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nightfall(仮) story,2
・歪んだ十字架
「ふぅ」
翅己は何度ついたか分からない溜息をつき、携帯電話を閉じる。いつしか夕日は落ちようとしている。
「 そろそろだな…」
言葉と同時に彼らは現れた。違った歩調。尚冴と晃葵である。顔を見合わせた三人の顔には、
緊張がありありと刻まれていた。
「今日もだろうか…?」
晃葵が呟く。答えるものはいない。三人は首をすくめるばかりである。夜は近い。
そして日は落ちた。季利公園は、世界は闇に包まれていく。
「 っ きついな…寒気がしてきた 」
「お、俺も…」
精一杯吐き出される言葉。夜の沈黙に三人は圧倒されていた。いつの間にか翅己の手には銃が
納まっていた。各々の武器を握り、待つこと数分。
「……何もおきないな」
「…静か過ぎる。」
沈黙がもう15分以上続いている。嵐の前の静けさなのか、それとも。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「 いい加減、疲れてきたぞ。」
翅己が銃を弄びながら言う。尚冴は欠伸をかみ殺している。
「全くだ。」
晃葵がうんざりした顔で相づちをうった。
「 では、何故お前達はそこにいる?」
突然かかった声。三人は同時に飛び上がった。武器を構え、声の主を探す。
「今日のニュースを見なかったのか?」
顔を渋くした優男。斎藤和葵。ジャージ姿の声の主は19になる晃葵の兄だった。
「兄貴」
「今日この近くで人の右腕が発見された。」
思わずこぼれ出た晃葵の言葉を皆まで言わせなかった。
「その人の行方はまだ知れない。」
その言葉が晃葵達の心を貫く。その人は、恐らくこの世にいないということを知っているからだ。
和葵はとっさに隠した翅己達の武器に気付いていない。それが晃葵には不可解だった。
――おかしい―――兄貴はありえない位、目ざとい筈なんだが―――
「 昨夜は何かおかしい。早く帰って来い。 君達もだ。」
急に振られた翅己と尚冴も肩をすくめる。今夜はどうやら打ち切りのようだ。
「おい…。何だあれ?」
晃葵が震える指先を一方向へ指す。和葵が帰って5分後、三人は帰路を歩いていた。その道中である。
晃葵が発見したもの。薄暗がりに浮かぶ赤一色の世界。血の海。
「……マジかよ…」
名も知らぬ妖しの者達たちの成れの果てである。三人は呆然と見つめ、思う。
――いったい誰が―――
「それは私にも分からない。言えるのは、これをただ一人がやったということだ。」
頭上からの声。不意に湧いた声に戸惑いつつも見上げる三人。
月を両断するシルエットが見える。それがどんどん近づいてくる。何かを振りかぶって。
ドゴッ、という凄まじい音と共にコンクリートが砕け、多量のつぶてが飛び散った。
「 っ危ねぇ危ねぇ!!」
翅己が膝をつき、言う。反対側には晃葵と尚冴も起き上がっていた。翅己が間一髪で突き飛ばしたのだろう。
二人の無事を確認すると翅己は空から強襲して来た者をキッと睨みつける。
「俺達に何の用だ?挨拶にしては荒っぽいな。」
緊張が感じられない言葉。両手には既に銃が握られている。それを聞き、男は笑い出した。
「何の用、だと?私に理由などと云う概念は存在しない。私は私の意思のまま動き、殺し、血を飲む。」
晃葵が顔を少し歪める。尚冴が静かに言う。
「 お前も『吸血鬼』、か」
「そうだ。だが昨日君と戦った者とは違うがな」
『吸血鬼』の男は振り下ろした巨大な剣のような物を肩にとんと置く。黒く、剣が十字の形をしている。
「奴らは自我を殆ど持たず、衝動に任せて戦い、血を吸う。その身が果てるまでな」
男は静かに語る。すらりと高い体に黒ずくめの服、黒く大きなマントを纏っている。
「 さて、君達も我が飲み物となってもらおうか。」
冷たい薄笑いをし、肩にかけた異形の剣を翅己達に向ける。 しかし。
その場所には晃葵と尚冴がいるのみ。翅己は何処かへ消えていた。男は呟く。
「 どこへ」
次の瞬間、男の懐に翅己が踏み込んでいた。銃を振り上げる。
「ここだよ」
男の顔へ振り上げた銃はしかし、剣で止められていた。鋭い音が鳴り響き、火花が交錯する。
翅己が消えた。と思ったら男も消えた。数秒後、塀の上に翅己の残像が躍ったと思えばまた間髪いれずに
男の剣が鈍く光った。鋭い音は鳴り止むことが無く、不規則に鳴り響いた。 二人は死闘を繰り広げていた。
「旗色が悪いな。」
「ああ。」
心配そうな晃葵の言葉に尚冴が頷く。手には模造刀がしっかりと握られていた。いつでも助けに入れる。
しかし尚冴は入らなかった。翅己が望んでいないと思ったからである。彼らは戦っている。
そう、これは翅己が望んだ戦い。そして男も翅己しか狙っていない。それに自分が干渉することも無いだろう。
「 くっ」
数分後、膝をつき、かすり傷を数箇所作った翅己が姿を現した。その数間前に男が現れる。
男は全く傷を負っていない。翅己だけ息が乱れている。
「まだまだっ!」
翅己が両手の銃の引き金を絞る。 と、その時。
火花が飛んだ。と最初に翅己は思った。しかしよく見ると何処からか飛んで来た刃を、男がその巨大な剣で
受け止めていた。そしてその鎌らしい刃物を弾き、感情の一切感じられない声で問う。
「何者だ?」
その言葉に鎌の主らしき者の声が投げ返される。男に似た、抑揚の無い口調。
「貴様の同類共には『平成の死神』と呼ばれているらしいが?」
その声は翅己達の良く知っている少年に似ていた。翅己は驚いた目で闇を見つめる。
「 祐啻」
申島祐啻。翅己達の友人は夜の闇を割いて現れた。切れ長の目はいつも通り。
「よっ、翅己、尚冴、晃葵。こんな時に何をしている?」
口許を緩め、祐啻は翅己達と応対する。晃葵は驚いた声で祐啻に詰め寄る。
「それはこっちの台詞だ!なんでお前が?」
「自分の器を図る為だ。」
皆まで言わせず、きっぱりと言う。尚冴も黙って聞こうとしている。
「ナイトが開いたこの『夜』は、人間一人一人の『生きる力』を覚醒させる。そのような状況の中で、
自分がいかほどの者か、試したいだけだ。」
言い終わると手元に戻っていた鎌をかざし、佇む男に全身を向ける。
「と、いうことだ。貴様には、死んでもらう。」
彼の瞳には一切迷いの無い光が宿っていた。男は笑う。剣を背中に収めながら。
「残念ながら却下する。私はそこの少年と戦っていた。今日はこの辺で退散しよう」
「逃げるのか。俺から逃げれると思っているのか。」
祐啻も薄笑いをしながら言う。男はまたまた薄笑いを返す。
「大いに思っているね。君に「用がある」奴らがそれ程いる」
その言葉と同時に、男の体も夜の闇に溶けていった。
・平成の死神
「おい、祐啻」
「なんだ?」
翅己の呼びかけに祐啻が応答する。ここまでは日常の光景である。
「お前はこの妙な夜に気付いていたんだな。 『ナイト』って誰だ?」
疑問を口にする。これは尚冴達も気になっていた。祐啻は言う。
「 その前に俺に用がある奴の相手をさせて貰うぞ」
翅己達が振り返るとそこには数多の異形の者達が蠢いていた。尚冴の顔が青ざめる。
――死ね――死んでしまえ――――
――吸わせろ――血を―――
―――仲間を――よくも―――
――呪われた―――死神め―――
「君…どれだけ殺したんだ?」
「覚えているわけ無いだろう」
尚冴の質問を余裕で返す。その仕草は紛れも無くいつもの祐啻だった。
途端、魔物たちは祐啻達を見定め、突進してくる。翅己達には一瞬、
祐啻が面倒くさそうに肩をすくめるのを見た気がした。 祐啻は駆け出す。
と、その祐啻に魔物が一度に数十匹襲い掛かる。電信柱が折れ、塀は砕け、
煙が舞い上がる。魔物達は内心しとめた、と思ったことだろう。
「積もる話もあるし、さっさと終わらせてもらうぞ」
そんな魔物達の頭上からの声。祐啻である。その手に持った鎌を鎖に繋ぎ、
ヒュンヒュン、と音をたてて刃を加速させる。それが一瞬、月と重なる。
次の瞬間、鈍い音と共におびただしい量の血が宙を舞った。
「つまらないな」
祐啻は血まみれの鎌を手に取り、返り血の付いた表情を微動だにさせなかった。
翅己達には一瞬、何が起こったのか分からなかった。祐啻は一振り、空中からの
たった一振りで魔物達全員を薙ぎ払ってしまった。
「……あ?」
晃葵は未だ呆然と、元は魔物だった者達を見つめる。全てざっくりと斬られている。
絶命している。顔に驚きを貼り付けたまま。
「さて、ナイトの事だが」
何事も無かったように翅己達に振り向き、話を始めようとしたその時。
かろうじて死を免れた魔物が一匹、祐啻に飛び出す。魔物達の残骸に紛れていたのだ。
パァン
飛び上がった魔物の頭が爆ぜた。翅己の銃弾が残る一匹を穿っていた。
「うかつだったな。それとも俺が殺ると分かっていたか?」
翅己が苦笑いをする。尚冴も安堵の溜息をついた。
「この話は今度にしよう。恐らく今『夜』の間はきりが無いだろう」
祐啻は三人に踵を返し、歩き出した。
「ああ、あと晃葵」
不満そうな顔の晃葵に祐啻が声をかける。
「帰り道は気をつけろ。この言葉を忘れるな。」
言い、ちらりと意味ありげにある方向を見、夜の闇に消えていった。
三人は良く分からない顔をしつつも、今夜は解散することにした。
「あの男、気付いてた 私に」
鈴を鳴らしたような微かな声が闇に浮かぶ。人影はその長い髪を風になびかせる。
「申島祐啻 要注意人物」
独り言はすぐに消え去る。いつの間にか人影も姿を消していた。
・人、それぞれ
眠かった。ただただ眠かった。午前中の授業は寝て過ごした。何故眠いのか。
それは良く分からない。自分の不思議の一つに位置することだろう。
昨日のニュースを見て、何かに引かれたのに否定はしない、が世界は広い。
嫌になるぐらい広い。世界には不思議なことがいっぱいある。まして自分自身にも
スッキリしない不思議が存在するのだから…
「お~い、亮季」
後頭部の20センチ程上から聞きなれた声がした。ここは意見をしておこうと思った。
「何だよ?俺は眠いんだよ、晃葵」
「いつもの事だろうが」
「だったらなおさら起こさないでくれ」
晃葵は顔を渋くする。全くの日常である。嫌になるくらいの日常である。
「全く、、君のその眠気は何処から来るんだろうね」
晃葵とは違う声が皮肉っぽい事を言う。顔を上げるとまたまた見慣れた顔が見える。
「涼示、それは俺も理解の仕様が無いところだ。」
くそ真面目に返答をしてみた。涼示に冗談を言うと冗談で返されるのでこの方が良い。
「あ、そうそう、二人ともさー」
晃葵が頬杖をつきながら言った。涼示と亮季は一応は聞く体制に回る。
「今日翅己達のクラスに転校生が来たんだってさ。」
転校生。これもそう、ちょっと変わった日常の一つである。聞く二人は相槌を打つ。
「へー」
「女子だってさ」
「へー」
「翅己が言うには結構可愛いらしいよ」
「へー」
晃葵はこの適切かつ適当な相槌に不満がったことは無い。
「よう、翅己ー尚冴ー」
あっかるく二人に挨拶をする晃葵。後ろには涼示と亮季もいた(暇だから来た)。
「お前は昨日の今日で…何と云うか、元気だよな…」
翅己は額を押さえながら呟く。その言葉に涼示と亮季を覚えたのも無理は無い。
「昨日の今日って…何かあったっけ?」
「あーいやいやこっちの話それより二人とも」
晃葵が平静を装って(かえって焦って見える)強引に話題を変える。
「転校生が来たんだって?」
「ああ、確か丘辺さんっていったっけ」
流石の尚冴も転校生ともなれば女子の名前でも覚えるだろう。翅己は思った。
「あ、そうそう。結構可愛いんだぜ。可愛いっていうか、綺麗、かな」
「へえ、どこ?」
「あれでしょ。ほら、山稲と喋ってる」
晃葵の質問に答えたのは翅己でも尚冴でも無く、亮季だった。亮季の指した先の
その『丘辺さん』を見て、涼示は納得した。
長く、黒い、つやのある髪。薄い唇。長いまつげ。『丘辺さん』はクラスの中で燦然と
輝いているようだった。亮季がすぐに発見できたのも分かる気がした。
「へえ、あれが噂の『丘辺さん』か」
晃葵が面白そうな口調でのたまう。その横で翅己が情報を追加する。
「丘辺舞夜って名前らしい。元はこの町に住んでたんだけど親の仕事の事情で
榊代へ。今回も親の出張で来たんだってさ。大変なんだなぁ。」
最後の方に自分の感想を付け足すという高度なテクニックをやってのけた。
「じゃあ何ヵ月後かには榊代に戻っちゃう訳か。うん、いいよそれ。
メロドラマの設定だったら王道だ。もちろん俺ヒーローね」
晃葵が自分勝手なことをほざく。きっと冗談だろう。冗談だろうが。
「『はいぱーさんだーぱんち』と『すとろんぐふぁいやーぱんち』、どっちがいい?」
翅己は微笑を湛えて晃葵に問いかける。晃葵の笑顔が一寸引きつった。
「えっと…それはどう違うのかな?」
「『はいぱーさんだーぱんち』はかなり痛くて、『すとろんぐふぁいやーぱんち』は
相当痛い。」
一瞬の沈黙。ただただ笑顔が交わされる。
「せめて『のーまる』なのは無いか?」
「無い」
微笑は満面の笑みへと変わり、晃葵の顔はますます引きつった。
「どうにかそこまでまからないか?」
「まからない」
「ここは落ち着いて、俺の話を」
「聞かない」
言葉と同時に拳が晃葵のテンプルを吹き飛ばした。それは、そう。殴った拳は、
晃葵や涼示達の見間違いでは無かったならば両方だった。
「へえ、じゃあ2か月たったら戻っちゃうんだ」
「そう」
舞夜は美人だ、と山稲柑那はつくづく思った。長く、黒い髪はさらさらと風になびくし、
顔だって自分とは大違いだ。返答だって知的だし、スタイルも良い。
それを言ったら、今度は「そんな事は無い。あなただって可愛いよ」と
言われてしまった。否定したら舞夜と似た感じになってしまうし、肯定するのも
おかしい。柑那は数秒、居心地の悪い沈黙を味わわなければならなかった。
夕日の輝く並木道。下校中も柑那は頑張ってクールな舞夜に話しかけ続けていた。
「えっと、聞いた話だったらお母さんの方の仕事の事情らしいね。お父さんは?」
ずっと自分が黙っていたことに気付き、何とか話そうと振ってみた。
「死んだ」
柑那の心に後悔と自責の念が押し寄せる。こんな事予想できなくも無かっただろうに。
「………ごめん」
「いいよ。」
舞夜はさらりと言う。この強さは何処から来るのだろうか。
自分にこの強さは持てるのだろうか。 帰路の分かれ道は不意にやって来た。
「じゃあ聞きたいことがあったら何でも聞いてね。」
「ありがとう」
「いいよ。じゃあばいばい。」
「ばいばい」
舞夜はその端整で無表情な顔を柑那からゆっくり離し、歩いて行った。
その後ろ姿が見えなくなるまで見送った柑那は、教室に忘れ物をしていた事を
ようやく思い出した。面倒くさかったが、明日提出するべき物もあった。
加えて柑那ならば5分とかからない作業であった。
・始動
「まずったな…今日は寝すぎたか…?」
頭をポリポリ掻きながら亮季は顔をしかめた。
月明かりの夜。亮季は布団に入ったはいいのだが、全く寝付けないでいた。
学校で一日中寝ていたのを少し後悔したりしていた。
――頭は少しぽーっとしてるけど、どうも眠くない―――
再びドサッと布団に倒れこむ。月がいつもより眩しい気がした。
――これは少しは晃葵に感謝しなきゃな―――
冗談をとばし、翅己にしばかれる晃葵。
意味不明な行動をするも翅己達には軽く流される晃葵。
何を考えているか分からない晃葵の頭。
――不思議だ―――不思議だ―――
どのような脳みそをしているのだろうか。読み取りたい。解明したい。
どうやって。
―――首をちぎって―――頭の皮を剥ぎ――頭蓋骨を破る―――
気付かない内に恐ろしい考えが浮かんでくる。
――そして――そして――俺は理解するだろう――晃葵の頭の中を――
「 え?」
気付けば亮季は汗でびしょびしょになっていた。 震えていた。
自分は今何を思い、何を願った?何を望んだ?
――殺すことを望んだ――――晃葵を!!―――
体が熱い。頭など今すぐ燃えそうだ。息も乱れている。
「熱い…熱い…外へ。」
ぜえぜえと肩で息をしながらも、ジャージのままで冷え切った常闇へと
身を投げ出した。
「じゃあ俺はこっちを。お前はそっちを。」
「分かった。危なくなったら携帯でな。」
「俺携帯持ってねぇから、お近くの公衆電話で。」
「健闘を祈る。」
翅己、尚冴、晃葵は各自季利公園を背中に散開する。目的はほぼ決まっていた。
人命救助、及び祐啻から聞いた『ナイト』を探し出し、『夜』を終結させる。
これは、この状態では放っておけば犠牲者・行方不明者は雪だるま式に
増えてゆくだろうという尚冴の意見だった。
「『死なせない』なんて、尚冴も無茶いいやがる」
街灯の下を失踪しながら翅己は呟く。両手に銃を携えて。
バキバキッ、、、
街路樹を砕いて、異形の者が現れた。明らかに翅己を狙っている。
パァン
コンマ数秒の速さで翅己は引き金を引く。魔物は絶命する。
それを境に魔物がぞろぞろと夜の闇から現れ始めた。翅己は言う。
「俺の邪魔をするのなら、容赦はしない。殺るぞ、『黒鵜』。『白鷺』。」
夜風が冷たい。初めて『悪魔』を見、『吸血鬼』と戦った時と同じだった。
しかし、今の尚冴は震えていない。しっかりと模造刀を握り、
魔物を待ち構える。 それに応える様に、不意に飛び出した者。
「早速、おでましか」
カチッ、と鯉口を切り、刃を抜き放つ。一瞬、蒼白く輝いた刃。
魔物が尚冴に数メートルも近づかないうちに半分に分割されていた。
「これは、本当に予想以上の品だな」
苦笑気味に尚冴は呟く。後ろに気配を感じ、振り向く。
「殺させはしない。僕が『ナイト』を打ち破ってやる。」
「あれは…まさか晃葵か…?」
向こうの暗がりを躍る影。それは確かに晃葵に見えた。
「なんであんな所に…」
呟いてから気付く。晃葵は何かを振り回している。そして、そして。
「なんだ、あれは?」
晃葵を襲う多数の影。晃葵はそれに応戦しているのだった。
振り回しているなにかが一瞬、月光に反射する。その度に倒れてゆく影。
「 強い……あれが晃葵か…?」
昨日の昼見た晃葵を思い出すと亮季は絶句してしまった。
――わからない―――何事なんだ――?――晃葵は―――
何者だ。
ジャキッ
冷たい音がした。その発された方を見る。それは眩しかった。
晃葵の刀と似た輝きを放っている 手甲。
「 何だ、これ?」
つい間抜けな言葉を発してしまった。 途端、亮季の頭を支配する
不思議な感情。以前にも感じた熱い感情。
―――ころしたい――――
命在る者の生命を引き裂いてみたい。血を見たい。臓器を見たい。
激しい頭痛に意識が朦朧とする中で、亮季は確かに聞いた。
自分の声を。自分の言葉を。
「成る程な。そういう事か、晃葵」
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