欲しくなるペットボトル

 「いま、ペットボトルのデザインが凄いんですよ」そんな話を聞いたのは、近所にあるインテリア雑貨ショップ『collex』を訪れたときのことだった。
 白とシルバーを基調に世界中から集められた、優れたデザインプロダクツが素晴らしい。入り口近くにあった『Paul Rand』のロゴが可愛いTシャツから始まって店内をくまなく見て歩いた後、ペンとカードケースも持ってレジを待っているとき、ふと一番奥のガラスの棚の上の方を眺めていると、透明な容器が3本並んでいることに気が付いた。さっきは見落としてしまったそれに、急に好奇心がわいて途中だったレジをよそにその棚へ近づいて見ると、それはカメラのレンズのように美しいペットボトルだった。
 「スタルクのデザインしたミネラルウォーターです。」青山の家具屋の知人に似たとても丁寧な話し方をする店員さんは言った。彼の話によると、少し前からヨーロッパのミネラルウォーターメーカー各社は、フィリップスタルクのような著名なデザイナー達のデザインを次々と採用して話題のようだ。考えてみれば、これまでのペットボトルは、ビンに負けないための強度や効率だけが優先されたかたちに派手なラベルデザインといった業務的な容器だった。
 『collex』には、もうひとつ美しいペットボトルがあった。流れ落ちる水の一瞬の姿を切り取ったようなボトルデザインの『TyNant Spring Water』。これを見ると、それまでラベルデザインによって中身の味をイメージしていたのが不自然なことに気付く。新しい『TyNant Spring Water』は、ボトル全体で新鮮で美味しいであろう水の姿を表現しているのだ。
 自然界にはデザイナーの手によって整えらることの限界を超えた美しさというものがある。優れたプロダクトデザインや建築もその多くは時間と共に朽ちる。朽ちて価値を増すことが出来るようなものは全体のほんの一握りだけだ。つまりゴミになるものを生み出しているなんていう乱暴な言い方もできるだろう。デザイナーの『Ross Lovegrove』はこれまでも、滑らかな曲線を描くオーガニックデザインを行ってきたが、どちらかというとSF的なイメージも強かった。しかし今回のこれはまさに人の手が入り込めない普遍性を思い知らされるデザインだった。もはや「形態」のデザインを越えて「状態」のデザインである。
TyNant
『collex』 (コレックス)
東京都渋谷区猿楽町28-2 スピークフォーB1F 11:00~20:00 無休 03-5456-8890
コレックスとは、「コレクション」と「エキシビジョン」という2つの言葉からなる造語とのこと。

『Paul Rand』 (ポールランド)
アメリカを代表するグラフィックデザイナー。IBMのロゴデザインで知られる。1996年に没した。

『TyNant Spring Water』 (ティナントスプリングウォーター)
占い師が水源を掘り当てたというミネラルウォーター。ちなみにcollexでは展示のみ。

『Ross Lovegrove』 (ロスラブグローブ)
1958年ウェールズに生まれ。1998年、ジョージ・ネルソンの名作「DAF CHAIR(Swaggeg-Leg)」のリデザイン「RLチェア」で知られる。TyNant Spring Waterのボトルデザインはプールで思いついたという。

『宝商事』
03-3256-6911
TyNant Spring Waterを輸入している。Ross LovegroveがデザインしたTyNant Spring Water Bottleはまだ国内未発売だが、8月からは販売が開始される予定とのこと。

※雑誌『Pen』7/1号にも、ミネラルウォーターのボトルデザインが紹介されていました。


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