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裕子は自分の部屋のベッドに寝転んでいる。ノートにメモを書いている。「寄港地上海、日本は清潔、シワ取りクリーム、クマ取りクリーム」
と思い出しながら書いている。
「あっ! シルクのパジャマ」
と書きながら
「忘れてた!」
ベッドから降りて、紙袋に入れたままのシルクのパジャマを引っ張り出す。
「試着試着」
バスルームに向かう。数分経ってベッドルームに戻って来る。ピンクのシルクのパジャマを着ているが、鏡に写してゲラゲラ笑う。袖口も裾も長い。
「まるで松の廊下の浅野内匠頭だ」
笑いながらバスルームに戻る途中にひっくり返ってベッドの角に頭を思い切りぶつけた。しばらくの間、頭をかかえる。またベッドに寝転ぶ。
「いたた」
ベッドのテーブルにいつも置いてある小さな鏡で見るとコブが出来ている。 少々目立っている。裕の声が聞こえる。
「そそっかしいから気を付けて下さいよ」
舌を出してコブによだれを付ける。
仕方なく裕子は船の診察室に出かけることにした。
診察室は静かな部屋だった。たった一人でやってるのかなとキョロキョロと眺める。
裕子の頭を見ている医師は頭を動かす裕子に少々困っている。
「母はくも膜下、父は脳軟化、私も血管弱いんじゃないですか?」
「大丈夫です。お薬付けましょう」
と言いながら塗り薬を付けている医師は
「でもそそっかしいから気を付けて下さい」
ハッとして医師を見つめる裕子の目から涙がボロボロ落ちてきた。
「どうしました?」
「主人が私によく言ってたんです。先生と同じこと」
裕子にティッシュペーパーごと渡す医師。
「主人は先生と同じ仕事をしていたんです」
「なるほど」
また泣く裕子。
裕子は夜また部屋でベッドに寝転んでいた。ノートに「浅野内匠頭」と書いている。
そして裕の位牌を横目で見ながら「パパのライバル」とも書いて位牌の隣に置く。そして 電気を消した。
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