・片桐はいり『わたしのマトカ』は、「マトカ=旅」という言葉が示すように、映画『かもめ食堂』の撮影を通じて滞在したフィンランドでの、純朴かつ大胆な旅の記録だ。ユーモアと温かみにあふれ、 30 〜 40 代のビジネスパーソンにとっては、言葉と感覚を通じてパースペクティブを広げるための旅の教科書となるエッセイ集である。
・フィンランドで「無知」が生む学び
予備知識ゼロで飛び込んだフィンランドでは、サルミアッキ(塩化アンモニウム菓子)との初遭遇に衝撃を受けつつも、その激しい味を “ 克服 ” しながら受け入れる姿勢が際立つ。言葉が通じずとも、ローカル市場や路面電車に身を投じ、未知への好奇心を体で吸収する姿勢が読者にも共振する。
・身体で旅し、心と景色を記録する
撮影や仕事の合間にクラブや市場、ファームステイ、トラム乗車、サウナなど、五感で感じる体験を積極的に拾い上げる。風景描写や現地人との出会いをユーモアで彩りつつ、言葉では伝えがたい記憶を鮮やかに刻む。
・笑いと共感のバランス感
「まずい上にアルコールが強い」「ブスだけど性格は良い」といった表現に見られるように、毒にも笑いにも偏らず、体験をリアルに言語化する力がある。感情と気づきを素直に表現することで、読者と心が通じ合う文章となる。
・『わたしのマトカ』は、フィンランドという遠い土地の旅を通じて、「好奇心・感覚・コミュニケーション」を構造的に学ぶ旅の小説である。
30
~
40
代のビジネスパーソンにとっては、目に見える成果だけでなく、見えない経験や記憶を設計できる思考と感性を育む一冊となるだろう。
わたしのマトカ (幻冬舎文庫) [ 片桐 はいり ]
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