本当に必要なもの

 テレビを観なくなって、もうすぐ3年になる。この3年というのは、今の住居である目黒区のマンションに移り住んでからの時間のこと。そもそも最初の1年は、人が来ても空き家と見間違うような部屋に住んでいた。(実際、大学入学を控えた学生が新居を探す設定の撮影で使用したことも…)テレビを初め、冷蔵庫、電子レンジ、洗濯機、テーブル、ベッド…といった、この時期に新生活を始める人たちが、大抵買い揃えるであろうものすら、全くなかった。あるのは、服と布団と食器、そして「 B&O 」の電話とオーディオが1台づつ。えっ「さぞかし不便だっただろう」って?いやいや、今や駅前のスーパーは深夜1時までやっているし、そこが閉まってもコンビニがある。洗濯はコインランドリーで乾燥までできる。そもそも、毎晩深夜の帰宅では、寝られる環境が整っていればいい。余計な情報は睡眠時間を削るだけなのだ。つまり、都心の生活ではクルマが必要ないように、実はなくても生活できるものがいっぱいあった。閑静な立地に、白くて梁のない箱形の空間、南向きの大きな窓。そして気持ちのいい音楽。それだけの空間がとても心地よかった。
 実は、当時勤めていた会社でのストレスは、常識のレベルを超えていた。他社で充分なキャリアを積んでから転職してくるような人が、ある人は愛想を尽かして、ある人はノイローゼになって、みんな1年も経たないうちに次々と辞めていった。そんな状況下、設立当時から付き合い、ついでにプライベートまでも散々になってしまった自分を支えたのは、その「何もない空間」。その日あったことに疲れ切っていても、街の喧騒にうんざりしても、そこに帰れば、自ら気持ちをコントロールすることなく、強制的にリセットが完了されるといった具合だった。
 そしていま、一応テレビは置いてある。例の9.11のテロがあった日、私はその事実を知らなかったのだ。その日、体調を崩して家にいた私の携帯電話が鳴る。「ねぇ、今日何があったか知ってる?」「えっ、知らない…」あれはさすがにマズイと思った。でもやはり、今は観ていない。なぜならテレビをアンテナ線に繋いでも、ザッラザラでよく見えないから。そもそも接触が悪かったらしい。いや縁がなかったのだろう。
 そんな私は、先週この「物欲日記」の掲示板で「 NOVAウサギ 」の存在を初めて知った。NOVAのサイトにあったムービーを再生して観てみる。「かわいい…」。元テレビ局のディレクターである知人曰く、いま最も成功しているCMらしい。私の「NOVAウサギ」は、いまこのMacのデスクトップで「いっぱい聞けて~、いっぱいしゃべれる~♪」と腰をフリフリ歌っている。…なんて、別にCMや家電だけの話ではない。本当に必要なものは…

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画像:1年経ってこれ…でも「暇つぶし」がないと何が本当に必要なのか見えてくる

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