天の道を往き、総てを司る

天の道を往き、総てを司る

第10話 天翔ける襲撃者


島から離れた海に一隻のタンカーがあった。

「はい……はい。では、ナンバー01共々、マルスは処分の方向で……解りました」

男は通信機のスイッチを切り、眼鏡を直しながらため息をつく。
昨晩の竜宮島での一件はさほど問題にはされなかった。ベヘモスを失った分もその稼働データと行方不明になっていたマルスとパイロットを発見できた件で帳消しにされた。
だが、その代わりにもう一度竜宮島へとおもむきマルスを完全に破壊せよとの命令を受けてしまったのだ。

「とりあえず補給を送るとか言っていましたが……」

船のブリッジを出て、甲板に出る。
こっちはベヘモスの稼働テストが目的であり、戦力はそんなに積んでいない。
あるのはサベージが4機ほど……これではマルスどころかミスリルのASすら攻略できない。

「回されるのは何機ぐらいのサベージですかね……」

そう呟きながら空を眺めると、何かが自分達の船の真上を飛んでいた。
飛行機などの類にしては早すぎるというか、ゆっくりと降下してきているように見える。

「あれは……」

やがて、降下してきたそれは船の真横の海面に着水した。
スペースシャトルのように白と黒に塗り分けられた鋭利なシルエットの戦闘機。
機首の付け根部分には人型の上半身のようなものが確認できる。

「アルテミス……上は結構本気みたいですね」

男は少しばかり驚きながら機体の名前を呟く。
騒ぎを聞きつけたのか、ルミナとカイも甲板に現れ海面に着水したアルテミスを見やる。

「なぁんでコレが此処にあるんだよ?」

「上からの指示です。昨日の島にもう一度行ってマルスを破壊してこいと……アルテミスはその為の補給でついさっき送られてきました」

その言葉にルミナはいち早く反応する。
アルテミスは彼女専用の機体だ……必然的に自分が出撃する事になる。

「……フフ」

こんなに早くもリーアとの再戦が叶うとは思っていなかったのか、ルミナは笑みを浮かべる。
口元だけで作られた笑みだが、それでも彼女の喜びようは異様な程に伝わってくる。

「ちょっと待てよ! 俺のは無いのかよ!?」

その横でカイが憤怒を隠しもせずに喚き散らす。
彼にもルミナと同じく専用の機体があるのだがそれが送られてきていないのに不満があるのだろう。

「今ロールアウトしている機体の中でアルヴィスのような対海上要塞戦にはアルテミスが一番向いてますからねぇ。それに君のはまだ最終調整が終わっていませんよ、誰かさんがさぼったおかげでね」

「ぐっ……」

それを言われるとカイは何も言えなかった。
専用機である上に一種のセキュリティとしてパイロットの身体データ登録を含むその他諸々の作業にはパイロットの立ち会いが必要だった。
カイはそれをさぼってひたすら戦闘に出ていたので実戦に出せるレベルに機体が完成していないのだ。

「というわけで……ルミナ。最優先事項はマルスの破壊とナンバー01の抹殺です。手段は問わないので思う存分やってきなさい」

「……最初からそのつもりだけど」

彼女にしては弾んだ声で答え、その場から飛び降りアルテミスへと降りる。
人型の上半身をよじ登り、頭部にあるコクピットへと滑り込む。
シートに座り、備え付けの専用ヘルメットを被る。

「……起動、アルテミス」

ルミナの言葉で全システムが立ち上がり、アルテミスの機体は海面を離れ真っ直ぐ竜宮島へと向かっていった。



「ダナンの修理が終わるまで、お世話になります」

少し……と言うよりかなり申し訳なさそうにテッサが公蔵へ頭をさげる。
昨晩の戦闘の際、マルスがダナンの格納庫の天井と閉じたままのハッチを突き破ってしまった為、ダナンはその修理の為に出航を大幅に遅らせる事となった。
ちなみに整備班の話によると「どんなに急いでも一週間以上はかかる」との事である。

「いえ……こちらとしてもダナンのSRT要員がファフナーパイロットの訓練を見てくれるというのは非常に助かります」

その言葉通り、CDC正面のメインモニターに数機のファフナーが1機のM9を必死に追いかけている様子が映しだされている。
何もせずに一週間以上も居候してしまうのは申し訳ないというテッサの発案でダナンのクルーがファフナーパイロットの訓練に付きあう事になったのだ。
元々、アルヴィスの方で選定だけは終わっていたし何よりフェストゥムに見つかった以上は何時また戦闘になるか解らない状況だった為、アルヴィス側としても断る理由は無かった。

『うわあああ!?』

『きゃああああっ!?』

『死ぬ!? 死ぬぅぅぅぅっ!?』

最も、スピーカーから聞こえてくるファフナーに乗り込んだパイロットの耳をつんざくような悲鳴と繰り広げられる阿鼻叫喚のような光景は直視しがたい物があったのだが。
ちなみに訓練の舞台となっているのは裏手にある無人の離島である。

「あぁ……相良軍曹。もう少し……手加減しないとファフナーのパイロットが持たないぞ」

その光景は普段から厳しいマデューカスは思わず口を挟むほどの物であった。
実戦慣れしていないパイロットを実戦経験豊富なSRT要員が手加減無しで扱けばどうなるか等、言わずもがなである。
ジークフリードシステムを介し、ファフナーパイロットと繋がっていた総士は後にこう語る「ジークフリードシステムに乗るのが本気で嫌になった」と……。



そんな事などつゆ知らず、リーアは呑気に山の頂上にベンチに座り込んでボケェっと空を眺めていた。
昨晩はあの後、コクピットの中でそのまま眠りにつき目を覚ましたのはついさっきだ。
マルスは何時勝手に動き出すか解らないと言う事で人気の無い山……早い話、リーアの座っているベンチのすぐ後ろに広がる森の中で跪いている。

「……ふわぁ」

起きたばかりで瞼が重い。
一度寝るとなかなか起きないが、一度目を覚ますとなかなか寝れないのもリーアという少女だった。
大きく欠伸をしつつ特にやることも無いので空を眺めている。

「……ったく、平和なもんだねぇ」

その様子を少しばかり離れた所で監視していたクルツがぼやく。
今は彼女を自由にしているがそれはあくまで監視付きという条件でだ……監視役として任命されたクルツは退屈な時間がこれから一週間は続くと思うと鬱になる。
普段のクルツならリーアを口説きにかかって楽しい監視任務にしそうではあるが彼はリーアに近づくことを恐れていた。
今の彼の左目には大きな青あざがある……昨晩、コクピットの中で眠っていたリーアを起こそうとした結果だ。

(いいか? お前は乱暴すぎるんだ。優しく起こせば襲われる事なんざ……)

止めに入った宗介をこう一蹴した結果がこれである。
彼女は起こし方の云々に関わらず、眠りを妨げる物全てに攻撃を仕掛ける性質なのだと身をもって知った。
それでも起こし方によって攻撃手段は変わるのかクルツの場合は顔面への右ストレートと下顎への蹴り上げですんだ。
なお、それを目撃したマオ曰く「動きのキレが戦っていた時よりも遙かに良い」と評した事から寝ぼけている時が強い模様。

「フッ……まさか、俺が女の子を口説かない日が一週間も続くハメになるとは……」

何処か遠い目で空を眺め、こんな任務を一週間も与えたカリーニンと神様とついでに七福神を心の中で呪った。



一騎は今にも死にそうな顔でぐったりとソファーの上に寝転んでいた。
昨日一緒に戦った宗介という人が訓練をつけてくれるから乗れと言われて乗ったのが間違いだった。
自分と蔵前の他にも二人ほど新たにファフナーのパイロットを選定したとかで全部で4機のファフナーで訓練に出た。

(あの相良って人は鬼だ……鬼軍曹だ……)

そうとしか言えない程、徹底的に扱かれた。
もし彼処でCDCにいる大人達が止めてくれなかったら三途の川渡っていたと断言できる。
何か大切な任務があるとかで宗介は一足先に島を出て東京に向かったのが救いだった。

「一騎君……生きてる?」

「死んでる……」

別のソファーで倒れている蔵前の呟くような声に何とか反応して手を振るがすぐに事切れる。
新たに選定されたパイロット……春日井甲陽と要咲良も二人と同様に死んでいる。
ちなみに総士は訓練終了後、医務室で精神安定剤を処方して貰うと言って逃げるようにCDCを出ていったらしい。

「ファ……ファフナーてこんなにキツイんだな……」

「ははは……流石に限界だわ……」

甲陽や蔵前はともかく、学校でも体育の成績がトップレベルの一騎と要までもが精根尽き果てたといった様子で倒れている事は島の子供達に衝撃を与えた。
ファフナーのパイロットは基本十代……何やら操縦するのに必要なシナジェティックコードとか言うのは十代が最も精製しやすいのだという。
つまり、島にいる十代の子供達……中学生以上の物は全員がパイロット候補生であるのと同意義だ。
その子供達の中でも特に運動神経に優れている一騎と家が道場をやっていて一騎以外の男子相手には現在負け無しと言われる要が耐えきれないと言うのは子供達を震え上がらせるのに十分だった。

「蔵前って……俺達よりもずっと前からこんな事やってたのか?」

「ここまでハードなのは無かったわ……」

正直、フェストゥムと一対一で戦った方がマシなんじゃないかと真剣に思った。
帰り際に整備班長の小楯さんが苦笑いを浮かべながら訓練で文字どおりボコボコにされたファフナー4機を見上げていたのを思い出す。
訓練ならシュミレーションでやれれば良かったのだが今日はたまたまメンテナンス中だった為、実際に機体を使用した実働訓練となったのだ。
ルールは簡単……総弾数400発のペイント弾を装填したファフナー専用マシンガン、ガルム44を用いて宗介のM9に一発でも致命傷を与えれば勝ちと言う物だ。
4VS1というのもファフナーは本来2機~4機の編成で行動する事が前提だという総士の言葉からだった。

「勝てはしなくても一発は当てれると思ったんだけどなぁ……」

結果的には宗介のM9に言いように翻弄され、4機ともペイント弾で装甲が塗りつぶされてしまった。
こちらも結構攻撃を加えたのだが当たってはいないだろうと思う程に俊敏な動きで4人を倒したのだ。

「今日はもう乗りたくないや……」

「「「同感」」」

一騎の言葉に他の3人も即答で同意する。
この数分後、次はマッカランが厳しく扱いてくれる事となったのだがそれはまた別の話である。



「フェストゥムや他の人間に場所を知られた以上……何時までも此処に留まるわけにはいかないか」

アルヴィスの会議室では主だったメンバーが集められ今後の方針について話し合っていた。
今までは擬装鏡面で島全体を覆い隠し、完全に外部から遮断する事でミスリル以外にはその存在を知られる事は無かった。
しかし、フェストゥムに発見され更には人間にまで存在を知られてしまっては何時までも此処にいるという選択肢は無かった。

「国連軍が此処の存在を知れば、確実に接収に来るでしょうな」

「あいつ等、こっちのファフナーの技術が欲しいらしいしな」

国連軍にもファフナーは存在する。
しかし、アルヴィスのファフナーは国連軍のそれを上回る性能を持ち国連にしてみれば喉から手が出る程欲しい代物に違いない。
何せフェストゥムだけでなく幻獣など他の敵も存在する国連軍は常に苦しい戦局に追い込まれているのだ。

「オマケにミスリルと繋がってると知れば、強攻策に打って出る可能性も十分高いでしょうな……特に芝村が」

芝村という名を出した途端、全員の表情が僅かに曇る。
国連軍内部でも特に強い権限を持つと言われている芝村の一族は強引な手段を用いることを厭わない。
ミスリルは芝村から特に危険視されており、国連軍自体とは敵とも味方とも言えない関係を保っているが芝村とは実質上の敵対関係だ。
その芝村に知られては間違いなく強攻策に打って出てくるであろう。

「……移動するしかないな」

「島を動かすのですか?」

公蔵の言葉にテッサが反応する。
竜宮島はそれ自体が一つの移動要塞となっており、擬装鏡面を張りながら移動すればそうそう発見される事はない。
ただ、島一つ動かすという途方もない作業なだけにおいそれと使用できないのだ。

「この場に留まっていては国連軍に見つかるのも時間の問題です……そちらには何かと不都合が重なって申し訳ないのですが……」

「いえ、今の私達は殆ど居候状態ですしアルヴィスの指揮権はそちらにあります。我々はそちらの指示に従います」

「そう言っていただけると有り難い……本日1100時に移動を開始する。各部署に伝達急がせろ」

公蔵の指示でその場にいた面子はそれぞれの担当部署へと向かう。
何せ久しぶりに動かすのだからやるべき仕事は腐るほどある。

「大佐殿、移動中はダナンの修理を一時中断せざるを得ませんが……」

「仕方ないでしょう。我々の都合で島を危険に晒すわけには行きません」

マデューカスの言葉にテッサは即答で答えを返す。

「そうですな……了解しました。整備班には私から伝えておきましょう」

「お願いします。私も今の内に報告書を纏められる所まで纏めておきます」

そう言って二人も会議室を後にしようとする……その直前、緊急事態を告げるアラームと共にCDCから通信が入る。

「真壁、一体何事だ?」

モニターに映る文彦は表情を僅かに険しくしている。

『正体不明の飛行物体が南西より島に接近中だ。あと数分で防衛圏内に突入する』

「何だと……フェストゥムでは無いのか?」

『ソロモンは何の反応もしめしていない』

「では、国連の偵察機か?」

フェストゥム以外でこの島に用があるのは国連の連中ぐらいだろうと言う公蔵の予想にも文彦は首を横に振る。

『それにしては速度が速すぎる』

「そうか……私もすぐに行く。万が一の時の準備はしておいてくれ」

そう言って公蔵はすぐに会議室を飛び出していく。
テッサとマデューカスも状況を確認する為、その後を追って会議室を後にした。



「……ん?」

空を眺めていたリーアの耳に遠くから何かが飛んでくるような音が聞こえてきた。
音は聞こえたかと思うと次第に大きくなっていき、やがて耳をつんざくような轟音と共に何かが上空を飛び去り突風を山頂にまき散らした。

「っ!」

「おわぁっ!?」

リーアと木々の影に隠れていたクルツが突風に煽られ地面に転倒、
森の木も突風によりへし折られ空中へ舞い上がる。

「な……何だってんだ!?」

体勢を立て直したクルツが上空を見やると、其処には白と黒のツートンカラーに塗装された戦闘機の姿があった。
最も、彼の知るどの戦闘機とも違うタイプの上に遙かに大型ではある。エンジン部分など不自然なぐらいに推進装置らしきノズルが取り付けられている。
極めつけは人型の上半身らしき部分が機体中央にまるで戦艦のブリッジのように取り付けられている……明らかに戦闘機としてはナンセンスだ。

『……リーア、いる?』

スピーカーで外部にパイロットの……ルミナの声が放たれる。
その声は何処か弾んでおり、心の底から喜んでいるかのような声だった。

『いるんだったらまた戦おう……リーアもアルテミスみたいなの持ってるの知ってるよ……』

アルテミスというのがこの化け物戦闘機の名前のようだ。
オマケにリーアを指名しての勝負をご所望のようである。

「こんな朝っぱらから良い度胸してるよ……ったく!」

クルツは悪態をつきながらもリーアの方へと視線を移す。
先程までいた場所に彼女の姿は無く……変わりに、森の中に隠していたマルスの巨体が立ち上がる様が確認できる。

「おいおい……マジかよ」

あの女の子って結構好戦的だったのかと思いつつもクルツはその場から一目散に逃げ去る。
此処に留まっていては戦闘に巻き込まれ、最悪ミンチになるだけだ。
一方、クルツの存在に気付いてもいなかった二人は機体越しに睨み合う。

「……フフ」

沸き上がる高揚感を押さえきれず、ルミナが微笑む。
またリーアと戦える。また楽しい思いが出来る……彼女の抹殺という指示も何もかも頭の中から消え去りただリーアとの戦いの事のみが思い描かれる。

「……」

対するリーアも姿勢を低くし、何時でも飛びかかれる構えを整える。
アルテミスに乗っているのはルミナである事は明白……恐らく戦いは避けられないと直感的に悟ったのだ。
スラスターを起動させ、地面を蹴って空中へ飛び上がる。

「はぁっ!」

そのまま拳を突き出し、アルテミスへと殴りかかる。
アルテミスはそれを避けスラスターを吹かし上昇……リーアもそれを追うようにマルスを上昇させる。

「二人で踊ろう……リーア」

上昇を続けていたアルテミスが急に動きを止め、その姿を変える。
機首に当たる部分が左右に分かれ腰に当たる部分のサイドスカートとなり、変わりに人型の上半身がスライドし移動してくる。
そして、二つのスラスターが腰から伸びるアームに従い可動……脚部となる。上半身の装甲の一部が展開し収納されていた両腕が引き延ばされる。

「アルテミス戦闘形態……さぁ、誰にも邪魔されない空の上で……踊ろう……」

変形したアルテミスがマルスへと接近する。
マルスの倍近い巨体からは想像も出来ないスピードで一気に間合いを詰め、その頭部を殴りつける。

「うあっ! く……ぅっ!」

体勢を崩されるがすぐさま持ち直し、アルテミスへと殴りかかる。
連続して繰り出していく打撃を両腕を巧みに用いアルテミスは捌いていく。

「っ……はっ!」

アルテミスの両腕を掴み、動きを封じた所でリーアは両足を振り上げドロップキックの要領でアルテミスの胸部を蹴り飛ばそうとする。
しかし、アルテミスの肩の後ろから伸びるノズルが180度回転し内蔵されたスラスターを全開にしてマルスへと放射し怯ませてそれを防ぐ。

「ああっ!」

「空中はアルテミスの独壇場……でも、リーアならついてこれるでしょ?」

無表情の暗い顔に貼り付けた心の底からの笑みを浮かべ確信めいた言葉を紡ぐ。
ルミナはペダルを踏み込み、アルテミスを加速させた。


CDCでも当然二機の戦いが映しだされていた。
状況はアルテミスの一方的な優勢……マルスはその巨体から繰り出されるトリッキーで重い一撃と機動性に翻弄されている。
今はどうにか持ちこたえているがそれもそう長くは続かないだろう。

「B1の援護は出来ないのか!?」

「駄目です! 敵が速すぎて狙いが定まりません!」

島の迎撃システムはすでに起動しているのだが、その全てがアルテミスのスピードに照準が定まらず発射できない。
闇雲に撃てばマルスに直撃してしまうのだ。

「あれだけの巨体であのスピード……相当厄介な機体ね」

テッサは冷静に司令官の目で戦況を分析する。
このままではマルスに勝ち目はない……勝つ為には敵の足を止める必要がある。
足を止めるには敵機のスラスターを一つでも破壊すれば良いだろう……かといって破壊する方法が今の手札にはない。
ダナンは修理中で今は動かせない為、搭載火器による援護は不可能。竜宮島の防衛設備は敵機のスピードを追い切れない。
M9による地上からの狙撃はダナンの誇るスナイパーであるクルツを持ってしてもあのスピードで正確に捉えるのは困難だろう。

「こちらも空を飛べれば……」

「ファフナーの空戦用装備はまだ使えません……空戦能力を持つファフナーもありますがパイロットがまだ……」

テッサの言いたい事を理解した公蔵が忌々しげに呟く。
今の自分達には満足に使用できる航空戦力がない……マルスの援護は実質上不可能なのだ。

(空を飛べる敵が相手だと……此処まで無力だなんて……)

テッサは今の自分達の無力さを呪いながらモニターを見る。
たった一人で戦わせているリーアに対して罪悪感を感じながら。


「くっ……ああっ!」

アルテミスの突進にマルスが弾き飛ばされる。
何とかスラスターで体勢を持ち直すが直後、アルテミスの腰のサイドスカートから放たれたミサイルがマルスを襲う。

「くぅっ!」

一斉に放たれた16連装のミサイルの間をかいくぐり、アルテミスとの間合いを詰める。
繰り出した右回し蹴りをアルテミスは上半身を僅かに後方へとスライドさせる事で回避し、背中から先端に重りのついた鎖を数本射出する。
重りに仕込まれているスラスターが噴射し、マルスへと鎖が巻き付いていく。

「あっ……くっ!」

リーアは逃げようとするが間に合わず鎖に絡め取られ、動きを封じられる。

「ぐっ……うっ!」

「捕まえた……」

鎖を巻き戻し、マルスをアルテミスの正面へと密着させる形で磔にする。
その状態で両腕をまわし、マルスの腹部を押さえ込む。

「この状態から抜け出せる?」

両腕に力を込める。
マルスの腹部が押さえつけられ、機体が軋む音と共にゆっくりと締め上げられる。

「あっ……くぁっ……っ」

機体の軋みに連動しリーアにも痛みが伝わり、苦悶の表情を浮かべる。

「っ……うっ!」

リーアは意識を集中させ、マルスのエネルギーを両腕に集める。
両腕のフレームが金色に光を放ち力任せに拘束する鎖を引きちぎる。

「はっ!」

直後に肘打ちをアルテミスの頭部へと叩き込み、続けざまに右足を振り上げ回し蹴りを決める。
至近距離で放たれたそれを避ける事は流石に出来なかったのかアルテミスは吹き飛ばされる。

「ぐ……っ!」

コクピットが頭部にある為、ルミナに伝わる衝撃は並大抵の物ではない。
苦悶に表情を歪め、襲いくる吐き気を押さえ込み正面のマルスを睨み付ける。

「そうでなくっちゃ……っ」

腰のサイドスカートに収納されている16連装のミサイルランチャーを展開し、全弾を一斉に放つ。

「っ!」

リーアはミサイルを避けようとするが計32発のミサイルが時間差で次々と放たれたのだ。
加えてリーアは空中戦に慣れていない……全てを避ける事はやはり叶わず、数発直撃を受ける。

「うああああっ!」

体勢を崩したところに鎖が放たれ、マルスの頭部、腹部を先端の重りで打ち据える。

「くぁ……っ!」

そのまま落下し、竜宮島の山の斜面に叩きつけられる。
山の木々をなぎ倒しマルスの巨体が斜面を削る。
アルテミスは其処へ一気に降下、倒れたマルスへと拳を叩き込む。

「ぐ……ぅぁ……っ」

「まだまだ行くよ……」

そのままマルスの頭部を鷲掴みにし、上昇。
加速をつけマルスを海面へと叩きつける。
直後に鎖を伸ばしマルスの機体を縛り上げハンマーの要領で振り回し竜宮島の山へ叩きつける。

「あぐあぁっ!」

鎖の拘束を解くとマルスは力無く前へと倒れる。

「……もう、終わり?」

マルスの両腕を鎖で縛り、吊すような形で持ち上げる。
正面へと持ち上げたマルスの機体は力無くぐったりとしていて動く気配がない。
どうもリーアが気絶してしまったようだ。

「……もっと、楽しませてくれると思ったのに」

残念そうに呟いた言葉の中には失望の意味も込められていた。
リーアはまだまだ自分を楽しませてくれると思っていたのにこうもあっさり気を失ってしまった。
本気で楽しめる相手と思ったのは何だったのか、そう思うと怒りすら沸いてくる。

「もう……いいや」

アルテミスの胸部が開き、内部から伸びた銃口がマルスへと向けられる。
エネルギーがチャージされ銃口の正面にあるコクピットを狙う。

「さよなら」

チャージされたエネルギーが解き放たれ、マルスを撃ち抜く。

「えっ……?」

直前、胸部から伸びた銃口は蹴り砕かれ行き場を失ったエネルギーは爆発した。
爆風に鎖が千切れアルテミスは海面へと叩きつけられる。

「くうううううっ!」

何とか体勢を立て直し、浮上したアルテミスは爆煙を見やる。
突然のことで一体何がどうなったのかさっぱり分からない。

「……何が……」

ルミナはアルテミスの状態をチェックする。
胸部のビーム砲が破壊され、相当なダメージを負ってしまったが飛行する分には問題ない。
しかし、幾つか回路やスラスターを破損しており修理を受けなければ時期に機能停止を起こしてしまう。

「っ!?」

此処は引き上げるかと思った直後、爆煙の中から飛び出した影がアルテミスへと一直線に突撃する。

「はあああっ!」

黒い影、マルスの拳がアルテミスの頭部を捉え殴り飛ばす。
生きているスラスターを使い、海面への激突はさけ空中に静止しマルスを見る。
あちこちの装甲に亀裂が走り右足に至っては内部が丸見えになっている。

「はっ……ははは……そっか、そういうことか」

気絶していたのは演技で、こちらの隙を伺い自分へのダメージも覚悟で胸部のビーム砲を蹴り砕き暴発させた。
つまり、自分はリーアの作戦に見事引っ掛かったのだ。

「アハッ……アハハハハハハハハハッ!」

堪えきれない喜びが溢れ出し、ルミナは声をあげて心の底から笑う。

「やっぱり……やっぱり、最高!」

スラスターを全開にし、アルテミスを加速させる。
リーアもマルスのスラスターを使い、正面からアルテミスへと突撃する。

「「あああああああっ!」」

二体の機動兵器が正面からぶつかり合う。
アルテミスの放った鎖を掴み、そのまま引き寄せて左足で蹴りを入れる。

「リーア……まだ、まだまだ終わらせない!」

マルスを押さえ込み、スラスターを全開にして海面スレスレを高速で移動する。

「くっ……こ……のぉっ!」

リーアは腕を伸ばし、アルテミスを殴るが拘束は解けず更に速度は増す。
視界の片隅には次第に小さくなっていく竜宮島が見える。

「っ……ああっ!」

そのまま二機は組み合ったまま、竜宮島より飛び去っていった。



「二機ともレーダー範囲外へと高速で移動しました!」

CDCのレーダーからマルスとアルテミスの反応が消える。
レーダー範囲外まで一気に移動してしまったのだ。

「……何が、どうなったんだ」

「白い機体にB-1が拘束され、縺れ合いながら何処かへと飛び去った……のでしょうな」

マデューカスが呟く。
確かに、彼の言うとおりの結果ではある。

「移動進路から行き先を特定して、中佐、ダナンの修理が終わり次第……我々はB-1の行方を追います」

テッサはモニターから目を離さず、背後のマデューカスへ指示を出す。

「B-1とあの少女を追うのですか?」

「ええ、目的の情報は得られなかったけど見捨てておくわけにも行かないし……何より、B-1は十二審の使者が造り上げた可能性が高い機体よ。調べる価値はまだあるわ」

「イエス・マム」

了承の意味の言葉を言い、マデューカスはCDCを後にする。
テッサは深いため息をつきながら自分の失態を責めていた。

(せっかく保護出来たっていうのに……おまけに竜宮島の人達にまで迷惑を掛けるなんて……っ)

ようやくB-1を捕獲し、パイロットであるリーアの保護も出来たと思った途端にこの騒ぎ。
更にはアルヴィスにまで損害を与えてしまう失態。これでは一戦隊を率いる指揮官として失格だ。
しかし、こうして失態を後悔している暇など自分にはない。テッサは顔をあげCDCを後にした。



竜宮島からマルスとアルテミスが飛び去ってから数時間後。
日も暮れ、夜の闇に包まれた山中にマルスとリーアは倒れていた。

「うっ……」

あの後、何がどうなったのかはさっぱり覚えていない……暫く絡み合いながら高速で飛び回り、互いに懇親の一撃を決めたのは覚えているのだが其処からの記憶がさっぱりだ。
ただ、真横に倒れているマルスは酷い有り様で装甲には亀裂が走り、アイカメラは損傷。内部機器もあちこちから露出している。

「……ぁ」

リーア自身も重傷だった。
左肩からは血が流れ、口の中からも血が出ている。左足も変な方向へと曲がっており骨が折れている。
何とか立ち上がろうとするが少し動くだけで全身に激痛が走り、まともに立つことも出来ない。
山の斜面に倒れ、虚ろな目で夜空を見上げるしか今は出来そうにない。

「はぁ……はぁ……」

意識が闇に沈んでいく最中、遠くからこちらに近づいてくる足音に気が付いた。
そちらの方へと顔を向ける……木々の合間から小さな明かりがこちらに近づいてくるのが確認できる。
逃げようにも体が動かない為、諦めているのかリーアはそのまま意識を手放した。

「っ!? 大丈夫ですか!?」

その後、リーアの見た小さな明かり……懐中電灯を手に持った一人の少女がリーアへと駆け寄ってきた。
腰まで伸びる茶髪に赤を基調とした変わった巫女服を着込み、黒いスパッツを履いている少女はリーアを抱きかかえ、息を飲む。

「酷い……早く手当しないと!」

少女はリーアを何とか背負い、懐中電灯の明かりを頼りに暗い山道を歩き出した。

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