・町田そのこ『月とアマリリス』は、著者初の本格サスペンス長編。北九州市の山中で発見された白骨遺体をきっかけに、元週刊誌記者・飯塚みちるが再び筆を執り、自身と社会に深く根ざした痛みと向き合う過程を、感情の深みに満ちた筆致で描いた物語である。
・現在、タウン誌ライターに身を置くみちるは、かつての〝正義感ゆえの記事〟で少年を傷つけた過去を悔い、自分を置いて北九州へ逃げ戻っていた。
・山中の遺体には「みちる」の名前と思われる手書きのメモがあり、それを追って取材を始めた元上司・宗次郎から依頼を受け、事件調査に乗り出す。
・捜査や取材を通じて、加害者・被害者の過去から現代の社会問題—共依存、 DV 、 LGBT 、高齢女性の孤独 — など多様なテーマが交錯して浮かび上がる構造設計である。
・物語が提示する結論は単純な解決ではない。「ひとはひとで歪む。でも、ひとによってまっすぐにもなれる」といった一行は、再起の余白を残す光となる。
・著者の描く弱さと希望は現実世界にも響き、「正義」「償い」「再構築」といった視点を、仕事やチームの言語に変えるヒントになる。
・『月とアマリリス』は、“負の記憶”を背負いながらも、他者との接触によって少しずつ自らを取り戻す再生の物語。 30 〜 40 代のビジネスパーソンにこそ響くのは、自らの感情や弱さを言語化し、希望と構造を設計できる力だ。本書は、そのための “ 大人の文学 ” として読むに余りある一冊である。
月とアマリリス [ 町田 そのこ ]
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