ダンの部屋(B'z 大好き)

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☆手紙☆





 『はじめまして、幸野五月です』

 突然このような手紙が届いて、驚かれていると思います。
 僕もまた、こうして筆を取りながら、何から書けばいいのか迷って
います。
 恥ずかしい話ですが、僕は自分に姉いることを、長い間知らずに
生きてきました。だからそのことを知らされた時は、正直とても驚い
てしまいました。
 僕は小さい頃から、家と病院とを行き来する生活をしていました。
 そんな自分に嫌気が差していましたが、だからといってどうする
ことも出来ず、自分に対してさらに情けなく思ったり、苛立ったりして
いました。
 僕はずっと、『自分こそが籠の中の鳥なのだと』思っていたのです。
 だからあなたが今まで送ってきた生活のことを思うと、『自分が甘え
て育ってきたことが』恥ずかしくてたまりません。
 自分で行動せずに人生をあきらめていた僕は、あなたに助けてもら
う資格さえなかったのだと思ってしまいます。
 けれどもあなたは、僕を心配してくれました。いくら弟だといっても、一度も
会ったこともないような僕のことだというのに。
 僕は手術をすると聞かされた時、何も思わずただ父に言われるまま、
その話を承知しました。
 病気が治っても治らなくても、僕の人生は決まっているのだと、その時
はもうあきらめてしまっていたんです。
 手術の後も、なかなかリハビリをする気にはなれませんでした。
病気が治れば家に帰らなければならない。あの冷たい家には帰りたく
ない。そう思っていたんです。
だけどそんな時、僕はひとりの看護婦さんに言われたんです。
『生きるチャンスがもらえたのに、何をしてるの!!!』そう言って、
彼女は僕のことを真剣に怒ってくれました。
 その後、リハビリをしている小さな女の子に会いました、その子は
事故による足の怪我で入院をしていました。懸命になってリハビリを
してはいたけれど、それでも一生松葉杖を手放せないのだと。あの看
護婦さんからそっと教えられました。
 それなのに、その子は希望を失ってはいませんでした。足は動かな
くなったけど、私はこうして生きているんだ。その子はそう言って、
僕に笑いかけたのです。今までの自分のことを思うとものすごく恥ず
かしくて、僕はその子の顔を見ることさえ出来ませんでした。
 だけどそんなことがあった後でさえ、僕はなかなかリハビリをする
ことは出来ませんでした。頭ではわかっていたけど、僕はまだ恐れて
いました。そしてやっとリハビリをする気になった時、ずっと運動を
していなかった体は、すっかり弱りきっていました。
 僕のリハビリは長くかかりました。それでもなんとか退院して家に
戻ると、父は僕に対して、さっそく幸野家の跡取りとしての教育を始
めました。
 あなたもご存知でしょうが、幸野家は由緒ある家柄で、一地方の中
だけとは言え、相当な権力を持ってました。
 幸野家に支えられてきた街では誰もが父の命令に従い、逆らう人な
ど誰ひとりとしていませんでした。
 中学の頃、父に幸野の家を守る為に生きていく跡取り。それだけが
僕の存在している理由だといわれ、病弱な僕が生かされてきたのは幸
野家の為だったのだと思いました。
 父にとって、子供とは幸野家の跡取り、ただのそれだけのもの
だったのです。
 家を出ることも出来たかもしれません。だけど、これ以上僕の前に
ある現実から逃げだすわけには行きませんでした。僕はまだ、何ひとつ
として自分の責任というものを果たしていなかったのですから。
 病院から家に戻ってからは、父のと対立する日が続きました。僕は孤立
していきましたが、次第に僕の仲間になってくれる人も出来、なんとか
父と話し合えるまでになりました。
 まだまだですが、あれから街も幸野家も、ずいぶんと変わりました。
 ご迷惑かと思いましたが、今の家や街。そして今までのことを知っ
て欲しくて、この手紙を書きました。たとえほんの少しだけでも、わかって
頂ければうれしいです。
 今のあなたには、大切な人がいると聞きました。
 とてもやさしい人で、あなとのことをとても想ってくれる人だとも
聞いています。
 こんな僕が言えることではありませんが、あたには幸せになって欲し
いと思っています。
 いつかあなたに会える日が来ることを祈りながら、僕はこれからも
がんばって生きていきます。
 どうか元気で。そして、誰よりもお幸せに・・・・・。


                         幸野五月


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