・野地秩嘉『伊藤忠 財閥系を超えた最強商人』は、関西の繊維商社から出発し、日本の総合商社トップに躍り出た伊藤忠商事の 160 年以上の歴史と実践経営を描いたノンフィクション。 30 〜 40 代ビジネスパーソンにとって、自社やチームの方向性を定め、主体的に動く視座を得るうえで示唆に富む一冊である。
・繊維商社から総合商社トップへ
創業者は近江商人の商魂を受け継ぎ、「持ち下り」で日本全国を行商。そこから繊維を基盤に成長し、三菱・三井といった財閥系資源商社とは異なり、自らのマーケットを切り拓くことで地歩を築いた。
・“か・け・ふ”経営原則
伊藤忠を象徴する経営方針「稼ぐ(か)」「削る(け)」「防ぐ(ふ)」は、利益を追いながら無駄を削減し、リスクに備える体系的行動規範。これが商社三冠をもたらす土壌となり、社員の日常を支配する文化へと昇華した。
・マーケットインとイニシアチブ
自社視点・プロダクトアウトではなく、顧客の潜在ニーズを察知し、時には市場を創る姿勢。情報収集と適応力によって、商流の主導権を握る企業として進化した。
・人を大切にする組織設計
少数精鋭で成果を出す組織だからこそ、社員への配慮と教育に投資。残業原則禁止、朝型勤務への報酬優遇、ファミマ提供のおにぎりなどの施策は、健康・家庭・効率を意識した包括的な制度として機能した。
・構造と歴史のビジョン
歴史の節目(戦争、バブル、オイルショック)においても柔軟に事業構造を変化させてきた。繊維→食料→コンビニ→ IT といった多角化戦略は、市場の変化が命運を分かつことを教える教育的構造でもある。
・ 30 〜 40 代ビジネスパーソン向け示唆
他社との差別化設計
→自社プロダクトではなく、市場の困りごとから着想し、商品やサービス化設計
組織の一貫行動を作る
→「か・け・ふ」のような明文化された行動規範が、文化と構造を一致させる
行動と体験の設計者として
→戦略だけでなく、制度・働き方・評価の一貫設計がパフォーマンス向上を生む
自律と共同性の共存
→個人の裁量も尊重しつつ、人を大切にする組織制度によって成長と柔軟性を両立せよ
・『伊藤忠 財閥系を超えた最強商人』は、歴史と人・制度・習慣が織りなす構造から企業力を読み解く一冊。 30 〜 40 代には、ビジネス設計力、文化設計力、主体性を伴った行動設計の視座を深める指南書となるだろう。
伊藤忠 財閥系を超えた最強商人 [ 野地秩嘉 ]
価格:1,980円(税込、送料無料)
(2025/7/17時点)
Book #0927 ヤバい経営学 世界のビジネス… 2025.11.13
Book #0926 戦後経済史 私たちはどこで間… 2025.11.12
Book #0925 日本史で学ぶ経済学 2025.11.11