描かれる未来のすがた

 映画好きなら『Stanley Kubrick』という映画監督の名前を一度は聞いたことがあると思う。アメリカとソ連が競って宇宙を目指していた1960年代。彼らが思い描いた未来「21世紀」。そんな時代に『Stanley Kubrick』は、最先端の情報をNASAから入手し、最先端の撮影技術を駆使して、1968年に『2001年宇宙の旅』(2001: A Space Odyssey、アーサー・C・クラーク原作)を完成させた。暗黒の宇宙で、宇宙船のコンピュータ「HAL」(一文字ずつ後へずらすと“IBM”になることは有名)はいつしか意思を持ち、宇宙飛行士に反乱する。SFさながらのシーンが次々と現実のものとなっていった当時、際限のないテクノロジーは希望であり、恐怖でもあった…。
 今日はこの映画に登場した小物たちにフォーカスする。
 まず、宇宙ステーションの待合室にたくさんおかれていた椅子『Djinn Chair』。「Djinn」とは、人間や動物の形をして人間をコントロールする超能力を持っている精霊の意味だそうだが、人間の意志を持ちつつも、人間のカタチを持たず、人間にコントロールされ続けたコンピュータの「HAL」とは対照的だ。そして、もうひとつは、宇宙食を食べるのに使われていたスプーン『AJ Cutlery』。 殆ど直線に近い滑らかな曲線が、モノを食べるという極めて日常的な行為を、非日常的な違和感へ見事に置き換えていた。しかし、それらのデザインは、当時としてはかなり未来的であったろうにも関わらず、2001年を過ぎたいま見ると、まさに60年代デザインの象徴に見えるから不思議だ。
 この現代、冷戦は終わりテロが日常化するなか、映画の世界でも、まるで底なし沼に落ちていくような宇宙の神秘やテクノロジーの可能性を感じされる未来はあまり描かれなくなった。しかし、私はもう一度、未来の「武器」や「戦争」ではなく、「日常的な生活の姿」というものを観てみたいと強く思う。それを思い描くのがデザイナーの役割でもあるから。


A Space Odyssey


『Stanley Kubrick』 (スタンリー・キューブリック)
1926年7月26日、アメリカ・ニューヨーク生まれ。1999年3月7日、イギリス・ロンドンの自宅で死去。70歳であった。ちなみに私と同じ誕生日で、生きていれば今度の金曜日で76歳を迎える。

『2001年宇宙の旅』 (2001: A Space Odyssey)
1968年、アメリカ作品。この作品公開の翌年、アポロ11号に乗って、人類がはじめて月面に到達した。(1969年7月20日午後4時18分) (画像)

『Djinn chair』 (ジン・チェア)
デザイナーは、フランスの「Olivier Mourgue」(オリヴィエ・ムールグ)。

『AJ cutlery』
デザイナーは、北欧デザインの巨匠 「Arne Jacobsen」 (アルネ・ヤコブセン)。アントチェア、セブンチェアはあまりにも有名。


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