芦沢央『悪いものが、来ませんように』は、日常に潜む小さな違和感や不安が、やがて取り返しのつかない事態へと膨らんでいく恐怖を描いた短編集だ。ホラーやサスペンスの形式を借りながら、人の心の脆さや他者との関わりの危うさを鋭く照射している。
・作品は複数の短編から成り立ち、それぞれに「目に見えない不安」が忍び寄る。ある母親は、子どもを守ろうとする強烈な願いが、次第に狂気へと変わっていく。ある若者は、 SNS ・また別の物語では、日常の中の何気ない選択が、後に大きな後悔や破滅を引き寄せてしまう。
どの話にも共通しているのは、「悪いもの」とは必ずしも超自然的な存在ではなく、人間の心の内に芽生える嫉妬、猜疑心、孤独、そして過剰な愛情が引き起こすという点だ。読者は、いつ自分の身にも同じことが起こり得るか分からない、そんな不穏さに飲み込まれていく。
核となるテーマ
― 守りたいものが壊れる恐怖 子や家族、信頼といった大切な存在ほど、喪失の影は濃く迫る。
― 日常の中に潜む異物感 ほんのわずかな違和感が増幅し、人間関係を蝕む。
― 人間の心の闇 「悪いもの」は外からやってくるのではなく、自らの内にある弱さや執着が生み出す。
・この作品が与える示唆は、職場や社会の人間関係にも直結する。組織における不信や誤解は、一見些細な違和感から始まり、それを放置すればやがて大きな亀裂となる。 ・また、「守ろう」とする意識が過剰に働けば、逆に周囲を縛り、壊してしまうこともある。つまり、リスクは外からだけでなく、内側からも立ち上がる。人の弱さや心の闇を直視することでこそ、組織や個人の健全さを保てる。
・『悪いものが、来ませんように』は、恐怖小説という体裁を取りながら、実は人間の心理と関係性の脆さを描き出した作品集だ。読む者は、日常にひそむ不安を自覚しつつ、自分自身の内なる闇と向き合うことを余儀なくされる。ビジネスの現場で「悪いもの」を呼び込まないためには、外部環境以上に、内なる心の在り方を問い続ける必要がある。
悪いものが、来ませんように (角川文庫) [ 芦沢 央 ]
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