「いつからあたしのこと、好きだったの?」
急に、彼女はそんなことを聞いてきた。

「さあ?」
なんとなくまどろんだ空気の中、俺は曖昧にそれを濁した。

「教えてくれないんだね。」
と、
憤慨する彼女をからかいながら、もう散ってしまった桜並木道を歩く。

新緑の眩しい光がちょうど彼女のふくれっつらを照らし出している。

・・・そうか、新緑のせいだ。
急に合点がいく。
確か2人が出会ったのもこんな季節だった。

俺と彼女が出会ってから、既に4年が経っている。
けれど記憶が色あせたことなど一度たりとて無かった。
だから、答えようと思えば答えられる。

しかし。

「いまさらそんなこと聞いてどうするつもりなんだ?」

鼻で笑い、彼女にさらなる追い討ちをかける。

ただ、彼女の言い分を鼻で笑ってはいたが、
俺自身は過去を思い浮かべずにはいられなかった。

―――――――


5月1日――


「うるせぇ!!」
俺はそう叫ぶと同時に玄関扉を蹴り飛ばした。
「神南!なんだ、その口の聞き方は!」
怒鳴り返す声を後ろに俺は駅までの道を猛スピードで走り出した。

この日もいつもと変わらない朝だった。
いつも通り目覚ましで目を覚まし、いつも通り朝食の席に着く。
ただ違ったのは、ダイニングテーブルの上に進路相談の用紙が乗っていたことと、
いつも出張でいない親父が席に着いていたこと。

進路相談・・・

もう高3だ。決まっていて当然の時期にさしかかっている。
それはわかってる。
だが、俺には漠然とやりたいことがあった。

絵を描きたい。

もちろん親は反対した。
将来性が無い、と言って。

「お前には無理だ」と全面否定されたのが悔しくて、意地になって反論した。

「あ~胸クソ悪りぃ~~」
ひたすら文句をつぶやきながら、足元の小石を蹴飛ばす。
一歩歩けばまた今朝の親父の言葉を思い出し、さらに腹が立って、
また足元の小石を蹴飛ばす。
・・・何度繰り返したか。

いつも通りの通学路。
今日は朝練はないのにも関わらず、勝手にテニスコートに足が向いてしまう。
その習慣でさえこの日は苛立ちに変わった。
「下手くそ。楽しそうに玉突きやってんじゃねえよ」
文句だけ吐き捨てて来た道を引き返そうとした時、

「あっ先輩」
突然かかった後輩からの声。
反射的に振り向いたまさにその瞬間・・・

ゴスッ!!!

額に固くて弾力のいい物体が直撃した。

まともに食らい、意識が昇天するほどの大ダメージを受ける。
遠くなる意識の中で俺はつぶやいていた。


「嘘だろ…
テニスボールが空から降ってきた……」


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