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第一部
昼。
完全にお天道様の上りきった真昼。
そんな全身に膝氏がじりじりと照りつける平日の真昼に俺は、十七歳学生である俺、笹桐大典は―――――、
自宅マンション最上階、つまりは自分の家の前に呆然と立ち尽くしていた。
さぁ、なぜ平日で学校がある日に学生である俺はこんなところで何をやっているのであろうか~?
・ ・・・・・・・俺が知りたい。
朝。
俺は何をしてたかというと!
・・・・・・・・・何もしてはいなかった。
いや、行動はしているんだ。そう、人間が生きるためにもっとも必要なことを!
・・・・・・・・・。
ぶっちゃけて言おう。寝ていた。
そりゃ、もうぐっっっっすりと。
そしてようやく目を覚ました俺は、ぼやけた頭でベッドの前においてある時計を手にとり、
デジタルで表示されている電子の時刻を目にした。
そこには、AM十一時五十分、と表示されていた。
「・・・・・・・」
多少、いやかなり、否、むちゃくちゃ驚いた。
時計を見たとき、今まで生きてきた中で一番の驚愕に襲われたといっても過言ではない。
いつもなら時計を見ても寝ぼけている状態だが、今日ばっかりは完全に目が覚めてしまった。
つーわけで現在に至る。
時刻は先ほどよりも多少進んでPM十二時三十二分。
俺は朝食ならぬ昼食を食らい、一応制服に着替えて家を出たのはいいが、
何となくというか、かなりというか、とにかく学校には行きたくなかった。
俺は今、マンションのフェンスの上に両手を置き、その上に顎を乗せて外の様子を眺めているといった感じである。
俺の住んでいるマンションは九階建てで、俺はその最上階に住んでいるわけだから外の様子は結構よく見える。
まぁ、見えるものといっても家、家、家、マンション、スーパー、デパート、みたいな感じだから、
大自然!みたいな壮大な眺めが見れるわけではないのだが。
ただ、空と同時に見てみるとそれなりにいい景色だったりする。
透き通るような青空に、戯れるように飛び交う鳥たち、そして地上から天に向かって突き出るように立っている建物。
それに時折山など見れたりする。
これが、現在俺が見れる状態での最高の景色であることを俺は確信している。
あぁ、本当に。
こんな景色見てたら学校に行ってるやつらなんて馬鹿みたいに思えてくるなー、はっはっはっはっ・・・。
・・・・・現実逃避は止めよう。俺は今、THE・サボりなのだから。
「はぁ・・・・・」
大きく一つため息をついて思う。
本当に、夢だったらいいのに。
「まぁ、いつまでもこうしててもしょうがないよな・・・・・」
俺はもう一度ため息をついて、重ねた手の上に額を置いた。
「・・・・・・・ん?」
そうして顔を下に向けて地上を見て、なんとなく目線は、駐輪場の前を通りかかったあるひとりの女の子を捕らえた。
女の子といっても、別に幼馴染だとか友達だとかそんなのではない。
というか、まず見た目からして俺より年下なのは明白だ。
年齢は・・・、俺よりかなり下だろう。十代いってるかいってないかぐらいだ。
身長もここからではよくわからないが、百二十から百三十あたりだろう。
髪の色はきれいなスカイブルー。頭にはチャームポイントなのかどうかは知らんが、大きなリボンを付けている。
服装は黒いワンピース。
そして手には、子犬を抱えている。犬の種類は・・・・・、わからん。
だが、あの女の子の手の中に収まるくらいだから、チワワやミニチュワダックスフントみたいな類であることは間違いないだろう。
別に極普通の女の子。ただなんとなく目についただけ。
ただなんとなく・・・・・・目に付いただけ・・・・・・・。
「・・・・・・・」
いつの間にか俺は、その女の子の姿を目で追っていた。
ゆっくりと歩く女の子。その姿が、やけに気に掛かっていた。
何故だろう?
自分でもよくわからないが、とにかく気に掛かってしまってしょうがない。
目が、離せない。
「・・・・・・・」
やがて、俺の足は、通路の脇にある階段へと向かっていた。
どうしてだか、わからない。
何故自分はこんなことをしようとしてるんだろうと思いつつも、自身の足を止めることができない。
ただ、目は彼女を見失わないように追い、足は彼女に方に近づいていった。
どうしてだか訳も分からず、俺は女の子の尾行を開始した。
・・・・・・・どれぐらい歩いただろうか。
女の子は一時も止まりはせず、目標は決まっているといった感じで歩いていく。
一方俺は、時折すれ違う人波を回避しながら、女の子から目を離さないよう必死だった。
一定の間隔を取りながら、女の子に見つからないように歩を進めていく。
幸い、というべきなのか気づかれてる様子はない。もし、いきなり振り返ってきて、
『ついてこないでよ、このストーカー!』とでも叫ばれたりしたら、周りの視線が一気に俺に集まるプラス痛くなる可能性大。
というか、俺が署に通報される可能性だって十分すぎるほどありえる。事実だから何も言えないし。
そんな事にでもなったら俺の人生バッドエンドまっしぐら。ゲームオーバー確定だ。
今ならまだ間に合う。さぁ、引き返すんだ。そしていつもの日常へ帰れー!
・・・・・けれど、そこまで分かっているのに、俺の歩調は減速するどころか女の子に置いていかれないように加速していった。
そして、女の子から目を離すという行為は、もう完全になくなっていた。
女の子の背中を追い続けて、数十分くらいたっただろうか。
やがて女の子は、人通りの少ない、いや、全くない路地裏に入っていった。
(こんなところに何の用だろう?)
俺も女の子が一定の距離進んだところで、路地裏に入りこんだ。
女の子は、狭い路地裏をひょいひょいと進んでいく。
俺はというと高校生が入るには多少きついものがあったのか、普通に歩いているときよ
りも減速気味である。まぁ、女の子に見つかりにくくなるという利点はあるが。
少し進むと、十字路に差し掛かった。女の子は迷わず、左に曲がる。俺は、通路から顔
だけ出して、女の子が振り向かずに進んでいるのを確認してから再び歩き出す。
(それにしても、何処に向かってるんだ?)
こんな路地裏で何をおっぱじめようっていうんだろう?
まさか、ドラックとかの売買じゃあない・・・だろうな。
あの女の子がそんなことするとは思えないし、まして犬を連れて行く意味もわからん。
となると・・・、あ、秘密基地とか!
うんうん、その辺が妥当だろう。俺もあの子ぐらいの歳には・・・・、
そんな風に一人で納得していると、女の子に置いていかれそうだったので多少加速する。
本当に多少だが。
(にしても・・・・随分と奥まで行くなぁ・・・)
いったい何処に作ったんだ、秘密基地?
また十字路に突き当たり、女の子はまた迷わず左に曲がった。
俺は、先ほどと同じように通路から顔だけを覗かせる。
(・・・・・・・・・・あれ?)
そこにいるはずの女の子の姿が・・・・・、無かった。
(え?なんで?)
俺は慌てて通路から全身を乗り出し歩き出す。原因はすぐに分かった。
(まずっ!)
俺はまた慌てて隠れた。
女の子が消えた原因、それは、ただ単に通路が広い空間に出たせいで俺から見たところでは、
壁に重なって女の子の姿が見えなくなっていただけだったのだ。
広い路地裏の空間の様子を俺は通路から隠れて窺う。
見たところ次への通路は無い。ここで行き止まりのようだ。
広い(といっても十畳程度しかないが)空間には女の子と、女の子の目の前にある不思議な物体以外には何も無かった。
(なんだ?・・・・・あれ)
不思議な物体は、女の子の身長よりも高い金色のリングの中に、青白い空間が輝いているというものだった。
よくはわからないが、とりあえず何らかの装置らしいことは予想できた。
「・・・・No.6267」
突然、女の子が訳のわからんことを言い出した。と、言ったと同時に、その不思議な物体に向かって歩き出した。
そして、青白い空間の中に入っていき、
――――反対側からは、何も出てきはしなかった。
「えっ!」
一瞬の出来事だった。
反対側から出てこなかった。つまり、女の子が、消えた。
それこそ、どこぞの猫型ロボットの道具にみたいに、女の子が、消えてしまった。
「・・・・・」
俺は驚きのあまり、声も出なかった。目の前で起こった現象が今でも信じられなかった。
あれが、どこぞの猫型ロボットの道具と同じ様な効果を持つならば、女の子はどこかへワープしたということになる。
しかし、現代の科学技術ではそんな完璧なワープ装置、ましてや仮初めのワープ装置ですら作られてはいないだろう。
てことは・・・・・何だ?あの子は・・・・・・・・・・、未来人?
何?二十二世紀からやってきた猫型ならぬ人型ロボット?
だとしたら、今世紀最大の発見であることは間違いない。
ということは・・・・・、
(あれをくぐれば、未来に直行?)
だとしたら、いってみたいものではあるなぁ・・・・。
俺は通路から出て、不思議ワープ装置(仮)の前まで歩いていった。
目の前では、不思議ワープ装置(仮)がその身を青白く輝かせている。
なんとなく、宇宙を連想させそうな装置だ。
「・・・・・・」
・・・・いざ目の前にしてみると少々、不安が襲ってきたりする。
例えば、これがワープ装置じゃなくて本当に消滅しちゃったりとか、
ワープしたはいいけど魔界みたいなところに飛ばされちゃうとか、闇の中をただ漂うだけとか、こっちに戻ってこられないとか。
(けど、あの女の子は迷わずに入っていったんだから、安全面に関しては保証できるよな・・・・・)
そう自分に言い聞かせて、俺は恐る恐る目の前の不思議ワープ装置(仮)に向かってゆっくりと、手を突き出した。
手が、装置の中に吸い込まれるようにして入っていく。
物が触れた感触は・・・・・、無い。
(ん・・・・・?)
掌を握っては開き、握っては開き・・・・、その繰り返しを行い、感覚を確かめる。
手は、指は、ちゃんと自分の指令どおりに動いた。
俺は手は突っ込んだまま、装置の後ろを覗き込んだ。
薄い装置の裏側には、貫通した俺の手が確かに存在していた。
(あれ、何で・・・?)
試しにもう一度手を握っては開く・・・・、やはり、自分の指示どおりに動いた。
(なんでだろう・・・・?)
女の子は確かにこれでワープ(?)したはずなのだ。女の子は確かにここをくぐっただけのはず・・・・。
あ、全身で行かないとだめとか。
試しに、思い切って全身を装置にくぐらせる。
・・・・・身体は装置を通り抜けて、さっきまで俺がいたところとは反対方向に着ただけだった。
(あれ?っかしいなぁ・・・・・)
腕を組み首を傾げて考え込む。確かにこれでいけるはずなんだが・・・・。
俺は、できるだけ明細に、さっきの出来事を思い出していた。
(といっても、女の子がくぐり抜ける以外何も・・・・)
『No.6267』
ハッ、となって気が付く。
女の子は、確かにここをくぐる前にそんなことを呟いていた。
もしかしたら・・・・・。
(試してみるか・・・)
俺は装置の方に顔を向け、女の子がやったように呟いてみせる。
「No.6267」
・・・・・・・・。
外見上は全く変化は無い。音もならなければ、光もしない。
(これでいいのか・・・)
俺は、さっきよりも全然速く装置に手を突き出した。
手は装置に吸い込まれるように入っていき、
感覚は、無かった。
刹那、
装置は俺を飲み込まんとするばかりに吸い込みを激しくした。
「うわあっ!」
手を引っ込めようとしたが、吸い込みが激しすぎて全く抵抗できない。
後悔なんてする暇も無く、俺はあっという間に装置の中に吸い込まれてしまった。
「うわあああぁぁぁぁぁ!・・・・・・・あ?」
叫び声を上げながら、俺は装置から出ていることを自覚するのにそれほど時間は掛からなかった。
どうやら、ワープは一瞬の出来事だったらしい。
「あー、びっくりしたぁ・・・・」
とりあえず、生きていることに安堵のため息を一つ吐く。
そして、顔を上げて辺りを見回した。
(ここが・・・・・未来?)
そこは、森だった。
幾千にも及ぶ高く聳え立つ木々の数々。
その所々に日の光が差し込む。
小鳥たちが囀り、歌うように飛び回る。
まさに絵に描いたような大自然が、そこにあった。
「はぁ・・・・」
また一つため息をついた。今度は感動のため息だ。
しばらく見据えた後、後ろを振り向いた。そこには、先ほどと同じ不思議ワープ装置(完全版)があった。
「取り敢えず、帰れないと困るしな・・・、戻っても、また来られるだろうし・・・」
装置に向かって手を突き出してみる。手は貫通しただけ。
ならば・・・・。
「No.6267」
これで・・・。
再び手を突き出してみる。
と――――、
「あれ?」
手は、またもや貫通しただけだった。
・・・試しに全身をくぐらせる。
・・・・・通り抜けた。
「・・・・・・・・」
通り抜けられない=向こうに戻れない=家に帰れない。
・・・・・・・・まずくないか?
「はあぁぁ・・・・・」
またため息をついた。今度は、不安、落胆、疲労、などなどいろいろ入り混じった大きなため息だ。
(とりあえず、ここにいてもしょうがないか・・・・・)
朝と同じ様なことを思っている自分に苦笑しつつ、これからどうするかを考え出した。
まぁ、大体決まっているのだが。
(あの女の子なら、元に戻る方法を知っているに違いない)
そう確信し、それ以外当てが無い俺は、あの女の子を探すことを即座に決定した。
(そう遠くへは行ってないよ、な・・・)
女の子を探しに、俺は森の中を駆け出した。
(それにしても、ここって何処なんだろ・・・?)
走りながら、考えをめぐらす。
(ここが未来だとしたら、まだこんなに自然が残っているものなのか?)
俺の想像していた未来予想図は、もっとなんていうか機械とかをたくさん利用してるものだと思ってたんだけど・・・。
(そもそもここって日本、なのか・・・?)
あの装置はなんだったんだろう?
俺を、何処へ運んだのだろうか?
俺は、何処へ運ばれたんだろうか?
(・・・・・まぁ、あの子は多分・・・、ここに居るだろうし、探し出して聞けばいいか。
もし居なくても、森を抜ければ人ぐらい住んでいるだろう。その人たちに聞いてみるか、どうかして・・・)
そこまで思考をめぐらせたところで、
「うわっ!」
いきなり俺の目の前に何かが飛び出してきた。
「なっ、なんだ?」
慌てて立ち止まり、目の前の物体を凝視する。
「グルルルルル・・・・・」
犬・・・・、いや、狼か。漆黒のように黒い狼。
立てば、多分俺よりでかいんじゃないかと思わせるほどの巨体をしている。
それが俺の目の前に立ちはだかり、おそらくは俺を威嚇しているのだろう。唸るような声を上げている。
「―――――――!」
「?」
これは・・・・、吠えている?
(いや・・・・・、多少違うな・・・・、しゃべっている?)
突如狼は、俺では解読不能な言語を話し始めた。
「――――――――、――――――!」
「えっと、ごめん。なんて言ってるか分かんないんだけど・・・」
「――――――――――!」
・・・・・まぁ、こっちの言葉も分かる訳無いよな。
相変わらず、威嚇行動(?)をやめようとはしない。
(どうしよう・・・・?)
無視して通り過ぎられそうな雰囲気ではない。むしろ、今にも飛び掛ってきそうな勢いだ。
刹那―――――、
「ガアァッ!」
いきなり狼が俺に向かって飛び掛ってきた。
「うわっ!」
俺は咄嗟に身を捻らせて、間一髪この攻撃をかわす。
俺の横を通り過ぎていった狼はすぐに振り返り、再び俺に訳の分からない言葉を浴びせる。
「――――――――!」
「何なんだ、一体・・・・」
この狼が何かを言おうとしているのは分かる。だが、言葉が通じないんじゃ話しにならない。
それに、このままじゃ多分俺は殺される。かといって、素手で狼に勝てるほど、俺は強靭な肉体は持っていない。
(逃げるか・・・・・)
足で狼に勝てるかどうかも怪しいが、素手で殺り合うよりはいくらかましだ。
それにここにはこの大自然がある。地形を利用して奴を翻弄させれば、生存確率は少しは上昇するだろう。
隠れられるところもあるし。
(よし・・・・)
こんなときでも冷静に判断できた自分に、多少の驚きと感嘆を覚えながら、俺はじりじりと、少しずつ狼から後ずさりした。
「!―――――、ガアァァァ!」
俺の行動に気づいたのか、狼は再び、俺に向かって突進してきた。
「くっ・・・・!」
俺は、またもやギリギリのところで狼の攻撃を回避し、狼が振り返らないうちに反対方向の森の中にダッシュした。
「ガアァァァッ!」
狼は当然のごとく、俺の追撃を開始しだした。
「くそっ、速いなっ!」
俺の後方を走る狼は、人間では信じられないほどのスピードで追ってくる。
だが、やはりあの巨体にとってこんなにたくさんの木々は邪魔らしい。
徐々に追いつかれてはいるものの、木々を避けている分そのスピードは減少している。
しかし、このままではいずれ追いつかれる。
(なら・・・・)
俺はきょろきょろと辺りを見回す。
(・・・・・・あれぐらいか)
俺は、ひとつの巨木の前で立ち止まり、狼の方に振り向き、猛スピードで走ってくるその姿を見据えた。
「・・・・・」
意識を集中させて、迫ってくる狼の恐怖に耐える。
「ガアァァァァッ!」
次第に大きくなってくる咆哮に、動悸が激しくなり、汗が頬を伝わる。
「ガアァァァァッ!」
狼の姿が目の前に迫る。
(まだだ・・・・)
あと、十メートル。
(まだだ・・・・・ッ)
あと、五メートル。
(まだだ・・・・・・・・ッ)
あと―――――、
(今だっ!)
俺は、足に自らが出せる最大の力を込めて地面を蹴り、横に転がり込んだ。
「ガウッ!」
狼は俺が避けたことに気づきはしたが、加速しすぎたスピードを緩める暇もなく、
俺の方に方向転換する暇もなく、目の前に存在する巨木に勢い良く激突した。
「ガッ!」
ドウゥゥゥゥゥン、という凄まじい音が森中に反響した。
「キュウゥゥゥゥゥ・・・・・」
最後に、やけに犬っぽい鳴き声を出した狼は、ドスゥン、とその巨体をその場に倒れこませた。
「はぁ・・・、はぁ・・・、はぁ・・・・・」
俺は、地面にへたり込んだまま、大きく肩で息をする。
「はあぁぁ・・・・・」
そして、今日何度目かになるか分からないため息をついた。
「ふぅ、もう追ってこないだろ・・・」
俺は足を止め、あの狼から相当離れた木の下に座り込む。
(しかし、我ながら良くうまくいったもんだ)
本当に、あんな咄嗟に思いついた作戦で良く切り抜けられたものだ。
案外、自分は相当の幸運でも持っているのかもしれない。
それとも、今ので人生の運をすべて使い切ったとかも有り得るかもしれない。
(まぁなんにせよ・・・・・・・・生きれてよかったぁ・・・)
これは神様が居るとしたら、本当に感謝しないといけないなぁ・・・。
まぁ、間違いなく寿命が数年は縮まったけど。
今でも思い出すとゾッ、とする。
とんでもないスピードで迫ってくる狼、次第に大きくなってくる咆哮、伝わってくる殺気。
「・・・・・・・・・」
もう二度と感じたくない感覚ベストスリーに間違いなくランクインする。
(本当に・・・・・・生きれてよかったぁ・・・・・)
もう一度、深く神に感謝する。
「さてと・・・・」
俺は当初の目的を果たそうと、立ち上がる。
「はやくあの女の子を探さないとな・・・・・」
俺は、再び森の中を歩き出した。
と―――――、
「――――――ッ!」
何かの気配を感じ、俺はすぐさま後ろに振り返った。
刹那―――――、
「――――がはっ!」
何かが俺の腹部にぶち当たってきた。
俺は、激しい衝撃に吹っ飛ばされ、そのまま転がるように地面に叩き付けられた。
「ぐっ!」
仰向けに倒れこんだ俺は、ぶち当たってきた物の正体を確かめようと、上体だけを起こし前方を見た。
「なっ・・・・・」
俺は、驚きのあまり言葉を失った。
そこには―――――先ほど倒れこんだはずの狼が立ち、こちらを見据えていた。
(バカな、もう回復したのか・・・・・っ!)
俺は驚愕の表情で目の前に佇む狼を見つめる。
「グルルル・・・・・」
どうやら先ほどのダメージはまだ残っているようで、足つきは多少ふらついている。
でもこの状況は、マズイ。
「かっ・・はっ・・・・っ!」
俺は、先ほどの一撃で肺を圧迫でもされたのか、とてもじゃないがすぐに動き出せるようなレベルではなかった。
狼の方は、俺にとどめを刺す余力は十分残っているような様子だ。
このままでは、殺される。
(くそっ!・・・立てっ・・・・立てっ!)
心ではそう叫ぶが、体は思った通りには動いてくれない。
「く・・・・っそぉ・・・・・」
そして、
「ガアアアァァァァァ!」
空気を揺るがすような咆哮と共に、狼は立ち上がれない俺に向かって容赦のない最後の突進を始める。
「―――――ッ!」
俺は、思わず恐怖に目を強く瞑った。
が―――――、
(ん・・・・・・?)
最後の一撃は、なかなかやってこない。
ゆっくりと目を見開き、前方を見つめる。
「あ・・・・・」
そこには――――――、
―――――狼と自分の間に挟まって、小さな女の子が両手を広げていた。
「―――――――!」
狼は、女の子に対して俺には理解不能な言語でしゃべりだした。
「――――――――――」
「!」
これには、驚いた。
女の子も、狼と同じ言葉を発しだしたのだ。
「――――――――――――、――!―――――!」
激しい口調で狼は言う。
「――、――――――――――」
ふるふると首を振りながら、女の子は言う。
「―――、―――――――――――――――――――!」
「―――――――――――――、――――」
女の子は俺の方に振り向き、俺の胸の方を指差しながら、再び狼の方へ向き直った。
「―、――――――――――――――。―――――――――――」
「―――――、――――――――――――――!」
「――――――――――――――――。――――――――」
どうやら何かを話し合っているようだが・・・、内容は俺には理解できない。
「―、―――――――――。―――――――――――――――――――――――?」
「・・・・・・・」
狼の方が、沈黙した。
「・・・・・――――。――――――――――」
「―――――」
そして狼は一瞬俺を睨みつけると、ゆっくりと森の中に入っていき、やがて見えなくなった。
「・・・・・・・助、かった?」
内心でホッ、として思わず全身から力を抜く。
そこで俺は、こちらを見つめている人物に気がつき、慌ててそちらの方に向き直った。
「えーっと・・・・」
「・・・・・・・」
・・・なんと言っていいのか分からない。
この女の子がさっきの言葉を話してたってことは多分俺の言葉を理解することはできないんだろうな・・・・。
(どうしよう・・・・?)
あれこれ考えてるうちに、女の子の方から言ってきた。
「・・・・あなた、こんなところで何をしているの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・へ?」
散々間を置いて、出てきた言葉がそれだった。
まだ多少混乱している頭を静め、改めて尋ねる。
「・・・・・君、日本語話せるの?」
こくん、と女の子は小さく頷いた。
「えーと・・・・・・・・・・・・・、取り敢えずは、助けてくれてありがとう」
訊きたいことは山ほどあったが、とりあえずは、お礼を言っておくことにした。
この子が俺の命を救ってくれたことは確かみたいだし。
「気にしないで。彼は、あなたのことを『SPIRIT』だと勘違いしてしまったみたい」
「『SPIRIT』・・・?」
英語で変換すると、『魂』だ。俺=魂?これじゃ、意味がわからない。
「え・・・・?あなた、『SPIRIT』を知らないの?」
今度は俺が頷いた。
しばらく考え込んだ後、女の子は怪訝そうな顔をしながら、俺に尋ねてきた。
「・・・あなた、もしかしてこの星の人じゃない・・・?」
俺も女の子と同じ様な怪訝そうな表情を浮かべながら、答える。
「えっと、俺はここが何処だか分からないんだけど・・、俺が居たところは地球って星なんだけど・・・」
「・・・・・・やっぱり・・・」
女の子は、半分驚き、半分納得のような表情を浮かべた。
「でも、地球の人に『魔力』?魔物でもないのに・・・」
(魔力?・・・・・魔物?・・・・・)
何やらぶつぶつ言っている女の子のセリフを聞き取り、その中にやたらファンタジーな単語が含まれていたことに疑問を覚えた。
「あの・・・」
「あなた、『ゲート』の位置は覚えてる?」
そのことについて尋ねようと口を開いた瞬間、女の子は俺の言葉を遮るようにして逆に尋ねてきた。
俺も聞きたかったが、取り敢えずはその質問に対して答えることにした。
(『ゲート』・・・・・?)
答えようと思ったが、そんな単語は俺の思い当たるところでは・・・・、
(・・・・・・・・あれか?)
俺の頭の中にはあの不思議ワープ装置の姿が浮かんでいた。
「もしかして、あの青白い光を放ってるワープ装置のこと?」
女の子はこくん、と頷いた。
(えーと、あれの位置は・・・・・)
立ち上がり、辺りを見回してみる。
そこらにあるのは木、木、木。それ以外は草、草、草。
・・・・・そういえば狼から逃げるのに必死で場所なんて覚えてなかったな。
俺は申し訳なさそうに首を横に振った。
女の子はそう、と一言呟き、辺りを見回してからある一点を指差した。
「この奥に行けば、大きな巨木に差し掛かる。他の木と比較して一回りも二回りも大きいからすぐに分かると思う。
その巨木から辺りを見回していけば『ゲート』が見つかると思う。
『ゲート』の前で『No.1967』って言ってからくぐれば、あなたの来た『ゲート』に戻れるわ」
一気にそれだけ言い切ると女の子は手を下げ、
「じゃあ、そうゆうことだから」
と、俺に背を向け歩き出した。
「あっ、ちょっと待って!」
そのまま立ち去ろうとしている女の子を、俺は慌てて呼び止めた。
女の子は俺から少し離れたところで立ち止まり、顔だけを横に向けてこちらを見た。
「何?」
訪ねてきた女の子に俺は意を決して言い切った。
「あのさ・・・・・、君について行っちゃ駄目かな?」
「え・・・・・?」
女の子は疑問符を上げてこちらに振り向いた。その表情には明らかに驚きの色が見える。
「・・・・・なんで?」
だが、すぐに無表情に戻り、冷たい声で尋ねてきた。
俺は、少し女の子から目をそらし、答えた。
「えっと、戻り方は分かったから取り敢えずは一安心だし、
もうちょっとここに居たいかなって気分もあるし、それに、えーと・・・、この星?のことも良く知ってみたいし」
と、先程の女の子のように一気に言い切った。
「駄目・・・、かな?」
女の子はしばらく愛想笑いを浮かべている俺の顔をじっ、と見つめていたが、やがて振り返り、
「・・・・好きにしたら?」
と一言だけいって再び歩き出した。
俺は少しの間呆然としてしまったが、すぐに我に返り女の子のあとを慌ててついていった。
何故あんなことを言ったのかよくは分からなかった。
ただ、一つ言える事は、
―――――今俺は、結構わくわくしてるということだ。
俺は今日の昼頃のように女の子の後ろをついていった。
その距離が、あの時よりも近いことを自覚しながら――――――。
―TO BE CONTINUATION―
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