出がらし紋次郎の出がらし日記

出がらし紋次郎の出がらし日記

お灸で繁殖改善





お灸で大手術の後の健康維持

 ○○さんが牛のお灸に取り組んだのは6年前。雑誌で紹介されていた「牛の繁殖をよくするお灸」を、酪農組合の人工授精師が試してみたいと言ったのがきっかけでした。
 昭和3年生まれの○○さんは、お灸には特別の思い出がありました。学校を卒業して、5頭の牛から酪農を始めたのが、終戦の昭和20年。濃厚飼料には主にフスマを与えましたが、それも配給制度のもとでは十分に確保できません。自ら山に行き、牛のために草刈りをする日々が続きました。そんなとき肺結核を患い手術することになりました。手術は成功し、健康の回復に励んでいるとき、東京の叔母にすすめられたのがお灸でした。お灸のおかげで○○さんは病気から立ち直り、酪農に打ち込むようになります。酪農組合の組合長とし先頭に立ち、地域に牛乳工場の建設をすすめました。

 お灸を身近に感じていた○○さんは、牛にお灸を試したいという話を聞き、自分の牛を使ってもらうことにしたのです。結果は良好で、タネも順調にとまり、それ以来、自分でも牛にお灸をするようになりました。モグサはその叔母が亡くなったときにたくさん譲り受けました。
 ○○さんは、奥さんと二人で成牛20頭、育成牛2頭を飼っています。年ごとに牛群の改良が進み、乳量は増え、一頭平均で年9,200リットルにまでなりました。しかし、乳を出せば出すほど繁殖はむずかしくなります。きびしい暑さが続く夏などは、お灸で牛の体調を整え受胎率を上げてやらなければなりません。
 「子宮に水がたまっていて人工授精を見送った牛がいましたが、獣医さんに子宮洗浄をしてもらいました。さらにお灸をすれば、子宮のなかの水もしっかり出るので、それからタネをつけるのです」


お灸の手順

1:お灸の最中に牛が動かないように頭を保定する
2:しっぽでモグサをたたき落とさないように、尾を脚に結び付ける
3:9カ所ある繁殖のツボに味噌を塗る
4:モグサをピンポン玉くらいに丸める
5:モグサを味噌の上においていく
6:ライターで火をつける。燃え尽きるまでの10分間は牛舎を離れない
7:モグサが燃え尽きたころ、強く吹いて火が残っていないかを確認する

 お灸の最中は、牛の背中から煙が上がり、牛は神妙な顔をします。かなり火が回ると、脚を少し動かしたりしますが、暴れたりはしません。リラックスしてくるとふんや尿をすることもあります。10分ほどで煙はおさまりますが、強く吹いてみると、また赤い火が輝きます。しばらくしてモグサがすべて灰となるのを見届けて終了です。
 味噌と燃えかすをすぐにブラシで落とすと、そこから血が出てくることもあるため、日にちをおいてから、ブラシで払い落とすようにしています。
 ○○さんは年1産を基本とした繁殖のサイクルを維持するには、お灸だけでなく、粗飼料を十分与えることも重視しています。1日8kgのチモシー、オーツヘイ、ルーサンの乾草を、朝の作業の前と後、昼、夕方の作業の前と後の合計5回に分けて給与しています。
「こうすれば第4胃変位などにはならないね」と日常の管理の大切さを話します。

ツボは少しくらいずれていてもよい

 牛のお灸を広めた福岡県の獣医師を招いて指導を受けました。先生のお灸のやり方を確認でき、「 針だとツボをしっかり押さえなくてはいけないけれど、お灸ならツボから少しくらいズレても大丈夫 」と説明をうけたことから、自分のやり方に自信がもてるようになりました。
「もらったモグサもほとんど使ってしまったので、今度はヨモギをつんで自分でつくろうと思っています。乾かして、モチみたいに臼を使ってつけばいいんです」。それだけではありません。「これからはインターネットで酪農の情報も手に入れていきますよ」とパソコン購入を決めました。
 お灸が効果を発揮し、余裕ある酪農が実現したことから、繁殖の新しい取り組みも可能になり、伝統の療法から最新の情報収集まで、○○さんは幅広く柔軟に対応しながら酪農を営んでいます。

(2006.2.14の日記より)


© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: