ノスタルジック・ノイズ

 今日は金曜日。いつものようなデザインにまつわる話とはちょっと趣向を変えてみようと思う。そう、いまは、独り渋谷にある雑居ビルの中華屋で、生ビールに五目焼きそばを食した帰りのバスの中。こんな時は、その超乱暴な運転が、またいい具合に心地よかったりするものだ…。
 学生の頃からずっと親しんできた渋谷の街。「人が多すぎて嫌い」とか「センター街が恐い」などと言う人がいたりするが、私は一向にそういうことを感じたことはなかった。確かにそれはそうかもしれないが、何がヤバイか判っていれば回避できるし、むしろ、「欲しいものはここですべて揃う」、「生活する上で必要不可欠」、私にとって渋谷とはそういう街だった。
 それが最近、実はそうでもなくなりつつある。なぜなら、「ハチ公前で、時代遅れの中年ロックンローラーが街宣車の屋根で無責任な政治批判をしている」、「109前に乱立するドラッグストアの店員達が競ってメガホンで叫ぶ」、「ハンズまで急いでいるのに、人が多すぎてまっすぐ歩けやしない」、「前を歩いていた男の吐きだした煙が突然顔に掛かる」、「駅構内で浮浪者がズボンを脱いでニヤついている」…。そういう状況ひとつひとつに目をつぶりたくなってきたからだ。「ああ、用事さえなければ代官山から出たくない…」。あの懐かしい『代官山アパート』が『代官山アドレス』に建て替わって以来、すっかり原宿化が著しい代官山だが、その緑の豊富さと、居心地のいいカフェと、可愛い子率の高さ(笑)は、渋谷に比べとても魅力的だ。
 でも今日は、飲んだ生ビールにもてあそばれてか、そんな渋谷のノイズの中に、自分の中にスゥーっと入ってくるものを感じた。それは、駅前で演奏していたあるバンドだった。いつものことなので、すっかり耳が慣れてしまって、さして気にもとめていなかったのだが、さっきハチ公裏の暗がりで大音量で演奏している彼らの音は明らかにレベルが違っていた。残念ながらそばに行ったときには、お巡りさん達に止められてしまい、その続きを聴くことはできなかった。(よって、ここでそのバンドのことを具体的に紹介することはできないことを、読んでくれている方にはお詫びしないといけない)
 しかし、見回してみれば、そういうやつらが周りにもいっぱいいるではないか。自分が学生だったときと変わらない、このノイズだらけの街の中で、腐らず何かをやろうとしているやつらが。お巡りさんが業務として止めても無駄だろう。そのノイズは大人の出す汚れたノイズとは明らかに違っていた。


Daikanyama Apartment


『代官山アパート』
正式には「同潤会代官山アパート」。 「都市基盤整備公団」 によると、現在その一部を八王子の研究施設に移築復元して、一般に公開展示しているそう。青山の同潤会アパートも来年同じ運命をたどる。

『代官山アドレス』
旧同潤会代官山アパート36棟の建替え事業として計画され、2000年8月完成した。
※ちなみにデザインスコープはこの向かいの一角にある。


© Rakuten Group, Inc.

Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: