足音が聞こえた。
その音で俺は、彼方に沈んでいた意識をどうにか取り戻した。
背中にはひんやりとした感覚。

まぶたをゆっくりと開いてみる。

そこはカーテンに覆われていた。
どこなんだ、と思うより先に視界に何かが見える。
人。
きっとあのあと倒れたであろう俺を助けて・・・

・・・と、思ったが思い切り前言撤回!

制服の上からまとった白衣、長いおさげの三つ編み・・・この特徴、間違いない・・・
この人間、某化学部員だ!

某化学部員の話は俺もあれこれ噂で聞いている。
毎度恒例のように部室爆破を繰り返し、逆らえば実験体にされて殺される、
人体改造実験を繰り返す、極悪非道な校内でただ一人の化学部員・・・と。

寝ているところは診療台・・・
しかも俺は今、覗き込まれている!
あの噂は本当だったのか!!

これは命の危機だ!!!

血の気が引いた。
こんな所で殺されるなんて勘弁だ。
逃げなければ・・・
慌てて起き上がろうとする。
が、何か管のようなものが巻きついていて起き上がれない。

嘘だろ・・・

必死の抵抗を試みようとしたそのとき。

「何が人体改造よ!」

べしっ。

思い切りの良いチョップを頂く。

「何すんだよ!」

するともいっかい。

バキッ!

今度はこぶしで診療台に沈められる。

「それはこっちのせりふ!実験器具壊さないでよ!」

それを聞いてさらに血の気が引く。
マジに・・・殺される!

「待った!勘弁!頼む・・・っ!改造するのはやめてくれー!!」


「・・・」
「・・・・・・・。」

「改造・・・?」

化学部員が怪訝そうな顔をする。

「・・・改造なんてしないよぅ。」
くりくりとした目でそう訴えかける。

ふと我に返る。

そうだよな。
冷静に考えて、人体改造とか、普通の高校でありえないよな。
それに目の前にいる人間は、そんなこと出来なさそうだ。
見るからにアホ面だしな。
あ~あ、たかが噂に何マジになってんだよ、馬鹿らし。

ってわけでちょっと横柄に出てみる。

「ジョークだ。バカ。」

まあ、ごまかす意味で言ってみたのだが、
これがなんと効果覿面!

「バカじゃないもん!アフォーー!!」

ってな具合で怒ってくる。
なんて単純明快な頭脳だとある意味関心したくなるような返答だ。

バカといわれてアホかい。

あまりのおつむの軽さに閉口する。

「いや、そういってる言動がアホだ・・・」

半ば呆れて言ってやる。

「・・・・やまにゃん、挑発に乗っちゃダメよん。」

どこからか声。
俺と化学部員以外に人が!
何たる失態!部屋がうす暗いとはいえ、こんな濃い人間の存在に気づかなかったなんて!

一見魔術師のようで、その実露出度の高い服。
度派手なピンクの髪。
キツいアイメイク・・・
新見智子である。

こいつはよく知っている。
今年の学園祭で占いの館をやっていて、占ってもらいに行ってた。

ただ、よくあたると聞いていったのに、結果はさんざんなものだった。

こんなの、当たってるっていうか?
美人な彼女が欲しいって思って行ったのに、それが
”もう目の前にいるじゃないv”
・・・なんてさ。

まあ、またそんときと同じ格好で其処にいやがる。

「まった・・・懲りずにヤボ占いやってんのかよ・・・」

今度は新見が怒る。

「ちょっと!失礼ねっ!!」

相変わらず挑発にのりやすい奴だ。
人の振り見て我がふり直せっつーの。

「ははははは!!!図星ってか。
 人はホントのこと言われるほど怒るって言うしな!」

面白いように引っかかってくる。すぐに答えは返ってくる。
予想通りの。

「何がよ!あたしあんたなんかに占いしたことないわよ!!」

・・・予想どおり?

「え・・・・・?」

あまりに予想に反した答えに思わず固まる。

「おいおい、3日前のことじゃねえか!」

思わずこっちが叫びそうになる。
占ってもらったのはほんの3日前だ。
まさか、新手の嫌がらせかとも邪推したくなる。

「はあ?だってあんたとはきょ・・・」

ガバッ!

「むぐぐぐぐ!!」

化学部員が新見の口を後ろから塞ぐ。

そして。

ずざざざざざ!!!

その体制のまま新見をひきずり後退していく。

・・・なんなんだ・・・

さすがの俺もこればっかりは呆気に取られざる終えない。

なにやらとおくでごにょごにょと密談している。
この新手の嫌がらせを話の輪の外から傍観せざるをえなかった俺は
手の届く範囲の計器をいじってみた。

すると。

ドドドドドド!!

もの凄い音を立てて化学部員がこちらに来た。

「さわらないで!あんた機械オンチなんだから触っただけでショートするんだから!」

大声で怒鳴られる。

確かに俺が機械オンチなのはホントだ。
新見に今聞いたんだろう。
ムカツクからやり返そうと手を伸ばす。

まあそう言われれば触りたくなる人間の性も手伝って。

手近にあったポンプのようなもの?を握りつぶしてみる。

ボコッ!

反応はすぐに返ってきた。

「触んなっつってんだろが、ヴォケが!!!!!」

凄く、恐い。
当初のイメージそのままの人間がそこにいた。
鬼か、般若だ。

固まる俺を尻目に般若は器具を速やかに遠ざけた。
遥か彼方へ。

そして般若もはるか彼方へと還っていく。
俺の頭にタンコブだけを残して・・・


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