて」

「あの…それって」

「気が付かなかったよ・・・忘れないようにしていたのに、

あの時、紹介されてもわからなかった。ごめん」

「ううん、私だってずっと忘れていたし…子供の頃の記憶ってあやふやだしね」

「でもサッカーやっていてよかったよ。再会できた」

翔の話をきいて未知はびっくりしてしまった。

どうやら、翔の記憶の中にも印象深く、あの広場での出来事はのこっていたらしい。

自分の記憶の中にあった翔のことと、

翔の中にあった女の子の記憶は見事に一致していた。

「でもさ、小学校に行くようになって、その子を見つけられなかったとき

ガッカリした。でも何かに熱中してさらに応援される喜びを感じた。

だから・・・またどこかで会えるんじゃないかと、

サッカーをはじめた」

「お兄さんもいっていましたよ、それは。

あそこが・・・、広場が原点だろうって」

「でも残念」

「ん…」

「応援してもらえないよね。学校が別だと、試合になれば当然敵チームだし」

「直接対戦しなければ応援ぐらいできますよ」

「個人的に?」

「まあそうなりますかねぇ…

私マネージャーじゃないから、チームというよりいつも個人的な応援かな」

「そう…」

未知は家がみえるところまでくると、

「ありがとう、もうすぐそこなの」

送ってくれたお礼を翔とエースに

「エースもありがとうまたね」と伝えた。はちきれんばかりに尻尾を振るエース。


翔はエースとともにきた道のりを軽いランキングでかえっていった。

=5=

翔と分かれ帰宅した未知は

着替えをすませると日比谷に短いメールを打った。

(翔君とエースにしっかり送り届けてもらいました。

ファイルは遠慮なく使わせていただきます。

返却のときは連絡させていただきます 杉森)

メールをおくるとファイルを開く。

そこには、初めてみる日比野さんの癖のない綺麗な文字が並んでいた。

答案用紙の点数から、日比野さんの優秀さがわかる。

苦手な教科がどれなのか、これをみる限りでは分からない。

誤回答は全て説き直され

重要な要点もあらためて書き加えられている。

「凄い…」

未知は思わず声に出して呟いていた。

これをはじめから説いて行くだけでも。

充分に勉強になりそうだ。


教育学部に在籍している日比野さんは

今日の教え方をみても教師として

向いているかもしれないと改めて未知は思った。


そんなことを考えていると未知の携帯がメールの新着を告げる。

「日比野さんからだ…」

(さっきは送れなくてゴメン

翔が帰ってこなかったら、待ってもらうようだったからよかった。

近くでも、一人で返すわけには行かなかったからね。

でも…エースにも気に入られたみたいだし今度はゆっくり遊びにきて。

それから、翔はなにか話したかな?昔のこと

あいつも懐かしがっていたよ。

ファイルの中身のことで分からないことがあれば遠慮なく聞いて

また、呼び出してくれてもかまわないよ。

じゃ、勉強頑張って 輝)

日比野さんの気遣いがうれしい。

それと同時に

大人としての落ち着きを感じた。

=6=

「翔サンキューな」

「ああ、兄貴…エースの散歩もあったし

ついでだから」

「少しは話せたか?小さいときの広場でのこと」

「え…うん」

「あるんだな。こんなことって

いままで近くにいても会うことがなかったのにな」

「…なあ…兄貴はいつから知り合いだったの」

「杉森とか?俺もここ1ヶ月ちょいさ、話すようになったのは。

ただ見かけてはいた。図書館で」

「図書館?」

「大学のほうより高校との共有になっている図書館を、よく使っている。

杉森はそこの常連。もしかすると俺より利用しているかもな」

「そうかぁ…」

「本を読みながらグランドをよく眺めている。

ああ…サッカー部のマネージャー、楓ちゃんもたまに覗きにきているし」

「サッカーが…好きなのかな」

「どうだろう。詳しくは知らないけど。でもクククッ…体を動かすことは向いていないらしい。

マネージャーの助っ人で来た後、大変だったらしいから、筋肉痛で。

友達にからかわれていたよ」

そう言う兄貴に、俺は少し嫉妬していた。

付き合いは浅いといっても

今の兄貴は俺の知らない、彼女のことをしっていて

俺に向かって楽しそうにはなしている。

俺は兄貴から話を聞かされながら、遠い記憶をたどっていた。

・・・・がんばれーかけるくん・・・

…見つけた君を、杉森未知…僕の初恋の相手。…

僕はいつも苦しいときに、君の応援を思いだして止まらずにピッチを走り続けていたんだ。

そして、小さかった女の子が今すぐそばにいることがわかった。

=7=

「いやー助かった。

日比野さんと未知のファイルが役に立った」

「どうにか、乗り切ったわね。学期末試験」

要と楓は言う。

長かった試験期間が終わった。

これで残された行事を消化すれば、

2年への進級がすぐそこ。

「二人とも今日から部活再会ね」

「そうさ、やっと体を動かせる」

「急にやめてよね、怪我のもとだから」

楓はマネージャーらしく要を諭した。

「なにかお礼しないとね。日比野さんに

ファイルはとても参考になったし」

「そうね…結局度々呼び出して勉強みてもらっちゃったし」

日比野さんはこちらからの呼び出しにも、快く出向いてくれた

私たちはそれに甘え、色々勉強をみてもらっていた。

図々しいくらい先輩を引っ張り出してしまった。

「なにがいいかなぁ

喜んでもらえることって何かな」

未知は考えた

「何かやっていれば、それに関係したものでいいけど

例えば要だったらサッカー関係だったら嬉しいでしょ」

「まあ…そうだな

日比野先輩は大学ではやっていないんだろう、サッカー」

「そうなんだよね…」

「参考にならないな、俺じゃ…。

でも何でもうれしいよ。じゃあ先にいく」

「…今更アピールしても遅い」

「ん。なにさつき」

「うんん、何でもない」

要を見送っていた楓は話し出した。

「未知、卒業式手伝って、体力は使わないから」

「…それはありがたい。でっ今度は何をするの」

「サッカー部は卒業式恒例で、部員に花束を渡すの」

「男から男へ?」

「違うわよ。マネージャーから男子部員へ」

「ああ…そうか」

「理由があってね、
サッカーに打ち込んでいるだけじゃ

格好良さは見た目だけじゃない」

「そうなの?」

「女の子がもらってうれしいものを、

卒業式のときに贈るのよ。

今日感じた気持ちを、今度は大切な人に向けてくださいって」

「…花をもらう気持ち」

「女性なら嬉しいことでしょ。男性から花をもらうのは」

いつからの、だれからの発案かは分からないという。

ただ部員は照れながらも、

うれしそうに花束を受け取るという。

「去年は在籍していたマネージャーが手分けして…でも今年はそれが出来ない

からお願い未知!」

私はまたこうしてさつきの手伝いをすることになった。



     続く

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