・住野よる『よるのばけもの』は、現実と幻想の境界を揺らしながら、人の心に潜む「化けもの性」をあぶり出す物語だ。『君の膵臓をたべたい』で知られる著者が描くのは、誰もが抱えている弱さや孤独を、夜という異界の比喩を通じて映し出す寓話である。
・主人公の中学三年生・安達は、ある夜、自分の身体が「化けもの」になっていることに気づく。昼間の彼は目立たない存在で、他者との関わりを避けるように生きてきた。しかし夜になると、現実世界とは少しずれた「化けものの姿」のまま学校に現れ、そこで出会ったのは同級生のクラスの人気者・美夜だった。
・昼間は周囲に合わせ、表面的な笑顔を崩さない美夜だが、夜になると彼女もまた、別の顔を見せる。安達と美夜は「夜の学校」で言葉を交わす中で、お互いの弱さや孤独を少しずつ明かし合い、心の奥に潜む「化けもの」としての本質を共有していく。やがて安達は、自分が何者なのか、そして「化けもの」としての姿は恐怖ではなく、むしろ本当の自分である可能性に気づき始める。
核となるテーマ
- 昼と夜の二重性
昼の世界で演じる「人間としての自分」と、夜に露わになる「化けものとしての自分」との落差。
- 孤独と共感
人は誰もが「化けもの」の側面を持ちながら、それを隠して生きている。だが他者と共有することで孤独が和らぐ。
- 本当の自分を受け入れる勇気
「普通」であることを強いられる社会の中で、異質さや弱さを肯定することの意義。
・この物語は、思春期の寓話であると同時に、職場や社会で仮面をかぶる大人にも響く。人は昼の「建前」で働き、成果や役割を演じている。しかしその裏に、夜の「本音」や不安、葛藤が眠っている。安達と美夜が「化けもの」として出会い直したように、組織でも「本音をさらけ出せる場」をどう作るかが、真のチームワークを生む鍵になる。弱さを認め合うことが、むしろ強さを生み出す。
・『よるのばけもの』は、「誰もが内に秘めた化けものをどう扱うか」という普遍的な問いを投げかける。昼の顔に縛られたままでは、人は窒息してしまう。夜に現れるもうひとつの自分を否定せず、そこに潜む本質を見つめることが、社会でも個人でも生きるための道をひらくのだ。
よるのばけもの [ 住野よる ]
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