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空想科学少年1
死のう。
そう思い立ってからどれだけの時間が過ぎただろうか。
腕の上のカッターナイフは止まったままだ。
俺は死ぬことさえもできないのか・・・?
情けなさが湧き上がってくる。
先刻からの痕はすべて皮膚の上をすべるのみ。
このまままた放置するのか・・・?
また無駄に生き続けるのか・・・?
俺は。
カッターを床に叩き付けたそのとき。
軽い音と共に部屋の扉が開く。
母だ。
「雪人、あなたに手紙が来てたわよ。」
母が手紙を差し出す。
俺は左手でそれを受け取る。
手紙など来るはずは無い。
間違えだろ。
そう思って裏を見て・・・
「・・・!」
気味が悪い。
俺とほぼ同じ名前の人間からの手紙。
あるはずがない。
またやつらの嫌がらせだろう。
奴らはことごとく俺の邪魔をする。
俺自身勉強は嫌いじゃない。
それが気にくわないのだろう。
県下ではかなりの進学校とはいえど、バカはどこにでもいるのだ。
人の揚げ足を取ることしかできないバカは。
そういうのには慣れてはいた。
昔からいじめられ続けてきたから。
俺は童顔だし女顔だし、チビだから。
そんな俺を心配して両親は少しでも環境のいいところに、と、決して
安いとはいえない学費をはたいてまで私立の学校に入れてくれたのだ。
・・・なのに今、この有様である。
両親の期待に応えるため、必死で勉強した結果がこれだ。
別に両親が悪いとは思わない。
バカどもが悪い。
いままでそう思って放っていたが昨日からそうもいかなくなった。
「金を持って来い。」
奴らはそういった。
もって行かなくて今日、大怪我をさせられた。
母親にものすごく心配された。
ただでさえ心配かけてたから、これ以上は苦しめたくは無い。
「自転車でトラックと正面衝突しかけてよけたら路側帯にぶつかってえらい目にあった。」
嘘でその場はなんとかやりすごせたが、
(ひどく心配はされたが)きっと次は通用しない。
そらならいっそ・・・
そう思ったのだ。
それが矛盾していることなんか百も承知だ。
結局今回のことでは自分の意気地なさを思い知らされただけで・・・
なんだかどうでも良くなった。
あいつらのいたずらの低俗さでもあざわらってやるか。
そう思って封筒をあける。
中にはさくらんぼのプリントされた便箋が数枚。
わざわざ声をだして読んでみる。
「中山雪人様へ。
はじめましてこんにちは。
こうして手紙を出すのは初めてですね。
お元気ですか?私は元気です。
私が誰だかわかりますか?
あなたの、姉です。
「・・・・・・・。」
ふつうのいたずらとも考え難い。
普通なら好きだとか書いてあって屋上とかに呼び出されるところだろう。
続きを読む。
「いきなりでごめんなさい。
実は私もそっちのこと知ったの最近なんです。
押入れから当時の書類や、はては弟の(つまり、あなたの)臍の緒まで
出てきたんです!
びっくりして問い詰めたらここの住所と名前だけ、教えてくれたから
手紙出しました。
本当は親からは向こうには干渉するなって言われたんです。
だから詳しいこと教えてくれなかったんです!
でも・・・知りたいんです。
ちょっとでいい。
会いたい。
話がしたい。
手紙でもいい。
連絡ください。
あなたの双子の姉 中山 雪見 」
文面に信憑性はない。
気味の悪いいたずらだ。
そう思う。
が、しかし・・・
思い当たる節がある。
小学生の時。
生命の尊さを学ぶ授業の一環だったか・・・
自分の小さかったころの話を親と話して、
それを親が作文に、子が写真入りのレポートに仕上げるという課題が
あった。
その時、みんな生まれたときの写真があるのに、自分にはないことが違和感だった。
「未熟児だったから・・・すぐにICUにいっちゃって撮れなかったのよ。」
母はそう言っていたが。
母とは少し似ているが、父とはまったく似ていない所もそう。
昔、少しだけそれで悩んだことはある。
・・・実の子じゃないんじゃないか・・・と。
ただ、自分にははっきりと、1歳のお宮参りを父、母と一緒にここで行った記憶がある。
昔からここにいたことは本当だ。
たぶん。
ぐるぐると昔の記憶が蘇る。
いてもたってもいられない衝動に駆られて、足は意思に反して駆け出していた。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
否定してほしい。
打ち消してほしい。
そう思っていたのかもしれない。
足の向かった先はダイニングだった。
今日は日曜だから公務員の父も母も休みでそこにいた。
気がつけばドアを乱暴に開け放っていた。
さすがに驚いたらしく、母があんぐりと口をあけて俺を見た。
そして・・・
「あいやー!!あんた、どげんしょっと!?」
「あ・・・」
腕のためらい傷をそのまま、来てしまったみたいだ。
「腕んカッターの刃ぁぬかった。」
刺さったんじゃなくて、刺したんだけど。
「ぬかった?そっでもそげんことならんやろ!ざんとか!!」
「ばってん、なったもんはしかたなか!やぐらしか!」
そんな言い争いを聞いて気を悪くしたのか父がソファーから起き上がった。
日課のサンデープロジェクトを消してまで。
「妙子、よしなさい。」
「でも・・・」
母が父に少し抗議する。
「手当てが先だ。」
そう言われて母は急いで救急セットを取りに行く。
「雪人、こっちに座りなさい。」
これはただ事ではない。
父がサンデー・・・(中略)・・・を消すなんてよっぽどのことだ。
きっとばれてるし、叱られる。
そう思うと自然と体がこわばる。
「何?父さん・・・?」
しらじらしくも、おどおどと伺いを立てる。
しかし、父は押し黙ったままだ。
こういうときの父は一番、恐い。
母がセットを持ってきた。
救急の知識があるおかげで手早い。
手早く消毒が済まされる。
そして包帯がこれもまた手早く巻かれる。
でも父は話さない。
大きなプレッシャーだ。
沈黙のほうが恐い。
紙テープが包帯に貼られる。
治療を終えた母が父の横に腰掛ける。
3者面談体制。
我が家に問題が起きたときの家族会議スタイルだ。
仕方ない。
しぶしぶと。
口を開く決意をかためる。
「あの・・・手紙が来たんだ。」
手のことはやはり黙ったままで。
「出しなさい。」
一言、それだけ言い放ち、また父は押し黙る。
俺はそれに従い、目前のテーブルに差し出す。
父が目の前で読み始める。
内心、ほっとしていた。
触れると思っていた手のことについて何も言っては来ないのだから。
黙々と読んでいた父の手が、最後の便箋で止まる。
「そろそろ、言うべきかもな。」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
耳を疑った。
ただ、手のことがごまかせればいい。
そう思って見せたものだった。
手紙自体は気味の悪い嫌がらせだとしか思っていなかった。
しかし、事態は手の傷なんかより、もっと大変だった。
実の子じゃ・・・ない。
リフレインする単語。
驚愕、なんてもんじゃない。
頭ん中真っ白。
悲しい、なんてもんじゃない。
感情なんて浮かんでこない。
聞きたくない、というんじゃない。
聞こえない。
それ以後の言葉が聞こえない。
白くなる思考の中、どこへともなく歩き出す足。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
気がつくと病院のベッドの上にいた。
嘘からでたマコト。
あのあとトラックに正面衝突したのだという。
自転車で。
何か悩みがあるとすぐ、自転車で坂道をとばす。
その習慣を無意識に、体が遂行していたと考えられる。
幸い打撲のみで済んだようだ。
一応の検査入院。
父から説明を受ける。
そんな時、急に父はぼそりと言った。
「大阪、行ってくるか?」
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