マンガ&ゲームな広場

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第一部


~あらすじ~
 突如、『SPIRIT』の軍部から、魔物たちの拠点を発見したとの報告を受けて、拠点の占拠を命じられたルークたち一行は、指定された森の中に拠点である城を発見し、城の中を魔物を殲滅しながら突き進んで行った。そして、やがて何もない一つの部屋にたどり着くことになる。
 そこに何が待っているかなど知らず―――――。



ルークたちは魔物たちを退治しながら城の中を進み、やがて、何もないひとつの部屋にたどり着いた。
そしてその部屋の中心には、一人の少年が佇んでいた。帽子を深くかぶって、白い半そでのワイシャツを着ていて、下には黒いズボンをはいている。要は夏の学校の制服。身長等から見て、多分、ルーク達よりも年上だろう。
そんなことよりも、ルークにはひとつの疑問が浮かび上がっていた。
(・・・・なぜ、人が?)
 今まで戦ってきたのは、すべて魔物の類だった。でも、今目の前にいるのは紛れもなく人だ。
(・・・・人型の魔物か?・・・・でもそれにしたって特徴が見当たらない)
 通常、人型の魔物には、何かしら特徴がある。鳥獣なら翼。獣なら耳や尻尾、といった風に。
 だけど目の前の少年には、それらしい物はひとつも見当たらない。
 ここはいわば魔物たちの拠点のようなもの。そんななかをうろついているということは敵である可能性が最も高い。
 だが、この少年からは、殺気というものが微塵も感じられない。
「・・・貴様ら、何者だ?」
 考えているところにいきなり話し掛けられて、多少驚き、目を見開く。
 が、すぐに思考を再回転させ、冷静に判断して言葉を返す。
「あなたこそ、何者です?」
 挑発気味に問いただしてみた。
「ここは、いわば魔物たちの拠点のようなもの。ここには、ほとんど魔物しかいません。なぜ人間であるあなたがここに居るんですか?」
 これはカマかけだ。この問いに対して彼がどう答えるかによって、彼が人間であるか、魔物であるかわかりやすくなる。
「俺は―――――――――っ!」
「・・・?」
顔を上げて答えようとした彼が急に黙り込み、視線がある一点に集中している。

視線の先には―――――ルークの胸元のバッジ。

「貴様ぁ・・・・・、『SPIRIT』かぁぁぁぁぁぁっ!」
 瞬間、
 先ほどまで微塵も感じなかった彼の殺気が。
 爆発的に膨れ上がった。
「なっ!」
尋常ではない殺気。
常人ならば気がおかしくなりそうなくらいの凄まじさ。
「ルーク、気をつけて。分かってると思うけど、多分あいつ、かなり強い」
「うん。分かってる」
先ほどまで黙って会話を聞いていた皆が、戦闘態勢をとる。そりゃそうだ。あれほどの殺気、感じ取れないほうがどうかしている。
 警戒心をとりつつ、ルークは背中の剣の柄に手をかける。
 ルークが柄に手をかけた瞬間、
すでに彼の右拳はルークの顔面めがけて突き出ていた。
(速い!)
 神速まではいかないものの、予想以上のスピードで仕掛けられたルークは、かろうじてこれを右に跳ぶことによってかわす。
 しかし、今度は左拳が、またも顔面めがけて突き出されていた。
「くっ!」
 ゴン、という鈍い音。
 彼の拳の先には、銀色に光る物体。
 顔面ギリギリのところで、ルークは剣を引き抜き、刃でない部分で拳を受け止めた。
 受け止めた、が―――――
「うわぁっ!」
 ルークは、想像よりも遥かに強い力で数メートルは飛ばされ、そのまま仰向けに倒れこむ。
「ぐっ!」
 立ち上がる前に追撃を仕掛けようと、彼はすぐさま走り出す。
「俺を無視するなよな!」
 ルークと彼の間にジルが割り込む。
「らっ!」
 そして、彼に向かって拳を連続で繰り出す。
「・・・ふん」
 彼は軽く鼻を鳴らし、連続で繰り出される拳を、手の甲であっさりとすべて受け流し、それどころか逆にジルの腹めがけて拳を繰り出した。
チッ、と舌打ちをして、右足で強く地面を蹴り、その場から退避する。
「いけっ!」
 ジルが離れたのを見計らって、ハーフは両手の銃を連射する。
 が、それよりも早く彼はしゃがみこんで、弾丸は彼の頭上を通過しただけだった。
 そのままハーフ目指して、一直線に走り出す。
「もっかい!」
 さらに連続で、弾丸を発射する。今度は一点集中ではなく全体に。
「・・・・・・・」
 彼は弾丸など気にも止めず、黙って走り続ける。
 当然、狙い通り弾は彼の額に命中した。
が――――、

――――――――命中しただけだった。

弾丸は彼に当たって、力尽きて落ちた。
めり込みもせず、貫通もせず、ただ当たって、落ちた。
 ダメージを食らった様子はない。
「うそっ、何でっ!」
 驚くハーフの目の前に、彼の拳が突き出される。
「氷の壁‐ice wall‐(アイスウォール)」
後ろにいたソフィアがそう呟くと、拳がハーフに到達する前に、突如現れた氷の壁によって、彼の攻撃は遮られる。
 しかし一撃で氷の壁は崩壊し、続けざまに彼は左拳を突き出そうとする。
 が――――――、
「うらっ!」
 後ろからの攻撃をかわすことに専念し、ジルの蹴りは彼が跳躍することによってかわされる。
 さらに、彼はその跳躍によってジルを飛び越え、背後に着地した。
 そして体勢の崩れているジルの背中に蹴りを叩き込もうと、右足を上げる。
が――――――、
「はぁ!」
 彼の頭上にルークの剣が振り下ろされる。
 完全な連続攻撃。これをかわす術はない。
(よしっ!)
 ルークは内心で勝利を確信した。この剣が当たれば自分たちの勝利。
 この剣が当たれば自分たちの勝利――――、

 ――――――の、はずだった。

「えっ・・・・・」
 ルークは斬りつけた彼の様子を見て言葉を失った。
 確かに剣は彼の右肩に命中した。通常ならば切り裂かれて彼の右腕は二度と再生不可能なものになっていただろう。
 が、彼の肩に命中した剣は―――――、

 ―――――彼の肩に命中して静止したままだった。

「・・・そんなっ・・」
 信じられない、といった風に言葉を漏らす。
 どんなに切れ味の悪い剣でも、人の肉すら切り裂けないなんてことがあろうか。
 ましてやこの剣の切れ味は上々の域に達する。
 人が切れないなんてことはありえない。
(防御力上昇の能力か・・・・?)
 確かに彼の肩を斬りつけた時は、人肉というよりも鋼鉄を切りつけたときのような感覚にとらわれた。
 だけど、それじゃあのスピードと拳の威力の説明が・・・・、

 パンッ、パンッ、パンッ。

 という乾いた銃声音の連続によって、ルークの思考は中断された。
「ルーク、何ぼさっとしてんの!」
ハーフの叫び声でハッ、と我に返って辺りを見回すと、どうやらハーフが彼に向けて発砲したらしく、彼は随分と後退していた。
あのまま思考を続けていたら、彼に攻撃されて、ルークは戦闘不能に陥っていただろう。
「・・・ごっ、ごめんハーフ!」
「っもう!緊張感が足りないよ、戦闘中なのに!」
 言って、彼女は微笑む。そんな彼女の表情を見て、ルークの中の焦りの気持ちが多少和らぐ。
「・・・・・ありがとう、もう少し集中することにするよ」
「しっかりしてよねっ」
 ルーク達は、再び彼のほうに身体を向ける。



彼は、ずれてしまった帽子を深く被り直し、ルーク達をしばらく見据えてから、不意にポケットの中から何かを取り出した。
 取り出したものは―――――、
(あれは・・・・・、ライター?)
 どこにでも売っていそうな普通の百円ライター。
彼は取り出したライターに右手で火をつけると、火を点けたそのままルーク達に向かって投げつけてきた。
「こんな程度の火が何だっていうんだよっ!」
 ジルは強気に言い放ち、ライターを無視して彼のほうへ向かおうと前に出た。
 刹那、
 空中でライターは拡散し、代わりに巨大な火の玉が姿をあらわした。
「っ!――――――ジルッ、伏せろっ!」
「うおぁっ!」
 ルークの言われたとおりにジルは地面に伏せ、ルーク達はその場所から横に跳躍する。
 火の玉は、伏せたジルの身体スレスレを通過し、ルーク達の横を通って、爆発音に近い轟音を立て、壁に激突した。
 激突した壁は多少崩壊し、全体的に黒炭になっていた。
 あと少しでも反応が遅れていたら、黒炭になっていたのは自分達だっただろう。
「炎の属性か?」
「いや・・・、炎の属性なら、俺みたいに自己の意思で自在に火は出せる。火種にするようなものはいらねぇはずだ」
 僕の疑問に瞬時に戻ってきたジルが手を炎で包みながら答える。
「そうか・・・・、じゃあ、何なんだ、彼の力は?」
「さぁ?俺に聞かれてもな」
「ゲート・オープン・・・・」
 話し合っているルーク達など無視して、彼はゲートを開く。
(ゲート・・・?)
「どうしてあいつがゲートを持ってるのよ!」
 ハーフが驚きと困惑の叫び声をあげる。もっともな疑問だ。なぜ彼がゲートを持っているのか。
 ゲートは本来、軍の超高速移動手段、また、大量物質保管用具の役割を果たしている。所持しているのはほぼ軍人だけのはずなのだ。
 なぜ彼がゲートを所持しているのか。ルークは思い当たる節を探ってみる。
 そしてすぐに、ひとつの台詞が蘇った。
『貴様ぁ・・・・・、『SPIRIT』かぁぁぁぁぁぁっ!』
 彼のこの台詞、どう考えても憎悪のこもった叫び。
(そうか・・・・・)
 ルークは一つの確信をする。
「わかったよ・・・・」
 ルークは蚊の鳴くような声で言う。
「わかったって、何であいつがゲートを持っているかってこと?」
「うん・・・・・」
 一つ頷き、ルークは重い口調で解説をはじめる。
「多分、彼は・・・・、僕ら『SPIRIT』に対して多大な恨みを持っている」
 彼のほうを真っ直ぐに見ながら言う。彼は一瞬だけこちらを睨むように見て、すぐに視線を逸らし、ゲートに手を突っ込んだ。
「それとあいつがゲートを持っていることと、何の関係があるのよ?」
「それは・・・・」
「・・・あの人が『SPIRIT』の人を殺して、ゲートを奪った・・・、ということ」
 言いにくそうなルークの言葉を遮り、ソフィアが答えを口にする。
「その通りだよ・・・」
 ルークは静かに頷く。その表情は暗く、多少落ち込んでいるようにも見える。
「ルーク・・・・・」
 ハーフは心配そうに声をかける。
 落ち込んでいるように見えるのではなく、実際に心を痛めているのだろう。
 自分の信じて行っている『SPIRIT』の仕事。その仕事が彼に恨まれている。
いったい何がどうして恨まれているのかわからない。わからないが、彼は確かに自分も恨んでいる。そのことは真実なのだ。
 人に恨まれている。相手の憎しみを受ける。
 それは、とても辛い事。
「・・・・・・・」
「おい、感傷に浸ってる暇なんてないぞ。あいつ、なんか出してきた」
ジルの声で、ルークはハッ、と我に返る。
(・・・・・そうだ、今は落ち込んでいる状況じゃない。どんな理由があるにしろ、僕達は殺されるわけにはいかない)
そう悟ったルークは、すぐに冷静さを取り戻し、彼が手に握っているものに視線を向ける。
「今度は何だ・・・?」
 彼が持っているもの、それは―――――、
「ペットボトル・・・?」
 彼の持っていたもの、それは500ミリリットルサイズのペットボトルだった。中には透明な液体がいっぱいに入っている。
 彼は、ペットボトルの蓋をはずすと、その中身の液体をルーク達に向かって思いっきりぶちまけた。
「後ろに下がって!多分毒水だ!」
 彼が中身をぶちまけるよりも早く、ルークは指示を出し全員を下がらせた。500ミリリットルの量など高が知れている。いくら強力な毒水であろうと、浴びさえしなければ意味はない。
 そう思案したルークは皆を下がらせた。瞬間の指示としてはおそらく最高の反応であろう。
 だが、はかり間違えたことがひとつある。

―――――500ミリリットルであろうと、彼にとってみれば高が、ではないこと。

彼は液体をぶちまけたすぐあと、前方に手をかざす。
瞬間、
500ミリリットルだった液体が、津波のようにルーク達に押し寄せてきた。
「なっ・・・・・!」
 ルークは驚愕の表情で波を見る。おそらく、500ミリリットルの数十倍はあるだろう。
 どうにかしようと思考をめぐらせるが、こんな瞬間でいい案が浮かぶわけもない。
 ルークが切っても、液体ではどうしようもない。風の力では、拡散はできても消失はできない。掛かれば、それだけでアウトなのだ。
「くそっ、避けられない・・・っ!」
 諦め、そんな言葉がルークの中で浮かび上がってきたとき、
 一人の少女が前に出た。
「・・・・ソフィア・・・?」
 ソフィアは、前方の液体に向かって手をかざし、唱える。
「・・・・・我、全てを凍らさんとする者なり。我が氷鳥に楯突きし愚かな物よ。絶対的な力の前に、全ての物は氷と化さん」
 彼女の口調は早口ながらも、焦りというものが微塵も感じられない。
「絶対零度‐absolute zero‐(アブソリュート・ゼロ)」
 液体がソフィアの目前まで迫った刹那、

 ―――――目の前の波が一瞬にして巨大な氷と化した。

「凄い・・・・」
 ルークは思わず感嘆の言葉を漏らす。
 だが、驚くのは、まだ早かった。
「・・・・・・ブレイク‐break‐」
 ソフィアがそう呟いた瞬間。
 氷の波は、ガラスが割れるように破壊され、数百本の針と化した。
 そしてその氷の針は、

 ―――――一斉にその刃を彼に向けた。

「・・・・・ふん」
 彼は迫ってくる針に動揺もせず、軽く鼻を鳴らすと、再びポケットの中からライターを取り出し、氷の針の中心部分に向かって投げつけた。そして再び、今度は先ほどよりも数段巨大な火の玉が姿を現す。
 火の玉は氷の針をひとつ残らず、燃やし尽くすと、低く大きな爆発音を立てて天井に激突し、大きな焦げ跡を残して消えた。
 彼は、爆発のせいでできた土煙の中心部分に静かに佇む。

「―――――――ハズレ」

 どこかでそんな声が聞こえた。
彼は背後に冷たいものを感じ、とっさに顔だけを後ろに振り向かせる。
「・・・・・・っ!」
 初めて、彼の表情が驚きに変わった。
彼の振り向いた先には、

―――――槍のような特大の氷の刃が待ち構えていた。

そして刃は、彼の背中に容赦のない一撃を加える。
「・・・・やった!」
 ハーフの口から勝利を確信した言葉が出る。
 完全に構築された氷の刃。それは通常の鉄や鋼の剣よりも上回る威力を持つ。加えてあの毒水の追加効果。それが背中に直撃。間違いなく勝ったと思えるだろう。
刹那、
 パリィィィィン、と甲高い音を立てて、彼の背中に命中した、氷の刃は粉砕した。
 正確にいえば、彼の背中に命中して、氷の刃は粉砕した。
「・・・・・・・」
 これには、ルーク達全員が言葉を失った。
 完全なる氷の刃。これは強固さも半端ではない。岩ですら、直撃すれば粉々に砕けるだろう。
 それが、人間の背中に命中しただけで砕ける?
 ―――――有り得ない。
 有り得ないが、有り得ている。
(・・・・・くそっ、彼の能力は何なんだ?)
 一番最初に思考を取り戻したのはルークだった。
(・・・・・僕の剣やハーフの銃、それにソフィアの氷の刃すら効かない強固な肉体。神速とまではいかないものの、人間には出せるはずのないあのスピード。火の巨大化に、水の増量。・・・・・)
 このキーワードから共通点を探していく。
(増量・・・・・巨大化・・・・肉体の強化・・・・・・・・・・強化?)
 そこでルークは、ひとつの接点にたどり着く。

 増量と巨大化は、どちらも強化の類に属するものだということに―――――。

「そうか・・・・『強化』か・・・・・」
 思わずルークは口に出して言っていた。
「皆、彼の能力は『強化』だ!」
 そして次の瞬間には、皆に向かって答えを示していた。
「『強化』?」
 彼の表情が、一瞬だが変化を見せた。どうやら間違いなさそうだ。ハーフの問いに対して、自信を持って大きく頷く。
「本来、属性を持つものなら、ジルの言う通り火種になるようなものはいらないはずだ。それなのに彼が火種になるようなものを使用したのは、彼が属性を持ってないということ。だから着目すべきは、彼の能力」
 淡々とした口調で、ルークは語る。
「最初は、『防御』の能力かと思った。でもそれじゃ、『増量』や『巨大化』の説明がつかない。本来、能力は一人一つだからね。でもそこであることに気が付いたんだ。」
 彼のほうを見据える。彼は黙って、ルークの説明を聞いていた。
「水の『増量』、火の『巨大化』、これらはどちらも通常ならば別々の能力として扱われる。だけど、『増量』と『巨大化』の両方が属する類のものがある。それが――――」
「強化ってわけか」
 ルークは再び大きく頷く。
「でも、どうすればいいの?そんな何でもできるような能力なんて・・・・」
 ハーフが自信なさげに声を出す。確かに『強化』なんて能力、対処法を見出すのには相当の苦労をすることになるだろう。
 だが、

「―――――僕に、考えがある」

 すでに答えを見出している男がいた。
「ルーク!」
「本当か?」
 ルークは小さく頷く。言った本人のルークも、多少自信はなさそうだ。
「作戦なんて大それたものじゃないけど、確率は低くはないと思う」
「じゃあ・・・・・」
「待って」
 考えを尋ねようとしたハーフを、ルークは手で制する。
「どうしたの?」
「彼もそこまでお人好しじゃないみたいだ」
 ルークは前方を指差す。そこには、彼がいまにも飛び掛ってきそうな勢いで足に力を込めていた。
「仕方ない。役割だけいうから聞いて」
 口調に多少焦りを含みながらも、ルークはハッキリと言った。
「ジルが僕と突撃、ハーフは後方支援、ソフィアは―――――――、そのあと――――、各自、なるべく――――――」
 小声で早口ながらも、その声はみんなにしっかりと届いた。
 刹那、彼はこちらに向かって、走り出してきていた。
「よし、ジル行くぞ!」
「ああ!」
 ルークとジルは素早く戦闘体勢に入り、こちらも彼に向かって走り出す。
 両方が走り出したため、攻撃の届く間合いに入るのに、時間など掛かりはしなかった。
「はあ!」
「ふん!」
 ルークとジルは、右方左方の両面から、同時に攻撃を繰り出す。
 彼は、いともあっさりと、ルークの剣もジルの拳も両方、手で受け止めた。
(本当、考えてみたらとんでもない能力だなぁ・・・)
 ルークの剣やジルの拳を素手で軽々しく受け止めたり、それに多少だが、今の攻撃にも、魔力は込めていたのだ。さらに、通常の魔物ならば真っ二つになるぐらいの勢いで斬り付けた。それは多分、ジルも同じだろう。
 なのに、彼の前では剣撃は止められ、炎が消え失せ、風が止む。
 本当に、とんでもない能力だった。
「・・・・・」
 彼は腕に力を込める。そして、
「飛べ」
 と、一言だけ呟くと、
「なっ!」
「うわっ!」
 ルークとジルを思いっきり投げ飛ばした。
「くっ!」
「ぐはっ!」
 二人はそのまま転がるように地面に叩き付けられた。衝撃で回復しきっていない目で前を見ると、彼がこちらに向かって走ってきているのが確認できた。
(くそっ・・・・!)
 ルークは素早く体勢を整えなおそうとする。
 が、彼はそれよりもさらに素早い。
「ぐわっ!」
 片膝立ちをしていた状態で顔面を掴まれ、そのまま再び地面に叩きつけられる。彼はルークに覆い被さるようにして、伸し掛かってきた。
 掴まれた指の間から彼を見ると、左拳を強く固め肩を振り上げている。
(やられる・・・・・っ!)
 そう思った瞬間、
「・・・・・!」
 彼がルークの体から離れて後退したかと思うと、
目を開けていられないほどの閃光が、ルークの目の前に現れた。
「なっ!」
 しばらく続いたその閃光は、消えるようにして目の前から消えた。
上半身だけを起こし、通り過ぎた閃光のほうを見やる。閃光は壁に激突してその大きな爪跡を残していた。
「ルーク、大丈夫~?」
 離れたところからハーフの叫び声が聞こえた。その両手に握られているものは、ハーフの超重量級ライフル『ライトニング・ノヴァ』だった。ハーフの属性『雷』の魔力をその銃に溜め込んで一気に開放し、放つ、というハーフの必殺銃の一つである。エネルギーの消費量が半端ないため、一発しか打てないという欠点付きだが。
 つまり、今目の前を通過したものは、
(・・・・・当たったら死んでたな・・・・)
 通り過ぎた時の熱の感覚を思い出して背筋が寒くなる。こういう無茶は止めて欲しいと切に願うのだが、ハーフが言って止めるとは思えない。
 まぁ、助かったのだからよしとしようと思い、今度こそしっかりと立ち上がり、ハーフのほうに手を挙げて、無事を伝える。
 ハーフがうれしそうな顔を向けた刹那、その顔はある人物によって遮られる。
(・・・しまったっ!)
 彼がハーフの目の前に立ちふさがりその拳を大きく振り上げる。
「くそっ!」
 ルークはすぐさま走り出す。だが、いくら神速とはいえ、この数十メートルの距離を振り下ろす拳よりも早く動くことなど不可能だ。
(間に合わない・・・・っ!)
 彼まであと数メートルほどのところで、彼が拳を振り下ろすところが見えた。ハーフが恐怖に思わず目を瞑っているのも。
 そして―――――、彼の拳が新たな衝撃によって遮られることも。
「だから・・・、俺を無視するなっての!」
 ジルの拳が彼の拳に命中し、その攻撃は遮られた。
「ナイス、ジル!」
 そしてルークは、隙のできた彼の腹部めがけて容赦ない一撃を喰らわす。
「神風 the god of wind (かみかぜ)」
 ルークの瞳が空のように澄んだ青色に染まっていく。ルークの剣、今まで振るってきたどのスピードよりも早く、振り抜くそのスピードは、

 ―――――尋常では、ない。

「・・・・・っ!」
 彼もルークのその力を感じ取ったのか、とっさに腹部に魔力を集中させた。
 ガキィィィィィン、という凄まじい金属音。
 鳴り響いたその音は部屋の中で数回反響し、やがて消えた。
「・・・・・っ」
「・・・・・っ」
 しばらくは、二人とも黙ったまま歯を食い縛っていた。
 彼の腹部に―――――傷はなかった。
「・・・・・」
 ルークは、言葉を失った。
 今の攻撃は渾身の一撃だった。
それが、ノーダメージ。
なんて、防御力。
 今までのどのことよりも、今の目の前の事実に一番驚愕した。
 彼にも衝撃程度はあったらしく、少しの間静寂が続いた。
「うおおおぉぉぉぉぉっ!」
 静寂を突き破ったのは、唸るような叫び声。
「なっ!」
 驚く彼の顔面めがけてジルは渾身の力を込め、拳を突き出し、殴った。
「うぐっ!」
 拳は頬にめり込み、彼はそのままボールのように吹っ飛ばされ、地面を跳ねる。
「・・・・・」
「・・・・・・・効いた」
 殴った本人のジルが言葉を失ってしまった為、ルークが代わりに呟く。
 初ダメージ。
 神風すら効かなかった彼の身体に、通常の拳での攻撃をしたジルの攻撃がダメージ。
(やっぱり・・・・・・か)
 そこから導き出される答えに、ルークの予想は確信へと変化していく。
「くっ・・・・・」
 倒れこんだ彼は瞬時に立ちあがった。渾身の一撃とはいえ、さすがに通常の拳のダメージでは戦闘不能には及ばない。
 再び、ルークたちを黙って見据え、先程よりも慎重に様子を探ってくる。
「我、内に氷鳥を秘めし者」
 突如聞こえてきた落ち着いて、さらにはっきりとした声に、彼の意識はそちらに集中した。
「ここに望むは全ての終結」
(詠唱!)
 気づいた彼は、瞬時にソフィア目掛けて疾走を開始した。
「全ての終末」
 近づいてくる彼に何の動揺も見せず、なお淡々と詠唱を続ける。
「ここに集いて、我を守れ、氷鳥の僕」
(取った!)
詠唱を全て終える前に、彼はソフィアの目の前にたどり着き、その手を大きく振りかぶる。この距離ではどんな大技を出しても、速さは一瞬彼のほうが上回る。その一瞬で、終わりだ。

「アイスプロテクト-ice protect-」

刹那、
 突き出される彼の拳よりもなお早く、先程よりも数段巨大な氷の壁が出現した。
 彼の拳の衝撃は、その氷の壁に、跡形もなく吸い取られてしまう。
(・・・・・防御呪文・・・だと・・・・っ?)
 さっきまで目の前にあったソフィアの無表情が、今は厚い氷の壁によって遮られていた。
 彼はようやく現状を理解する。
 彼の拳では、破壊することの出来ない氷の壁が出現したということに。
(詠唱を・・・・途中で攻撃から、防御に転じさせた・・・・・!)
 今度は、彼が信じられないといった風な表情を見せる。
 そう、ソフィアの詠唱は、最初攻撃呪文だったのだ。それが、途中で防御呪文に切り替えられた。
「いっけーっ!」
 呆然とした彼は、右からの気配に気づき、我に返って後退する。
 彼の居た位置に、レーザーのような細いエネルギー集中砲が通り過ぎていった。
 後退した彼は、地面に足をついたその瞬間に、背後からの気配を感じ、横に跳んだ。
「ちっ!」
 炎で包まれたジルの拳が、空を切る。
 さらに横に跳んで彼が地面に足をつけた瞬間に、声が、聞こえた。
「・・・・・ブレイク-break-」
 彼は慌てて背後に振り返る。先程では信じられない数の氷の針、ではなく刃がその刀身を輝かせ、一斉にこちらを捕らえている。
「くっ・・・・・そっ!」
 彼は、三本目となるライターを取り出し、数多の氷の刃に向かって投げつけた。
 こちらも、先程では考えられないくらいの巨大な火球が出現した。火球は、数多の氷の刃のうち、五分の四ほど食らい尽くすと、そのまま天井に激突し、轟音を立て、先程よりも大きな焦げ跡を残して消えた。
(やっぱり全部は消せなかったか・・・!)
 残りの氷の刃が彼に向かって襲い掛かる。
 完全なる氷の針、ではなく刃だ。いくら『強化』といえ、そんなもの残りの全てを受けたら、それこそ致命傷になりかねない。
 彼は今日初めて、完全な回避の体制をとった。
 迫り来る氷の刃を、魔力を集中させ、最大限強化した足で回避していく。
 次々とかわされ、地面に突き刺さっていく氷の刃。
 不安定な体勢になりつつ、残り、三本。
 一本目、回避。
 二本目、回避。

 三本目――――――――、回避。

(・・・・っし!)
 全ての氷の刃を防ぎきった彼は、達成感に近いものを感じながら、最大限強化し、かわしきったその足で着地する。
 だが、いかな最大限強化を施したその足でも、

 ―――――神速には、及ばない。

「神風 -the god of wind-(かみかぜ)」
 突如として横に出現したルークの方に振り向く暇などなく、
 驚愕の表情を浮かべる彼に向かって、ルークは剣を横一文字に薙ぎ切った。
 そして、先程のような金属音はなく、
 ただ肉の切れる音だけが、密閉された部屋の中に満ちわたった。



「かっ・・・・・はっ!」
 風圧によって吹き飛ばされた彼はそのままうつ伏せに倒れこみ、自身の身体の変化に気づいた。
 身体が、熱い。
 その熱い個所を押さえつけている自身の手に目をやってみる。
 押さえつけている腹部からは、赤く粘着質の液体が、だらだらと止まらずに流れつづけていた。
 手は、ぬるっとした感覚に包まれ、震えが止まらない。
 呼吸をしようとしても、上手く体内に息を吸い込むことが出来ず、ただ荒い息だけが吐かれ続け、時に咳き込み、口の中から血が排出される。
 激痛が、全身の体力を蝕んでいく。
 もう片方の手をついて、必死に立ち上がろうとした。が、立ち上がることが出来ない。
 手が、足が、全身が震え、立ち上がろうとする彼の身体から力を抜き取っていった。
 彼は、その場に蹲るしかない。
「やっぱり、あなたはあの連続攻撃をかわすことに専念して足に魔力を集中しすぎた結果、胴体の防御に回す魔力がなくなった。あなたの魔力だって無限じゃない。だからさっき、僕の剣撃を防御するために腹部に魔力を集中しすぎたため、通常のジルの攻撃ですら防ぐことができなかった」
 彼の視線を一身に浴びながら、ルークはこの勝利の法則を語りだす。
「でもさすがですね。今の攻撃、通常ならば胴体真っ二つですが、咄嗟に腹部に魔力を集中させて防ぎましたね」
 ルークが彼の方に近づきながら、言う。
「ですが―――――――、もう戦闘は無理のようですね」
 蹲ったまま彼は、自分を見下ろしているルークを睨みつけた。
 と、彼はそこで一つの疑問に思い至った。
 自分の方を見るルークの表情に、安堵の表情を見出したような気がしたのだ。
 それは、あながち気のせいでもなかったようだ。
「ソフィア、急いで治癒魔法を!ただし、彼が戦闘可能まで回復しないように」
 彼は驚きに目を見開いた。
 ソフィアは無言で頷き、彼の側まで歩み寄ると、しゃがみこみ彼に向かって手をかざし、呪文を唱える。
 彼の身体が光に包まれ、腹部の止まらなかった血が固まり、停止した。痛みも多少和らいでいる。
 だが、戦闘可能には程遠い。
「貴様ぁ・・・・・・どういうつもりだ?」
 喋れるほどに回復した彼は怒りの篭った声で、ルークに問いただす。
「決着は着きました。僕は、あなたを殺したくはない。ただ、それだけです」
 ルークはあくまで真剣な表情で彼に言った。
 彼は、ぎりっと歯を鳴らすと、突如、部屋全体に響き渡るような声で叫んだ。
「俺は・・・・・、貴様ら『SPIRIT』なんかに助けられたくはないっ!」
 ルークは、一瞬困ったような表情を浮かべ、次に悲しそうな表情を浮かべて、口を開いた。
「なぜ―――――」
「何であなたは、そんなに『SPIRIT』を毛嫌いしてるの?」
 聞こうと思ったことを、ハーフに先に言われてしまったルークは、代わりに深く頷いた。
 ハーフの声は、彼の怒りの具合をわかっているのだろう。いつもと違い、優しいものだった。
 彼は、ルーク達から視線をそらすと、突き放すように言い切った。
「何故、俺がそんな話をお前達しなければならない?」
 彼の口調は相変わらず怒りに満ちている。だが、それでもハーフは尋ねる。
「お願い、教えて。私達に出来ることだったら、力になるし―――――」
「力になんかなれるわけないだろッ!」
 急な彼の叫びに、ハーフはビクッと身を震わせる。
「・・・・・何故、ですか?・・・」
 ルークも、ハーフと共に彼に尋ねる。
「少なくとも、俺らは善意で聞いている。悪いようには絶対しない。・・・・・話して、くれないか?」
 ジルの言葉に、隣に居たソフィアもこくり、と頷く。
 皆の視線が一斉に彼に集中する。
 彼は、その視線が鬱陶しく感じたのか、口を開いた。
「うるさいぞっ・・・・・お前らが居たせいで・・・・お前らみたいなのがいるから・・・・・・・・・・・・・っ!」
 彼は顔を伏せると、唇を強くかみ締めた。
 ルークはその様子を見て、過去に相当辛い事があったのだろうと痛感した。
 だが、だからこそ同時に、今の彼の事を知りたいと、強く思った。
 なおも向けられるルークたちの視線に、彼は諦めたかのようにため息をつき、話を切り出した。
「・・・・・・・・・・・・・・一ヶ月ほど前のことだ・・・・・」
 彼が話を切り出してくれたことに多大な喜びを感じながら、ルークは彼の話に意識を集中させた。
 一言一言、聞き漏らさないように。
 何故彼が僕らを、『SPIRIT』を恨んでいるのかを――――――。

                  ―TO BE CONTINUATION―

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